タワーファン

昨今のやつはすごいんだよ。

昨今のタワーファンはすごい。
「マジかお前」
なんと、左右の首振り機能に加えて更にルーパーという機能を搭載している。ルーパーというのは羽が上下に動く仕組みで、そうなると左右だけではなくて上下にも風を送れるようになるのである。
「すごいなあお前」
初めて見た、体験した時は思わずタワーファンをなでなでしていた。

昔の扇風機にはそんな機能はついていなかった。

アマゾンで買ったそのタワーファンには今夏随分と助けられた。それが無かったら死んでいたかもしれない。昨今の夏の熱中症による死亡者数を考えると決して非現実的な思考でもないだろう。

これが子供の頃にもあったらなあ。
そしたら姉もなあ。

そのタワーファンのルーパーという機能を見るたびそう思う。

子供の頃は姉と一緒の部屋に暮らしていた。
夏でも部屋にあったのは扇風機一台だけだった。
その当時私と姉は二段ベットの上と下でそれぞれ寝ていた。姉が上、私が下。こういう場合先に生まれたものが上になるし、あとから生まれたものは下になるように思う。
そして扇風機には左右の首振りはついていたが、ルーパーなどという機能は存在していなかった。
それだから夏はつらい日々だった。

部屋の窓を開け網戸にして、部屋のドアを開けて廊下の窓を網戸にし、風が通るようにしても扇風機の強さを最大にしてもそれでも、私は寝れないことが、寝れない日々が多かった。朝になったら汗だくになってることもよくあった。毎日そうだったといってもいいかもしれない。

姉がどうだったのかは知らない。それに姉が何を考えていたのかも、今となってはわからなことだし、そもそも私は姉ではないので姉の気持ちはわからなかった。

ただ、とにかく私は、扇風機の風を独り占めしたいと思った。そう思った。そうしなければ死ぬと思った。

ある夜、その日も熱帯夜であった。何日連続の熱帯夜。昼頃テレビでそんなニュースが流れた。ずっと熱帯夜。もうずっと熱帯夜。

私は真っ暗な部屋でベットに横になって寝れない時間を過ごしていた。扇風機の赤い点だけが見える部屋で。
ある時、私はベットから降りて立ち上がり、姉の寝ている空間を、二段ベットの二階部分を眺めた。

そこから少し記憶がとんでいる。

ドスンと大きな音がして、それに心配した父母が部屋に駆けつけてきたとき、二段ベットの上から落ちた姉のすぐ側に私は座り込んでいたらしい。そして首の骨を折って死んだ姉を泣きながら揺すっていたという。

今でもその時のことを思い出す。
でも、どうして姉がそうなってしまったのかは一向に思い出せない。
警察やら家族はそれを事故と言った。
本当に事故だったのかもしれないし、あるいは、

いやあえて書く必要もないだろう。

ただまあとにかく、昨今のタワーファンはすごい。
ルーパーなんて機能がついてる。
「すごいなお前」
本当に感心する。
これがその当時からあったなら、姉も今まだ生きていたんだろうかなあ。

もし生きているなら、私のこの記憶のルーパーもなくなってくれるのかなあ。

タワーファン

タワーファン

  • 小説
  • 掌編
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-09-27

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