雪村流バレンタインチョコ
2月14日(月)
「あ、弟くん、おはよう」
「おはようございます、兄さん」
家から出たところでちょうど音姉と由夢の二人に行きあった。
「二人ともおはよう」
今朝は雪が降りそうな寒さだというのに、暖かい布団で二度寝することなく、こうして余裕ある時間に家を出ることができた。
というのも、
「えへへー」
「…………」
音姉は嬉しそうに身体を寄せてきて自然に腕を絡めてくる。優しい甘い香りがして、俺は杏という彼女がいるにも関わらずドキドキしてしまう。
「ねえ、弟くん。今日は何の日か覚えてる?」
笑顔で見上げてくる音姉の手には、かわいらしいラッピングがされた箱がある。由夢の手にも同じようにラッピングがされた箱があることに俺は気付いていた。
そう、今日はバレンタインデー。二人が持っているの箱にはもちろんチョコが入っているのだろう。
去年までと今年では、バレンタインデーに臨む気持ちが全く違う。今年は初めて彼女がいる状態で迎えたのだ。昨夜杏と電話で話したときにチョコの話題は出なかったが、今日を迎えるのが楽しみで気分は高揚していた。
「はい、弟くん。バレンタインチョコだよ」
俺が質問に答えるよりも早く、音姉からチョコの箱を手渡されてしまった。
「兄さん、わたしからも……」
そして由夢も俺にチョコの箱を手渡す。毎年恒例ではあるけれど、こうして欠かさずチョコをくれるのは素直に嬉しい。
「二人とも、ありがとう」
「えへへー、今年はね、由夢ちゃんも一緒に手作りしたんだよ」
「…………なんですと?」
俺が由夢の方へ目を向けると、もじもじと毛先をいじりながら視線を逸らしている。
……こいつの料理スキルなら、ただ板チョコを溶かして型に流し込むだけでも殺人兵器ができあがるだろう。
「おい、由夢。まさか俺に何か恨みでもあるのか?」
「な、な、な……兄さん、それはどういう意味ですか?」
由夢はこめかみをひくつかせながら笑顔で返してきた。その笑顔に怯みそうになるが、背に腹は代えられない。もはやこの箱は開けることすら尻込みしてしまうパンドラの箱だ。
「由夢……俺はまだ死にたくないんだ。わかってくれ」
「むー」
そして由夢は更に怒ってくるのかと思ったら、拗ねたように背を向けてしまった。
その背中が寂しげに見えて、少し言い過ぎてしまったかと罪悪感に囚われてしまう。
「その、なんだ、由夢……」
「心外です。わたしだって最近は料理の練習をしているのですから、大丈夫です」
「そーだよ弟くん。それに私も一緒に作ったんだから、見た目も味も、お姉ちゃんが保証します」
音姉は両手を腰に当てて胸を張ってそう宣言した。そうか、由夢は料理の練習をするようになったのか。まあ音姉が付いていたなら、そこまで壊滅的にはならないだろう。それに由夢の努力を否定する気はない。
「だから、弟くんは由夢ちゃんに謝りなさい」
「うん、そうだな。由夢、俺が悪かった。それにチョコをありがとう」
素直に由夢に対して頭を下げると、こちらをちらりと見て、だけど不機嫌な様子でそのまま一人で歩き出してしまった。
「べつに、兄さんには無理に食べていただかなくても気にしませんから」
「あーん、由夢ちゃん。置いてかないでー」
すたすたと歩いていく由夢の後を音姉が追いかけて、更にその後ろを俺が追いかける。
結局学校に着くまでには由夢の機嫌を直すことができたが、その代わりホワイトデーに10倍返しを約束させられてしまった。手作りに対しての10倍は何を基準にするのか、考えるだけで恐ろしいが仕方ない。
「では兄さん、来月は楽しみにしていますから」
「あ、ああ……」
由夢の満面の笑みに対して、俺は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
◇
学校の中は全体的に浮き足立った雰囲気になっているように感じる。これも今日という日の特別か空気か。
教室へ向かうと、廊下でそわそわと挙動不審な動きをしている渉がいた。
「おはよう、渉。こんなとこで何してるんだ」
「おわっ……なんだ、義之か」
渉は飛び上がるような勢いでこちらへ振り返り、俺を見ると大袈裟に溜息を吐いた。
「なんだとはなんだ。それで、教室に入らず何してるんだ?」
「ふふふ、義之は今日が何の日かわかっていないのか?」
もちろんバレンタインデーのことだろう。だけど俺はわざととぼけることにした。
「ん、もしかして渉の誕生日だったか?」
「ちげーよ、俺の誕生日は8月14日だよ……て、そうじゃなくて、今日は年に一度の一大告白イベントであるバレンタインデーだろが」
一大告白イベントであるかどうかはともかく、バレンタインデーということで渉はすでに興奮しているようだ。
「あーあ、義之は余裕だもんな……なんかムカツクから殴っていいか?」
そして渉は拳を構える。こうなると少々面倒くさい。
「どうしてそうなる。それに、渉だって女友達多いから、たくさんもらえるだろ」
「そんなのわっかんねえじゃん。それに、俺は……月島一筋だからさ」
そう言って渉はウィンクを決める。それを俺に対してやってどうするよ。
「渉くん、わたしがどうかしたの?」
「おわあ……つ、月島……」
渉はさっきと同じ動きで、飛び上がるように振り返っていた。
「義之、おはよう」
「ん、おはよう、小恋」
実は小恋が近づいて来ているのは見えていたが、今のは渉が自爆しただけだから俺に責任はないだろう。
「二人で何してるの? 寒いから教室に入ろうよ」
「いや、特になにも。ほら渉、早く入ろうぜ」
「お、おう」
教室の扉を開けて中に入ると、さっそく茜がこちらに気づいて声を上げた。
「あ、義之くん、おっはよー」
自分の席へ着くと、雪月花三人娘と渉が集まってきた。渉以外の三人は紙袋を
下げている。
去年と同じようにチョコが配られる流れだ。雪月花の三人の互いにチョコを交換し合っている。
「あら、杉並はまだなのかしら」
杏は細長い箱を取り出して蓋を開けている。そしてその箱を俺の机の上に置くと、中には3つの丸い物体が入っていた。
これはおそらく、どれ一つがハズレで中にとんでもないものが入っているのだろう。
ターゲットは俺と渉と杉並。あれ、俺も入ってるのか。
「ふふふ、ただ今到着したぞ」
その声に振り返ると、いつの間にか杉並が俺の後ろに立っていた。杏は杉並の登場に満足そうに頷き、箱を俺達の前に掲げた。
「さあ、三人で一つずつ取りなさい、そして……同時に一口で食べなさい」
杏は口元に指を当ててニヤリと笑った。やっぱり中に何かを仕込んでいるのだろう。
「後悔しないように、よく選ぶことね」
「よっし早い者勝ちー」
どうしようかと迷っている隙に渉が腕を伸ばして真ん中のチョコを手に取っていた。
「ほら二人も早く取れよ」
「あ、お前……杉並、どうする?」
右のチョコと左のチョコ。取る順番はジャンケンで決めるか。
「ふむ、俺は余りモノで結構。桜内、先に選ぶがいい」
「えっと、それじゃあ……」
俺は二つのチョコを見比べる。見た目に全く違いはない。それにすでに五分五分でもない。渉が取ったチョコがハズレの可能性もあるからだ。もしそうならここで迷うのは時間の無駄だ。
杏の顔を見ると、ニヤニヤと見つめ返してくるだけで何もわからない。
次は中味について考えてみる。杏はハズレのチョコの中に何を仕込んできたのか。
ここは定番のゲキカラ系だろうか。杏本人は辛いものが苦手なくせにこういうときは容赦なく使ってくるから油断できない。もしくは普通には食べないようなゲテモノ系だろうか。これなら味次第ではそこまで警戒しなくてもいいかもしれないが、そこは杏だから本当にトンデモナイモノが入っている可能性も否定できない。
「義之、そこまで悩まなくても大丈夫よ。だから早く選びなさい」
そこで杏を見ると、一瞬右のチョコに目配せをして優しく微笑んだ。これは彼氏である俺に対するヒントなのだろうか。
「そ、そうだな」
ここは杏を信じて、恐る恐る右のチョコを手に取った。そして杉並は残ったチョコを手に取って、ゲームの準備が整った。
「ねえ杏、中には何が入ってるの?」
「バカね、先に言ったら面白くないじゃない。小恋も参加したいならもう一箱あるけど、食べる?」
杏がイジワルそうな笑顔で空になった箱の代わりに新しい箱を取り出すと、小恋は苦笑いで首を横に振った。
「う、ううん。やめとく」
「えー、私は気になるなあ。小恋ちゃん、一緒に食べてみようよ」
小恋は断ったのに茜が乗り気になって、結局もう一箱開けてみんなで食べることになった。
「杏ちゃんはどれがハズレなのかわかってるのよね」
「ええ、そうね。だから小恋と茜が先に選んでいいわ」
そして六人で丸いチョコを手に持ち、みんなで顔を見合わせた。
渉は早く食べたそうにウズウズしていて、杉並は不敵な笑みを浮かべている。
小恋は不安そうに自分のチョコを見つめていて、茜は楽しそうに笑っている。
そして杏と目が合うと、ニヤリと笑った。これはどういう意味だろうか。
「じゃあ食べましょうか。茜、掛け声をお願い」
「よーし、いっくよー」
杏から振られた茜は元気よく声を上げる。さあ、いよいよ実食だ。
「せーのっ」
茜の掛け声に合わせて俺達六人は一斉にチョコを一口で頬張る。甘いチョコの風味が口の中に広がる。
一瞬だけ噛むのを躊躇したが、俺は意を決して丸いチョコを噛み砕き中味を味わった。
「ぐほっ」
「うぐっ」
「ぐえっ」
すると同時に三人の呻き声が上がった。
「甘くておいしい。杏ちゃん、これはブルーベリーソース?」
「当たりよ。ジャムも私が作ったんだけど、うまくできてたかしら」
「うんうん、上手にできてるよ。さすが杏だね」
呻き声を上げた男三人のことを尻目に、雪月花でチョコの感想を言い合っている。まさか最初の箱の中味が全部ハズレだったとは。完全に裏をかかれた。
ゲキカラチョコにむせながら杏に抗議の視線を送ると、すぐに気がついてニヤリと笑った。
「あら義之、チョコは味わってもらえたかしら」
「ごほ……あ、杏、まさか俺のことを裏切るなんて……」
「人聞きが悪いわ。私は初めから、アタリハズレがあるなんて言ってないから」
そう言われればそうだったような気がするが、でもこの状況で出されたら誰でも同じことを考えるだろう。
「ただ二種類のチョコを作って、別々の箱に詰めただけよ」
杏の横では小恋が苦笑いを浮かべている。
「それで杏、義之たちのチョコには何が入っていたの?」
「……特製ハバネロソースをたっぷりと」
渉と杉並はいつの間にかこの場からいなくなっていた。たぶん口直しに出かけたのだろう。小恋と茜は俺に同情の眼差しを向けていたが、何となく意地で吐き出さずに食べていると、杏が耳元に口を寄せてきた。
「安心して。これとは別に義之のチョコがあるから……今日、家に寄ってくれる?」
◇
「んんー、やっと終わった……」
俺が両手を豪快に上げて伸びをしながら横を見ると、杏はさっさと帰り支度をしていた。
今日はあっという間に放課後になってしまったように感じる。午前中はあのゲキカラチョコによる口腔内の痛みと闘っていたのだが、それ以外は杏が俺のために用意してくれたチョコというのが楽しみで、そのことを考えていたらいつの間にか授業が終わっていた。
「ほら、義之も早く準備しなさい」
そんなことをぼんやりと考えていたら、帰り支度を整えた杏が隣に立っていた。
「おう、わかった」
急いで教科書類をカバンに詰めていると、目の前にいる茜がこちらに振り返り話し掛けてきた。
「杏ちゃん、いよいよだね」
「ふふ、そうね」
二人は俺を見て笑っている。
「おい……また何か企んでるのか?」
「ちがうよ~。杏ちゃんが義之くんのために用意したチョコのことだよ」
「……茜はどんなものなのか知ってるのか?」
「うん。まあ実際には見てなくて杏ちゃんから話を聞いただけだけど、義之くんは楽しみにしてていいよ~」
その楽しそうな笑顔に、少し不安が過ぎったが、さすがに朝みたいなことはもうないだろう。杏に制服の袖を引っ張られた俺は、カバンを持って立ち上がる。
「義之、そろそろ行きましょ」
「ああ、そうするか。それじゃな、茜」
「茜、また明日」
「バイバイ、杏ちゃん、義之くん」
◇
学校を出た俺達はまっすぐ杏の家へ向かった。
家へ行くのは杏の誕生日以来だ。あの日のことは強く思い出に残っている。
この島の象徴であった『枯れない桜』が枯れて、雪村流暗記術を使えなくなった杏は物忘れが多くなり、ついには俺のことを忘れてしまっていた。
そして杏の誕生日に一緒にケーキを食べてお祝いをして、そして初めて結ばれることとなったのだが……。俺はその時、杏と関わるのはこれで最後にしようと覚悟を決めていたが、奇跡的に杏が俺のことを思い出して、今では恋人として過ごすことができている。
ここで、杏とえっちしたんだよな。
雪村邸の前まで来た俺は、いろいろな意味でドキドキしていた。
「義之、いやらしいことを考えるのは中に入ってからにしなさい」
「え、あ、いや、その……」
図星を突かれて動揺している俺を見て、杏は楽しそうに笑っている。いつものことだけど、なんかくやしい。しかし雪村流記憶術を使えなくなったとはいえ、杏にはこれから先も勝てそうにない。
「さあ、早く入りましょ」
杏に手を引かれながら雪村邸の門をくぐり中へ入っていく。そのまま杏の部屋の前まで来ると立ち止まり、扉を開ける前に俺の方へ向き直った。
「準備をするから義之はここで待ってて。10分したら入ってきていいから」
「準備?」
「いいから、義之はここで待ってる。いいわね?」
有無を言わせぬ物言いに、俺は素直に頷くことにした。
「ん、わかった」
そして杏だけが部屋の中へ入り、俺は扉の前で待つこととなった。しばらくすると中からごそごそと音が聞こえてきたが、一体何の準備をしているのだろう。ただチョコを渡されるだけかと思っていたから、全く予想がつかない。
期待と不安で意外と早く10分が経過したが、なかなか杏から声がかからない。
「もしかして10分過ぎたら勝手に入っていいのかな」
準備ができたら声をかける、ではなく時間指定だったからそういうことなのかもしれない。
念のためにもう数分待ってから、俺は部屋の扉へ手をかけた。
「杏、入るぞ?」
入室の許可を求めて、少し開いた扉の隙間から中の様子を窺う。そこからでは杏の姿が確認できなかったから扉を開けて中へ入ると、やはり杏はどこにもいなかった。
その代わり広い部屋の中央には、人が入れそうなほどの大きさの箱が鎮座していた。
「…………」
普通に考えればこの中に杏がいるということになるが、どうしたものか。巨大なチョコが入っているという可能性もあるが、そうなると杏の姿が見えないことの説明がつかない。
ゆっくりと箱に近づく。杏が何を企んでいるのかはわからないが、この箱を開けないと先に進まない。
「…………」
この箱は上部が蓋になっていて持ち上げられるようになっている。
俺は箱の蓋に手をかけて、一瞬の逡巡の後、ゆっくりと蓋を持ち上げた。すると側面が外へ向かって倒れて、中から斜め座りをした杏が現れた。
「────お」
杏は潤んだ瞳でこちらを見上げている。口元に指を当て、小首を傾げている姿はとんでもなくかわしらしい。そして視界に広がる肌色に、俺の心臓は大きく跳ね上がる。
「──おお」
杏はほぼ全裸だった。真っ赤なリボンが巻かれて大事なところは隠れているが、少し動けばそんなものは落ちてしまうだろう。そのキワドイ姿は想像をかき立てられて、むしろ全部見えている状態よりもエロい。
ごくりと唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえる。
「義之、好きにしていいのよ」
「……お、おう」
こちらへ伸ばされた右手を取り杏を立ち上がらせると、リボンははらりと落ちて全てが露わになった。
「杏……」
「義之、そんなに情熱的に見つめられたら恥ずかしいわ」
穢れを知らない白雪のような肌がほんのりと桜色に色づいている。
「あ、ああ」
そして杏は俺の胸に手を置いて見上げてくる。
潤んだ瞳。ぷっくりとした唇。紅潮した頬。その全てが俺の欲望をかき立てる。
二人の顔は吸い寄せられるように自然と近づいていく。
「ん……」
俺は杏の背中に手を回して抱き寄せるようにキスをした。舌を出して杏の唇をつつくと、甘いチョコの風味が広がった。そしてお互いに舌を絡めて、存分に杏を味わってから口を離す。
「チョコの味がした」
「ふふ、チョコ味のリップを使ってみたの。気に入ったかしら」
「ああ、おいしかったよ」
胸に置かれた杏の手がゆっくりと下へ移動して、ズボンのふくらみを優しく撫でる。
「もっと深く味わっていいのよ、義之」
◇
「……義之、激しい」
杏を抱きかかえてベッドへ押し倒した俺は、興奮が抑えられず覆い被さるように唇を奪う。
「ん、ふ……ちゅぴ……」
キスをしながら胸に触り、ふにふにと柔らかい感触を楽しむ。
「ふあ……んん、よしゆき……」
杏の甘いあえぎ声に更に興奮が高まる。杏も息遣いを荒くして腕を掴んでくる。
「きゃう、ううん……」
胸の先端部を摘むと、杏は小さな悲鳴を上げた。
「やっぱり杏は乳首を触られるのが好きなんだな」
乳首への刺激を続けながら、もう一方の手を下の方へ伸ばす。
「ふあう……き、きもち、いいの……」
そして杏の秘所に指を沿わせて優しく撫でるように動かす。
「あ……ふあ、ああん……」
割れ目の上部にある小さな突起に指を引っかけるように刺激すると、杏は身を捩らせながら色っぽい声を上げた。
「ああん……ひう……ああ……」
俺はそのまま彼女の身体へ刺激を与え続けた。
時には強めに、時には優しく、杏のかわいらしい嬌声を楽しみながら愛撫し続ける。
「ああ、あん……よし、ゆき……ああん……」
濃いメスの匂いを感じる。
杏のアソコから愛液が溢れてきて、ぐちゅぐちゅと音を立てながら指を動かす。
「んん……ああ、ああ……」
だんだんと声が大きくなっていく。身体も小刻みに震え始めて、そろそろ絶頂が近づいているようだ。
「ああ……ん……あああああ~~~!」
杏は俺にしがみつきながら声を張り上げて、身体を大きく震わせて絶頂を迎えていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ぐったりとベッドに沈み込む杏は、とろんとした瞳を俺に向けている。
「はぁ……ふふ、義之にイカされちゃった……」
杏は荒い息を整えながら気だるげに身体を起こすと、俺の股間の膨らみに手を伸ばしてきた。少し触れられただけでびくんと反応してしまう。
「義之、元気いっぱいね」
すでにはちきれそうになっているズボンとパンツを脱ぎ去り、これでもかというくらい充血し大きくなっているモノを露出させる。杏はその熱くたぎっている部分に手を伸ばして亀頭を優しく包み込む。ひんやりとした感触が気持ちいい。
「ふふ、こんなに大きくなっちゃって」
「く……杏が、誘惑してきたからな」
「あら、私はもう義之に襲われちゃったけど?」
杏は艶やかな笑顔で竿を掴み、ゆっくりと上下に動かす。そのじれったくなるような淡い刺激に俺は、杏を押し倒すように覆い被さり、とろとろの割れ目に先端を押し当てた。
「杏……いいか?」
「きゃう……ふふ、わがままな子ね。いいよ、私の中に来て」
首の後ろへ両手を回した杏に引かれてキスをする。そして俺はいきり勃ったペニスを杏の膣内へ一気に挿入した。
「んく……んああ……」
杏は少し顔を歪めて身体に力が入る。
「杏、大丈夫か?」
「ん、うん……大丈夫」
キュウキュウと締め付けてくるから、それだけで動かさなくても果てそうになる。
「は、あ……義之、動いても大丈夫よ……」
杏のとろとろになっている膣内が絡みつくように蠢く。俺自身の形に合わせて握り込んでくるような柔らかい感触。俺は杏の反応を確かめながら、ゆっくりと腰をスライドさせた。
「あ……んん……あ、んあ……」
俺の動きに合わせて杏は甘い声を上げる。
「杏……杏……」
腰を前後に動かすたびに、杏のヒダ肉が俺のモノを逃がさぬようにピットリと絡みついてくる。奥へと吸い込まれるような締め付けに、俺はいっそう激しくピストンする。
「くう、あ……ああ……よ、よしゆき……キス、して……!」
俺はむさぶりつくように杏の口をふさいで、中を犯すように舌を絡める。二人の唾液が混じり合い、口の周りがべとべとになってもキスは止まらなかった。
「んん……んんん……ちゅぷ……はむ……」
気持ちよさが限界に近づいてくる。
「……杏……俺、もう……」
「はあ……ああ……中に、出してぇ!」
俺はラストスパートでたぎる肉棒をより激しく杏の中へ突き入れる。
「んああ……は、はげし……こわ……壊れちゃう……」
「杏……杏ぅ……!」
「んん……んあああああ~~~!」
杏は叫び声を上げて絶頂を迎えた。同時に膣内が収縮して搾り取るように強く締め付けてくる。
そして俺は、杏の最奥へ欲望の塊を思い切り放出した。
…
「はあ……はあ……はあ……」
「……はあ……はあ……はあ」
荒い息を整えながら杏の中から俺のモノを引き抜くと、逆流してきた白濁液が膣口から溢れ出てくる。
「あ……」
杏は自分の股間へ手を持っていき、細く白い指に溢れてきた白濁液を絡めている。
身体を起こした杏は、その汚れた右手を見つめて、そのまま口をつけた。
「ふ……はふ、ん……」
「あ、杏……」
「ん……だって、もったいないもの。せっかく義之が私の中にくれたのに」
そう言って、愛おしそうに恍惚の表情で指を舐めている。その姿は扇情的で、俺はまた股間が熱くなってくるのを感じた。
「ふふ、こっちも綺麗にしてあげる」
杏は二人の体液で汚れた竿を掴んで顔を寄せた。
「ん、ちゅぴ……れろ……」
「ん、くふ……」
出した直後で敏感になっているから思わず声が出てしまう。くすぐったいような刺激だけど、杏の熱く絡みつく舌に、俺の股間は瞬く間に充血していく。
「あら、また大きくなった……義之はヘンタイね」
さっきまでの杏とは打って変わって、小悪魔的な笑みを浮かべて見上げてくる。
「う……し、仕方ないだろ」
杏は竿を握ったままゆっくりと上下に動かす。同時に俺の乳首に口をつけ、音を立てて吸い始めた。
「ちゅ……ちゅぴ……」
「お、おお」
ぞくぞくと全身に電気が走る感覚。気持ち良いようなくすぐったいような、新しい刺激に驚きながら身を委ねる。
そんな俺の様子を見て、杏は空いている手でもう片方の乳首への攻めも加えてくる。そしてたまに軽く歯を立てて甘噛みをして強い刺激を与えてきた。
「ん……ふ、は……」
「ちゅぴ……ふふ、声まで出しちゃって、かわいい」
慈しむような笑みを浮かべている杏は、まるで天使のようだ。
「義之……ん、ちゅ……んふ……」
何度かついばむようにキスをして、二人で笑い合う。次は杏を抱き寄せながら舌を差し込んで、唾液を交換しながら絡み合う。
「ちゅぷ……ちゅぴ……ん、ちゅぴ……」
キスをしながら、先端から滲み出るカウパー腺液を亀頭に塗りつけるように刺激されて気持ち良い。杏は俺の太股にまたがり、秘部を擦りつけて時折びくびくと感じている。背骨に沿って優しく撫でてやると、それだけでも反応していた。
「ん、はあ……杏、そろそろ……」
早くも二度目の射精感が高まってきたところで、杏は再び俺のモノを口に咥えてきた。亀頭が温かくねっとりとした感触に包まれて、柔らかな舌が絡みついてきてすぐにイってしまいそうになる。でもこの感触を少しでも長く味わっていたくて必死に耐える。
「ん、ん、ん……」
杏は頭を上下させているが、杏の小さな口ではペニスの半分ほどしか咥えこむことができない。だけど喉の粘膜にも刺激されて気持ち良い。
少し苦しそうな顔をしながら、健気に奥まで咥わえようとしている杏を見てかわいいと思う反面、俺の中に嗜虐心がふつふつと沸き起こる。
「……杏」
俺は射精感に耐えながら杏の頭を掴み、喉奥を攻め立てるように大きく上下させた。
「んぐ……ぐ、んん……」
杏は突然の責め苦に顔を歪ませる。少し歯が当たってしまうが、その刺激もアクセントになって気持ち良い。
やはり苦しいのか俺の身体を弱々しく叩いてくるが、一気に臨界へと上り詰めようとしている俺はこの快感を止めることができない。
「あ、ああ……杏……!」
そして俺は二度目の射精を、杏の喉奥へたっぷりと注ぎ込んだ。
「ぐぅ……んぐ……ぷはぁ、はぁ、はぁ……げほ、ごほ」
杏の頭を押さえつけていた両手の力を緩めると、跳ね除けるように頭を起こしていた。そして涙を滲ませながら咳き込んでいる。
快楽の余韻を感じていた俺は、ようやくそこで冷静になってやりすぎてしまったと後悔した。すごく気持ち良かったけど……。
「あの、杏……ごめん」
「……義之、私のやり方では気持ち良くなかった?」
そこで怒らずに悲しそうに聞いてくるものだから、余計罪悪感を感じて俺はその言葉を必死に否定した。
「いや、そんなことはない! 杏の手も口もすごく気持ち良かった!」
杏の両肩を掴み、まだ涙に濡れる瞳を正面から見つめて言葉を紡ぐ。
「あの、杏の頑張ってる姿を見たら、その……なんというか……調子に乗ってしまった、というか……」
だんだんと言い訳がましく歯切れの悪くなっていく俺に、杏は呆れて溜息を吐いた。
「はあ、義之がとんでもない野獣さんだということは実感したわ」
「えっと、ごめん」
「……それに、まだ足りないようね」
「え?」
杏の目線が下がるのに釣られて俺も下を見ると、そこにはまだ萎えることなく上に向かってそそり立つブツが存在していた。
「あ、あれ」
思わず自分でドン引きしてしまった。二回も放出したのにまだまだ元気だなんて。
「ふう、義之は仕方ないわね」
そして杏は倒れ込むように、こてんと横になって上目遣いに俺を見る。。
「さっきのことは許してあげるしもう一度えっちもしてあげるから、次は私を気持ち良くしなさい」
「……仰せのままに、杏様」
…
まず俺は疲れた表情を見せる杏に軽く口づけをした。頬を撫でると、くすぐったそうに首をすくめて笑みを浮かべる。そのまま頬に添えた手をゆっくり下ろしていき、首筋、鎖骨に触れながら柔らかなふくらみまで到達して優しく撫でる。
「んん……」
杏の反応を伺いながらふにふにと双丘を揉みしだく。まだ先端には触れないように乳房に刺激を与えて感度を高めていく。
「ふあ……あ……」
杏の胸のボリュームはそこまで大きくない。平均の大きさというのはよくわからないが、例えば茜なんかと比べると見劣りしてしまうだろう。
だけどこうやって下から持ち上げるように掴むと、ふわふわと柔らかくて触っているこっちも気持ち良いから不思議だ。女の子の身体は柔らかいし、良い匂いがするし、いろいろな面で不思議な存在だと思う。
俺はその掴んでいる双丘の先端にある、ぷくりとした桃色の突起を舐める。
「や……あん……」
杏は甘い嬌声を上げる。舌先でちろちろと舐めていると甘く感じてくる。
「杏の乳首、甘くておいしい」
「あ、え……?」
俺はもっと味わいたくなって、杏の乳首に夢中で吸いついた。
「ああん……よ、義之、赤ちゃんみたい」
杏は俺の頭を抱え込むように手を回し、ゆっくり撫でてくる。それはまるで授乳をする母のようで、俺は赤ちゃんになってしまったかのような気分になる。
「あ、んん……ひゃうっ」
吸っていた乳首を甘噛みすると、杏は小さな悲鳴を上げた。もう片方の乳首も指でぐりぐりと摘むと、その度に身体を震わせていてとてもかわいい。
「ん……杏、気持ち良いか?」
「……うん、うん、気持ち、良いよぉ」
杏の瞳はとろんとしていて、気持ち良くなってくれていることがわかる。
そして俺は手を更に下へ持っていき、まだ誰も踏み入れていない雪原のように美しいお腹に触れる。その中央にある小さなヘコミに指を差し入れると、杏は声を上げて身を捩らせた。
「はぁ、ん……義之、変なことしないで」
「ん、変なことって?」
俺はわざととぼけながら、杏のかわいらしいおへそをつついて遊ぶ。
「だ、だからおへそに……ひうっ」
杏の言葉を遮るように乳首を少し強めに摘むと、悲鳴を上げて非難の目をこちらへ向けてきたが、杏が何か言おうと口を開く前にキスでふさいだ。
「……ん、ふ」
最初は軽い抵抗を感じたがすぐにそれは弱くなり、舌先で唇をつつくと杏も小さく口を開いて舌を出した。
「んん……義之、ずるい」
「でも気持ち良いんだろ?」
そうしている間もお腹を撫でながら乳首にも刺激を与えている。
「くん、あ……やっぱり、義之は野獣ね」
普段はからかわれてばかりだから、野獣と言われようともこういうときくらい優位に立っておかないとな。
俺が微笑みかけると、杏は呆れたような表情を浮かべた。
「俺が野獣になっちゃうのは、杏がかわいいからだよ」
「……もう」
朱に染まった杏の頬に口づけながら柔らかなお腹をぷにぷにと楽しむ。柔らかいのに無駄な肉があるわけではなくて、むしろ細いくらいなのにこの気持ち良い感触。やっぱり女の子の身体は不思議だ。
俺はお腹から腰や太股に手を伸ばして撫でながら、耳たぶや首筋にも口付ける。
「ふふ、くすぐったい」
杏の秘部へと手を伸ばし、そういえばと少し気になっていたことを口にする。
「そういえば、下の毛はわざわざ剃ったのか?」
杏はそんなに量が多かったわけではないと思うけど、本来毛がある場所はつるつるすべすべで何もなかった。
「あら、今更そんなことを聞くのね。裸リボンをやるには邪魔になるかと思って……どうかしら?」
笑顔で感想を求められて、俺は恥ずかしくなり思わず目を逸らしてしまう。
「あ、うん……綺麗だと、思うぞ」
「ふふ、ありがと。義之も剃ってみる?」
「は? いや、俺は剃らないけど」
「二人とも綺麗に処理をしてえっちすると、感度が上がるらしいわ」
「…………」
そんなことを笑顔で言われても、俺はコメントに困るだけだった。別に杏が処理しているのはいいけど、俺はやろうと思わない。
「いや、それはどこからの情報だよ……」
「ふふ、知りたい?」
「……べつに」
「小恋よ」
「はい?」
予想外の答えに驚く。どうして小恋がそんなことを知っているのか。
もしかして何か雑誌とかに載っていたのかもしれない。いや、そうに違いない。
だって小恋はまだ誰とも付き合ってないはずだし……でも俺の知らないところでそういう相手がいて、そういうことまで経験している可能性も……。
頭の中でぐるぐると様々な思考が渦巻いていたら、杏に両頬を引っ張られてしまった。
「いたたたた」
「もう、私とえっちしながら他の女のことを考えるなんて」
じとりとした視線を向けながら頬を膨らませている杏はかわいらしい。
が、たしかに他の女のことで頭がいっぱいになってしまったのは俺が悪い
「……あ、ごめん」
「ふふ、冗談よ。正確には、小恋が読んでいた雑誌に載っていた情報よ」
「…………」
それはそうだよな。まさか小恋が直接そんなことを知っているわけが、ってまた他の女のことを考えてる。
そして杏は、してやったりという様子でニヤニヤと笑っている。
そもそも他の女のことを考えたといってもそれは杏の発言がきっかけであって、しかしそれに見事に誘導されてしまったのがくやしい。
「それはそうとして、義之も剃ってみる?」
「断固拒否させてもらう」
「つまらないわね。小さなプライドにこだわるなんて、男らしくないわ」
「へ、プライド?」
杏は突然変な言い回しをする。下の毛を剃るか剃らないかのプライドとは何だろう。
俺が固まっていると、杏は小さく溜息を吐きながら口を開いた。
「薄毛でみっともなくなる前に、全部剃ってしまったほうがいいわよ」
「別にハゲじゃねえ! しかもこっちは関係ねえ!」
「あらあら、ムキになっちゃって」
「……もう何でもいいよ」
思わず怒鳴るようにツッコミをしてしまったが、杏にからかいのネタを提供しただけだった。まあこのやり取りは冗談だけど、杏が望むのであれば試してみてもいいのかな、と少しだけ思った。
俺は気を取り直して、動きを止めてしまった手を動かして杏の秘部にある突起に触れた。
「ん、あん……義之、怒った?」
「……べつに。杏がもうそんな無駄口を叩けないようにしてやるっ」
杏のアソコはすでに濡れている。割れ目に指を埋めると愛液が絡みついてくる。それを充血した突起に塗りつけるように指で弾くと、身体を震わせながら悲鳴を上げた。
「ん、ああ……ひあ……」
小さな穴からはとめどなく愛液が溢れてきてシーツを濡らしている。大事なところがよく見えるように杏に両脚を抱えさせると、割れ目の中身も、おしりの穴も、全てが露わになった。
「このかっこ、恥ずかしい……」
「そう言いながら濡れてるみたいだけど」
そう言う俺も杏の淫らな姿に興奮している。頬を赤らめて瞳を潤ませている様子も興奮に拍車をかける。
「う、あん……よしゆき……」
愛液が垂れてテラテラと光る菊門を撫でるとびくりと反応した。
「あ、よしゆき、そこは……」
その穴にゆっくりと指を埋めてみると、杏は身体を震わせながら悲鳴を上げる。まだ第一関節までしか挿れていないが、入口はきゅっと締まりそれ以上の進入を拒んできた。俺はそれにあらがうように、指を動かしながら少しずつ奥へ押し進めていく。
「うあ……そ、そっちの穴は、ちが──」
杏の言葉は無視して奥へと挿れていく。入口は締め付けがあるが中はそうでもない。温かく柔らかで、膣内とはまた違った感触だ。
「杏、こっちは気持ち良い?」
「ああ、うう……なんか、変な感じがする……」
困惑の表情を浮かべているようだが、ふるふると震えながらも脚を抱えている手はそのままだし、本気で拒んでいるわけではなさそうだ。気持ち良いのかどうかはわからないが、俺は根本まで挿れた指をゆっくりを引き抜き、そしてまた奥まで差し込んでピストンした。
「んん……んあ、ああ……」
垂れてくる愛液を絡めながら後ろの穴への抽送を繰り返す。そのうちに入口の締め付けも弱くなってきて指を動かしやすくなる。
「あん、ああ……ふあ、ああ……」
「…………」
そして俺は、指をもう一本増やして挿入を試みる。
「あ、ん……んん……」
意外とすんなり二本の指を受け入れて奥まで挿入することができた。杏は喘いでいるけどそれ以上の反応を見せないから、もしかしたら指を増やしたことに気がついていないのかもしれない。
しばらく二本の指での愛撫を続ける。指先を軽く曲げて引っかけるように出し入れすると杏の反応が大きくなる。
「おしりでも感じるんだな」
「……ん、あ……そんなこと、ない……」
ぼそりと呟いたら杏はその言葉をすぐに否定した。しかし膣口はひくひくと蠢きとめどなく愛液が溢れてきているし、甘い嬌声を漏らす口をぱくぱくさせて顔は紅潮している。
杏の言葉とは裏腹に、身体は正直な反応を見せているようだ。
「ああ……あ、いや……」
指の動きを早めると抱えている脚も痙攣し始めて、杏は絶頂を迎えようとしていた。
「い、んあ……や……」
顔を覗き込もうとすると、杏は目を閉じて顔を横に向けてしまった。
「あ、あ、あ……あああああ~~~~!」
大きく脚が跳ね上がり、指がこれまで以上に強く締め付けられて、杏は大声を上げながら絶頂していた。
「あ、あう……うう……」
指を引き抜くと杏は手足をだらんとさせて放心していた。
「杏……」
横に向けている顔を軽くつつくと、その手は払いのけられてしまった。
そして杏は膝を抱えて丸くなり、小さく何かを呟いている。
「なあ、杏」
「……まさか」
「……まさか?」
「まさか、おしりでイカされてしまうなんて……」
よほど恥ずかしかったのか、両手で顔を隠している。
そんな初々しい反応がかわいい。
「杏、そろそろ」
俺は丸くなっている杏を仰向けにして脚を開かせる。杏はまだ恥ずかしいのか身体を隠すように縮こまろうとするが、脚の間に身体をねじ込んでそれを許さない。
「や……いや……」
顔を隠そうとする手を退けるために手首を掴んでベッドに押しつけて、目を閉じたまま少し震えている杏を見てまるで無理矢理レイプをしているような気分になる。
「んあ……」
柔らかそうな耳たぶに優しく歯を立てると、甘い声を漏らした。
首筋に舌を這わせながら唇まで到達して、慈しむようにキスをする。
「ん、義之……」
キスを繰り返すうちに強ばっていた身体の力が抜けてきて、俺は押さえつけていた手首から手を離したけどもう顔を隠すことはなくなっていた。
「んん、はあ……ふふ、義之、挿れていいよ」
さっきから早く杏の中に挿れたくて、膣口に先端を押し当てていた。少し力を入れればすぐに奥へと吸い込まれていくだろう。
杏は俺の首の後ろに手を回して微笑んだ。
「あん……きて、よしゆき……」
そして俺は杏の柔肉を押し広げるように、一気に奥まで挿し入れた。
「んあ、ああ……」
もう十分すぎるほどに濡れている杏のアソコは、スムーズに俺自身を受け入れた。ヒダ肉が奥へ奥へと誘うように蠢いて、いやらしい締め付けはまるで精を搾り取ろうとしているかのよう。
三度目だというのに少し動いただけですぐにイキそうになるが、もっと杏を感じていたいから必死に耐える。
「あ、ふあ……んん……ああ……」
杏の膣内は動かす度にきゅんきゅんと締め付けてくる。もう我慢なんてできそうになかった。
「杏……もう、出そう……」
「あん……な、中に……出して……」
杏は俺にしがみつくように抱きついてきて、更には脚を絡めるように腰に巻き付いてきたから二人の身体はぴったりと密着している。
「う、くううう~~~~」
そのまま一番奥へ迸る精を解き放つと、杏も声を上げて絶頂を迎えていた。
「んああああ~~~~」
二人一緒にガクガクと身体を震わせて、荒くなった息を整えるためにしばらく密着したままの体勢で止まっていた。
「ふう……ふう……ふう……」
「……はあ……はあ……はあ」
杏の顔は恍惚としていて、口の端からは涎まで垂らしている。きっと俺も情けない顔になっているのだろう。
涎の跡を舐め取るように軽く口づけをした。
「ん……」
そして俺は杏の横にどさりと倒れ込む。三回もしたからもう中身はすっからかんだ。
「ねえ、義之」
「ん、どうした?」
二人並んで天井を見上げていると、杏の左手が俺の右手をそっと握った。俺はその手を優しく握り返す。
「私、義之と恋人同士になれて、すごく幸せ」
「ああ、俺も杏と付き合うことができて幸せだ」
顔を横に向けると杏もこちらへ顔を向けていて、目があった俺達はお互いに笑い合った。
◇
「義之、満足できた?」
俺の横に寝ている杏は、胸に指を這わせながら尋ねてきた。
「ああ、もうくたくたで何もする気が起きない」
三度目のセックスの後、しばらくしてからなぜか復活してしまった俺の相棒を見て杏は笑い、結局最後にもう一度繋がり合って合計四回も精を放出してしまった。
なんだか身体の中身を全て吸い取られてしまったかのような感覚だ。
「ふふ、まさかあんなにも求められるとは思ってなかったわ」
「いや、俺もこんなに続けてできるとは思ってなかった……まあ、杏が、かわいかったからな」
俺はそう言いながら恥ずかしくなって顔を背ける。だというのに杏の手ですぐに向き合わされてしまった。
目の前の杏は、幸せそうな笑みを浮かべている。
「ありがと、義之」
杏は軽くキスをして、小さく笑った。
「少し前までは、楽しいことも嫌なことも、全て忘れずに覚えていた。でも今の私は物覚えが悪くなってしまった……」
そう。あの『枯れない桜』が枯れてから、杏は雪村流暗記術を使うことができなくなってしまった。
「でも……義之との思い出は、全部覚えていたい……」
だから全てを記憶するというのは無理だろう。だけどそれは俺も同じ。普通の人間は全てを記憶するなんてできないし、忘れることだってあるかもしれないけれど、杏との思い出は俺も全部覚えていたいと思う。
「もう絶対に、何があっても義之のことは忘れない。他に何を忘れようとも、義之のことだけは絶対に忘れない」
ぎゅっとしがみついてきた杏の頭を撫でると、嬉しそうに胸に頬を擦りつけてきた。
これから先、どれだけの思い出を積み重ねられるだろう。楽しいことだけじゃなく、喧嘩をすることだってあるかもしれない。それでも全てが大切な思い出だ。
初めてちゃんと好きになった女の子と、最期まで一緒にいたいと思う。
杏が俺のことを忘れないように、たくさんの思い出を作ろう。
「杏、大好きだよ」
「私もよ、義之……」
チョコのように甘くとろけるような時間が、緩やかに流れていく。
雪村流バレンタインチョコ