第8話-26
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議会場の地下深く、水だけの惑星の核に近い付近にシェルターはつくられていた。シェルターの数は各都市ごとの人数に合わせて建設されており、グザを連れたミザンが避難したシェルターには、100万人からの、惑星ヒフホに訪れていたあらゆる種族がそれぞれの種族特有の酸素スーツを着用して、ひしめき合っていた。
兄さんはなにしてるのかしら。
ミザンが不機嫌に心中で呟いた時だ。上空のシェルターへ繋がる水流通路を抜け、ビザンが姿を現した。
ミザンは腕を上げ合図したその眼には、兄がなにか黒い物に縁取られているように見えた。
ビザンは妹と父のそばへ高速で泳いで近づくなり、父を睨むように見やった。
腕には水の膜で包まれ、一緒にされた銀色のキューブがしっかりと、抱きしめられていた。
気に入らない様子でミザンは静かに銀色の2つのキューブに視線を落としてから、すぐに記憶が曖昧になり、何かを唇の上に乗せて、ブツブツと呟く父の顔に眼を上げた。
父の腕を掴むビザン。子供の頃は父の腕がたくましく、あんなに大きかったのに、今では細く、力を入れると折れてしまいそうであった。
ビザンは強引に父親の腕を引っ張り、上空の出入り口へと浮上しようとした。
が、それをミザンに静止された。
「ちょっと、兄さんどこに行くつもりよ。もう敵との交戦状態に入ったのよ。ここを出たら巻き込まれるかもしれないのよ」
妹の顔は青くより濃い不安感を抱いていた。彼女は知っていたのだ。自分の兄が研究に没頭し、すでに自分の知る兄の理性的な姿を失っていることを。
ビザンは力ずくでミザンを振り払うと、凄まじい力で父の腕を引っ張り、シェルターの出入り口へ浮上した。
もちろん出入り口には兵士が民間人の出入りをチェックしていた。一度入ったら、戦闘状態が終わるまで出ることは許されず、軍部がこの場合全権を任意で所有していた。だからビザンもここをでることはできない。
「戻りなさい。ここからは出られない」
凛然と手のひらをビザンの胸に当て、兵士が叫ぶ。
その時だ。タイミングよく水が大きく揺れた。惑星ヒフホの近くで陽子爆弾が大爆発の連鎖を起こしたのである。
兵士が水中で体制を崩すのを見逃さず、ビザンは父を連れてシェルターから飛び出していった。
「わたしが連れ戻します」
追いかけようとする兵士を静止、ミザンもシェルターを飛び出した。
兵士たちは泡の球体に額をくっつける。これがこの文明の無線機だった。水の波紋はただちにシェルター外の兵士たちへ伝わり、ビザンたちが出ていったことが伝えられた。
第8話-27へ続く
第8話-26