いらないもの

ミニマリストが最後に捨てるもの

恋人に振られた
他に好きな人が出来たらしい
初めての失恋だった
自分なりに精一杯尽くしたつもりだったのに
それが実らなかった

彼とはライブで知り合った
少しマイナーなロックバンド
共通の話題、好きなものが同じ
それだけでテンションがあがり
出会ったその日のライブの帰り
一緒に夕飯を食べた

連絡先を交換して
また会って
好きな音楽の話に盛り上がって
楽しかった

でも、現実は厳しかった
いつも聴いてた好きな曲も
嫌いになってしまった

何もかもが憂鬱
何もかもが嫌い
嫌いならばどうすれば?
そうか、捨てたらいいんだ

彼の置いていった
モノを捨てた
歯ブラシに部屋着
箸にグラスも

捨てた勢いで
見てて辛くなるモノを捨てた
彼にもらったプレゼント
一緒に写っている写真
一緒に聞いたCDに
一緒に観たDVD

物を捨てたら
イライラが少しだけ消えた

でもしばらくしたら、イライラがやってきて
また何か大きなものを捨てなきゃならなくなった

パソコンはいらない、時計もいらない
テレビもいらない、ソファーもいらない

眠れない
それならベッドなんていらないわ
食欲だってない
それなら冷蔵庫だっていらないし
レンジもいらない
ご飯を食べるテーブルも椅子もいらない

デートなんてもうしない
それなら服はいらないしカバンも靴もいらないわ


部屋の中が空っぽになった
アパートの下見に来た時とほぼ同じ

でも違うわ
私が捨てたいのは
こんなもの達じゃなかったはず

そっか、そうなんだ。
部屋は空っぽ
でも私が本当に捨てたいのは、処分したいのは部屋の中のものじゃなかったんだ

解約予定の携帯電話をポケットから取り出して
とびっきりの優しい声で彼に電話

ねぇ 最後にもう一度だけ会えない?

いらないもの

いらないもの

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-09-23

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