Dies irae if story~Yaux sars la saileté~
Dies irae――……怒りの日に永劫回帰は無へと
人も生きとし生けるものは贄にせよ
非日常を日常へ
帰りたい場所がある、大事な物がある、だからこそ女神の手を取る少年
同胞を悔恨を
自身が壊れている事など知っている
死人など帰らない
だとしても失いたくなどない
13人の団員 名を消された0の存在
黒き翼で空を駆けた先には何があるのか
これこそが2つ目のオペラである
Ⅰ.Alle brechen zusammen
俺の誕生は、今思い返せば『必然』ではなかったのかと思う。
ただの中流家庭で、父がルター教の牧師であっただけで上には姉さんが二人いた。
「三度の飯より戦争」という言葉を生んだのは、幼い頃からもらったパラシュート。
夢を抱いていた この空を駆けたいと
アビトゥーアの後、1936年12月に士官候補生としてベルリン近郊ヴィルトパーク・ヴェルターのドイツ空軍学校に100倍の競争率を突破して入学。
俺と同じ思いを抱いた者からすれば、とても羨ましく妬ましい。俺が望んだのは戦闘機乗り。しかし噂によれば…否、実話なんだけれどな。コレ
「卒業生は全員爆撃隊に編入されることになる」
卒業間近に興味本位でバルト海沿岸の高射砲学校を訪れた際に、偶然その場に居合わせたゲーリングの言葉をまだ鮮明に覚えている。
「我々は、新編成のシュトゥーカ爆撃隊のため、多くの青年将校を必要としている」
「…仕方ないか」
そうして志願したのは急降下爆撃隊、しかし他の卒業生たちは他の道へ進む事になってしまうのだが。
――ここからが、俺のハンス・ウルリッヒ・ルーデルの経歴。
1938年6月にグラーツの第168急降下爆撃航空団第I飛行隊(I./Stuka-Geschwader 168、I./StG 168)に配属。
しかし、偵察隊に転属することになり、偵察機のパイロットとしてヒルデスハイムズの訓練校で偵察写真撮影航法の訓練を受け、
1939年1月に第121長距離偵察飛行隊(Fernaufklärungsgruppe 121、FAGr 121)に転属している。
簡単に説明すれば、これはStG 168の中隊長が“偏屈者”の厄介払いの為に転属させたと自身で感じた。
しかし、何故だろう?
偵察、バルカン侵攻、クレタ島侵攻としていた時は少尉と言う位だ。
そう、その時だ。俺の誕生が『必然』であった事を
捕虜になりかけた、休暇を減らす為の書類偽造、撃墜されたと言えど再び再出撃さえも。
5回目の負傷の時にはソ連軍の40mm高射機関砲により右足を失くした。それでも俺は、治療期間中にソ連軍を攻撃出来ない事の方が悔しかったのだ。
ここからが俺が「ソ連人民最大の敵」と渾名される理由に繋がるのだが、負傷が完治する前に病院を抜け出して部隊に戻り、特注した義足をつけて再び戦線に復帰する。
全国防軍将兵の中で唯一「黄金柏葉剣付ダイヤモンド騎士鉄十字勲章」を授与され、最終階級は大佐。
その時から、俺はお払い箱となった。
「何でだよ…」
三度の飯より戦争――…だが、何故誰も気づかないのだろう?
殺人狂?アドレナリンの大量が出た事で戦闘に及ぶ事?違う、違うだろう。
俺は軍人の務めとして国民を、家族を、友人を『守る』為だけに俺は戦ってきたのに。
「君は素晴らしい」
そう拍手をしながら、笑うのは自称占星術師…カール・クラフト。
「誰もが羨むその能力と、その勲章…これ以降、その勲章を貰う者はおらんだろう。」
――こいつ…こいつは『異端』
枯れ木のように擦り切れたと姿と言えど、これは正真正銘の『化け物』
「カール・クラフト…と名乗っていたね。奴ら(ナチス)からお払い箱にされた俺に何の用だい?」
すると、気味の悪い笑顔を浮かべながら、喉でくつくつと笑っている。
「最初に言ったはずなんだがね、君は素晴らしい。故に私は願うのだよ、君の願いを成就させようと。」
俺の…願い?
この空を駆けたいと幼い頃から望み 国を、家族を、友を守るそれだけが俺の願い。
すると、再び男は口角を上げては
「よろしい、承諾したよ。その望み。黎明期に出会えた"彼ら"と同じく」
これが、俺――ハンス・ウルリッヒ・ルーデルの崩壊であった
Ⅱ.Ein rotes Gebrüll, um im Himmel zu klingen
――1961年、このベルリンの景色はあまりにも酷い有様である。
硝煙と、腐臭と千切れた死体、赤く燃え上がるこの空と赤軍の侵攻。
あの日、『異端』と感じたカール・クラフトから与えられたのは、銘とルーン、そして俺らが人間と違うこの『能力――聖遺物』。
だが、何だこの嫌な予感とこの焦燥感…。そして突然響いた爆撃。
「……ッ」
自身が、こんな身体となっても日が浅いのだが俺は既に形成位階までに到達しているはずなのだから、弾丸を食らおうと、多少の音だろうと気にならない。
エイヴィヒカイトにも四種類にカテゴリされる
Assiah(活動)――初期位階であり、聖遺物の特性を活かすのが特徴ではあるが、個々の能力によっては聖遺物に振りまわされ、自爆する可能性がある。
Yetzirah(形成)――契約している聖遺物を形ある物として具現が可能であり、ここからが「人間」と違う境目。
弾丸を受けた程度では、痛みを感じないというように魂を積み上げれば上げるほど、その効力を発揮する。
Briah(創造)――いわゆる必殺。自身が生み出した絶対的なルールを維持することが可能であり、他の団員もこの位階に達している。
Atziluth(流出)――これの位階については一切不明。
だとしたら、この形成である俺でさえ聞こえる音…それは俺以上の位階の人間。
「Assiah!!」
俺の活動での効力は自身が空を駆ける事。簡潔に言えば、マレウスのあのナハツェラーの束縛も破壊する事さえ出来るのだから。
そこで、俺が見た光景とその人物が、いた。
一人は、口から血を吐きだしながら、拳を握りしめて何かを言っているのだ。
死人に
「 !ウォルフガング・シュライバー…」
元武装親衛隊第三師団、髑髏の大隊長。
兼、東部戦線遊撃部隊、アインザッツグルッペンの特別行動部隊長。階級は少佐。
しかし、人格の異常性故に処刑されたと聞いていた…はずだった。
その後、老兵が血の泡を吐きだしながら、こう叫ぶ。
「ジークハイル…ッ、ジークハイルヴィクトーリアッ!!」
すると、シュライバーはその幼い笑みを絶やさぬまま老兵の魂とそこら辺に散らばる魂を残らず搾取すると同時に、俺の気配に気付いたらしい。
「やぁ、ルーデル。否、アールトルム。元気だったかい?」
「君は…」
何故?何故生きている?この死人がどうしてこうしたまま生きていられる!?
「んー…アールトルム。何か考え事でもしてるのかな?」
「何故…何故君が、生きている?君は確か東部戦線で…」
そんな俺の言葉に、シュライバーは頭にはてなマークを浮かばせながら、「うーん」と悩んでは、「ああ、そうか!」と両手を叩いた。
「君が聞きたいのは、死んだはずの僕等が『生きているか』って話でしょ?その答えならば向こうを見てごらん。君の位階でも見れるはずだから」
と言って、視界をずらすと灼熱の炎が全体を包み込み
戦車を潰している威力を持つ鉄槌
あれから見なくなった、アルビノの男
「ヴィルヘルムに…ミハエル…エレオノーレ卿…?」
この三人も、死んでいるはずだと俺の中では記憶している。
――ヴィルヘルム・エーレンブルグ
オスカー・ディルレワンガー隊、第36SS所属武装擲弾兵師団の元中尉。
味方敵限らず殺した故に、暗殺されたはずの男。そこら辺についてはシュライバーと同じだろう。
――ミハエル・ヴィットマン
電撃戦においての英雄であり、義手であれど殲滅し途中で命を落とした英雄
――エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ
騎士貴族としては名門であり、国を思いこの国の行方に疑いを覚えているという事はリザから聞いている。
元武装親衛隊第二師団、ダス・ライヒの大隊長――確か、右半分に大火傷を負い、負傷していたはずなのに。
「全員傾注!」
その気高かったはずのエレオノーレ卿の声が俺らの中で響いた
「赤軍(ゴミ)共の魂を食らうなど恥である事に、ハイドリヒ卿に、スワスチカに捧げるべき魂は同胞のモノであると知れ!」
同胞の…魂を、食らえ?
何故?何故あれほど国を思っていた騎士(貴女)がそう言うのか?
「Assiah!!」
ともう一度叫んだときには、既に『全てが終わっていた』。
大地は血を飽食し、空は炎に焦がされ、人は皆、剣を持って滅ぼし尽くし、息ある者は一人たりとも残さない。
男を殺せ、女を殺せ、老婆を殺せ、赤子を殺せ、犬を殺し、牛馬を殺し、驢馬を殺し、山羊を殺せ。
「大虐殺(ホロコースト)…」
嗚呼、何もかもが無くなって逝く。そうして、再び赤い騎士が叫んだ時には赤い空に二人の姿が映る。
「ハイドリヒ…奴も、死に……」
甦ったのか
赤い騎士が今度は同胞達に聞こえるよう、叫びそうして黄金の獣は言う。
「カール…クラフトッ!!」
『君は素晴らしい』?何がだ!!お前らは同胞を殺し、贄として捧げるのか。
天に座す、ハイドリヒの演説とスワスチカの完成が完成すると共に俺は声を上げた。
「ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒッ!!カール・クラフトッ!!」
その声を聞いて、先程まで歓喜し涙を流していた赤い騎士は俺に向けて言う。そうだ、この女はハイドリヒに籠絡されただけの……。
「アールトルム・アラエ!!貴様、ハイドリヒ卿への不敬は許さんぞ!!」
「知ったものかッ!!」
血が滾り、喉は裂けそうにながらも俺はただ天(そら)見る。
「……よくも、同胞を。」
その瞬間、脳内の中でたった一つだけの詠唱(うた)が響く。
『――…Ich bin rot,und der Himmel wird gerfärbt 』
(空は赤く染まるのだが)
『Gott Fragt eine Person danach 』
(神が 人に問うように)
『Schicke einen Boten und weine auf diese Act 』
(使者を遣わしこう叫ぶ)
『――…Briah』
『Mihi date aters!!』
すると黄金柏葉剣付ダイヤモンド騎士鉄十字勲章が出現すると共に、俺の相棒…ユンカースJu87シュトゥーカーへと変化した。
「何だと…!?」
その光景を見て赤い騎士は目を見開き、絶句しているが黄金の獣の横に佇む影は嗤う。
「ほう…」
この短期間で活動、形成へと辿りついたのは彼の者しか知らぬというのに、この男もそういう成りたちか――…。
面白い
あの男をこちら側に入れたのは『正解』だった。これで我が代替と…『2人目』が出来た。
「アールトルム・アラエ」
と天から消え入りそうな声で影が下を見下げながら、静かに言い放つ。
「君は私の見こんだ通りだ、次のシャンバラ…『怒りの日』に君がどうすべきか私は見守るとしよう。故にソレ(聖遺物)を収めてはくれまいか?」
「……」
確かに俺が今、創造位階へと達したとしても成りたてであるが故に、選ばれた三騎士とあの二人を相手にするのは自殺行為である。
だが、この赤い空の下で俺は 決意した
お前らの『望み』は潰させてもらうぞ
Ⅲ.Eine Geschichte falsch in einer Voraussagung
そう、そこは髑髏。
全て骸と髑髏血で構成された死者の城、名を『ヴェヴェルスブルグ城』。
戦争時、ヒムラーが黒魔術の儀式の際に建てられた城が確かそんな名前であったが、むしろこちらの方が「それらしい」物だと匂わせる。
その赤いカーペットの上に座するのは、黄金――…
長い髪も、瞳もまるでこの世の『黄金律』にあるべき存在(者)。その傍らに黒き影は佇む。
もう幾つも彷徨い続けては、擦り切れた影。
対照的なこの二人は盟友であり、この何も聞こえぬ場所で美しき黄金の獣は口を開く。
「カールよ、何故あの場(ベルリン)でアールトルムを殺さなかった?」
すると、くつくつと喉を震わせ目を閉じたまま答えを問う。
「獣殿…私は貴方に『既知』を何度も何度も語ってきた。その中で私はあえて彼を贄とする選択などなかった故に。」
「ほう…。」
頬杖をつき、笑みを絶やさぬ黄金の獣の口元に亀裂が入る。
「卿の代替…ツァラストラと何か関係はあるのか?」
「否」
我が息子と縁などない
彼の存在は、もう一つの『結末』を見せてくれるのであろうから。果たしてこれが嘘か、誠か……。
「未だ、シャンバラは機能していないが故…先の事は全て『怒りの日』が来るその時にも。」
そう言い残すと、最初からその場にいなかったように姿を消すと「ふん」と黄金の獣は鼻を鳴らしては、名を呼ぶ。
「参れよ。シュライバー、ザミエル、マキナ。ここで、一つ卿らに命を下す。」
「あれ?ザミエル、君にも聞こえたのかい?」
「当然だ、あの方は我らの主であり、我らは近衛である。従う他あるまい。」
「そうだけれどもー」と頬を膨らませ、ピタリと後ろを指を指す。
「マキナは?放っておいていいのかい?」
そう悪戯のような笑みを浮かべるシュライバーに「ふん」とエレオノーレは吐き捨てるように言う。
「英雄殿の望みは『アレ』に他ならない、ならば忠誠を誓うのは我らのみで良い。」
「あっそ」
どこか、呆れたような声で短く返事をすれば、扉の先には主がいる。
「卿ら、呼び出したのは他でもない。アールトルム・アラエの処遇についてだ」
赤い騎士は思う。あのベルリンの日において主に反逆し、全能力を発動させた。ならば早く処分しなければ事が大きくなる、と。
白い凶獣は思う。あれ程の実力を秘めていたならば、戦ってみたかった、と。
「ハイドリヒ卿…彼の者についての処遇は……」
と、赤い騎士が口を挟んだ瞬間、再び黄金の獣は嗤う。
「何もするな、それだけだ。」
「は…」
言葉が出ない赤い騎士を退け、白き凶獣は歌うように確信を突く。
「シャンバラが未完成で、僕等も何もできない。今僕等の中で動けるのはイザークのみって言いたい訳ですよね?」
「ふむ…だが、私は愉しみたいのだよ。あの男がカールの代替とどう動き我らに未知を見せるのを。」
そう、呟くと共にこの部屋に沈黙が流れ始める。
――果て、彼はポーンか、ビジョップか。
・ ・ ・ ・
「あははは!それじゃあ物乞いと同じだよ、アールトルム。」
同時刻、遠く離れた未だ機能しないシャンバラで金髪の少女は腹を抱えて笑う。
彼女の名はベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン。
銘の通り、戦乙女と称えられた独ソ戦の英雄であり、男女同盟、AHSを首席で卒業した天才少女で良家育ちの騎士。
しかし、飾り気と偏見等なく誰とでも接する事ができる黒円卓の第五位。
「だって、アメリカに捕虜にされた身で『ここはドイツだ。英語が話せたって、ドイツ語以外は喋ろうと思わない。どんな敬礼をしようと君らの知ったことではあるまい。
我々はドイツ軍人としての敬礼法を教わり、それをそのままやっているだけの話だ。』なんて言っておいて、『 ま、そんなことはどうでもいい。身体を洗わせてもらいたい。
それから何か食べ物が欲しい』だなんて、馬鹿馬鹿しいにも程があるじゃない」
と、ヒーヒー笑い続ける彼女を置いて、少し拗ねた顔で俺は答えた。
「俺は軍人…ドイツ人としての誇りを言ったまでだよ、キルヒアイゼン卿。」
「…アールトルム。そんな呼び名はしなくたって何度も言ってるでしょ?実質貴方の方が歳は上で、空を駆ける英雄なんだから。」
「あ、ああ…。ごめん、けれど俺にそれは出来ない。何せ英雄であるのは君も俺も同じだとしても、身分が違う。」
すると、幼い顔でくすっ、と笑って。
「貴方って、硬いのか柔らかいのかホントに解らない。でも、話してて楽しいし、飽きがこないよ。」
「それは俺も同感で」
あの忌まわしき日から、もう5年は経つ。
黒円卓の団員でない自分と、穢れ亡き戦乙女。俺らに共通しているのは『奴らに魂を売っていない』事
故に馬が合うのか、こうしている日々。
俺の願いは、同胞を殺戮した奴らへの復讐。 彼女は唯一の上司であるエレオノーレ卿を戻す事。
「どうしたの?アールトルム。」
「あ、いや…何でもないさ。」
現在この未完成である遠く離れた東のシャンバラに足を足を踏み入れているのは、リザ、キルヒアイゼン卿、ヴァレリア、カインの四人のみ。
ベイは戦場を巡りを楽しみ、マレウスは、まぁ魂を食らいながらまた魔術にでも没頭しているのだろう。
当の俺は捕虜になった後、アイツ等と同じく魂を積み上げては今では創造位階に達している。
そのいつか、アメリカで再会したヴァレリアと話を交した。
「お久しぶりです、アールトルム大佐。もう既にここを制圧した上で、これ程魂を積み上げているとは、いやはや感激に至る物。」
「ヴァレリア…君はベトナムにいたんじゃないのかい?」
「ええ、しかし私は『首領代行』と言う身分の上、仕方なくもうすぐにシャンバラに戻ろうかと。」
「そうなのかい」
すると、少しトーンは下がった声で、青い瞳を開いては呟いた。
「…貴方の元々の魂は団員内でも大きいとも言えるでしょう。さらには、その成果…ベイ中尉等足元にも及ばない、三騎士である方々の次の実力者かと。」
「これならば、カインの席などいらない」と言うヴァレリアに、俺も真剣な目つきで言い返す。
「君も知っての通り、カール・クラフトは化け物…奴の魔術に狂いなどないだろうし、俺が『こうなる事』を予測して0の席に置いたんだろう。」
「…ならば副首領閣下の代替と手を組むと?」
「否」
「俺は――……」
「アールトルム!」
と言う声と共に驚愕して肩を震わせる。すると頬を膨らませたキルヒアイゼン卿の顔が
「あ、ははは…。ごめんよ…。というか、君は僕以外と話す人間がいないのかい?」
すると顔にそぐわない声音で文句を言いだし始める
リザやヴァレリアなんかと話してたら、人間として話している気にもならない。
シュピーネなんてそれ以下…って、つくづく救われない男だな。シュピーネ…。
「もう、こんなにも時間が経つのか……。」
未だ発動しないシャンバラ、生まれないゾーネンキント…恐らくこの決戦は大戦の半世紀後なのだろう。
そう目を鋭くさせている、俺の顔を見て、キルヒアイゼン卿は「どうしたの?」と声を掛ける。
「何でもないよ、ただ…。」
――亡くした同胞と最初に失ってしまった『彼女』
あの日、スワスチカは完成し、怒りの日が迫っているのだ。ならば。
「…ハンス・ウルリッヒ・ルーデルは、戦おう。」
大戦時から『負け』の二文字を知らぬ俺と、ルーンに刻まれたのは宿命だというなら
先が見えてあるであろうあの水銀に見せてやろう。俺の宿命とフィールドを
Ⅳ.Die Kürze neuen Lebens
「ん?」
いつからであろうか、あの青年の姿が見えるのは。
言ってしまえばキルヒアイゼン卿はドイツ人にしては背が低い方に含まれるのだが、あの髪色と肌…
そうして、その隣には小さな女の子
「キルヒアイゼン卿」
「へ、何?アールトルム。」
「もしかしたら…なんだけれど……」
黒円卓には13人程の団員が含まれる。双首領と三騎士を除き、ただ例外と言う者が2人。
一人はレーベンスボルン機関が産み出した結晶…第六位・ゾーネンキント
そしてもう一人は黒円卓の第二位…不死の怪物と名されたドバルカイン
大戦中にエレオノーレ卿が「サクライ」という一族に打たせたロンギヌスのレプリカ、ヴェヴェルスブルグロンギヌス。これは、「サクライ」の一族しか使えない聖遺物。
二人目の第二位・サクライレイは戦争には参加はしていたが、最後の最後まで、トバルカインになる事を拒絶した。が、現状1976年にて死相が見えているというのに。
「…そこの二人のどちらかが次の二位かな?」
「そう、これはヴァレリアから直々の命令で私がこの三世の監視役。」
「成程、じゃあ常識的に考えて次の三世は君か。」
と言って、背の高い男のほうに視線を向ける。俺も背が高い方だが、日本人でこの高さとは珍しい。
「あの、貴方のお名前は?」
「あー、ごめんごめん。挨拶するのが遅れたね。俺はハンス・ウルリッヒ・ルーデル=アールトルム・アラエ、よろしく。」
そう言うと少し、ポカンと口を開けていたが、しばらくして苦笑いをして「よろしくお願いします」と返してきた。
……まぁ、歴史の教科書には載ってるんだろうな、俺の名前。
――それが俺の新しい命との出会いと崩壊への足音でもあった
「おかえり、キルヒアイゼン卿。またケイとカイといたのかい?」
「ええ、そうだけれども。監視って言ってここまで来たら流石に面倒。」
と、カバンを降ろし学校の制服を着たまま自室へと戻っていく。もうすぐ冬休み…そういえば彼女はこの間「一週間留守にするから二人の世話はよろしくね」と言っては俺に監視役を回してきた。
すると、泣きじゃくっているケイと宥めるカイの姿が見えた。
「カイ!ケイ!どうしたんだ?」
「ルーデルさん…」
と涙を浮かべ、またわんわんと泣いている。何があった?
「ケイ、落ち着いて。」
「…が。」
「え?」
「戒と、ベアトリスが…死んじゃうって……」
何?
そこで俺は、違和感を覚える。
あの時2人と出会ったのは二年前、そうしてキルヒアイゼン卿とカイ、ケイの仲はもはや「監視」という状態では無くなっていた。
更に付け加えれば、ここ最近キルヒアイゼン卿が考え事をしている様に見えて…突然の一週間の行方を晦ます…。
「…まさか」
再び、大戦時の様にアドレナリンが大量に分泌される――このままでは手遅れになる。でなければ…。
「ケイ、ごめんね。俺は少し行かなくちゃいけない所があるから絶対にここから出ちゃいけないよ?」
と、言い残すと丁度夜となった頃か。未だ未完成のシャンバラの中で三人の気配がする。あの走っている車の中に、自分と同等の人間が。
すると、大人数の群れが車を粉々にするつもりなのか、構えて。
「――Yetzirah」
自身を宙に浮かせたまま、大人数の群れと3人の間の部分を狙って弾丸を連射しては、多少の被害を与え、グイッとベイの身体を持ちあげる。
「あ?アールトルム、てめぇもまさか……」
「ケイに聞いただけだ、キルヒアイゼン卿の行動を見て気付いたからさ。助けに入ったんだけど無駄だった?」
「ちっ」と舌打ちすると、暗闇の中に紛れて行く中で、シュピーネとマレウスの無事を確認すると、ベイはこんな事を呟いた。
「奴ら、俺らをどうやら殺るらしい。」
と見ると、一箇所に弾丸の跡がある。まさかこれじゃあマレウスも…?まぁ臆病者のシュピーネが負傷するとは思わんが。
「って事は俺らの壁が…?」
そう、俺らの『壁』は積んで来た魂の総力で自身を守る事が可能である。リザのようにカインに集中して魂を振り分けるのはある意味例外だ。
ふと視線を逸らし、見たあの建物は…何だ?
「!!」
そうか…キルヒアイゼン卿はここで黄金練成を行うつもりだったのか!!
だとしたら相手は?バチカン…否、もっと、もっと強力な。蛇を狩る、猛禽は…。
「ベイ、今から開戦が始まるだろう。今紙同然となった俺らはすぐにヴァレリアの元に行かなければならない」
――頼む、お願いだから。
ここで"死ぬ"と言うのは止めてくれ
・ ・ ・ ・
「…成程、俺らを『こうした』のは、例の建物か。」
先程見えた建物、あれはどうやら博物館らしく、あそこにギロチンを運び出した…と気味の悪い男は言う。こう現役時代に身につけてきた偵察能力がここで役に立つとは思わなかった。
シュピーネが、大人数の人間を連れだし、マレウスはあの薄気味悪い男と対峙し、ベイは金髪碧眼の女と対峙する…が、そこに違和感が。
シュピーネが相手する大人数の人間共の中でどこかで見た『少女』がいる。
「あの女は…確かカイと仲が良かった…」
ガキィンッ、と音がする中で戦乙女は剣を振るう。
「キルヒアイゼン卿…」
どうして君は皆を救いたがるんだ?
エレオノーレ卿にカイにケイ…でも君は解っていたからこそ「東方聖教会」の人間を利用し、俺らを紙同然にした中、ベイ、マレウス…そしてヴァレリアを…。
ハイドリヒの身体を聖遺物とするヴァレリアは、常に形成を保ったままで生半可な魔術で敵う事はない。恐らく、奴を潰せるのはマキナのみであろう。
そこで、ヴァレリアを潰してしまえば『黄金』が消える。
「馬鹿娘…」
ここでヴァレリアが潰れてもいい、そしたら肉体の持ち主が戻ってくる。不完全であろうと。それでも君はハイドリヒを相手に戦うのか?
ドッペルアドラーが上手く動いてくれるはずがないだろう、何せ俺達は世界中の敵なのだから。だとしたら残るのは――……!
「カイッ!」
止めてくれ、頼むから。君が一番知っているはずだろう?聖餐杯に『言葉が通じない事』を。
「君達は、あの男の掌で踊っているんだよッ!!」
ベイが、キルヒアイゼン卿と戦っている。
――『もーっ!戒!全然釣れないじゃない!!』
『慣れれば、ベアトリスもすぐ釣れるようになるさ』
『おっ!俺は本日3匹目!!カイ、帰ったらこれ捌いてくれよ?』
『…ははは』
マレウスとシュピーネが様子を眺めている。
――『君は綺麗だよ』
『うん、ベアトリスはキレイ』
そうして、カイがキルヒアイゼン卿へと近づいて行く。
――『かーいー!お腹減ったぁー!』
『キルヒアイゼン卿は確か料理が……』
『ふーんだ!物乞いのアールトルムとは違いますー』
『…僕から見れば2人とも、物乞いだけどね…。』
『 『どこが物乞いだ!!』』
「カイ…。」
君は、彼女やケイを守るために自身が犠牲になるのか?どうしてレイのように逃げ出さないんだ?
「そう言えば、カイ。君ってキルヒアイゼン卿の事好きだよね?」
「え?」
顔を赤くして、あまりにも驚く幼い少年がこっちを見ては、それで俺は笑った。
キルヒアイゼン卿も、俺も奴らには魂を売ってはいないのだが、そこで君が加わってどうする!?
「止めろっ!!」と言わんばかりに、カイに向けて弾丸を撃ち込んでも腐り落ちて行く。
「まて…よ…」
「待ってくれ――――ッ!!」
「ふ、ふふふ。とうとう戦乙女が『堕ちたか』」
代役ならば、代わりにいるだろう?それに気付かないクリストフでもあるまい
この日、黒円卓の第二位と第五位は欠落した。
どちらかを埋めるべく相手は、『彼女』の他ならない。なるのはトバルカインか?それとも――……
「ヴァレリアッ!!」
「おや、アールトルム。どうかしましたか?」
「どうしたこうもない!ケイをどうするつもりだ!?」
「ああ、あの少女でしたら……。」
「――キルヒアイゼン卿の、後継者か?」
「ええ、ですから私は暫くここから離れます。恐らくシャンバラがようやく動き出した時…」
「馬鹿を言うな!シャンバラは…!!スワスチカは…もう、キルヒアイゼン卿の魂で機能しているだろうッ!?」
「黙りなさい、アールトルム・アラエ。亡き存在の貴方には何の言う事すらできませんし、何より…私に、感謝なさい。」
「き、さま…!!」
何が感謝だ、お前と言う存在がどうして気付かない?黒円卓の団員は13人でハイドリヒとメルクリウス、3人の近衛を抜けば、8人…つまりはスワスチカの数となる。
あのベルリンの際に「各々、魂を蓄えよ」と言う発言は「スワスチカを開ける魂を持つ人間」が必要イコール贄でしかない。
そして、ケイの手を引っ張り決死の覚悟を決める。
「――Yetzirah」
宙へと飛躍し、弾丸をヴァレリアに打ちこみそのまま教会を突き破り、その場を離脱する。
「…ほう」
ここで、終焉(おわり)かと思えばここで足掻くか。
「…面白い」
ならば私も少し席を立つ事としよう――…。
黒円卓の黒き翼が更に飛躍できるように、と。
Ⅴ.Ziehen Sie eine kleine Hand
「…ごめんよ、ケイ。痛かったよね?」
あれから博物館に着き目線を合わせて言うと、ケイは小さな声で呟いた。
「ルーデルさん…戒とベアトリスは……?」
やはり、この問いが来ると来たか。
ケイに脅しを掛けたのは、恐らくドッペルアドラーのジークリンデという少女。
けれども、こんな小さくあの2人を愛しているこの子に何と言えばいい?
「キルヒアイゼン卿は…カイは……」
その瞬間、黒き影が飲み込もうとするが、俺はまだ『形成』を梳いていない。
上から見上げれば影は2つ 魔女と吸血鬼
「ほんっと、ムカつくのよねー。アンタの聖遺物…。活動でも形成でも私のナハツェラーを容易く交わして」
と、苛立ちを見せる赤毛の魔女。
「へェ、あんな短けぇ時間で俺らと…否、今じゃオメーはザミエル達に並ぶ程の強さだって聞くじゃねーか。」
相対し、喜びを見せては口角を上げる吸血鬼。
「…ヴァレリアか、追わせたのは。」
――仕方ない
「ケイ、痛いだろうけどちょっと我慢して?俺の手を絶対に離さないでね」
アルフレート、エルヴィン、ロートマン、エルンスト…。
借り物のヤツだが使わせて貰うぞ
『『――…Briah 』』
この狭く暗い空間で呟かれ、展開された二つの渇望。ならば、俺も駆けるとしよう 自分の空を
『――…Ich bin rot,und der Himmel wird gerfärbt 』
(空は赤く染まるのだが)
『Gott Fragt eine Person danach 』
(神が 人に問うように)
『Schicke einen Boten und weine auf diese Act 』
(使者を遣わしこう叫ぶ)
旧友よ、同胞よ。
『――…Briah 』
譲れないんだ、あの2人が守りを通してきた少女を。
『Mihi date aters!!』
救う故に、俺に黒き翼を与えよ!
この祝詞―黄金柏葉剣付ダイヤモンド騎士鉄十字勲章が出現してはユンカースJu87シュトゥーカーが姿を現わせば、俺は右手にケイを抱きながら、更に飛躍する。
全てを飲む影も、俺を目掛けて放たれた杭も俺の感覚がある限り、当たる事はまずないのだ。例えこの目を潰しても、感覚があればそれでいいのだ。
「何ッ!?」
と、こちらを見上げては驚愕を上げる吸血鬼。
「…空軍に於いて重要なのは、『回避』と『命中』。ましてやコイツなら尚更だ。」
「にゃろう…!」
「何なのよ…ッ、あれ!!私の影も、ベイの杭も当たらないだなんて!!こっちだけが魂を削られていくだけじゃないッ!!」
「いくぞ…」
ここで、さらに霊力を上げては叫んだ。
「Anfang!!」
ドォンッ!!と音を上げては、シュトゥーカーが二人を目掛けて突撃し、薔薇の森や影さえも一気に破壊した。
「ぐ、ぉおおおおッ!!」
「あ゛ぁあああああああッ!!」
「…これで、しばらくは動けないだろう?」
そう言い、地面に足を付けた付けようとした瞬間何かが後ろに気配を感じてみたら、変わり果てた友の姿。
「…カ、イ……?」
ヴェヴェルスブルグロンギヌスを携えて、ほとんどがトバルカイン化している。
「戒…?」
そう言って、ケイが手を伸ばした瞬間俺は「触るなッ!!」と叫んでは形成状態へと変化する。
しまった…あの2人相手に力を使い果たしたせいで、ほぼ効力を持たないが時間稼ぎを――
そうして、俺は弾丸の雨を降らせるが、腐敗させ、手に携えた獲物で本能的に行動している。まずい…トバルカインはリザの手がなければただの『破壊者』。
「カイ…」
短い間ではあった。
だけれど俺にとっては友人であり、傍にキルヒアイゼン卿とケイがいればそれだけでよかったのに。
カイやキルヒアイゼン卿には悪いだろうが、俺は彼女を――……亡くした『彼女』に似た戦乙女を…。
「woooh…!」
その瞬間、俺は感傷に浸っていた為かこの言葉を聞き取れやしなかった。
『――…Briah 』
蒼き閃光が、黒き閃光へと姿を変えて俺の『壁』も形成も解かれてしまう。ならあの呪われた屍の正式の三代目は……。その瞬間、ケイが「きゃあ」と言って落下していく。
「ケイッ!!」
気付いた時には既に時遅し、先程まで潰れていた赤い魔女が影で、ケイを縛る。
「それじゃサヨナラ、アールトルム。黒円卓の亡霊さん」
「ケイ…カイ…」
君達はどうなるんだ?このまま奴らの手先となるのか?そんな事…そんな事…!!
「うがぁああああああああああッ!!!」
その時俺は 治療期間中にソ連軍を攻撃出来ない事の方が悔しさ以上に
同胞を殺し後悔をした事全てで 今ここに黒円卓の亡霊(アンノウン)は姿を消した
「ふむ…」
まさか見こんだ男があれ程なのであれば、『こうしておくのは勿体ない』。
さぁ、目覚めの時だ、ツァラトゥストラ。獣の双爪の首を刎ね給え。
そうして、黒円卓の黒き翼よ。君にチャンスを与えよう、とっておきの舞台を。
「――…アールトルム・アラエ」
「カール、クラフト…ッ!!」
「いやはや、見ていて実に素晴らしく私の見こんだ通りだ。実力も例の3人と並ぶであろう。しかし、私は君が元々反逆する事を見据え、こうしたのだよ。」
「だったら…何だ?今更ここで俺もお前らに頭を垂れろと?ふざけるな、死んでも望むものかよ。」
「そうではない、君は最初から黒円卓の団員ではなく、13人の敵がいる事を忘れてはならないのだ。」
「…13、か。ならお前もか、カール・クラフト。」
「否」
「何…?」
「私の代替…至高の美しき魂を携えたツァラトゥストラ。彼も敵だと思って構わない」
「…つまりは」
「如何に、これは『2つ目』のオペラだ。さぁ立ち上がりたまえ、黒円卓の亡霊よ。私達に『未知』を見せておくれ。」
そう言うと、影は去り地に伏したまま俺は考える。
「――2つ目のオペラと、未知…か。」
手に握ったままの黄金柏葉剣付ダイヤモンド騎士鉄十字勲章を強く握りしめた。ああ、そうだ。
俺はあの日、お前らの『望み』は潰させてもらうぞと誓ったはず。ぐっ、と力を入れて立ち上がると傷がみるみる治って行く。これは……。
「キルヒアイゼン卿…」
暗闇の中で、そっとだけ呟いた。
「ケイ、カイ…悪いが俺は負けるわけにはいかないんだ。俺の戦争は"ここから"なんだ。」
例えそれが大事な君らに刃を向けようとも
『負け知らず』のハンス・ウルリッヒ・ルーデルの全てを賭けて
さぁ、オペラの開幕だ。
Ⅵ.Samsara
「うぉっ、寒ッ!!!」
あれから11年後の2007年、俺は密かにシャンバラのアパートの一室を借りて生活をしている。
日本の建物…アパートとやらは不安を覚えたが、案外住んでみると快適だし、いいものだ。
「さーて、牛乳牛乳。」産まれてこの方『日課』である、朝一の牛乳。くぁー!やっぱ美味い。
それに、今まで魂を積み上げてきた国での賞金は日本で換算すると異常なまでの金額で。これなら人生8回ぐらいは遊んで暮らせるだろう。
とりあえずカップラーメンを啜りながらテレビを見ていると、『また』このニュースが流れる。
――諏訪原市に起こる、連続殺人事件。
もうこれで被害はかなり出ている上に、俺の軍人としての勘が働く。
「とうとう、シャンバラ…否、戦争の始まり…か。」
だが、この事件が起こるのは夜中。全て首を切り落とす…ならこの犯人の、ツァラトゥストラの聖遺物は、11年前運ばれた『ギロチン』。
とりあえず、寝るか。散策なら夜が一番効率がいいのだろうから。
「…なーんて、大人しいもんじゃないんだな。」
また、あの時のように同族の匂いがする…この様子だと、ヴァレリア、ベイ、マレウス、リザ、ゾーネンキント、トバルカイン…そして。
「ケイ、か…。」
あれからどうなったのだろう?あんな小さな体でどうやって聖遺物を持つのだろう。あの子の性格上、聖遺物を握るだけで怯えそうだと言うのに。
そんな事を考えていたら、俺の意識はどんどん暗闇の奥深くに入って行った。
・ ・ ・ ・
「はっ!」
なんて驚くと、もう夜になっていた。時計を見れば既に午後11時。いい頃合いだ。
久々に腕を通したこの軍服…いいさ、『奴ら』に見つかったら見つかるで戦えばいいだけの話。
そうして、懐かしいこの匂いを追って俺は久々に空を駆ける事となる――そうか、そうか舞台はあの橋の上。
「Assiah」
ヒュン、ヒュンと空を駆けて行けば、やはり橋の上にベイとマレウスの姿が。だが、様子がおかしい。
「…何だ?あの傷跡」
俺らエイビヒカイトを受け継いだ人間ならば、普通の拳銃などでは怪我は追わない。ならばあの傷跡は聖遺物によるもの。
「…まさか、カール・クラフト。お前は…」
先程、2人が追っていた女に魂を積ませてツァラトゥストラの聖遺物に溜めていたのか!これであれば団員内で気付くのは恐らくヴァレリアだろう。
じゃあ、男は?と視線を移せばあの海浜公園に男が1人と見覚えのある『少女』
「ケイ…」
そうして、眺めていると男…ツァラトゥストラは走り出してケイだけが残され、去ろうとした瞬間に彼女の道を塞ぐ。
「ケイ、久しぶりだね。覚えているかな?」
「貴様は…アールトルム・アラエッ!何故だ!何故貴様がここにいる!?」
と、声を荒げて俺と同じ軍服を着て言うのだから。
「11年前…キルヒアイゼン卿もカイも救えなかったから、せめて君だけも救おうと思ったけれど僕は――…」
「黙れッ!」
と、顔を強張らせながら、一言呟いた。
「――Yetzirah」
黒い髪をたなびかせ、手に現れた炎を纏うこの古代刀剣――これもサクライの血筋故に。
「はぁあああああッ!!」
と逆笠斬りをしてくる中で、俺は活動のみで避けて行く。
「ケイ!どうして君は俺を…!」
「知ったものか!貴様は…ッ、貴様はッ!!」
「兄さんを殺した癖に!!」
「――え?」
カイを?何故だ?カイは誰にも殺されていない、むしろ彼が殺したのは彼の戦乙女のみだと言うのに…。
「あの博物館で、兄さんに向けて攻撃をしただろう!?覚えていないとは言わせない!」
「ケ、イ……」
ああ、俺は君さえも失ってしまったのか。そうだ、あの時ケイを守ろうとして俺はカイに弾丸を浴びせたのだから。恐らく、彼女の位階は――創造。
「…そう、そうだね。君が正しい」
11年前に決めた、あの決意。聖槍十三騎士団は俺の『敵』なのだから。ならここは、敬意を賞して歌う。
「――Yetzirah」
「…これが君が幼い時に見、カイを殺した俺の形成」
チャッ、と炎を纏う剣を構える目の前の少女に戦場の基本を教えてやろう。
「聖槍十三騎士団黒円卓のアンノウン…ハンス・ウルリッヒ・ルーデル=アールトルム・アラエ.。名乗れよ、埋めの第五位」
そう言うと「貴様ァッ!!」と叫んでは、剣を向けるが宙を駆ける鷹にそんなものは通用せず、弾丸を8発。キルヒアイゼン卿であれば全弾叩き落すだろうが、彼女が叩き落したのは半分。
「キルヒアイゼン卿はこれを全弾叩き落したよ?だから戦争のルールとして名乗りな、埋めの第五位。」
「…聖槍十三騎士団黒円卓第五位・櫻井螢=レオンハルト・アウグスト。殺すぞ、貴様だけは…。」
ああ、どうしてこうなったんだろう。『人間』であった時より今の方が強いのに、何故ここまで弱いんだろうか俺は。
「はぁあああああああああ!」
「甘いよ」
宙へと自身の体重と腕力を掛けてはこうも飛ぶか…だが俺には届くはずもない。
ドドドドッ、と弾丸を急所を外して当てても『ここまで』、速さも無論俺にも届かず、最後の一撃にアキレス腱へと浴びせ、ケイは立てなくなっては形成も解ける。
「ぐぅ…ッ」
「ごめんよ、俺は君ら…ツァラトゥストラも含め戦わなければならないし、俺の実力はベイやマレウスより上だ。威勢はいいけれども少しは自身を還りみるといい」
――スッ、と振り返えれば、あの時本能で感じたが、あの女とあの男…そしてケイは恐らく……
なんて考え事をしつつ俺は『変わってしまった彼女』に背を向けては家までの帰宅を辿ろうと公園の入り口を通った瞬間、誰かとぶつかった。
「いたた…」
「だ、大丈夫かい!?」
しまった。俺らエイビヒカイトを受け持つ者は普通の人間より丈夫なのだ。例を上げれば石を針でつつく様に。
すると顔を上げた少女の様子を見て俺は目を見開いた。
「ルテーシア…?」
半世紀前に、最初に手をかけた幼馴染――そして何よりこの瞳は…キルヒアイゼン卿によく似ていて……。
と名前を呼ぶと、バッと顔をあげた薄紫に透けた髪を降ろした少女は声をあげて。
「す、すみません!」
と小柄な少女は、頭をぺこぺこと何度も下げているが、本気で大丈夫なのか?
「ね、ねぇ…ぶつかって痛くなかった?」
「? 痛くないって、いたた…。」
少女は膝を押さえているが、見た所擦り傷が出来た程度らしく、俺とぶつかって痛い訳ではないようだ。
なら、その責任として世話を見てやらなきゃいけない。これはもう性分だ。パートナーと戦ってきた時からの名残。
後ろ髪を結んでいる包帯を取っては、水で砂を落とし包帯を巻いてこれで良し。
「その髪…長いのにいいんですか?」
「ああ、いいよ。結構あれから年月経った所為で髪が伸びたんだけど、面倒だから放置。」
と苦笑いし、「送っていこうか?」と声を掛けるが、彼女がコクコクと頷くが、「あっ」と呟いて。
「スクール…閉まっちゃってる…」
なんて何だか変な顔をしながら、俺が笑っていると、「あー、分かったよ。」と返すと話を続けた。
「一晩でよければ、泊めてあげようか?大丈夫、変な事しないから。」
…これでいいのか?いや、これ絶対不審者だって!!
「ホントですか!!」
なんて顔を輝かせながら言ってるもんだから、「ぷっ」と笑うと。
「自己紹介が遅れたね、俺はハンス・ウルリッヒ・ルーデル。見た所君も日本育ちじゃないみたいだね。」
「…」
ん?俺、何か変な事言ったk……
「嘘ぉおおおおおおおお!!ほんっとにハンス・ウルリッヒ・ルーデルさんなんですか!?」
キーンと耳に響く声と、俺の手をガシッと掴む少女。だけれども、ハッと返ったみたいで。
「あ、ごめんなさい…。私、システィーナ・アングラフと言います。」
「――!」
そう、まさか『彼女』と同じ名前の少女に出会ったのはこの日であった。
Ⅶ.gelber oxeye
「はは…何もなくてごめんね。」
「いえ!ルーデルさんの部屋に入れただけで私感激しちゃいます!!」
そう言う、俺よりも小さい少女はとてもはしゃいでいる。どんないきさつであの時俺の名を叫んだのかを帰路の途中で聞いてみたのだ。
「だって、私達ドイツ国の英雄なんですよ?今はあそこでナチスの話はしちゃいけませんけど……。」
「…英雄なんてもんじゃないよ」
何にせよ、ハンス・ウルリッヒ・ルーデルは半世紀も前に死んでいて、今は酷く弱い死人。
「でも、私は憧れます。」
そんな些細な会話をしている途中でこうして家に着いたのだが、彼女はコンロ下の戸棚に目線を向ける。
「そういえば、ルーデルさんは既婚者じゃ?」
「ああ、うん。そうなんだけれど妻はとっくの昔に亡くしちゃってね。」
「…という訳で、『こんな状態』なんですね?」
げ、何時の間に俺の戸棚を開けて…あー、カップ麺やレトルト食品の山が…もとい俺の食卓事情が。
「それと、何で嘘吐くんですか?」
どくん
「え、何が…かな……?」
俺の心臓の鼓動がどんどん早くなっていき、背中には汗が伝う。
「その制服、空軍の制服じゃない。腕章が違います。後、顔が変わっていません。」
「ああ」
彼女の言うとおりだ、だけれどこんな小さな子に「あいつ等」の話をしちゃいけない。
もう既に戦争の火蓋は切られているのだから
「…ラストバタリオン、聖槍十三騎士団の一員、違いますか?」
「なん、で…それを…。」
「少し、私の話をしてもいいですか?」
真剣な顔で俺の顔を見る少女に、頷くと少女は口を開き始めた。
「今のドイツでは…世界では、ナチスの話をしてしまえば犯罪者です。けれども戦争時の名残は今でもあるんです。」
「名残り…?」
「…レーベンスボルン機関、言わば優生学です。」
「何だって?」
まだ、あのレーベンスボルン機関が残っていたのか。否、でもそう考えてもおかしくはない。何せドッペルアドラーもアメリカでも優生学は行っているのだから。
「ルーデルさん、最初私の事を『ルテーシア』と言いましたよね?」
「ああ…」
――ルテーシア ルテーシア・アングラフ
ただの一般人で、宿屋を営む家に生まれた彼女。俺の大事な幼馴染で、最初に失ってしまった愛しき人。
確かにシスティーナとルテーシアを比べたら正にそっくりであろう。ただ性格はキルヒアイゼン卿の様だったのだけれど。
「そのルテーシアさんの家系と私は親戚同士なんです。けれど、ただ違うとすれば……。」
「…私は『失敗作』、けれど貴方と同じ。」
「同じ?…まさか、聖遺物を?」
「そんな大層なものじゃないんです、ただ出来る事は小さい事で」
とヘラッ、として笑っているが、更に俺の名を再び呼んだ。
「…ルーデルさんは、本気であの13人と対峙するんですか?」
そんな、悲しい顔をしないでくれよ…。
『ルーデル、解ってるの?本当にそんな身体で赤軍と対峙するつもり?』
「するよ…誰が止めようと、俺には俺のやるべき事があるんだ。」
半世紀も前に亡くした親、兄弟、戦友、そして愛しい人。その同胞を贄に「させた」という事実を否定…否、それを許してはいけないからこそ――…
「俺は、ハイドリヒを…カール・クラフトを倒さねばならない。それが、俺の義務だ。」
「そう、ですか…。でも!ルーデルさんは絶対…ッ!」
というガッツポーズをしている彼女だが、ぐぅ~という音が今までの空気を破壊した。
「あははは、そっか。もうこんな時間だし、少しは腹が減るもんだよね。」
「うう…」なんて嘆いているシスティーナを横目に、俺は軍服を放り投げて腕まくりをしては、インスタントラーメンの麺だけを取り出して、牛乳と、それに合いそうな粉末を用意する。
「料理は戦場でよーく慣れたもんさ」
…って言っても大半はアルフレート辺りが作ってたんだけれど。そして十数分後、謎の麺類が出来上がったが、味は大丈夫!
「はい、ちょっと雑だけれどね。」
と皿を渡すと、目を輝かせながら「いただきます!」と言っては食べている景色を俺も向かい合わせで作った料理を啜りながら見ている。
「そう言えば、システィーナはスクールがどーのって言ってたけれど、そこで宿舎してるのかな?」
「はい、でも明日から月乃澤学園に行くんですよ。」
――スワスチカ、か。ならば恐らく奴らもツァラトゥストラがいる限りは……。
「それより、転校するなら下宿先はあるの?」
「えーっと、ないんです。…あはは、17歳なのにだらしないですよね。」
「17!?」
推定、144センチメートルの彼女が17歳だって?…ああ、うん。いっか…マレウスでよく慣れたよ。
けれども住む所がないのなら、いくらなんでも危なすぎる。あの学校に通わせるのも危ないが、団員同士で争って開けばいい話でもあるし、手も打ってある。
「じゃあ、だったらここに下宿する?」
「いいんですか!?」
「うん、構わないよ。それに学校に行くのなら気を付けてね。何かあったら、この携帯に連絡してくれればいいから。」
「わかりました!」
ふむ、まさかここで相手にしていなかった携帯電話が役に立つとは思わなかったし、何よりまだ勝算はあるのだ。
あの様子であれば、まだツァラトゥストラは活動位階からスタートをするのだろう。幾ら良質の魂を持ってしても時間はかかる。俺の見立てでは、後3、4日位内。
「あ、そうだ。寝床どうしようか?」
待てよ…常識的に考えてこの年頃の女の子にソファーで寝ろ、ってかむしろ男がソファー行き確定だな。
「あ、じゃ私…「いいよ、いいよ。そこのベット借りて。突然の来客だから何か臭かったら言ってね。明日洗濯するから」
「えええええ!いいんですか!?」
「いいよ、いいよ。」
「…ルーデルさんのベットで寝れるなんて、幸せ。」
「ん?何か言った?」
小声に気付いて、聞くとシスティーナは顔を赤らめバッ、と毛布を被り「おやすみなさい!」と言った。
「はは、おやすみ。」
そうして、俺もソファーに横になりながら上を見ていると声が聞こえた。
『あ、またパラシュートで遊んでて、おばさんに怒られたんでしょ?いいわよ、泊っていきなさい』
――ルテーシア
「俺は、君を…」
何なんだろう、こんな感覚は?まるで金盞花が根を張るように俺の心に根強く残る。
ルテーシア、君は…俺が『こんな姿』になって一番始めに抱えた魂なのだから。
「…さん!」
ん?何だ俺の名前を呼ぶ声は…
「ルーデルさん!!」
「うぉわっ!」
「びっくりしてる暇じゃないですよ!もうこんな時間ですよ?私、学校に行ってきますから。」
「ああ、うん。分かった、気をつけてね。」
と言った瞬間に、俺の掌にあるのは青い男子用の制服のネクタイ。これは制服のじゃ…?
「ちょっ、これ…!」
そう言って手を伸ばすと、システィーナは自身の制服であろうスカーフで髪を結んでいる。
「ほらっ、ルーデルさんとお揃い!」
なんて年相応の笑みを浮かべながら、「ルーデルさんの黒髪に似合うと思って」と言い残しては、「いってきます!」と部屋を出て行く。
君には赤いリボンのほうが似合うんだろうけれどなぁ けれどこんな日常も嫌じゃない
Ⅷ.fange an zu knarren
「ふぅ…。」
朝、システィーナに起こされた後に俺は掃除とベットのシーツ等を取り変えておくと言う作業を終えると冷蔵庫を開けたが…。
「牛乳が、ない…。」
はぁ、と溜息を吐きながら直に昼になる頃。テレビを付けたらご有名な料理番組が。にしても、暇だった。
「ただいまです!」
と数時間後にひょこっとシスティーナが顔を出しては、鞄を置いている。
にしても本当に青が似合わないなぁと頬を緩ませてたら、システィーナの目線が痛い。「何がおかしいんですか?」と。
「いや、システィーナには赤が似合うよ。それに髪おろされたんだろう?やっぱり制服のスカーフで結ぶのは駄目みたいだね」
「…自由な校風が売りだっていってたのに。」
なんて、頬を膨らませるシスティーナが「あっ!」と手を叩く。
「今日の晩ご飯と明日の買い物しなくちゃ!またルーデルさんが…。」
「はいはい、じゃあついでに赤いリボンでも買おうか。」
「はいっ!」
・ ・ ・ ・
「あ、ほらこれなんかよく似合うんじゃない?」
「え、ええ~でも、服も買って貰ったついでにこんな高いものまでいいんですか?」
「全然平気、すみませーんこれの会計お願いします。」
と言って、店員がレジを打ち、「1万3千と6円です。」とりあえず、財布から2万円程。出しては店を出て行った。
そうして俺らは1階へと降りては、すぐ材料の買い込みとなるのだが、何か多い……。腐らないのかどうか不安にもなるが流石にシスティーナもそこまで馬鹿じゃない。
とりあえず今晩と明日に困らないほどの材料をレジ袋に詰め込み外を出てみればもう夕暮れ時だった。
まぁ人の事をどーのこーの言うより、俺も俺で調達したものはあったんだけどね。
「そう言えばルーデルさん、何であれだけ高い物が買い込めるんですか?」
「あー、そう言えば話してなかったね。俺もこんな身だから、あの後色んな国に周ってたら魂積み上げるのと同時にお金もオマケで付いて来たんだ。」
「ほぇー、そうなんですかー。」
「…って言っても戦争が起こる場所でしかいなかったし、罪のない人を殺したくはなかったから。そうでもないと奴らと戦えない。」
そう、俺はあれ以来から色んな国へと飛んでは戦争に赴いた。国内が戦力不足で困ってるとか、そう言う所で。けれど『殺人』という罪は決して拭えはしないから、俺は自身を否定する。
するとシスティーナが「おーい」と言いながら、同じ制服を着た少女と少年に手を振っている。
「あ、システィーナ!そっちにいるカッコいいお兄さんが今面倒見てくれてる人?」
「うん!そうだよ、カスミ。」
――…この少女、あの時ベイとマレウスが追っていたあの女。そして隣にいるのは…ツァラトゥストラ。
「そっかー、とりあえず気をつけて帰ってね。そこのお兄さんにもよろしくー。」
「うん!」
と言い返すとまた再び俺の方に顔を向けて話を始めた。
「あのね、あの二人今日友達になったレンとカスミって言うんです。」
「そ、そうなんだ…」
――瞬間、俺は再びこの匂いを察知した。この薄気味悪い気配は…黒円卓の十位ロート・シュピーネ。
「ねぇ、ルーデルさん。どうかしたの?」
「…何でもないよ」
なんて笑いながら言葉を返すが、そうかヴァレリアは『最初からこうするつもり』な訳だ。
シュピーネがヴァレリアに求めてきた条件、ツァラトゥストラとの接触。成程…
「塩、か…」
「え?塩がどうかしました?」
しまった、迂闊にものを言う癖は、この方産まれて治らないらしい。
「今日の晩ご飯、確かポテトサラダの予定なんでしょ?俺の同僚が昔作って、塩を混ぜて酷い思いをしたからさ。」
待っていろ、ツァラトゥストラ。今日の1戦目は俺が見届けようじゃないか。そして、もう1人の観客がいる事を。
「お、美味い。」
「ホントですか?良かった~」
あれから家に戻り、こうシスティーナが料理を振る舞ってくれたのだが、中々美味い。ドイツじゃ家庭によって料理の味が違ってくるのだが、ルテーシアの作った味とよく似ている。
「あれ、もう食べ終わったの?」
「はい。あ、お皿はシンクの中にいれておいて下さい。後で洗いますから」
「そっか、ありがとう」
と、笑って返すとシスティーナは風呂へと向かい俺も食事を終えるとシンクに食器を重ねておく。
どかっ、とソファーに横になると、まだ俺の本能が『察知』していない。
なんて考えていると、システィーナは台所へと戻ってはすぐに食器を洗い始めている。何だ、この子作業が物凄く早いな。
「そうだ、私も上がったんでルーデルさんもお風呂入ってきてください。」
「はいさ」
パタン、とドアを閉め風呂場に入ると鏡に映るのは聖痕(スティグマ)。一応亡霊である俺にもコレはある。
(…疼くな)
どうやら、第1戦目は始まりを迎えるらしい。ガチャリ、と風呂から上がると既にシスティーナはすやすやとベットで寝ていた。そりゃそうだ、学校に行って、買い物して、忙しい一日だっただろう。
システィーナが完全に眠ったのを確認すると、軍服に腕を通し、青いネクタイで髪を縛っては、気配を追っては宙を駆ける。
すると、まずは公園の方へツァラトゥストラが向かうのを見ると俺もそれを追えば、シュピーネは蜘蛛の巣を張り、女を殺し晒す。
「…相変わらず趣味が悪いモンで」
そう呟くと俺は一気に霊力を下げては木に隠れつつ耳をすませる。ん?あの時連れていた少女の行方を追って来たのか。
すると、シュピーネは何やら『交渉』をしているらしい。が、あまりにも愚かな行動。
トリックはこうだ、シュピーネと俺、マキナは黎明期にアイツ等と出会ってはいない。故にあれは一度ハイドリヒと三騎士をベルリンで見て、その再来を防ぐ。
その為にツァラトゥストラと手を組みたい、という腹。ったく、半世紀も前からアイツの臆病さも変わっていない。
お、早速交渉決裂か?シュピーネの聖遺物がツァラトゥストラに引っ掛かる。だが、アイツの位階は『形成』。このままじゃ、死ぬぞ?
そう思った瞬間、俺は目を見開いてしまった。
「は?巨乳の女がいいのは万国共通概念…?」
さらに、そこからどんどん話は飛躍していき、形やら何やら…。ああ、俺も年頃の時は思ったな。
だが、今だシュピーネの拘束は解けることは無く、ミシミシと音を立ててはバラすらしい。
――と、言う瞬間だった。
活動から、形成されたのは美しきギロチン。これで、俺らの首を刎ねる、と?
「なっ、」
「ヒュー♪ やるモンだねぇ」
やはり予測通りであったか、成程。カール・クラフトの代替は俺と同族であるのか。
「まっ、待ちなさい!私は、貴方を…!」
と言われ、シュピーネの聖遺物は壊れたが甘い、甘すぎるぞ。ツァラトゥストラ。
「…さて、ヴァレリアが来ない内に用事を済ませようか。」
そう、ツァラトゥストラが俺の横を通った瞬間、俺は口を開いた。先程も言った通り代替と言えど――…。
「甘いよ、ツァラトゥストラ。」
「!?お前は、今日の…!!」
「騙すつもりはなかったんだけれどね、流石はカール・クラフトの代替。俺も最初は活動は2、3日。形成に至るまでは5日。素晴らしい…でも」
「君は、エイビィカイトを未だ理解できていない。」
「…お前も、奴らの仲間なのか?」
なんて俺を見ながら睨みつけてくる。成程、そのギロチンは――あの呪われたモノ、か。
「見てくれはそうだけれども、俺は奴らの亡霊であって仲間じゃない…そしてカール・クラフト=メルクリウスの代替である君の敵でもある。」
「何?」
幼いな、少年よ。ならばあの彼女(五位)のように名乗る必要があるようだ。
「聖槍十三騎士団黒円卓の亡霊、ハンス・ウルリッヒ・ルーデル=アールトルム・アラエ。これからもよろしくね、13番目の団員。どうせ、明日になれば会えるさ。」
と、言い残すと金髪の鍍金はこちらに視線を移している。まぁ、そうなると思ってたけれど…。
「…これは、同胞としての敬意だ――Auf Wiedersehen, Narr…。」
そうして、この夜第2のスワスチカは開き、こうして戦争の火蓋は切られた。
Ⅸ.Es ist sofort ein Kneifen
「~ってぇ…」
家の鍵を開ける前に、聖痕が痛み血を流す。成程…ハイドリヒはアレを愚か者として、自分の家に置いておいた罰を下したって訳か。
あーあ、俺は脳味噌がアドレナリンの分泌量が異常な為、痛みは基本感じないがこれは痛い。多分マレウスやケイなんか泣いてるんじゃないのか?
「まずは…っと」
静かにドアを開けると、どうやらシスティーナはちゃんと寝ているらしい。さて、俺も寝るとしよう。
明日から、『2つの戦争』が始まるんだから。先程ポストに入っていた紙をクシャッと握る。
「ん…」
「あ、システィーナ。おはよう。」
「ん、あれ、あれれれれ!?ルーデルさん!その恰好は…?」
「ふっふっふっ…今日から俺は月乃澤学園の英語教師なのさ。だから、朝ご飯食べて早く2人で学校に行こう?」
そう言って笑うと、「はい!」と答え2人で外へと出ると、システィーナは呟いた。
「そういえば、ルーデルさん。教師になるのにこの名前のままでいいんですか?」
「ん、ちゃんと偽名にしたよ。それに今高校ではドイツ語の勉強はしないでしょ?だから英語を選択したのさ」
…過去にキルヒアイゼン卿にあんな話をしていたが、この際は仕方ないのだ。
ハイドリヒを、カール・クラフトの再来を防ぐと言う事が今の俺の最優先事項。なら、今の俺はそれを軍人としての誇りとしたい。
「あ、着いた。それじゃシスティーナ、ここで1回バイバイだ。また今日の3時間目に会おう」
「待ってますから!」
・ ・ ・ ・
「アールトルム先生」
「はい、何でしょうか?」
一応俺も教師のフリをしてでも、入りたての新米だから、色んな山積みの書類に目を通し、サインをし、課題を作らなければならないのだが…。
「もう、3時間目が始まりますよ?すぐに教室の方に向かわないと」
「あ、は、はい!」
と言って席を立ち上がると、英語のテキストと教科書、課題のプリントを持って仕方ないが廊下を走る。
そう ケイとツァラトゥストラがいるべきあの教室へ
予鈴の音がなり、何とか教室前まで来れたが、息を整えてドアを開ける。
臆するな ツァラトゥストラは未だ形成位階 ケイもまだこのスワスチカを開く動きはないのだ
ガラッ、とドアを開けるとやはり2人は目を開き驚いているが、俺はいつものように笑って名を言った。
「今日から英語の担当となったアールトルム=アラエです、よろしくお願いしますね。」
「な…っ!」
「そういう…意味かよッ!」
「ほら、そこの『2人』。今は授業中だ静かにしたほうがいい」
――そう笑って注意しては、あの2人はようやく落ち着いた。
「はい、今日の授業はここまで。課題のプリントは次の授業までに提出するんだよ?後々、抜き打ちテストを行うから。」
と、言って教室から去ると「はぁ」と溜息一つ。戦争馬鹿の俺にはどうにもこういうのは慣れてないな…何せ今まで自身の才能を生かしたのだから。
すると、後ろのドアから女子生徒が多く出てきては俺の周りを囲んでいる。
「どうしたの?何か俺の教え方が変だったかな?」
「アールトルム先生!いつからここに来たんですか!?」
ん?何これ……
「先生、今日ここが解らなかったんですけどー、後で教えてください!」
「何よっ!ひっこんでて!!先生、お昼学食で一緒に食べませんか!?」
女子高生が、俺を囲んでる…?ちょ、ちょっと俺どうすればいいの―――ッ!!!
「…アールトルム先生ってカッコいいよねー。」
「ほんとだよねー…こんな先生がいるなら私英語頑張っちゃう!」
えー、なら私も!!なんて声がキャーキャーと聞こえる。いやいや、お嬢さん方、俺そんなカッコよくないよ?
すると、システィーナがドアからひょっこりと顔を出しては廊下を走り去っていた。
「システィーナ!」
そう言っては、女子生徒の輪を抜け駆けて行くと、すぐに捕まえる事ができたが、システィーナはぐすっ、と鼻を啜っている。
「どうしたんだい?どうしてそんな…」
「ルーデルさんには関係ないよ!!馬鹿ッ!」
「ば、ばか…?」
まさか、まさかかもしれないがシスティーナは妬いているのだろうか?
ん~…最近の若い子は全くを以って解らないが、俺はシスティーナに目線を合わせて慰めるように言った。
「大丈夫だよ、システィーナを置いていく真似なんて俺はしないから。また今日の夜時間があれば、遊びに行こう?」
「それと、学校では『ルーデルさん』なんて言っちゃだめだよ?」と言って、俺は職員室に戻り、また書類に目を通し始める。俺は嘘を吐かない、故にデスクにある仕事を淡々と進めて行った。
――夕暮れが過ぎ午後7時、ようやく仕事が終わって学校へと出るとシスティーナが校門で待っていた、寒いだろうと思って自販機でココアを一本買って行く。
「システィーナ」
「! ルーデルさん!」
声を掛ければ、すぐにこっちに振り向いて。ついでに「はい」とまだ温かいココアを差し出す。
「あ、ありがとうございます…。」
何と言うか、このぎこちない雰囲気…仕方ないならば少しぐらいは彼女のしたい事をさせてあげたい。
「そうそう、今日は晩ご飯抜きでいいよ。」
「え、何でですか?」
「システィーナはこの間の買い物で言ってただろ?『タワー』に行きたいって。だからそこで何か買って行って食べよう?」
「はい!」
と言う事で、俺らは寄り道をしてファーストフード店で軽いものとジュースを買っては、タワーへと向かう。
「わぁー…綺麗ですね。」
「ホントだ、俺もここに来たのは随分前だから、こんなの初めて見たよ。」
なんて、2人で盛り上がっている中俺はベンチの方である気配に気付く。これ程大きな魂…そしてあの姿は間違えることなく。
「ツァラストラ…。」
彼も、金髪の女の子を連れているが、この巨大な魂は恐らくあの少女が持つものに違いはないと思ったら、もう1つの気配に気付いた。
まずい、ここでツァラストラに会うのも、あの吸血鬼と獅子がいると言うのは――仕方ないと思いつつ俺はシスティーナに言い聞かせる。
「いいかい、システィーナ。俺は用事が出来た。だから暫くはここで待ってて欲しい、必ず帰ってくるから」
とだけ言い残すと、未だ安全圏であると確認すると、俺は宙へと飛躍してはあの3人の様子を見始める。
どうやらケイは面倒な事はせずにヴァレリアに会わせたいと告げるが、ベイは戦いたくて仕方ないらしい。すると、運が悪い事にツァラストラはあの二人を相手するようだ。
――ここで、3人とも消す事も可能だが、そこにベイに銃口を向けた若い男が1人。聖遺物を持っている気配は全くない…が戦況はひっくり返され、若い男がベイの相手をする流れへとなる。
「…無謀すぎる」
確かに彼は普通の人間とは違う、だが形成したベイと戦うのは分が悪すぎるがとある瓶を投げつければ、ベイの動きが止まる。成程、『凍らせた』のか。
そのまま、バイクでベイの身体を打ち砕いては、そのまま男は去って行く。が、アレが…俺らがそんなモンで死ぬわけがない。けれどベイはボロボロであった。
「!」
何だ、今の気配は…?そして、この重力…。ベイが「御拝見は次にって事で」と言うのならば。
「橋か!」
と重力を負いながら、橋へ向かうとそこには、ケイとツァラストラ…そしてヴァレリアの姿が。
「はぁああああああああっ!」
ギロチンを振りかざし、ケイも剣を振りかざす状態で俺は落下し、ピタリと、ツァラストラとケイの聖遺物を指で止めつつ、ヴァレリアの手が届かないようにする。
「はいはい、お2人ともそこまで。ケイもここはスワスチカで無い事は知っているだろう?それにツァラストラ、何故そんなに怯えているんだい?」
ケイが「聖餐杯猊下…」と呟くと、ツァラストラは動揺している様に見える。
「君はつくづく頭が悪いな、ツァラストラ。この時期に、あの事件の時に外国人が入ってくる事は誰もが警戒するはず。それにベイ達と交戦しているなら尚更。」
あーあ…結局間に合わなかったよ。テレジア…ゾーネンキントに刃を向けないと?この男の性格からして、嗤うのは当然であり、この『声』すら聞こえないのか。
「悪くない」
そう言っては、天から悪魔が現れる、がこれは幻影。スワスチカを2つ開いた所で、ハイドリヒの能力は不完全だと言うのに。
ケイは重圧に耐えきれず、ひれ伏せ、ハイドリヒはこちらへと視線を移す。
「はぁ…」
…最近の若いのは、根気がないなぁ。
Ⅹ.Apoptosis
「半世紀ぶり…と、言うべきかハイドリヒ。そしてヴァレリアももう11年ぶりかな」
すると、ハイドリヒは笑みを絶やさず言葉を続けては言っている。
「そうだな…卿とはもう半世紀も会ってはおらぬが、ここまで魂を積み上げ、エイビヒカイトの何たるかを理解したか。」
「当然だろう?で、ここまでの能力であればお前の近衛を叩き伏せる程度でしかない。それでも俺はお前を、カール・クラフトを潰させていただこう。」
そう言うと、ツァラストラは恐怖故か、焦燥かで不完全のハイドリヒに向かうのを見て、避ければまた「甘いよ」と警告したが、ギロチンはピタリとハイドリヒの首を刎ねる事すら出来ない。
すると、ハイドリヒはギロチンを方手で粉砕…否、中にいるあの少女のみを取りだしたのか。
「マリィッ!」
「…ったく、面倒な落とし子を作ったモンだな。カール・クラフトは。」
シュピーネとの戦闘で恐らくこいつは聖遺物の破壊イコール自身の死だと思い込んでいるみたいだが、これはとんだ茶番だ。
「ツァラストラ」
「…んだよ、お前は。」
「この間も甘いと言っただろう?誰が聖遺物の破壊イコール自身の死と決めつけた?それは思いこみでしかなく、形成位階の君がケイに勝てると思ったか?」
「そ、れは」
「彼女の位階は創造…俺もそうだし他の団員がこれが普通。ましてや流出位階に到達しているハイドリヒに攻撃など愚の骨頂。
いくらあの姫君が良質の魂を持っていても今じゃ倒せないし、『使い方』すら解っちゃいない。だが、まだ彼女は生きている。じゃあ先行者としてお手本を見せてあげる。」
そう言うと、俺はハイドリヒの方と向かい合い。ビキビキビキと霊圧を上げて行く。
「なッ…」
ケイは絶句し、ツァラストラは声を上げる。
「待てッ!!お前の位階が創造なら、流出のラインハルトに敵うはずが…!」
「…心配は無用だよツァラストラ。俺はこれでも、三騎士に並ぶ能力はある。なら、今不完全なハイドリヒを倒す…否、ここにいる全員を処分できるか。」
「さぁ、始めるぞ。黒円卓の団員共」
『――…Ich bin rot,und der Himmel wird gerfärbt 』
(空は赤く染まるのだが)
『Gott Fragt eine Person danach 』
(神が 人に問うように)
『Schicke einen Boten und weine auf diese Act 』
(使者を遣わしこう叫ぶ)
『――…Briah』
『Mihi date aters!!』
「これは…!」
「事象展開型。黄金柏葉剣付ダイヤモンド騎士鉄十字勲章の具現、ユンカースJu87シュトゥーカーを形成。これが俺の聖遺物さ」
「…ほう、やはり卿は確かにザミエル、シュライバー、マキナに続くだろうな。」
「お世辞はありがたく頂いておくよ。それじゃあ…全滅、と行こうか。」
ガルルルッ、とエンジンが掛かると、俺は空中268キロ程までに飛躍しては、まずは梃子調べだ。
「さ、お土産だよ。受け取ってみるといいさ」
と言うと、ハイドリヒのいる位置を中心に3キロメートル。仕込んである爆弾を投下させ、コンクリートは一気に砕ける。
ハイドリヒは攻撃を受けても、蜃気楼のように揺れるが、ツァラストラ、ケイは大ダメージを受ける。いくら常時形成を保つヴァレリアの壁もいくつかは剥がれただろう。
「くっ…アールトルム大佐!」
「まだまだ続くよ?さぁ逃げるといい」
そのまま、シュトゥーカーを旋回させ、斜め45度広角で、弾丸を落としにかかる。
苦しむのは、ツァラストラ、ケイ、ヴァレリアのみでハイドリヒは高らかに笑っていながらこちらへと視線を移す。
「ふはははははは!卿はここまで私を楽しませてくれるのか!!正に素晴らしいぞ!!空軍の英雄よ!!」
「…んじゃ、Auf Wiedersehen.」と呟いては、さらに叫んだ。
「Anfang!!」
と言う合図と共に、シュトゥーカーを地上へと落下。11年前は上手くコントロール出来ないままだったが、今の俺の状態なら、余裕で戦える。
「さて…」
黄金柏葉剣付ダイヤモンド騎士鉄十字勲章をフッ、と抑えては俺もトンッと地上へと着地する。
「こんなモンでどうかな?三位、五位、十三位」
「く、くそッ…!!」
「は、はは…困りますね。ここまでだと流石の私でも相当削りとられましたよ…」
その瞬間、先程ベイと戦っていた男が「連っ!掴まれっ!!」と言われ、グイッと持ちあげられ、そのまま去って行く。この重力の中でこうも動けるとは大したもんだ。
「こ、殺してやるッ…!貴様だけはッ!!」
と血反吐を吐き、骨がバラバラであろうケイがこちらを睨んでいる。
「だから言っただろ、威勢はいいけれども少しは自身を還りみるといい…って。そこの鍍金を破壊しようとすればできるよ。マキナのように上手くいかないけどね」
「…けれども、ハイドリヒには肩に傷1つか。困ったなぁ…まぁ聖餐杯が砕ければ嫌でも『ここ』に来るのか」
「相変わらず、な…。シュライバーが卿と戦いたいと望んでおったぞ」
「シュライバーの速さは尋常じゃない、奴の渇望がそれ故に。むしろ俺はエレオノーレ卿に恨みはあるんだけれどね。ああ、後ベイが…」
「聞いておる、怒りの日に卿らが生きている事を私は願うよ。さらばだ、黒円卓の黒き翼よ。」
そう言い残すと、辺りで砕けたコンクリートなど全てを吸い取っては、再び空を駆けて行く。
「…急がなければ」
急がなければ、早くしなければあの男は全団員の…『彼女』の命を奪ってしまう――!
「ぐ、ぐぅう…!」
勝たなければ、アイツを殺せば一気にスワスチカも解放できるはず。そうしたらきっと帰ってきてくれるのだろうから。
「ただいま、システィーナ。」
「あ!ルーデルさん、おかえりなさい。随分と遅かったけれど…」
「言っただろう?俺はあの13人を倒さなければならないんだ、友や親兄弟、殺された同胞達のためにも。」
「どこも怪我はないですか!?」
「平気、俺はそうすぐに負けやしないからさ。」
「――…でも。」
「もう、こんな遅くなってしまったね。今日はここら辺で帰ろう?」
「…はい」
どこか寂しげに頷くと、ぎゅっと俺の手を握っては、俺も優しく握り返した。
――なんて言えばいいの?
私は、『失敗作』。だからこんなことしかできない。代わりに私が戦えるのなら…よかった。
だって、もうすぐ"運命"がルーデルさんを連れて行ってしまうから。
――なんて言えばいいのだろう?
俺は『亡霊』。しかし俺には奴らを仕留める義務がある。伏線を張って見守るだけしかできない。
恐らく、スワスチカが開かれる。相手は、昔の"友と同胞"なのだから。
「ねぇ、システィーナ。」
だから俺はここで彼女に言うべき事がある
「はい、ルーデルさん。」
覚悟は決めてある、だからこそここで言うべきなんだ。
「「次のスワスチカを開く時は逃げて」」
「え?」
何でなんだい?システィーナ。君は少しの事しか出来ないと自身で言ったのだから…これ以上は、もう
ルテーシア、キルヒアイゼン卿、カイの二の舞は踏みたくはない。すると、システィーナは口を開いて言った。
「スワスチカはもう2つ開かれている…『枝』の私でもそれは解ります。恐らく次のスワスチカはボトムレスピット…遊園地。」
「何で、そんな事まで…?」
「予知です。ゾーネンキントの枝…後は、ただ1つ。私を…」
まさか、嘘だろ?止めてくれ…。
「システィーナ!!それ以上は――」
「スワスチカに連れて行って下さい」
「…システィーナ。」
嗚呼、もう駄目だ。どうしてここで俺は泣いてしまうんだろうか?悪いのは全て俺のはずなのに。泣く権利など、どこにもないと言うのに。
それでも、とても背の低い彼女は俺をずっと抱きしめていた。
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Dies irae if story~Yaux sars la saileté~
どうも あしゅ。です
今作品も読んで頂いて有難うございます。
今回は二次創作でlihte様(綴り違うかも……)より発売のDiesiraeのifストーリーと言う結果で、ゲームの内容上世界史でも名高いハンス・ウルリッヒ・ルーデル氏を主人公とさせていただきました。
今回はかなり文章を噛み砕き、ドラマCDの内容なども含んでいますので聞いていない方は申し訳ありません><
とりあえず女神ルート設定という事にしつつ、このままつっ走っていきますので、どうかこの先もよろしくお願いします。