神になった男

Shino Nishikawa

神になった男

さよならの後も会いたい

神になった男

神になった男[ベテラン執事]1
「一男、早くメシを食い終えろ。」
とても貧しい農家の黒い床で、小さな男の子は黙ってイモを食っていた。
食べ終わった一男(いちお)は手を合わせた。
父親は、一男の頭をコツンとした。
「なんとか言いなさい。」
「ありがとうございました。」

「いただきました。」
「いただきました。」

「一男、行ってくるでな。お前は家にいろよ。」
両親は農業のために、家を出た。

一男は家の外に出て、トイレをした。
すると、父親のものと思われるクソがあり、嫌な気分になった。

一男は家の中の引き出しからお金を出し、しげしげと眺めた。
「神様、僕にも勉強を教えてくださいよ。僕はお役人になって、天皇に勝ちたいんです。」

「だけど‥、こんな家からじゃ、無理だよなぁ。」
一男が家の外にもう一度出ると、クソが消えていた。
「あれ?」

「神様、便の事はありがとうございます。でも、僕のお父さんは貧乏です。だから僕が勉強するのは無理ですよね。」

『一男、願い事を言ってみなさい。』

「あの‥僕の‥家を変えてもらえませんか?」

両親が帰ってくると、魚を持っていて、夜は美味しい料理を作ってくれたので、一男は楽しい気分になった。
でも、朝、目覚めると、一男は別の家の子になってしまっていた。
とても大きな農家の子で、一男の名前は、栄一になってしまっていた。

ある日、女中さんと出かけると、前の両親に会った。
前の両親は、栄一を見ると、知らない子に会ったかのように笑って会釈して、行ってしまった。
栄一は切なくなり、少し泣いた。

でも、栄一は、神様にもらった夢を叶えるために、必死で勉強をした。
うまくいかなくなると、「神様お願いします。」神頼みをした。

栄一は、どこにいても、毒に気をつけた。
トップに立ち続ける栄一の命を狙う者は多い。
社員が自殺をしたりすると、家に行って挨拶をすることもあった。
毒入りだと分かっていながらも、栄一はお茶を飲んだ。
具合を悪そうにしながらも、栄一は最後まで家族の話を聞いた。

栄一は、変動の時代を生き、たくさんの歴史的人物に出会った。栄一は、500以上の会社を作り、日本の資本主義の父と呼ばれるようになる。
しかし、それでも、栄一は天皇に勝てなかった。

栄一は日本が好きだったが、ただ1人の男、天皇だけは嫌いだった。

栄一は様々な苦しみの中で、神にすがり、神に近い存在だったからこそ、偉業を成し遂げられたのだろう。
栄一は、死んだ後、自分の人生絵巻の中をただよった。
栄一の人生絵巻は、まるで日本の歴史のようだった。栄一本人も、この絵巻が自分の人生だと信じられないほどだった。

栄一は天国を一周した後、まだ生まれ変わらずに、幽霊として日本に降りることにした。

栄一はベテラン執事の幽霊だ。
豪邸に暮らす女の子に仕える幽霊ではない。
悩める普通の女の子の下に来てくれる。

遥は、とても美人だったが、男たちは二十歳そこそこの遥を相手にしてくれなかった。
二十歳をこえた美人は、高値の花だと思われる。
大学3年生で、今までは先輩に可愛がられていたが、今度は後輩を可愛がる番が来たのも辛かった。
ネットニュースやテレビでは、自分と同じ年のスポーツ選手やアイドルが活躍していて、自分が何にもなれないことをだんだん分かってきていた。
頭一つ飛び出るためには、どんなに険しい道を歩く必要があるのだろう?
遥はそうするために、過去に戻る必要があると思った。

東京オリンピックパラリンピックは華やかにすぎ、自分も感動をもらったが、終わってしまえば、過ぎた事に変わりなかった。自分の悩みである『頭一つ飛び出る事』の解決法が見つかっていない。
お洒落な会社に就職したかったが、うまくいかなかった。遥は友達や親にも何も言わず、グラビアアイドルを始めてしまう。

しかし、遥は両親にそれがバレてしまった。父親は何も言わなかったが、母親は激怒した。
遥は、マフィアにもらった毒で、母親を殺してしまう。
父親も、遥が大好きだった兄も、犯人は遥ではないかと疑った。

父親はトイレを汚し、遥は、「お母さん!」と呼んだが、もう来るはずがなかった。
遥は泣きながら、トイレを掃除した。

遥は麻薬をやって、脳をいかれさせるしか、生きる道が残されていなかった。
いくら迫っても、兄は相手にしてくれなかったが、父親は遥を相手にした。
遥は、父親と母親の代わりをしたのだ。

遥は東京の部屋に戻り、テレビの前でぐったりとした。
遥の母親は、スポーツ選手に相手がいたのに、待つ事ができなかった。
だから、遥も兄もスポーツができなかった。
美男美女の兄弟だったが、運動神経が悪すぎたので、まわりからバカにされた。
頭も悪かった。兄は野球部のマネージャーをしていて、ドーピング検査をすると部員に言ったのだ。兄は、また高校でバカにされた。
遥はその時の事を思い出した。
兄にドーピング検査の練習をさせられたのだ。

『遥お嬢様。』
ベテラン執事となった渋沢様は、遥の人生の一部始終を見ていた。

テレビでは、マラソンがやっている。華奢な選手が走ってゆく。
全然、何をやってもダメで、元気が出ない遥には、輝いて見えた。
「私、この人になりたい!」

『遥お嬢様、これをお飲みください。』
渋沢様は、遥に毒を置いた。

生まれ変わった遥には、魔法の体が与えられていた。
それでも完璧ではない。マラソンをするために、乗り越えなければならない事もいくつかあった。
本当に好きだった人の事も忘れないといけない。

『遥お嬢様、それでも、マラソンを続けるのですか?』
「うん。これは、私が見つけた道なんだから!」
『そう、分かりました。』

「何!その言い方は!」

『申し訳ございません。失礼いたしました。』

「もっと、ちゃんと謝ってよ!」
渋沢様は消えた。

今でも、渋沢様は、悩める女性のベテラン執事を務め続けている。


神になった男[釈迦]2
柴三郎は裕福な家に生まれたが、世の中が遅れている事には、いつも不満を持っていた。
だから、「政治家になって、世の中を変えてやる。」と家族に言った。
すると、家族は大笑いした。
「こんな田舎からじゃ無理だって。」
「じゃあ、相撲取りになって、世界一になってやる。」

家族は仲が良かったが、柴三郎はいつでも不平不満があるような少年だった。
でも、11才くらいになると、背も伸びてきて、心もまともになった。
男の若い先生が、小1の生徒の尻を出して叩く姿を目撃してしまい、その光景は、柴三郎の晩年まで心に焼き付いた。

柴三郎は本気で相撲取りを目指すと決め、両親と取っ組み合いまでしたが、結局折れて、医学学校に進むことにした。
東京では、美しい女性と出会った。
女性と付き合うようになり、夜のベンチで、女性の膝を自分の膝に乗せたりして、幸せなひと時を過ごした。
でも、ひと夏が終わる頃にはお別れすることになった。本当は、その女性はよくない女性だったが、柴三郎は生涯その人を忘れなかった。

医者になり、いろいろな入院患者の治療をして、とても大変な想いをしたが、いつでも、あの時の女性や、幼い頃の光景を思い出した。
柴三郎は息を引き取った人を、数時間放置したので、遺族から心配された。でも、すぐに死を断定しない柴三郎を、遺族たちは好きになった。

柴三郎の手はとても優しく、どんな病気でも治せるわけではなかったが、安心できた。
人気の役者が苦しみながら、病院に来た時は、柴三郎は少し見つめてしまった。
その役者はしばらくすると元気になって、見舞い客に冗舌に話したりした。
でも、ある時、その役者は亡くなってしまう。柴三郎は担当から外れていた。
見ると、投与された薬が間違っていた。
柴三郎は申し訳ない気持ちになった。
運ばれる役者のベッドを見て、「申し訳ないです。」とつぶやいた。
すると、役者は言った。
『ううん、いいよ。俺、どうせ、もう無理だったし。』

柴三郎は夢の中で、その役者の演技を、舞台袖から眺めた。
そして、やっぱり頑張ろうと決めた。

一番大変だった治療は、知り合いの女性の尻の穴に指を入れたことだ。
その事は、他の人に打ち明けられなかった。

たくさんの研究をして、世の中に自分の知識をどんどん流したが、くだらない思い出は忘れられなかった。それでも、その事が、柴三郎の支えとなった。

医学の学問はとても深い物で、柴三郎には他の世界の知識もあった。
だから、柴三郎は自分が日本一の男かなと思った。いや、世界一かもしれない。海外の医学研究者の論文を読んでみたが、浅い物だったからだ。
柴三郎は英語ができた。英語が分かるのは、雲の上で暮らしているお釈迦様方のおかげだと考えていた。

柴三郎が亡くなった時、多くの花が供えられた。
柴三郎はしばらくの間、ずっと寝てみたかった病院のベッドで眠った。
そして、いつも想像していた雲の上のお釈迦様方が迎えに来た。
想像サイズをはるかに超えた、人間サイズの方だった。

いろいろな神のテストを受けて、柴三郎は、最大権力を持つお釈迦様になる事となった。
普段は、大きくそびえたっているが、人間サイズに戻る事もある。
人間の大事な会議に顔を出す事もある。
言う事を聴かない、守護神の神獣たちと、決闘をする事もある。

神の世界は楽しそうだが、人間として、素晴らしい功績を残さないと、入る事ができない。
柴三郎も近い内に、お釈迦様の任期を終え、人間に戻ることになる。

それまでは、人間の健康を見守り続けることだろう。


神になった男[シド]3
シドがバンドをやった決定的な理由は、モテたかったからである。本当の好きな人の影はぼんやりとしか分からなかった。
初めてナンシーと会った時、なんて下品な女の子だろうと思ったが、本当の好きな人の気を引きたかった。
ライブで歌う自分は、サイコーだと思った。
でも、クスリをやっていて、ライブの前に、ナンシーが自分にした事や、自分がナンシーにした事は最低だった。
ライブは、いつもなんとなくション便臭くて、不快な気分にもなったが、歌い始めて、テンションがマックスになると、そういう物は全て吹き飛んだ。

ライブを始めてから、裕福な男や兵隊から話を聞かされたので、客から投げられた物が顔に当たって、鼻血を出しても、歌い続けた。それくらいすれば、奴らも認めるかもしれない。

シドはクレーマーに呼ばれ、体にシドの名前を刻んだ男の写真を見せられた。
そして、シドも同じ目に遭う事になってしまった。

シドがベッドの中で、ぼんやりとした本当の好きな人を想った。本当の好きな人とは、ベッドの中で、どこか別の世界で暮らしているような感じだった。
でも、それが、スターというものだ。

シドは目覚めると、顔をさわり、自分がまだ、シドヴィシャスだという事を思い出した。
どんなに酷評をされても、自分が歌う事は、許される気がした。

ある時、目を潰してしまった女の子を見た。それ以来、シドの心は落ち着かなくなった。
戦争で顔をぐちゃぐちゃにした男を見た夜に、最高のライブをしたのに、その女の子を忘れられなかった。

『いいか、みんな!犯罪はダメだ。』
『絶対に人殺しをしちゃダメだ。』 
こういう言葉をライブで言いたかったが、言えなかった。言えるはずない。ピストルズの奴らだって、信用できないんだ。

その事を思い出し、ホテルのベッドで、シドはまた頬をさわった。
今日も気持ちの悪いナンシーが帰ってくる。
でも、シドは、ピストルズのメンバーから自分の命を守るために、ナンシーと付き合うしかなかった。

しかし1978年10月13日、ついに、怒りの限界を超えたシドは、ユニットバスに連れて行き、ナンシーにキスをしてから、ナイフを取り出し、ナンシーの腹を刺した。

シドは動揺し、何度も手を洗った。
ベッドに横たわると、ユニットバスは静まり返っていた。
でも、ナンシーはまだ生きていた。
クソをしたくなったシドは、瀕死のナンシーの隣でうんこをした。

バタン
うんこの臭いが充満しているが、シドはドアを閉めた。

本当にナンシーの事が嫌いだった。

『黙秘しなさい。』 
シドは警察に捕まったが、母親の声が響いてきたので、黙秘を続けた。

レコード会社が多額の保釈金を払い、シドは保釈された。
レコード会社の事は嫌いだったが、その時だけはありがたいと思った。
シドは母親に「クソ。」と言ったが、母親はレコード会社に頭を下げた。

シドは、母親に薬をせがむようになる。
母親は父親に話した。
「あの子、あのまま、死ぬつもりかしらねぇ。」

最後の日、「どうぞ。」母親は厳しい顔で、シドにヘロインを渡した。

シドは顔を歪ませて、遺書を書いた。
決して、自分が殺したとわからないようにだ。
母親と真っ向から話合おうとしなかったが、『絶対に、自分が殺したと言ったらダメよ。』その声が、心には届いていた。

「なんでだよ!俺が殺したんだから、刑務所に何年だって入るのに!」

「もしかして‥お袋、自分の人生が、これからどうなるか怖いのか?」

『母さんの人生なんて、どうでもいいわよ。どうせ、いつか死んでしまう体だから。』

「クソ‥。」
シドは頭をかき、遺書を書いた。

『俺たちは死の取り決めがあったから、一緒に死ぬ約束をしてたんだ。こっちも約束を守らなきゃいけない。

今からいけば、まだ彼女に追いつけるかもしれない。

お願いだ。死んだらあいつの隣に埋めてくれ。

レザー・ジャケットとレザー・ジーンズとバイク・ブーツを死装束にして、さいなら。』


シドは、天国に旅立った。

いろいろな試練を受けたシド‥。

殺人者として人生を終えたシドは生まれ変わり、今飛行機に乗っていた。
生まれ変わったシドの目は、太平洋横断中の飛行機の中を見渡した。
白いジャージ姿の男が数人乗っている。みんな退屈そうだ。
シドの目は飛行機内を歩き、奥まで行き、みんながジロジロと見た。
やっぱり引き返すことにした。

シドの目は、白いジャージ姿の男の隣に座った。

なんと、シド自身、その白いジャージを着ている。
シドは気まずそうに目をそらした。

生まれ変わったシドは、今度はオリンピック選手になったのだ。

「さいなら。」
シドはつぶやいた。
シドの胸には、輝かしい金メダルがかかっていた。

神になった男 End

神になった男

神になった男

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-09-28

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