猫しか知らない犯罪
プロローグ
あの日、何があったのか私には分からない。あの日、求められた理由も分からない。
よくあることではなかった。だが、人に甘えることが好きだった私が拒む理由もなかった。それだけのことだといえば、そうかもしれない。
ただ、人が近づいてきたら、足に擦り寄って撫でてもらうのが性分なのである。あたたかいものは好きなはずなのに、外にいると色々なものが怖くなって、人にみんなが近づかないのも分かる。だが、大きな生き物の腕に抱かれて温かくなって、擦り寄って、しっぽを巻きつけて、これが私の生き方なのだと思っている。
私は何かに巻き込まれたのか、関係していたのか、毎日のように来ていたあの人はもう来ない。これを寂しいというのか。犬のような嗅覚があれば人を追えるのかもしれない。しかし、私には起こったことを理解するための行動力がなかった。だから今日も、ただ人が通るのを待っているだけなのだ。
なんだか最近、くしゃみの頻度が増してきたように感じる。流石に冬は寒い。今日もあの人は来ないのだろう。何があったのか真相を教えてくれる人は誰もいない。
第1章
この季節は結構好きだ。もう8度目の冬だが、私はこの時期が一番楽しい。
人は、外に出たがらないから遊び盛りの後輩猫の相手をしてくれる。あいつの相手は、少し疲れるようになった。今もお父さんに猫じゃらしで遊んでもらっているようだ。私は、こたつのなかでお腹を横にして、ごろんと横になったり、暑くなれば窓際に座り、しっぽを足に絡ませて外を眺めたりする。暖かいのに、ひんやりとした空気を感じることが出来る窓際はお気に入りである。
今日は、どうやら「シンセキノアツマリ」というやつらしい。新しい年になると、毎年お父さんの兄弟である剛士叔父さん家族が、この家に集まる。そんなに広い家ではないのに、この日だけは家の中が9人と猫2匹になる。それなりに騒がしい日だ。私は外で車の停まる音が聞こえたら、早めにコタツから出てカーテンの後ろで隠れて、窓の外を眺めようと決めていた。
なんといっても、あの啓子叔母さんがくる。なかなかあれは手強い。自分の娘である由美が猫アレルギーということがあり、家で猫が飼えないのだが啓子叔母さんは大の猫好きなのだ。それでこの家に来る際には、必ず私を探し回って抱きかかえようとする。本当に困ったものだ。もちろん由美の方は猫アレルギーということもあって、近づこうともしないので安心だ。だが剛士叔父さんと、由美の兄である恭平は私の方をチラチラと見て触る機会を伺ってくる。面倒ではないが、私はこの家の人間に触られる方が好きなのだ。
ほら、車が停まる音が聞こえてきた。私はダッシュでカーテンの後ろに隠れる。後輩猫であるメイは、私とは逆に玄関に迎えにでる。遊んでくれる人が増えるのは嬉しいのだろう。
早速、啓子叔母さんのメイを可愛がる声が聞こえてきた。人間というものは動物を可愛がる時に声色が変わるから面白い。
「メイちゃーん。あら、こんなに大きくなって。まだ1歳半だっけ? 本当に可愛いわ~」
きっとメイは撫でまわされているに違いない。少し身震いする。自然と耳が後ろに行くのを感じる。きっと今から私を探し回るに違いない。
「ユキちゃんはー? あれー? ユキちゃーん? どこかなー? ここかな~?」
ほら来た。カーテンの前にいるのを感じて、尻尾を太くしながら背中を丸めて、ウーと威嚇する。
「あら、やっぱり居たわ……おばさんにそんなことしてもだめよ? 可愛いだけなんだから」
どうやら効果なしのようだ。諦めて、横をすりぬけてお母さんの膝の上に座る。
「啓子さんったら。そんなにいじめないで下さいよ。それより、アレルギーの由美ちゃんがいるから猫は隣の部屋に行かせますよ?」
お母さん、ファインプレー。啓子おばさんの近くで居たくない。お礼も込めて、お母さんの胸にすりすりする。お母さんは、分かってますよとでも言うように優しく撫でてくれる。
それから隣の部屋で、電気毛布の上に丸くなってウトウトしてしまった。メイは遊んでほしそうだったが、おしりを少し上げ尻尾も立たせてから片足を浮かせて睨めば、諦めたように離れて行った。
。
少し時間が経って、みんなの足音が二階に向かうのが聞こえてきた。二階には寝たきりの祖母がいるので挨拶に行ったようだ。元気だったころは猫好きだったらしいが、今は言葉も怪しい。2階への階段には柵があるため、私は1度も上がったことがない。それから、また少し経って叔父家族は帰っていった。
車が出発するのを窓から見てから、お母さんの子供である雅人兄さんと千菜美の間で丸くなり耳をすませる。
「やっと帰ったな。ユキも追い回されて大変だっただろ」
本当にその通りである。雅人兄さんに背中を撫でられながら、しっぽを上下にパタパタ動かしておく。
「ちょっと、兄さん。言い方悪くない? でもお婆ちゃんの件は流石にありえないわよね。長男なのにお婆ちゃんの面倒みたくないっていうし、面倒みるなら由美ちゃんにさせるっていうし」
顔を見なくても千菜美が膨れているのが分かる。ここに来た時から、気に入らないことがあると千菜美は頬をふくらませる癖がある。
「あの時の由美の顔みたか?めちゃくちゃ怖かったぞ。そりゃあ定年退職してる親父達が面倒見るべきだと思うがな。しつこく嫌がらせしてきた婆ちゃんの面倒を俺ら4人が見るわけないだろう」
これは私も知っている話だ。どうやらお婆ちゃんは、由美さんを含む孫4人に冷たく何年も当たっていたらしい。
「そうね。それだけは絶対にない。由美ちゃんは温厚な子だけど、はらわた煮えくり返っているに違いないわ。明日も遊びにいって話を聞いてくる」
その後、千菜美が小さな声で何とかしなくっちゃと囁いたのを見逃さなかった。
それから半月してから、お婆ちゃんが風邪をひいたとお父さんが騒ぎ始めた。なんだか嫌な予感がしていた。いや、第六感的なものではない。その日、あの匂いがしていたのだ。私が嫌いなあの匂い。この家では私が嫌いな事を知っているから使わないはずの、あの匂いが。
第2章
どうにも自分の家だというのに、落ち着かない気がする。どうして、こうも知らない匂いが家中からするのか。
ここ数日知らない人が、出入りしていることが関係しているのか。お婆ちゃんが風邪気味になって、医者が訪ねてきた。白衣を着て、医療道具が入った鞄を持ち、少し白髪が入り、もう60は超えているだろうという風貌は、いかにもといった感じだった。
たしかにその人からは様々な匂いがしたが、なんとなく最近の違和感とは異なる気がしていた。
先生は、お婆ちゃんの診察で風邪っぽいと風邪薬を処方し、帰って行った。1週間後くらいに容態が変わらないようであれば、呼ぶようにということだった。先生が家から出て行った途端、千菜美は
「もう、長い事寝たきりだし、風邪だって治りにくいのは当然よ! お母さん、1週間ぐらいで呼ばない方がいいわ」
と強めに、言い放った。どうしてとお母さんが尋ねると、
「長い事寝たきりなうえに、1週間に1回あの料金を取られたら、堪らないわ!」
母さんは、そんなこと言わないのと軽く流して、食事の準備をする。千菜美は確かに、気が強く我儘なところがあるが、この会話には何故か違和感を覚えた。何か後ろめたいことでもあるのだろうか。
私は2階に上がれないのでお婆ちゃんの状態を見ることができないが、日に日に咳をする頻度が増えていて、なんとも言えない嫌な予感がしていた。
そのまた3日後、千菜美と由美が家にやってきた。お婆ちゃんの容態を見に来たのだろうと、私はリビングの隣の部屋に向かう。メイは、嬉しそうにダッシュで由美の元に行くが、千菜美に軽く捕えられて隣の部屋に来ている。階段を上る音が聞こえてきたので、階段の隅で丸くなり耳をすませてみる。
「1回目で上手くいって良かったよね。悪い事するのって慣れないし怖いもん」
「そうかしら? まだ上手くいったかは数日見ないと分からないわ」
「たしかに、ただの風邪で治られたら、意味がないもの……」
聞いてはいけない会話を、聞いてしまったようだった。しかし予想通り彼女達が、最近の違和感の原因であることは間違いないらしい。テレビアニメのように私が猫ながらに探偵でもできればいいが、そんなことは不可能なのだ。私は唯の傍観者を続けるしか他ない。
それから3日後の夜、勘が当たりお婆ちゃんの容態は悪化した。容態が急変したため、お父さんはお医者様を呼んでみてもらっていた。咳は止まらなくなっていた。
先生は、
「偽膜形成や白苔が見受けられます。明日、朝一で大病院に連れて行った方がいいです」と告げた。先生が帰った後、全員がバタバタと明日の準備をし始めていた。病院に連れて行くということは最悪入院も考えられる。その準備だとは思うが、千菜美の口元が緩み始めていることは私だけが見ていたのかもしれない。
突然、2階から父の怒号のような声が飛ぶ。
「おい!急に母さんが苦しみだして、呼吸が上手くできてない!救急車呼んでくれ!」
急な展開に、母さんは飛びつくように電話口へ行く。救急車到着まで約10分というところだが、全員が通路を開ける準備を始めていた。
私は、邪魔にならないようにキッチンの方へ避けておいたが、なぜか浮き足立っているメイはゲージに入れられてしまっていた。自業自得だなと横目に見ながら、流し台の上に飛び上がる。
千菜美と由美の表情が気になり、2人を探すと何やら不安そうに恭平と話している。恭平は、この家には親戚の集まり以降来ていないはずなので関係ないとは思うが、全員が怪しく思える。まず風邪に見せかけて殺すなど、薬を使うならわかるがリスクが高すぎる。病院に運ばれるのだから、服用以外の薬は犯行が明らかになってしまう。やはり偶然なのか。それとも兄弟の誰かが仕組んだことなのか。
奮闘むなしく、救急車が到着したと同時にお婆ちゃんは息を引き取った。外は深夜11時、静まりかえった住宅街のなかで、煌々と救急車のランプだけが回り続けていた。
第3章
救急車は去り、一旦静かな夜が戻ってきた。しかしすぐにそれは一変する。警察が訪れる。救急車は死亡していたら警察がくることを、千菜美達は忘れていたようで酷く動揺していた。先に主治医を呼んでいればその場で死亡診断書を書いてもらい、警察にお世話になることもなかっただろう。
私は、昼ドラマの視聴歴が足らないのではないかと彼女達を傍観しながら思っていた。全員動揺している状況だったので、彼女達は目立つことはなかった。それから全員の事情聴取が始まった。持病のこともあったが、それにしても風邪が悪化して、最後は呼吸困難で死亡というのは怪しく見ることもできる。主治医の先生も呼ばれて1人ずつ聴取を受ける。
私も受けたいと思いながら、お母さんの膝の上に乗って警察の邪魔にならないようにする。先に検視が必要か事件性を確認しているようだった。だが、急変の要因を調べるため父と母は、ぜひ調べてほしいという流れだった。これは犯人がいるとすれば、病死で終わらせたいところだったのに、怖い展開といえるだろう。
千菜美達は疑いがかかる行動を恐れて、とても静かにしているようだった。全員の取り調べが終わり、特に疑いがあるようなことはないとのことだったが、検視の結果を待つことになった。偽膜形成や白苔があり、調査の結果ある感染症だったことが分かった。
それはコリネバクテリウム・ウルセランス感染症というものだった。
お母さんがそれはどのような感染症なのかと警察に訪ねた。警察官も資料を取り出して、それを読み上げる。
「コリネバクテリウム・ウルセランス感染症とは、細菌によって引き起こされ、ジフテリアによく似た症状を示す感染症。猫から感染することがあり、呼吸器感染の場合には、初期に風邪に似た症状を示し、その後、咽頭痛、咳などとともに、扁桃や咽頭などに偽膜形成や白苔を認めることがある。重篤な症状の場合には呼吸困難等を示し、死に至ることもある……そうです」
まさか猫の話が出てくるとは思わなかった。つい、お母さんの後ろに隠れる。こういう場合調べられて殺処分とかになるのではないか。それにしても、感染症になった覚えはないし、間違いなくトバッチリで検査される。それも同じく怖い。何にせよ胸がざわつく。
お母さんは、私の反応をみたからか、後ろ手に私を撫でながら、
「この子たちが病気を持っていてお婆ちゃんを殺したってこと?お婆ちゃんは何年も前から寝たきりで、この子たちは2階に上がれないように、柵があるから会ったこともないのよ?お婆ちゃんは降りてこられないし、ありえないわよ」
お母さんは冷静に、そして強い口調で言ってくれた。警察の人は、困っているようだった。確かに、その感染症の説明だと普通は、家猫が疑われる。でも飼い猫は、定期的に病院に行く機会があり、野良猫との交流がないのに感染症にはなりにくい。
野良猫でも飛び込んできたなら、まだしも。
野良猫?野良猫が家に来て、お婆ちゃんを感染させてしまえば可能かもしれない。それには、もちろん人の手が必要だが。それに気づいたからといって何ができるわけでもないが。
そう、お母さんの抵抗虚しく、検査の為に動物病院行きとなった。
第4章
猫同士とはいえ、ニャンしか言えない我々に正確な意思疎通などできない。しかし、メイが採血を嫌がって暴れているので、何が言いたいかの予測が容易である。
大人しく採血を受けたものの、結果がでるまで数日隔離される羽目になった。これでは状況がさっぱり分からない。
2、3日経ってお母さんが迎えに来てくれた。もちろん結果は陰性。捜査は、ふりだしに戻ることとなった。
警察も、何らかの手が加わり野良猫を家に連れ込むか、感染するように仕向けたのではないかと思っている。しかし、1つの毛も残さず連れ込めるだろうか?私に気づかないように他の猫を運ぶことはできるだろうか?感染している猫をたまたま見つけられるだろうか?
その時、由美たちが階段でしていた会話を思い出した。
1回目で上手くいって良かったね……そう言っていたのだ。汚い野良猫を無理やり連れてきて、お婆ちゃんに擦り付ける。何回か続ければ、感染するかもしれない。布団の毛は洗濯と掃除で何とかするとしても、無理やり擦り付ければ、暴れられるのではないか。手段までは分からない。
家に着くと、まだ警察が家で話を聞いていた。
「今回検査の結果、家で飼われている猫からは感染症は見つかりませんでした。人から人への感染は未だ確認されていないことや、皆さんの中にも感染している人は居ないことからから、外部の野良猫が被害者と接触したと考えられます。しかし、被害者は寝たきりで自由が利かない。野良猫が勝手に部屋に入ってきた形跡もないですし、他の猫の毛も見つかりませんでした。意図的に誰かが猫を連れ込んだ可能性はありますが、検証は難しい」
全員が何も言えなかった。ここにいる全員が、家族を疑っていたからだろう。無理やり野良猫を連れてくるような面倒なことを、他人の家に侵入してからする意味がない。人を殺したいなら、薬を飲ませるなり首を絞めるなり、手段は多くある。そしてお婆ちゃんを恨むのは子供たちだけであり、親も子も、真相を公にする必要を感じなかった。
「1つだけ殺人である可能性を裏付けるものを発見しました。被害者の顔に微量のマタタビを発見しました。野良猫が擦りつくように、誰かが付けた可能性があります。皆さんは、真相を明らかにするつもりがないようですが、こちらとしては今後も調査致しますので」
そう言い残して、去って行った。
家の中は、親戚全員がそろっていたが誰も口火を切ることが出来ない様子だった。
私は、警察の話を聞いて少し思い当たる節があった。
第5章
親戚の集まりがあってから、お婆ちゃんに風邪の症状がでるまで半月ほどあった。その間、私とメイはワクチン接種があった。その日からだった。家の中に私の嫌いなマタタビの匂いがするようになったのは。
マタタビは多くの猫は酔ったような感覚になるが、興味のないものや合わないものもたまに存在する。私もそうだった。あまり好きではない。その匂いが、かすかにワクチン接種の日から家の中でするような気がしていたのだ。
ワクチン接種の日なら、私に勘づかれないで二階に猫を連れて行けるだろう。あの日、雅人の運転する車で千菜美とお母さん3人で、動物病院に行った。
確か、混雑していたので、雅人は車にいるといって2人と院内に入った。結構待たされたので、雅人に犯行は可能だろう。その日に恭平や由美にも犯行は可能だが、猫アレルギーの由美には難しいように思える。恭平にはまず動機がない。由美は介護を押しつけられるかもしれないという動機があるが、恭平は実家を継いでおり、自分に飛び火しないのに手を汚す必要を感じないタイプだ。犯行が可能なのは雅人だけだ。
なんらかの方法でマタタビをお婆ちゃんに付け、野良猫をつれてきて顔まわりに擦り寄らせる。猫好きのお婆ちゃんは何も考えず、触るだろう。
この家は閑静な住宅街で、人通りは多くない。警察は犯行日も特定できないのに、雅人が当日こっそり家に帰っていた事実にたどり着くのは難しい。何か奇跡が起きない限り、この事件は迷宮入りするだろう。
その後、警察も調査を続けてはいるものの、真実には辿り着かない様子だった。葬式は病死として行われ、またいつもの日常が戻ってくるだけだった。お母さん達も、子供が怪しいと思いながらも、そこには触れないようにしている。お婆ちゃんが子供たちに冷たく当たるのを止められなかった後ろめたさなのか、わが子可愛さなのか、猫の私には分かるはずもない。
落ち着いた頃、お母さんとお父さんが出かけている日を見計らって、由美が訪ねてきた。答え合わせが始まると私は勘を働かせ、窓際のカーテンの裏へ隠れる。ここなら話も聞こえるし、隣の部屋に追いやられることもないだろう。
由美と奈津美、雅人が揃う。やはり3人の共謀のようだった。
「雅人も色々手伝ってもらってごめんなさい。うちの兄にはどうしても頼めなくて」
由美が申し訳なさそうにいう。今回の作戦では猫アレルギーの由美には関われない部分がある。
「いや、仕方ないよ。あいつに頼めば上手くいかなかったかもしれない。俺だって、マタタビを溶かした水でお婆ちゃんの顔を拭くことと、野良猫を連れてきたことしかしていない。そんなに気にしないでくれよ」
マタタビを水に入れるという発想は私には出てこなかった。
「そんなこと言ったら、私なんか何もしてないよ。結局アリバイをお互いで作って話を合わせる必要性もなかったしね」
確かに奈津美も何もしていない。お母さんが途中で雅人の車がないことに気づかせないようにすること位だろう。
「ううん。私の案に、賛成してくれただけ嬉しかったもん……」
由美は涙ぐんでいる。どのような背景があるか分からないが、彼女は相当お婆ちゃんに傷つけられたのだろう。
3人はしばらく話をしてから、お母さんが戻る前に解散していった。彼ら以外で犯行を知っているのは私だけ。しかし猫の私には伝える方法も義務もない。
猫は動物なので殺されたことを恨んでも、殺したものを責めたりはしない。それが自然の摂理だから。私には関係のない話なのだ。
それでも、お婆ちゃん以外に被害者がいるとしたら利用された猫であろう。そいつは、いきなり連れてこられ興奮状態にされて放されたに違いない。何も知らないまま。いや、知っていたのかもしれない。
なんにせよ、今回の事件は猫しか知らない犯罪なのだ。犯行が暴かれるまでは。
猫しか知らない犯罪