リバーシブル

リバーシブルのリバーが河口にかかっているとかいないとか

妻が人魚だ。
信じられないかもしれないが、僕の妻は人魚だ。
「今日の晩御飯なに食べたい?」
我が家には人魚がいる。
「あー、麻婆ナスが食べたいなあ」
「うーん、それもいいけど、今の時期なす高いから今晩はカレーにするね」
人魚感はない。それはもう世間一般の女性。こちらの要望を聞きつつ、自分の意見を通す感じがすごいけども、とにかく彼女は人魚だった。

出会いは河口であった。僕がそこで釣りをしていると、彼女がかかった。
「なんだ!」
突然の強い引きで、竿が大きくしなった。たまたま迷い込んだ真鯛か何かかと思って、興奮してリールを巻くと、人の上半身が見えて、どざえもんかうあわーってなって警察に連絡しなきゃとか、時間を吸われるとか、忙殺されるとか、そういう事で頭がグルグルしていると、やがて人の上半身以外にも魚系の下半身が見えてきて、え?何?ってなった。

「すいません。驚かせて・・・」
それが人魚であった。昨今たまに川に迷い込んだ海洋生物のニュースを目にするが、人魚は初めての事だった。たまちゃん的なニュースになるって思った。

「あああ・・・」
しかし、釣り上げた彼女は大層弱っており、下半身のうろことかも結構はがれており、その場でリリースすることに気が咎め、近くに他人の目もなかったので、いったん車に乗せて家に連れ帰った。家にあげ専門知識など毛ほどもないが、見様見真似、ネットで調べた情報などをもとに手当てをした。

「ありがとうございます」
やがて人魚は元気になった。そこで初めて知ったのだけど、人魚の下半身、つまり魚の部分、背びれ的なあの部分、あの部分は脱着が可能であるらしかった。

「陸上では生活しずらいので、これで行きますね」
だからあの魚の部分を外すと、もう完全にただの人である。

あと人魚は鰓呼吸でも無いらしく、クジラなどと一緒の種族、つまり哺乳類、人間と一緒であるらしかった。もちろん水中に入っていられる時間は人間の比ではない。七つの海のティコくらいすごい潜ってられるらしい。

あと脱着した魚の部分は洗って日陰干しして、何日か彼女が着て脱いでを繰り返しているうちに徐々にきれいに、元通りなっていった。
彼女に仕組みを聞くと、
「私の元気が、この部分の色つやに連動してますので」
とのことであった。

なるほどなあ。

そんなこんなで、しばらく彼女との生活を共にして、すっかり元気になったころ合いを見て、彼女を海に帰した。

「元気で、もう二度と、こういう事にはならないようにね」
「はい、すいませんありがとうございます。何かなら何まで」
そうして彼女は深々と礼をして、人魚に戻って海に帰っていった。

車に乗って家に帰る段になって、少し泣いた。いや嘘。すごく泣いた。

それから一月後、家のチャイムが鳴り、アマゾンかと思って出てみると彼女が立っていた。大きなカバンをもっており、驚いた僕ごとそのまま家に押し入って、

「あの、不躾かもしれないんですけど、私をあなたの奥さんにしてほしいんです」
そう言われた。


そうして彼女は僕の奥さんになった。

そして家の家事やらをやってくれるようになった。実際彼女の料理はおいしい。
「やっぱり海でもそういうのがあるんだねえ」
と聞くと、
「あの、覚えてきました」
と、顔を伏せてちょっと恥ずかしそうに言われた。

僕はアンデルセンの人魚姫の話には別に詳しくはないけど、でもあれから考えると、こうなるという事はとても大変なことだと思う。

確か歩くだけで足に激痛が走るとか、なんかいろいろとあるんでしょ?海の掟とか、種族感のもめごととかあるんでしょう?

でも、彼女はその辺のことは一切言わないし、僕もあえて聞くことはしてない。歩くときも別に激痛が走ってるわけでもないみたいだし、一応聞いてみたけど、
「足痛くない?」
「いや別に大丈夫だけど」
って言ってるし。

何か必要になった時、何が問題が起こった時、彼女から話してくれたらいいと思う。


そうして数年が立ち、彼女は今やすっかり巷の女性と一緒だ。
僕がマーボーナス食べたいって言っても、カレーにされたりする。

あと、
「洗濯裏返して出すなっていってんだろ!」
って怒られたりする。

そこでまた初めて知ったんだけど人魚のあの魚の部分、あれはリバーシブルになってるらしい。人魚の時はあれを下半身に履くけど、リバーシブルにすると上半身をすっぽりと覆う魚人のそれになる。

彼女は怒った時、それを上半身にまとって怒ってくる。
「洗濯するやつの気持ちを考えろ!」
って、まるでなまはげみたいな感じなのだ。

リバーシブル

リバーシブル

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-09-23

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