エスプレッソの香りにつつまれて・・・

野良猫 舐め介

この小説はアナタのココロを映し出す鏡です・・・

第1話 極めた男



午前2時


24階の窓から見渡す街が俺を呼んでいる。


俺は青白く照らす間接照明の光の中、目の前の長鏡に映るマイクロブリーフ一枚だけを身にまとった自分の姿に落ち度がないか丹念に確認する。


部屋中に響き渡る音楽


喉に流し込むバーボン


ハードボイルドな俺のテーマソングは、もちろんピンクレディーの“渚のシンドバッド”である!


「ふふふのふ」


この危険でニヒルな微笑みを見て、街中の女どもは自分の子供達に俺の事を「絶対に話かけてはダメよ!」と忠告している。


自分の子供にまで嫉妬させるなんて、全く俺の微笑みはなんて罪深き微笑みであろうか・・


さてと・・・


そろそろ身支度を整える時間だ・・・


俺は真っ赤なYシャツに花柄の蝶ネクタイをつけ、全身スパンコールのスーツで完全武装した。


「よし!行くか!」


報道関係に籍を置く俺の朝は早い


玄関を出て階段で一気に下まで降り、俺は一階で待機させてあった自分の車をアスファルトに出した。



「ぶる~ん!ぶろろろ~~ん」



俺の口から出た軽快なエンジン音が深夜の闇に鳴り響いた。


周りの奴らは俺の車を「ママチャリ」とか呼んでいるがそんなことは気にしない。


俺は「ぶお~~~~ん」と叫びながら報道デスクへと車のペダルを踏んだ。


信号待ちで止まると必ず横の車の奴らの顔が引きつっているが、これも俺からにじみ出るカッコよさに焦って苦笑いをするしかないのであろう。


華麗なスピンターンを決め会社の前に車を止め、俺は自分のデスクの上に用意された重大な情報の詰まった書類を車のカゴに突っ込んだ。


「じゃあ行って来るぜ!」


俺はリーダーらしき男に一声かけ出発しようとすると


「最近奇声をあげて新聞を配っているって苦情がはいッ・・・」


全く何をいっているんだ?


俺は無能なリーダーの言葉を無視して車のエンジンをかける


「ぶろろ~ん~~ぶ~~~ん」


すると俺の最大のライバルである牛乳配達の若造が俺の前を凄いスピードで通り過ぎて行った。


「しまった!」


こうしてはいられない!


「ぶるるる~~~ぼぼぼぼうぃいいいい~~~ん」


俺は一気に車を前に走らせた。


第2話 彼女の事情




牛乳配達の若造との戦いはほぼ引き分けに終わり、俺は自分の隠れ家へと戻った。


そして車を縦列駐車させ24階まで一気に階段を駆け上がる。


玄関の前に立ち、鍵をポケットから取り出そうとしたその瞬間である!


「ちゃり~ん」


なんと鍵を足下に落としてしまった。


イカン!


やり直しだ!


この俺に凡ミスは許されない!


俺は即座にその鍵を拾いポケットに入れ一気にまた24階の階段を下まで降りた。


さぁイクゼ!


一階に着いた俺は気を引き締め、また階段を一気に上まで駆け上がった。


そして今度は鍵を落とさない様に慎重に取りだし、玄関の鍵穴に差し込み中へ入った。


全てが完璧である!



「ハ~イ!ハニー」


俺はいつものようにソファーでくつろいでいる彼女に優しく声をかけた。


もちろん返事は無い


俺の彼女は口ごたえをするどころか、何も言わず俺に忠実なのだ。




風は強いがいい天気である


俺は彼女をバルコニーへと連れ出し大きく深呼吸をした。


その時である!


突然の突風に煽られ、超軽量の彼女が宙に舞い手すりを超え下に落ちた。



「きゃあぁあああ~」



通行人の奇声がマンションの下から聞こえてきた。



大変である!


俺はエレベーターに飛び乗り1階へと急いだ・・・


俺は緊急事態の時にのみ、このエレベーターを利用しているのだ!



すでに人だかりが出来ていた


「ちょっと失敬する!」


俺はそういって転落した彼女のそばに行き彼女を抱きあげた。



(太ももの辺りが裂けているが今なら助かる)



そう判断した俺は彼女を背負い猛ダッシュで走った。


すぐにオペをしないと間に合わない。


俺は街角にポツンとたたずむ道具屋に入った。


「オイ!緊急オペだ!」


店主はあまりにもの非常事態に言葉を失っている。


「オイ!ガムテープは何処だ!」


俺の気迫におののいた店主は硬直し、ガムテープの置いてある場所を震える人差し指で指し示した。


「恩にきるぜ!おばちゃん!」


そう言い残し走りだした途端「どろぼ~」という店主の声が耳に入ってきたが今は緊急事態だ!


泥棒とオペでは救助の方が優先する


「おばちゃん!その泥棒は必ず捕まえてやるぜ!」



そうこうしているうちに角にあるオペ室に着いた。


「オイ!オヤジ!緊急オペの準備だ!酸素を持ってこい!」


俺はそうオヤジに言い残し彼女の太ももの裂け目をガムテープで閉じた。


「オイ!何を突っ立っているんだ!酸素を注入しろ!」


顔が引きつっている


ダメだ!気が動転している!俺がオペをするしかない!


俺は立てかけてあった酸素注入器を彼女の髪の毛の間に隠れているチュープにセットした。



よし!イクぜ!



俺は腕の上下運動を繰り返しやっとの思いで瀕死寸前の彼女を救った。




「オヤジいい車が入ったら買ってやるぜ!」


そう言い残し俺は彼女を背負いマンションへと戻った。




第3話 止められない力



マンションに辿りつき階段を上ろうとすると、いきなりお巡りさんが近づいて来た。



「キミかな?ベランダから卑猥なビニール人形を落として大騒ぎを巻き起こしたのは・・」



(卑猥なビニール人形?)



「ひょっとして私の彼女の事を云っているのかね?」



「キミねぇ~いい大人が何をいっているんだ!そういうモノは家の中から出してはダメなんだ!」



(そういうモノ・・モノ?俺の愛する彼女が・・そういうモノ?)



「お巡りさん!いくらなんでも怒りますよ!これ以上の暴言を吐くなら私もデビルマンに変身するしかありませんよ!」



「まぁいいから!とにかく署まで同行して貰います」



「お巡りさん!彼女は今オペが終わったばかりなんですよ!

同行なんか出来るわけありません!」



「人形じゃなくてキミが同行するの!その人形は部屋に置いてきなさい!」



何と理不尽な!


これが腐り果てた国家権力か!


もう我慢の限界である!



俺は即座に全ての衣装を脱ぎ捨て全裸になりしゃがみこみ、脱いだばかりの真っ黒なマイクログリーフを頭に被った。


「でび~~るま~~~~んに~~~変~~~~しぃ~~~ん~~とぉぉ!!」




お巡りさんは華麗かつ完璧な俺の変身に、口をポカンとあけ言葉も出ないようである。




「ふふふのふ・・また逢おうお巡りさん!」



俺はそう言い残し一気に彼女を背負い階段を駆け上がった。



そして玄関の前に立ったその瞬間



イカン!



変身して脱いだ時にズボンの中に玄関の鍵を忘れた。


俺はまだ傷の癒えぬ彼女を玄関にもたれて座らせ、猛ダッシュでもう一度階段を下まで降りた。


お巡りさんは遠目で俺に視線を送りながら無線で誰かと話をしていた。


俺は一目散に服を着直した後、もう一度変身を繰り返した。



「でび~~るま~~~~んに~~~変~~~~シィ~~~ん~~とぉぉ!!」



今度は鍵をしっかりと手の中に握りしめまた階段を猛ダッシュで駆け上がった。



玄関まで辿りついた時にパトカーのサイレンの音が近づいて来たが、

どこかの家に泥棒でも入ったのであろうか?



第4話 不審な住人



部屋の中に入り彼女を風呂に入れようと浴室にぬるま湯を溜めようとした。


その時、けたたましい勢いで玄関のチャイムが鳴った。


(ふぅ~出来る男に休息は無しか・・)


俺は仕方なくインターホン越しに「なんだね?」と答えた。


「今すぐ出てこい!」


聞きなれた声である。


この男は刑事であり相当俺の事を崇拝してやまぬらしく暇さえあれば我が邸を尋ねてくる。


俺は仕方なく玄関の鍵を開け、俺の事を崇拝してやまぬ刑事に問いかけた。




「またお前か?私に何の用だね?」



「・・・・取り敢えずその頭に被っているパンツをとって服を着ろ!」



イカン!


不覚にも変身したままの姿であったのを忘れていた。


全てやり直しだ!



さて・・この場合どこからやり直せばいいんだ?


俺がしばし顎に手をあて思考していると俺の事を崇拝してやまぬ刑事は


「早く服を着ろ!」と俺に再び助言を促してきた。



そうか!



俺は俺の事を崇拝してやまぬ刑事を撥ね退け、一階へと続く階段にまっすぐ走ろうとした。


その時である。


突然前方のエレベーターから若い女性が姿を現した。




「きゃあぁあああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」



変身した俺の姿に興奮を隠せなかったのであろう。


黄色い歓声と共にその女性はそのまま俺の向かう階段の方向に走っていった。



イカン!


グズグズはしていられない!



俺もその女性が走っていった階段方向に向かって走り出した・・・




第5話 迫りくる脅威



階段方向に走っていく女性の背後を追いかける形で、俺は後ろから階段をめざした。



女は「たすけてぇ~~!!」と絶叫しながら階段を下った。


(あの女にも危険が迫っているのか?)


(女を助ける方が先決だ!)


そう考えた俺は即座に女の背後に迫る勢いでスピードをあげた。


俺の気配を感じたのか、女が階段を駆け下りながら後ろを振り返った。


こういう時は満面の笑みを浮かべて安心させなければならないと思い、一度止まり腰に手をあてニッコリと微笑んだ。



「きゃぁあああああ!!!へんた~ぃ!わぁあ!!!ぎゃあああ!!!」



その瞬間である!


後ろから、さっき突き飛ばした俺の事を崇拝してやまぬ刑事がピストルを構え


「とまれ~~止まらないと本当に撃つぞ!」


そうか!



この女はあの俺の事を崇拝してやまぬ刑事に怯えているのか!



しめた!



俺は未だ変身中である。


こうなったら必殺技を使うしかない!



「お嬢さん!私の後ろに隠れて!」



「・・・・・・・・」



女は恐怖のあまり足がすくんでいるようだ・・・


仕方ない!


俺は頭の仮面を顎までひっぱり気合いを入れ、両手を俺の事を崇拝してやまぬ刑事に向かって大きく広げ渾身の力で



「デビィ~~る~~~バリやぁ~~~~ぷぷぷぷぷぅ~~~とぉぉ!!!」



よし!完璧に決まった!



これで大丈夫だ!



「お嬢さん!私は先を急ぐので失礼する!」


そう言い残し一目散に一階までの階段を再度駆け降りはじめた・・・




第6話 ヒーローの宿命




階段を途中まで駆け降り、ふと下を見ると、凄い人だかりが俺の事を指差して

見ている。



ふふふ・・皆がヒーローである俺に何かを期待している!


ここは群衆の期待に応えるべきであろう。



俺は即座にグリコのマラソンランナーのポーズをとり、群衆に向かって


「ア~イ・ア~~ム・でび~るま~~ン!」と雄叫びをあげた。



決まった!


完全に決まった!


痺れるほどに決まった!



携帯電話のカメラで撮影をしている奴もいる。


ヨシ!今なら飛べるはずである!


残る階はあと5階ほどである!




ここから群衆の中にダイブしてやろう・・・


そう決めた俺は階段の隅にあったブルーのシートを首に巻き、階段の手すりの

上に足をかけた。



「とおぉぉぉおおおぉおおお!!!!!」



俺は群衆に向かって勢いよく、まるでムササビのように両手を大きく広げ

飛んだのである。



第7話 Yの芸術 



微睡の中で俺は目を覚ました。




真っ白な天井が見える。


かすかに消毒液の匂いがする。


そして俺のカラダは白いベットの上にいる・・・



ここはどこだ?



首を横にたむけると俺の事を崇拝してやまぬ刑事の顔が目に入った。


俺が目を覚ましたことに気付いた俺の事を崇拝してやまぬ刑事は


「おぅ~お目覚めか?全くお前のようなキチガイは死ぬことも許されないんだな!」


そう云ってヘラヘラと微笑した。



「私は上手く飛べていたのか?着地は完璧だったのか?」


俺は即座に脳裏に浮かんだ質問を奴にぶつけた。



「あぁ~完璧すぎて笑っちまったぜ!いきなり植込みの樹木の中にパンツを被ったケツの穴丸出しのフリチンの人間が突き刺さっていたんだからよぉ~」



俺はその言葉を聞き光景を思い浮かべ、


「樹木との融合そしてY字バランス」

という作品テーマがふさわしいと歴然と思った。



さすがに群衆もこの体を張った芸術に称賛したに違いない。


俺の鍛え抜かれた肉体美が群衆を魅了してしまった。



「それにしてもあれだけの高さから飛び降りて、打撲傷とかすり傷しかしてない

なんて医者もビックリしてたぜ!」


「オイ!飛び降りたのではない!飛んだのだ!イテテテ!!!」


俺は微妙なニュアンスの違いをしっかりと正した。


「ハハハ、しばらくはじっとしてるんだな!俺は署に帰りまた来るからよぉ~

あと一応お前は俺の同級生なんだからよぉ~あんまり俺に迷惑かけるなよ」



そう言い残し奴は病室から出て行った。



(俺の事を崇拝してやまぬとは言え、同級生に向かってピストルを突きつけるなんて・・)


俺は若干の疑問も抱いたが、まぁいつもの洒落ということにしておこう。



奴をぼんやりと見送りながら窓の外に目をやった。


自由奔放な雲が風に身を任せるかのように流れている。


俺は知らぬ間にまた眠りについた。





第8話 窮地の使命




どれぐらい眠ったのだろう?



もう夜更けだろうか?


何やら息苦しい


その時である!


けたたましい音が鳴り響き、俺は一瞬で火災だと悟った。


俺はビックリしてすかさず病室のベッドから飛び起き外に出ようとした。



おっとイケない!



焦って飛び起きた姿は冷静かつ沈着な俺のキャラではない!


俺はまたベッドに戻り目をつむり直し、煙が立ち込めてきた中で起きた場面からやり直した。



病室から出ると廊下は真っ白で、悲鳴やら怒声やらが遠くから聞こえてくる。


俺は戦地に来た戦闘員のように匍匐前進で廊下を這いずった。


途中の廊下の壁際に爺が横たわっている。



「オイ同志よ!大丈夫か!私の背中に乗れ!」


「・・・・・・・・」


爺は白目をむいて気を失っている。


イカン!


限界が近づいている!


俺はガウンを脱ぎ爺が煙を吸わぬよう頭からかぶせ、お姫様抱っこをして前に進んだ。


煙の立ち込める勢いが増し、これ以上行ってもどこが出口だかさえわからない。


俺はすかさず廊下の窓をこじ開けた。


地上では消防車と人がごった返していた。


これ以上の前進は難しい・・・


そう判断した俺は気を失った爺を肩に担ぎ直し、窓枠へと足をかけた。



ここは3階である。


下には樹木が茂っている。


5階から飛べた俺である!


こうなったら飛ぶしかない!



よし!飛ぶぜ!



俺が勢いよく樹木の茂みに飛び込もうとしたその瞬間、タイミング悪く爺が意識を取り戻した。


頭から被っている俺のガウンから顔を出した途端、状況が掴めないらしく


「ちと尋ねるがここは天国かね?」と俺に聞いてきた。


「爺さん!天国か地獄か、これからのお楽しみだぜ!」


そういって俺は窓から爺を抱え茂みの中へ飛び込んだ。





第9話 地獄のバカンス




真っ暗な部屋の向こうから、天井より漏れる光の中を何やら気味の悪い婆さんが歩いて来る。



俺は十字架に縛られ身動きが取れない・・・



ここは一体どこなんだ???



気味の悪い婆さんは俺の前に立ち、おもむろに口を開いた。


「あっちの螺旋階段を昇るかね?降りるかね?」



(螺旋階段?)



俺は婆さんの視線の方向を見渡すと斜め右方向に螺旋状になった階段が見えた。



「どういう意味だね?」俺は意味がわからず尋ねた。



「上に昇れば沢山のおなごと酒にまみれた酒池肉林天国、

下に降りてゆけば下等なケダモノ達がお互いを喰いあう地獄じゃよ」



「なるほど・・じゃぁ婆さん地獄に送ってくれ!女と酒は腐るほど味わってきたからな」



俺はこういう窮地に立たされた時こそ、男の美学と見栄を張るべきだと思い心にもない答えをした。



「珍しい人間もいたものじゃ、ならば思い通り地獄に戻るがよい!」



(思い通り?どういう意味だ・・・・)




真っ白な天井が見える



なにやら消毒臭い



「・・・・・・・・・・」



「おぅ!お目覚めか?それにしてもどんな生命力してやがるんだ?」


俺の事を崇拝してやまぬ刑事である。


「ここは地獄か?お前も地獄に堕ちたのか?」


「ははは~頭を打ってさらにおかしくなったみたいだな」



(そういう事か!確かにこの世は下等なケダモノの喰いあいかも知れぬ・・)


俺は気味の悪い婆さんが云ってた言葉を漠然と思い出し納得した。



「ところであの一緒に飛んだ爺さんは死んだのか?」


「爺さんはお前の両足の骨折と破裂した内臓のクッションのおかげでもう退院してるぜ」


(退院?)



「私は何日寝てたんだ?」


「今日で丁度一週間だな!」



しまった!


イカン!マズイ!




俺は機密書類を運ばねば・・


俺は即座に起き上がろうとしたが


「イテテテ!」



身動きが出来ない・・・


俺の完成された体が、コントロールを失っている!


なぜだ???


「オイオイ!少なくとも3カ月は無理だぜ!」



何と云う事だ!



これでは牛乳配達の小僧に俺の縄張りを無茶苦茶にされてしまう。



「私の極秘危険任務は誰がやってるんだ!」


「あ~新聞配達なら俺がやってるぜ!一応お前の生きがいだからな!

もちろん連戦連勝だぜ!こっちはパトカーだからな!がははは~」



「・・・・・」


「じゃあ俺はそろそろ行くぜ!またな・・」


「あぁ~もう来るなよ!」



いつものように俺達は挨拶をかわし、奴は病室を出て行った。


第10話 ミステイク



全治三か月・・


神が与えたこの期間の俺の使命はなんであろうか?



そんな事を考えていると若い女が突然病室に入ってきた。


そしておもむろに俺の布団をまくり上げ、俺の着ているものを脱がそうとしたのである。




なんと大胆不敵な行動を・・・



「お嬢ちゃん、私が欲しいのかね?でもお嬢ちゃんには俺のイカスマンタケノコは刺激が強すぎると思うぜ!」



するとその女は、

手にしたタオルを濡らしながら小声で「想像以上のアホだわ!」と云った。



ん?


想像以上のアホ?


アホがいるのか?


どこだ???


しかしこの部屋には女と俺しかいない。


まさかこの俺がアホであるはずがない・・・



とすると・・・


想像以上のアホと聞こえた言葉が聞き間違いである可能性が高い。


え~と・・


そうか!


正解は・・・


「想像以上のアレだわ!」


と云ったに違いない。



しかし病院である!


何とふしだらな発言を・・


ゆとり教育のしわ寄せがこのような発言を生んでしまったのであろうか?



俺は彼女の言葉を許してやろうと思い、ピースサインを女に向かい満面の笑みを浮かべた。


すると・・


女は顔を引きつらせ明らかに動揺している。


イカン!


ついついクセで女をオトしてしまった・・・


俺は何て罪深き男なんだろう・・・



もうこうなると女は理性を止められない。


いきなり俺の想像を超えた行動をとったのである。


女はいきなり無言で俺の体をタオルで拭きだし、何と・・・



「おっ・・うっ・・」



「早っ!!!!あっ・・すみません!」



女はとっさに反応した俺の俊敏な行動に思わず賛辞を口に出してしまったのである。


「お嬢ちゃんいいんだよ でも彼氏と比べちゃ可哀そうだぜ!」


その言葉を聞き女は口に手を当てしゃがみこんだ。


そしてまたしても小声で


「キモっ!」




????


キモ?



俺は触らずして気持ちよくしてしまったのか?



しまった!



相手はまだ20代ソコソコの女である!


俺と云う存在が心と体を痺れさせてしまっている。


重ね重ね俺は何と罪深き男なんだろう。


ここには真っ白な同じ格好をした若い女が沢山いる。


これでは俺がいるせいで嫉妬の渦の中に女どもを閉じ込めてしまう事になる。


俺の存在が彼女達を狂わせ苦しめてしまう・・・


たった一人の俺と云う男の存在が・・・


あ~、神よ!


俺を3カ月間もこんな所に拘束するなんて・・・



危険だ!


実に危険である!


さてどうするか・・・




そんなことが頭を巡ったその時である!


ドアの向こうからコツコツとピンヒールの音が鳴り響き、こちらへと近づいて来たのである。


その聞き覚えのある足音に俺は寒気を感じた・・・


そして俺のもっとも苦手とするタイプのあの女が部屋の中に突然入ってきた。




その女の名はケメコ!!!




これは大変な事になる・・・


この部屋には俺と若い女二人きりである。


この光景をみたら、瞬時に彼女が俺に惚れていることがわかってしまう。



それにしても何故この場所が・・


そうか・・


俺は俺を崇拝してやまぬ刑事がケメコにこの場所を教えたことを漠然と認識した。




なんてことを・・・



これは大!大!大!非常事態である!!!





第11話 天敵ケメコ



ケメコは病室に入るなり、いきなり甲高い声で笑いだした。



「ぎゃははは~哀れね!」



「私の事かね?それとも彼女の事かね?」



「アンタに決まってるでしょ!」



「あっそうか!仕事とはいえアンタのチンケな下の世話をする看護婦さんの方も哀れかもね!ぎゃははは~」



なんという下劣な女であろうか?


看護婦とやらもケメコの発言に体を拭く手を止めて固まっている。



「で、私に何の用かね?」



「鍵、貸しなさいよ!アンタ全治3カ月と云う事は少なくとも1カ月は部屋が空くでしょ!」



何と理不尽な要求であろうか・・



俺は怒りが沸々と沸いて来たがここで変身をするわけにはいかない。




すると横から看護婦とやらがおもむろに口を挟んできた。



「彼女さんですか?」



「馬鹿ねぇ~こんな偏屈でビニール人形と暮らしている様な変人男に彼女なんているわけないでしょ!」



「ビニール人形???」



「そうよ!口のポッカリ開いたアレよ!変態でしょ?ぎゃははは~」




「・・・・・」



看護婦とやらもケメコの強烈な言動に言葉を失っている。



僕の大切な彼女をここまで侮辱するなんて・・・



もう限界である!


こうなったら変身するしかない!




俺は即座に上半身を起こし顔の前で両手をクロスさせた。



「ケメコ~~~お前は~この誇り高き~私の事を~~~

ゆぅ・るぅ・さぁ・んんん~~~うをぉぉぉ~~~でびぃ~~るぅ~~~!!!」



「バッカじゃないの!まだ変身ごっこなんてしているの?つべこべ言わず早く鍵を出しなさいよ!」




変身の決まり文句の途中に口出しするとは何と掟破りな・・・



天敵ケメコ!


もう許さない・・




俺は今日こそこの女と決着をつける覚悟を決めた。




第12話 破滅させたい女




恐るべしケメコ・・


この女をどうすればギャフンと言わせられるか?


しかし相手は既に戦闘モードに突入している。



「早く鍵を渡しなさいよ!」



「鍵などない!」



「嘘ついてるんじゃないわよ!嘘つきは泥棒の始まりよ!」



「それだったら私は嘘をつかなくともすでに泥棒だ!沢山の女性の心を知らぬうちに盗んでしまっている」



「あのねぇ~冗談はその股間のミノムシだけでいいの!早く出しなさいよ!」



「もうさっき出したからしばらくは出ない!」



「えっ!アンタたちそういう関係だったの?」



そう言ってマジマジとケメコは、俺と看護婦とやらの顔を悪趣味そうな目で見つめた。




その時である!



「ありえません!絶対ありえません!」


看護婦とやらは顔を真っ赤にして怒鳴るようにケメコに言葉を返した。


(ありえません?)


俺はさっき確かに出したのである。


そうか!


俺はとっさに看護婦とやらの心情を悟った。


彼女は照れているのである!


しかも平気で俺にタメ口をきく同性であるケメコに対する嫉妬心も重なり心にもない嘘をつかしてしまったのだ。


俺という存在が白衣の天使と形容される看護婦とやらに嘘をつかせてしまった・・



なんと俺は罪深き男であろうか・・


しかし・・


「そうね!ありえないわね!皮被ったミノムシじゃ~ねぇ~ごめんね~ひゃひゃひゃぁ~」




どこまでも下劣な・・・




俺は怒り震えその衝動に肛門が5mmほど開いてしまった。


その瞬間である!



「ぷっぷぷぷすぅ~~」


何とも締まりのない音が病室に響き渡った。



イカン!



大いにイカン!



この音は俺の意図する肛門から発する音ではない!


やり直さなければ!



俺は即座に寝て起きたところからやり直すことにした。



「ん?ここはどこだ?あれ?ケメコか?私に何か用かね?」



看護婦とやらは顔が引きつっている。



ケメコは言葉を失っている・・・




よし!


今がチャンスである!



俺は一気い起き上がり、外に飛び出ようとした。



しかし悪夢はその数秒後に訪れた。


俺は自分の足が両足骨折していることを忘れていたのである!


ベッドから転げ落ちた俺は、四つん這いで身動きがとれず下半身丸出しのままケメコの足元に着地してしまったのである・・・



第13話 忍び寄る恐怖



「ふふふふ~」


ケメコは不敵な笑いを浮かべた。


そしてケメコが次にとった行動は・・


なんと自分のカバンの中から携帯電話を取り出し、俺の四つん這いで下半身丸出しの姿をカメラに収めたのである。



「な・な・なにをするんだ!」


しまった!


イカン!


俺は動揺して「な」を、どもって「な・な・なに・・・」と本来使うはずのない「な」を2回も使ってしまった。


俺は即座に「なにをするんだ!下品なことは辞めたまえ!」と言い直した。



「アナタの配っている新聞のチラシに挟んでばら撒こうかしら?」



きょえ~~~


これは非常にイカンのねんのねん!



未だかつてない非常事態!!!



ここで「やれるもんならやってみろ!」と言いたいとろこだが、ケメコという女はそう言ったらやる女である!



看護婦とやらは完全に壁の色と同化して固まったままである!


このまま鍵を渡すしかないのか?


しかし以前ケメコに部屋を貸した時、いや突然転がり込んできた時と云った方が正解だが、壁に絵を描かれ、俺の彼女をクッション代わりに使い、さらに愛してやまない彼女をシワシワに老けさせた苦い記憶が蘇える。



ダメだ!


あまりにも危険過ぎる・・・



それにしても何故ケメコは俺の部屋を利用したいのであろうか?


前に転がり込んできた時もケメコは頑として理由を何も話さなかった。


そしてその時はなんの言葉も無く2週間ほどして、姿を忽然と眩ませたのである。



「なに想いにふけってるのよ!忙しいから早く鍵を渡しなさいよ!」



「忙しい?なんでだ?」



「引っ越しの荷物が入ってくるのよ!」



「えっ!?引っ越し?俺の部屋にか?俺が退院したらどうするんだ?」



「知らないわよ!そんなこと!」



恐るべし思考回路の持ち主



その名はケメコ!!!



そうだ!これは夢だ!悪夢に違いない!



しかしたとえ夢であってもその夢から覚めることが許される程、現実は甘く無かったのであった。




第14話 終わりの始まり



あっという間に退院の日を迎えた。


結局、俺はあの日ケメコに合い鍵を渡してしまった。


あれから約一か月と数日・・・


ケメコは病院には現れなかった。


きっと今頃、俺の部屋は俺の部屋で無くなり、俺の愛する女は酷い仕打ちを受けて息絶えているかもしれない。



病院の玄関まで松葉杖で歩いていくと、俺の事を崇拝してやまぬ刑事がパトカーで迎えに来ていた。


俺はパトカーに乗り込み一番気になっていたことを尋ねた。


「機密書類の運び屋の仕事はまだ続けてくれてるのか?」


「新聞配達か?あ~続けているぜ!まぁ今は俺じゃ無くてケメコがやってるんだけどな!がははは~」




(ケメコが・・!!!!!!!!きょえ~~~)


「オイ!それは本当か?」


「あ~本当だぜ一緒に牛乳も配ってるぜ!」


「牛乳も?私のライバルの小僧はどうなったんだ?」


「さぁ~なぁ~ケメコに食われちまってたりしてなぁ~がははは~」


笑い事では無い!


しかしケメコならやりかねない・・・


「そんなことよりもっと驚くことが起こってるぜ!帰ったらポストを見てみろよ!」


「ポスト?」


「あ~ポストだ!」



そうこうしているうちに俺を乗せたパトカーがマンションの下に着いた。


「じゃあ~なぁ~お祝いはそのうちしてやるからなぁ~がははは~」


そういって俺の事を崇拝してやまぬ刑事は俺を降ろし街へと消えて行った。


(退院祝いかぁ~まったく無茶苦茶な奴だが義理堅さだけは評価しておこう)



ふとマンションの中に入ると、ポストが目に飛び込んできた。



そして俺はおもむろに自分のポストを開けようとしたその時である!


なんとポストの表札の苗字が俺の苗字からケメコの苗字に変わっている。


しかもケメコの名前の方が上に書いてある。



これはどういうことだ?


そういえばさっき奴がニヤリとしながら言っていた「お祝い」と云う言葉・・・




まさか!!!!!!!!!!!



イカン!イカンのオカンのイカの塩辛である!


イカン!イカンのねんのねんの粘土で象さんを作るのは皮かぶりのキトウさんである!


緊急事態である!


俺は即座にエレベーターに飛び乗った。


そしてもう一本の合い鍵でマンションのドアを開けようとしたその時、


「ちゃりんちゃり~~ん」


しまった!



焦って鍵を下に落とした。


俺は死にそうになりながら松葉杖を駆使して階段で一階まで降りポストを見るところからやり直した。


そして再度エレベーターに乗り込み、玄関の鍵を開け部屋に入り、ソファーに寝そべってテレビを見ているケメコに、何で勝手にポストの名前を変えたのかをなるべく冷静さを装いながら聞いた。


すると俺のもっとも恐れていた言葉が聞こえてきた。


「あら?おかえり 一応結婚しておいたわよ!苗字は面倒だからアタイの方にしておいたわよ」



一応?


一応?とは?この場合に適切な表現なのか?


いやそんなことを気にしている場合では無い!


俺は冗談であって欲しいとの願いを込めケメコに尋ねた。


「婚姻届を出して籍も入れたのか?」



「そうよ」



きょきょきょぉえ~~~~~~




俺はあまりの衝撃に足の痛みも忘れ「これは夢なんだ!」と自分に何度も思い聞かせ、壁に何度も頭をぶつけ夢から覚めようとした。




「あら?なにやってるの?その壁今日塗り直したばかりだから頭がピンク色になっちゃうわよ!」


「あわわわぁ~」



その言葉を最後に俺はその日のその後の記憶を失った。




第15話 痛烈なダメージ



懐かしい天井を見つめ目覚めた。


(ふぅ~酷い夢を見たもんだ・・)



そして起きようと思い横を向くとピンクの壁が目に飛び込んできた。


(はぁ~やっぱり現実かぁ~)



そう云えば俺の愛する彼女は無事だろうか?


俺は足の痛みと何故か痛む頭の痛みをこらえリビングへと歩いた。


ケメコは外出したらしくそこには山積みになった煙草の吸い殻だけが残っていた。




それにしても何と悪趣味な・・


ピンクの壁に時間割の様なものが書いてある。


よく見ると・・・


炊事、洗濯、掃除が月曜日から土曜日に俺の名前が書いてある。


日曜日は何故か休みという文字が・・・



これはいったいどういう意味であろうか?



それにしても俺の彼女は何処にいるのだ?


俺はカーテンを開けバルコニーへ出た。


そしてそこで見たもの・・



彼女はこちらに背を向けテラスに座っていた。


俺はすかさず名前を呼んだ。


返事は無い・・・


よし!


俺はいつも通りの彼女の対応に安堵の息をついた。



可愛らしい帽子をかぶっている。


俺は正面に回り込み彼女を見た。


そして彼女を見て愕然とした・・・


何と彼女が被っていた、いや被らされていたものは真っ黒なオバサンパンツであった。



(ケメコだ!)



清純な俺の彼女が抵抗をしない事をいいことに、モノ干し竿代わりに俺の彼女の頭を使ったのである。


(俺の清純な彼女に黒いオバサンパンツを被せるなんて・・)



俺は怒りに震え、即座に頭からはぎ取り「このケダモノ!」といってケメコの黒いオバサンパンツを足で踏みつけてやった。


(ケッ!ザマ~みやがれ!)



俺はさらにその黒いオバサンパンツの股間にタバスコを一本塗り込み、画鋲で部屋のピンクの壁に張りつけにしてやった。


ピンクの壁に黒いオバサンパンツ



実に芸術である!



しかし俺のキャラとしてこの行動はあまりにも器が小さすぎる・・・


洗って干し直しておこう。



その時である!


ガチャガチャと云う音と共にケメコの姿が目に飛び込んできた。



イカン!



俺は慌ててケメコの黒いオバサンパンツを壁から取り、隠そうとしたが場所が見つからない。


こうなったら仕方が無い・・・


俺は即座に自分のマイクロショーツを脱ぎ頭に被り、ケメコの黒いオバサンパンツを下半身に身に着けた。



その5秒後である!



惨事は突然訪れた・・・



(ん????熱い!!ぎゃぁぁぁぁぁ~~~)



俺は黒いオバサンパンツにタバスコを塗り込んだ事を、すっかり忘れていた

のである。




第16話 虫になった男



下半身が燃えるように熱い!!!


まだ完治していない両足に力の入らない俺は、まるでイモムシのようにリビングの床の上を這いずり、もがき喘いでいた。



ケメコはその姿に驚くこと無く、冷蔵庫の中から冷えた缶ビールを手に取り冷笑し、


「相変わらずの変態ね!それ新しいプレーなの?」


と云いながらソファにもたれグビグビと音をたて缶ビールをノドに流し込んでいる。




イカン!


これは俺にとって、あってはならない光景である!


(ケメコに完全に主導権を握られている!何とか威厳を回復せねばならない)


そう考えた俺はケメコに、


「オイ!ケメコ!私をシャワールームまで連れていけ!」と命令口調で指示を出した。



「はぁ~?」



「だから私をシャワールームまで連れていけ!」



「ふふふ~いいわよ!お連れするわ!」



そう云ってケメコは缶ビールを片手にソファーから立ち上がり、いきなりタバスコのしみこんだ俺のデリケートな部分を蹴り上げた。



「いてぇ~~~~てて・~~てぎゃあぁぁ~~ぁ!!!!!!!」



俺はまるでゴキブリが地を這って逃げていくかのように、リビングの床を通り過ぎシャワー室の前の洗面台の排水溝の管に頭をぶつけ仰向けになって止まった。




「ぎゃははは~見事にお連れしたでしょ?」


ケメコは仰向けになった俺の上にまたがり上から見下し、まるで猫がネズミをいたぶるような目で屈辱的な言葉を俺に浴びせた。



(イカン!ここで怒ったらケメコの思う壺である)



俺は冷静に


「ケメコ~黒い毛糸のパンツが見えてるぜ!!にゃははは~」

と言い返してやった。




「はぁ~今日はパンツ履いてないわよ」


(履いてない?なぬ?どういう意味だ?)


俺は視線をうえに上げた。



「ん??・・・??」


「****きょえぇぇぇ~~~~」


なんと俺の目に飛び込んできたものは・・毛糸では無くただの毛だったのである。



第17話 記憶の扉




「オイ!ケメコ!親しき仲にも礼儀ありだろ!今すぐその毛むくじゃらを、私の目から撤収させろ!」


「はぁ~?アタイのパンツ履いて喜んで喘いでいるアンタに、そんな事を云われる筋合い無いわよ!だいたいノーパンはエコなのよ!」



俺は訳の分からぬケメコの言い分に頭が錯乱しそうになった。


その時である!


「お~~い~鍵が空いてたから入るぞ~~」


俺の事を崇拝してやまぬ刑事である。



ヤバイ!


この光景は実に俺にとって不味い!


しかし時は遅し・・



「あ~ら~イラっしゃい~~ビール呑む?」


ケメコは奴を見るなり俺にまたがったまま言葉をかけた。


「あ~勤務中だけど一本だけ頂くかなぁ~それにしても新婚早々これは新しいプレーか?がははは~」



「この変態アタイが帰ってきたら、アタイのパンツはいて頭に自分のパンツ被って悶えて遊んでいたのよ!全く困ったもんだわ!」



「オイ!違うだろ!私の彼女の頭にパンツが被せてあったから成敗してただけだろ!」



「成敗?アタイのパンツを履くことが成敗なの?その変態的発想は犯罪っていうのよ!」



「犯罪?何を言ってるんだ!勝手に婚姻届出す方がよっぽど犯罪だろ!」



「勝手に?アタイはアンタのプロポーズに応えてあげただけよ!変な言いがかり付けないでよね!」



(俺がプロポーズ?)



俺は目の前でそんな白々しい嘘を付くケメコの言葉にあっけにとられた。



すると二人のやり取りを黙って聞いていた俺の事を崇拝してやまぬ刑事が俺に向かってボソッと一言


「お前が悪い!」



ヒぃヤぁぁぁぁ~~なななな~~何でだ!


俺はもう混乱の渦である!


「オイ!何でだよ!嘘つきは泥棒の始まりだろ!お前刑事だろ!なんで俺が悪いんだ!あっ!!」



イカン!


イカンのねんのねん!



俺は普段は会話の中で「俺」ではなく「私」という言葉を用いるようにしているのであった。


しかし興奮して「俺」と言ってしまっている。


マズイ!


冷静さを欠くこの発言は本来の俺のあるべき姿ではない!


やり直さなければ・・



しかし次に放った俺の事を崇拝してやまぬ刑事の言葉に俺は放心してしまった。



「だったらお前が嘘つきの泥棒だな!お前は確かに俺の目の前でケメコにプロポーズをした」



(?????えっ!俺は二人いるのか?それとも俺は多重人格のサイコパスなのか?)



俺は恐る恐る聞いてみた・・


「いつだ?俺は酔っ払っていたのか?」




すると俺の事を崇拝してやまぬ刑事はこう即答した。


「俺達3人が小学校1年生の時だ!そうだよなケメコ~」


「あ~そうよ~確かに小学一年の時だったわ!」




きょえぇ~~~~~


(意味が・・意味がわからぬ・・確かにそんな記憶もあるが・・でも・・)


えぇええぇぇ~~~~



俺は股間の痛みも忘れ途方に暮れた。




第18話 怒りの代価




小学校1年生・・


遡ること30年ほど前の事である。



俺達3人は同級生であると共に同じ養護施設で15歳までの少年時代を過ごした。


いつも一緒に遊んでそしていつも一緒に叱られた。


子供の頃からやけに大人びて活発だったケメコに対し、俺達二人は金魚のフンのようにケメコの後ばかりを追っかけていた。


記憶を辿ればその頃の俺はケメコの事が好きだったという微かな覚えもあるが、たとえプロポーズをしたとしてもそれは子供の戯言である。


30年近くたった今頃になって履行されても戸惑うのは当然の事なのである。


現にケメコにしたってあれから数えきれない恋や失恋を繰り返し、俺はその度に散々トバッチリを受けてきたのである。




それが今頃になって・・



ケメコと俺のことを崇拝してやまぬ刑事は、放心している俺の事をほったらかし、リビングのソファーで何やらゲラゲラと笑いながら雑談をしている。



(はぁ~こいつら何なんだいったい・・でももうどうでもいい・・関わらないでおこう)


慣れてしまったのか股間の痛みはすっかりなくなっている。


俺はバスルームへと入り、股間からシャワーを浴びた。


シャワーを浴びバスローブを羽織り俺はリビングへと顔を出した。



俺の事を崇拝してやまぬ刑事は、勤務中だから一本なんて言っていたのにすでに3本目の缶ビールに手を付け、押収してきたであろうと思われる熟女モノの裏DVDをテレビにかぶり付いて見ている。


バーボンをラッパ飲みしていたケメコに至っては、ピンクの壁に下半身丸出しで股を開き逆立ちをして「犬神家のいちぞくぅ~~」とか訳のわからないことを云って1人で笑っている。




俺は半ばあきらめ状態で冷蔵庫の中にあったコーラを喉に流し込んだ。


(ん?ぬぬぬぬぅ~?おえぇぇぇ~~!!!)



なんとコーラの容器に入っていたのは、ケメコが悪戯したであろう麺つゆの原液だったのである!



その時である!



「はい!アタイの勝ちね!」


とケメコが手を差し出すと


「ケッ!マジかよ!」


と云って俺を崇拝してやまぬ刑事が財布から千円を抜き出しケメコに渡したのである。


二人は俺が麺つゆを気が付かずに飲むかどうかを賭けていたのである。



俺はその光景を嗚咽をしながら茫然と見ていたが、徐々に怒りの炎がメラメラと燃えあがり、冷蔵庫からマヨネーズを取り出し、両手に力を入れ二人に向かって発射した。



「きゃぁぁ~~なにすんのよ!」



「やめろぉ~~~~~」



(ざま~みやがれ~~にゃははは~)


形勢逆転である!



俺は目を押さえ重なった二人にむかってドロップキックを喰らわしてやろうと思い、ダイニングテーブルの上に飛び乗り



「とぉォォォォぉォォ!!!!!!」の掛け声と共に二人に向かってジャンプしようとした



その時!!!



俺は怒りで痛みこそ忘れていたが、実際完治してない両足で飛べるわけもなくイナバウアーの態勢で落下した。




がちゃ~~ぎゃちゃこ~~ん~ころんころ~~ん




「ぎゃあぁぁぁぁ~~~~~~~~~」




俺は股間を見事にソファーのテーブルの角にぶつけ、奇声と共に意識が遠のき

気絶をしてしまったのである。




第19話 裏切りのメッセージ



どれぐらい気絶していたのであろうか?



視線を斜め上にやるとケメコはソファで大いびきをかいている。


俺を崇拝してやまぬ刑事も、ケメコとテーブルを挟んだ反対側のソファーでヨダレを垂らしながら眠っている。



鈍い痛みと窮屈感を下半身に感じる。


俺は腰を起こし下半身に視線を落とした。


下半身にはバスタオルが掛けてある。


そしてそのバスタオルには何やら赤いマジックで文字の様なものが書いてある。



(ん?何が書いてあるんだ?)



俺は真っ白なバスタオルに書かれた文字を読んだ。



そこに書かれていた文字



“**本日より女の子になりました**”



(本日より女の子になりました?えっ?どういう意味だ?)


俺は恐る恐るバスタオルの中に手を入れた。



(ン?ん・ん・・・・・えっ?え・え・え~~~~~なんで~~本当にない!!)



きょえ~~~~~~


俺は慌てふためき俺の分身がそこら辺に落ちて無いかをキョロキョロと探しまくった。



(悪戯にも程がある・・俺の股間はどうなってしまったのだ?)


そして俺は下半身に目を落とし愕然とした。



ガムテープである!



俺の分身の上から肌色のガムテープが股間一杯に貼られていたのである。



なんてことを・・



俺は急いで剥がそうとしたが


「いててててぇ~~」


最悪である!


俺は何とか痛みの意識を和らげようと思い、頭の中で九九を思い浮かべ、七の段に達した時に一気にガムテープを剥ぎ取った。



「ぎょえぇ~~~うっ!うううぅ~」



何とも情けない声と共に俺の分身はすまさそうな顔をして姿を現した。



(こんな所にいたら気がおかしくなってしまう)



俺は足を引きずりバルコニーに出た。


そして俺はポツンとこちらに背を向け椅子に座っている、ケメコに頭から黒いおばさんパンツを被せられていた愛しい彼女を見つけた。



「寒かったかい?可哀そうに・・」


俺は彼女を抱きあげ風に飛ばされない様に注意深くリビングの中に入れた。



さてどうするか・・


その時である。



何かの夢でも見ていたのであろうか?


「う~うう~まてぇ~~」


と俺を崇拝してやまぬ刑事が寝言とともに寝がえりをうった。


そしてその拍子にズボンのポケットから、奴が通勤代わりに使用している覆面パトカーの鍵が床に落ちたのである。



(しめた!気分転換に愛しい彼女とドライブにいこう!)




俺は奴の覆面パトカーの鍵を握りしめナイトガウンを羽織り、彼女を肩に担いで、二人に気がつかれぬよう玄関を出た。


痛む足を引きずりながら24階の階段を下りる途中、2度程転んでまた最初からやり直したが、38分かかりなんとか地上に辿り着いた。


そして路上に止めてあった奴の覆面パトカーに彼女と一緒に乗り込んだ。



(右足はなんとか使えそうだ!これなら運転できる!)


そう確信した俺はエンジンをかけ、愛する彼女と一緒に真夜中のドライブを決行したのであった。




第20話 計画変更



彼女とのドライブは久しぶりである。


いつも二人乗りのマシンだが今日は屋根つきのタイヤが4本付いた安定感抜群の車である!



深夜の国道をひたすら海に向かって走った。


1時間ほど走ったであろうか?


片側2車線の交差点で信号待ちをしていると、隣に止まった車の運転手が驚いた顔でこちらを見ている。



(ん?なんだ?あっ!!いかん!)


俺は急いでマンションから出てきたので彼女に服を着させるのをすっかり忘れていたのである。


俺は即座に運転席を降り外に出て助手席のドアを開け、自分が羽織ってきたナイトガウンを彼女に着させた。



隣に止まった運転手は俺の行動にかなり共感したのであろう。


携帯電話で友達か誰かに俺の紳士的な振る舞いを報告しているようである。


俺は隣の車に近づき軽く手を挙げ挨拶しようとしたが、急発進して逃げて行ってしまった。


まったくシャイな奴である!


俺はまた車を海に向かって発進させた。


それから5分ほどしてからであろうか・・・


何やら無線機から「応答せよ!」らしきニュアンスの声が聞こえてきた。



私は無線機を取り、


「私に何か用かね?」と答えてみた


「貴様!何をしているんだ!」


何だか知らぬがやけに鼻息の荒い、俺を崇拝してやまぬ刑事の上司であることには間違いない。


「私かね?私は今、彼女とドライブ中だが・・私に何か用かね?」


俺はもう一度同じ返答をした。


「馬鹿者!すぐに女なんか降ろして不審者を追跡しろ!」


「不審者?どういう事かね?」


「海に抜ける国道で黒いセダンの車に乗った全裸の男が、ダッチワイフを助手席に乗せ走っているとの通報が今さっきあったのだ!ただちに追跡して捕まえなさい!」


「緊急事態な訳だね?しかし彼女は口が聞けぬうえに1人では歩けないので降ろせない」


「もう何でもいいから追跡しなさい!応援要請もただちに向かわせる!」

その言葉を最後に無線は途切れた。



緊急事態なら仕方あるまい!



黒いセダンの車と云う事はこの車と似たようなタイプである。


彼女も俺の正義感を解っていてくれている筈である。


海に抜ける国道ならこの道をまっすぐだ!



俺は備え付けてあったサイレンのボタンを押し猛スピードで犯人を追いかけた。





第21話 死へのピットイン




俺は海へと続く国道をサイレンを鳴らしながら車をひたすらぶっ飛ばした

速度計の針は時速40キロを超え50キロに達しようとしている。


俺愛用の2人乗りマシンを遥かに凌ぐスピードである。


窓を開けた彼女の頬を風がパタパタと音を立て彼女も気持ちよさそうである。


道は片側一車線に変わったため俺の後ろを応援要請のパトカーが何台か追っかけてきている。


奴らも俺のマシンのスピードに少し恐れをいだいているのであろう。


やたらと後ろからパッシングをして合図をしているが、俺は決してスピードを落とさなかった。



これは緊急事態なのだ!


その時である!



左前方のコンビニから20台ほどの暴走族と敬称されている若者たちが、俺の目の前に出てかなり遅いスピードで蛇行運転をしながら俺の行く手をふさいだのである。


俺はクラクションを鳴らしたがいっこうに道をあける気配がない。



(仕方がない!これは緊急事態なのだ!)



俺は一番後ろで何やら棒を振り回している二人乗りの若者の真後ろにピタリと車を着け、「でび~~~~る~あたっ~~くぅ~~」の掛け声とともに一気にアクセルをふかし車ごと突撃を食らわせた。


二人乗りの若者たちはぶつかった勢いでハンドルを切り損ねガードレールを飛び越え、横を流れる川に突っ込んでいった。



(許せ!これは緊急事態なのだ!)



俺の前を走る若者たちもその気配に気が付いたのである。


信じられないという表情で若者たちが俺の車を取り囲んで何かを叫んでいたがきっと緊迫した俺の状況を察したのであろう。


俺の姿を直視した途端に若者たちの顔は驚きの顔に変わり、反対車線に出て方向を次々と変え、Uターンをして逃げて行ってしまったのである。




さらに30分ほど走ったであろうか?


海はもう目の前である。


しかし追跡者は結局見当たらなかった。


(ガセネタだったのか?)


まぁいい・・とにかく俺の任務は終わった。



そう思いながら彼女との会話を楽しもうと防波堤に車を停めようとしたその瞬間、目の前を一匹の猫がいきなり飛び出してきた。




(イカン!)


俺は慌ててハンドルをきり間一髪猫を避けブレーキを踏んだ。



きききき~~~ぶお~~~~~ん~~ぶばお~~ん~~~



(な、な、なんだ?ひぇ~ぇぇぇ~~~~)


何とブレーキと思い、おもいっきり踏んだのはアクセルであった・・・



車は防波堤の輪留めを遥かに乗り越え、漆黒の深夜の海の中に真っ逆さまに堕ちて行ったのである。




第22話 守るべきもの



沈みゆく車の中で取り敢えず俺は彼女のシートベルトを外し窓から強引に彼女を外に出した。



海底から海面方向にまっすぐ伸びるヘッドライトに照らされた彼女はまるで人魚姫のように地上へと泳いで行った。



(うっ!苦しい)


彼女に見蕩れている場合ではない!



俺も何とか車を抜け出しヘッドライトに照らされた彼女の方向に向かって昇って行った。


息絶え絶えに水の中から顔を出した俺は月明かりを頼りに彼女を探した。


そして数分後仰向けになってプカプカと浮かんでいる彼女を見つけた。



1羽の海鳥が彼女の上にとまっている。


(大変だ!意識を失っているかも知れない)


足にすでに感覚がなくなっている俺は、手の力だけで何とか彼女に辿り着いた。



(イカン!)


彼女の体が異常に冷たい!



俺は仰向けになった彼女の上に体を預け、彼女を温めるために一生懸命痺れる腰を動かし、手で水をかき分けながら防波堤に見えるパトカーのサイレンを頼りに全ての力を注ぎこみ、やっとの思いで防波堤の下まで辿り着いた。



防波堤の上から警察らしき人物が懐中電灯のようなもので海面を照らしている。




(あそこまで行けば何とかなる・・)


しかしもう腕も動かない・・・


俺は彼女と熱い口づけをかわし心の中で


(少し痛いと思うが許してくれ!)


そして俺は彼女の頭と首の付け根の間にある栓を抜き思い切り抱きしめた。



プシュウ~~プクプクぅ~~



少し余力がついたのを利用して俺は最後の力を振り絞り光の円の中へと向かった。




「オイ!居たぞ!これに掴まれ!」


その声と共に一本のロープが下に降りてきた。



(このままでは彼女が危ない!)


そう判断した俺はそのロープに彼女の体を巻き付け「彼女を頼む!」とロープを投げた奴に向かって大声で叫んだ。




彼女が引き上げられていく姿がかすんで見える。


(よかった・・)


そしてその光景を最後に俺の意識と体力はそこで力尽きた・・・



第23話 噛み合わない歯車




あぁ~なんて温かくて、なんて柔らかい唇だろうか・・・



イカン!



俺には彼女がいる!


しかし・・


しかしぃ・・・


あぁ~


気持ちいいぃ~~



俺はあまりのスーパーテクニックKISSの誘惑に負け、自らも相手の首に両手を巻き付け舌を入れレロレロしてしまった。



すると遠くの方から絶叫ともとれる声が聞こえてきた。



「やめろぉ~~オエぇ~~~はなれろぉ~~」



(なんだ?)



数秒後・・誰かが俺を後ろから羽交い絞めにしようとしている気配を感じたそれと共に俺は急激な嘔吐に見舞われた。



「げぼ~げこぉ~~~ぶはぁ~~~~」


目をあけると警察官の恰好をしたオッサンの顔がある。


そして俺の手はそのオッサンの首元に巻きついている。



(なんだ?なんなんだ?え~ぇ~~~)




俺の口づけの相手はなんとこのオッサンだったのである!



何てことだ!


俺の怒りは、痛みや気持ち悪さを忘れさせ頂点に達した。


「オイ!私に何をするんだ!私が寝ているのをいいことに何て破廉恥な!

貴様のような変態は訴えてやる!ごほごほ~~おえぇ~~」



「お~~い~人工呼吸で意識を取り戻したぞ~~」別の警官がなにやら大きな声で叫んでいる。



(ここは何処だ?何がどうなっているんだ?)


そうだ!俺は彼女と共に海へ落ちたのだ!



「オイ!私の彼女は何処だ?」


俺は俺の唇をどさくさに紛れて奪った変態警官に聞いた。


「彼女?あの縄に引っ掛かっていたシワクチャのビニール人形の事か?

それならそこのゴミ袋に縄と一緒に入ってるが・・」



俺はその言葉を聞き一気に顔から血の気が引いた。


足を引きずり変態警官の指差す方向に辿り着くと、そこには無残な姿の彼女が瀕死の状態で折りたたまれていた。


「オイ!大至急オペだ!自転車屋を呼んで来い!」


俺の緊迫感迫る大声に変態警官は俺を落ち着かせようとしたのか・・・


「はぁ?アンタ大丈夫か?ところでアンタ舟から落ちたのか?それとも釣り人か?」

と訳の解らぬ質問をしてきた。


すると横からまたさっきの警官が現れ


「捜索船を出しましたが未だ見つかりません!」


その言葉を聞き変態警官は俺になにやら尋ねてきた。


「アンタこの防波堤から車が落ちたのを見なかったか?」


「馬鹿者!私が落ちたのだ!」


「それは解ったがサイレンを鳴らした黒いセダンが落ちたのを見なかったか?」


「だから見たと云うより私が落ちたといっているだろ!」


「アンタが落ちたのはよ~く解った!アンタ以外にうちの所轄の刑事が岸壁から

落ちたのだ!」


「あ~あいつなら俺のマンションで酔っ払って寝ているぜ!」



「・・・・・もういい!もうすぐ救急車が来るから一応それに乗って行きなさい!」


「彼女も連れて帰るぜ!」


「好きにしなさい!それと溺れて脱げてしまった服は諦めなさい!」

そう言葉を吐き捨て変態警官は何処かに行ってしまった。



10分程して救急車が到着した。


俺は彼女を自分が羽織っていた毛布に大事にくるみ、別の警官に促されるまま救急車に乗った。




第24話 影武者




俺は大丈夫だというのに酸素マスクを被せられ、訳の解らぬ器具を体中に付けられた。


すると頭の向こうの方から「あの覆面パトカーで海に落ちた刑事さん行方不明らしいわよ」という声が聞こえてきた。



(なるほど!そういうことか・・)



変態警官達やこの車の救急隊員達は、俺の事を崇拝してやまぬ刑事が覆面パトカーに乗っていたと思っているのである。


(これは俺に悪戯をした天罰だ!ザマーみやがれ!)


そう思いしばらくはニタニタしていた俺だが、ふとある疑問が頭を横切ったアイツが死んだ事になって刑事を殉職したらどうなるのだろう?



イカン!


これは非常にイカンのねんのねん!



ただでさえケメコと云う恐ろしい悪魔が部屋に棲みついているのである。



これで職を無くしたアイツまで棲みついたら・・




きょえぇ~~~~~



これは大至急誤解を解かなければ大変な事になる!


俺は酸素マスクを外し救急隊員に、


「オイ!その刑事は私だ!」

そう訴えた。


「えっ!本当ですか?」


驚いた顔で俺に問いかけた救急隊員に、俺は事の経緯を事細かに説明した。



「本当だ!全裸のダッチワイフ略奪犯人を追跡していて、海からサメに乗って逃げた犯人を追っかけている途中で、彼女が犠牲になりそうだったので取り敢えず彼女を救出して、変態警官に唇を強引に奪われたのだ!ひょっとしたら犯人はあの変態警官かも知れない!」



「・・・・・・・」



救急隊員は正義感あふれる俺のハードボイルドな行動と推測に、かなり感動して言葉を無くしている。


「オイ!私はここでいいから、海に戻りあの変態警官を逮捕するのだ!」



「・・・・・・・」


「何をグズグズしている!私を降ろし早く戻れ!」


「は、はい!でも一応確認のため刑事さんのお名前だけお聞かせ下さい」



俺は俺の事を崇拝してやまぬ刑事のフルネームを即座に答えた。


その後、救急隊員は無線で誰かとやり取りをしていたがすぐに俺の前に現れ

「大変失礼しました!」


「解ればいいのだ!早く私をここで降ろせ!そして変態警官を逮捕しろ!」


「しかし我々は職務が違うので・・」


「馬鹿者!これは緊急事態なのだ!」




「は、はい!でも刑事さんは・・」


「私はその彼女をいち早く処置しなくてはならぬ!後はキミたちに任せたぞ!」



「えっ!彼女?」


「そうだ!彼女だ!オトコならわかるだろ!」


「は、ない!でも刑事さん身につけるものは?」


「よし!ではそのヘルメットを貸せ!」



「えっ!・・・・・・」


「ヘルメットだ!緊急事態だ!早く貸せ!」


「は、はい!」


救急隊員は不思議そうな顔をしていたが俺の気迫に押され、俺はヘルメットを頭にかぶり彼女を小脇に抱え救急車から飛び降りた。




「イタタター!」


「大丈夫ですか?」


「私の事はいいから早く行け!」


「は、はい!」


やっとの事で救急車は俺を降ろし今来た道を、海に向かって引き返して走って行った。



第25話 ボロボロになりて候



(さてどうする・・)



そう思いながらしばらく歩くと、川に突っ込んでいった二人の乗っていたエンジン付き自転車がガードレールの脇に倒れていた。


(あの二人は何処にいったんだ?)


周りを見渡したが気配が無い。


俺はエンジン付き自転車を起こした。


鍵が付いている・・


何とか操縦できそうである。


俺は彼女の手を首にくくり付け、置き去りにされたエンジン付き自転車に跨り、エンジンをかけてみた。




ぶろろろ~~ん~~ぶろん~~ん~~


よし!エンジンは全開だ!



足を使わなくても大丈夫な自転車である!


ヘルメットも被っている。




彼女も首にキツク手を巻き付けたので風に飛ばされることもないだろう。




もうすぐ夜明けだ!


これで帰るしかない!


そう決めた俺は一目散に来た道を走り出した。



彼女はまるで俺のマントと同化したのではないのかと思うぐらいの喜びようで、風にその身を任せバタバタと音を立て舞っている。


素っ裸の俺に当たる風も心地よい。


途中ですれ違った車が2台ほど急ブレーキをかけたが、それは俺の走る姿があまりにも決まり過ぎていて映画のロケか何かと勘違いしたのであろう。


モテる男はどこにいても注目されてしまう・・


全く困ったものだ!




そして俺は夜明け前寸前に、ようやくケメコと俺を崇拝してやまない刑事が滞在している俺のマンションに辿りつくことが出来た。


ヘロヘロになりながらも俺は24階までの階段を上り、マンションの玄関で鍵を開けようとした。



その時である!


イカン!


俺は決してしてはならぬ重要な過ちを犯した事に気がついた。



(玄関の鍵がない!)


きょえぇ~~~~~



すべてやり直しである!


そう思い海に引き返そうとしたその時・・・


ガチャガチャ



眠たそうな顔をしたケメコが俺の部屋から出てきたのである。


「アンタ裸にヘルメット被って何やてるのよ!アタイ配達に行って来るから邪魔なの!そこどきなさいよ!このイカレポンチの変態男!」


「なにがイカのポテチの変身オタクだ!」


「はぁ?2、3回死になさいよ!」


そう吐き捨てケメコはエレベーターに乗り込み行ってしまった。



それにしてもこの様な場合どうすればよいのだろう?


すべてが完璧な俺は、朦朧とする意識の中しばし考えた。



(俺はやり直さなくてこのまま部屋に入ってもいいのだろうか?)



一瞬そう考えたが背中に背負っている彼女をこれ以上風にあたらせては危険だと判断し、俺は仕方なく玄関の中に入る決意をした。



玄関の中に入ると俺の事を崇拝してやまぬ刑事が、リビングをウロウロとしていた。


俺は彼女を風呂場に置き、リビングへと行き「どうしたんだ?」と尋ねた。


すると俺の事を崇拝してやまぬ刑事は俺には視線を送らず、じゅうたんに視線を落としながらおもむろに口を開いた。



「おう!朝帰りか?俺の車の鍵を見なかったか?」





第26話 大きな代償




「鍵?鍵なら海の中に沈んだ覆面パトカーに付いてると思うが・・」


「海に沈んだ?どういう事だ?」


「詳しくは知らんが私は少なくとも鍵は付けっぱなしにしておいた」


「まさか!お前、乗り回していたのか?」


「まさかではない!!私が乗り回していて緊急事態に巻き込まれ海に落ちて犯人の変態警官は、今頃取調室の中でかつ丼を食っている頃である!」


「はぁ?車は海に落ちたままか?」


「そんなことは知らん!同僚に聞きたまえ!」



「あのなぁ~あの車の中には吉野家の50円割引券がまだ2枚残っていたんだ!お前どう責任を取るつもりだ!」



「私はそんなこと知らん!きっとケメコと二人で私に悪戯をした天罰である!」



「馬鹿やろ~お前逆の立場だったらどうする?50円の割引券2枚だぞ!」


「それは耐えられない苦痛だ!」



「だろ?だったら責任を少しは感じて何とかしろよ!」


「何を私にしろというのだ?」


「超極秘任務だ!」


俺は極秘任務と云う言葉の響きに弱い。


しかも超極秘なのである!


断る理由はそこに存在しない。


俺は奴に、はやる気持ちを悟られぬ様「案件は何だ?」と低い声で尋ねた。



「これをお前に渡すから俺の代わりに黒猫組の事務所に行って、拳銃を2、3丁押収してきて欲しいのだ!」


そう云って俺を崇拝してやまぬ刑事は自分の警察手帳を俺に手渡した。



「わかった私が引き受けよう!しかしこれで割引券の件は恨みっこだしだ!いいな!」


「おぅ~恨みっこなしだ!今日の昼過ぎまでには頼むぜ!」


「昼過ぎ?それは無理だ!私は彼女のオペで自転車屋に行かなければならないのだ!」


「パンク修理か?いや、オペは俺がちゃんとやっておくから、心配せずにとにかく行ってきてくれ!」


「わかった!その代わり口が聞けないからと云って彼女に変なことをしたら許さないからな!」


「あ~了解だ!あっ!それとヘルメットに全裸じゃ危険だからよ~フライパンぐらい持って行けよ!」


「私に心配は御無用!こんな日のために用意しておいたスーパーマンTシャツがあるのだ!ブリーフの下に履くタイツはそこに脱いであるケメコのパンストを代用させて頂こう」


「デビルマンじゃないのか?まぁ何でもいいから早く変身して出かけてくれ!」


奴はそう言い残し風呂場で静養させていた俺の彼女を小脇に抱えマンションから出て行った。




第27話 脅しの切り札




午前7時である!


今日の俺はスーパーマン気分なのである!



俺はシャワーを浴び超極秘任務を遂行するが如く着々と準備を進めた。


全身を映す鏡の前でポーズをとってみる。


青のスーパーマンTシャツ

真っ赤な超マイクロビキニパンツ

肌色のケメコのパンスト

黒いナイロン靴下

先のとがった白のエナメルの革靴

首には黄色のスカーフ

頭にはピンクのシャンプーハット・・・



これ以上ない完璧さである!


オッとイケない!



相手は人間社会のクズとは云えども強敵である!


一応股間には風呂場で彼女を洗う時に使っている、緑の水鉄砲を忍ばせておこう

足の痛みは若干残っているが、これぐらいのハンデは相手に与えてやろう。



午前9時を少しまわっている。


(そろそろいくか・・)


俺は玄関を出て階段で下まで降りた。


いくら超特殊任務とはいえ超ストイックな俺は、決してエレベーターは使わない。


それが男の美学と云うものだ!


俺は朝方乗ってきたエンジン付き自転車にまたがった。


「ぶる~~んぶろろろ~~ん~~」


おっと!イケナイ!


これはエンジンの音を口で発しなくてもよいタイプであった!


俺は一回エンジン付き自転車から降り、24階の部屋まで階段で戻り玄関を出るところからやり直した。



(時間が無い!急ごう!)



俺はエンジン付き自転車に再度またがり、ここから10キロ程離れた繁華街のど真ん中にある黒猫組の事務所を目指した。


途中、行き交う人達が振り返ってまで俺の事を注目している。


一緒に写メでも撮ってやりたいが、なんせ今日は超特殊任務である!


熱いまなざしを振り切って、俺はエンジン付き自転車を黒猫組まで走らせた。



そして俺は遂に黒猫組の事務所に辿り着いたのである!



鍵の掛かっていた鉄格子の門を乗り越えると監視カメラが作動したせいか、事務所の玄関からツルッパゲの頭に蛇の刺青をした、子分らしき若者が俺の前に飛び出て来た。



「なんだ!てめぇ~は!」


「見て解らぬか!私はスーパーマンである!」


「はぁ~?てめぇ~そんな恰好してキチガイか?さっさと帰らねぇ~と痛い目に合わせるぞ!」



「ところで質問だがキミは何故黒猫組なのに頭に書いてある絵は蛇なのかね?」


「あのなぁ~オッサン!そんな事はどうでもいいんだよ!とっとと帰れや!」

「帰ってもいいがキミに吉野家の50円割引券が弁償出来るのかね?」


「牛丼??オッサンなんなんだ?俺に因縁をつけているのか?」


「べつに牛丼にインゲンを付けて欲しいとは言っていない、私は割引券の事を言っているのだ!」


「はぁ~?インゲンもヘチマもある訳ないだろ!割引券か何だか知らねぇ~がくだらねぇ事ばかり云ってるとタダですまねぇ~ぞ!」


「ヘチマは嫌いだ!それに私はタダで牛丼を食べたいと云っているわけではない!たとえ割引券があったとしても残金はちゃんと支払う所存である!」


「あのさぁ~オッサン結局何が言いたい訳?いい加減にしてくれよ!」


「じゃあ超特殊任務の概略を簡潔に述べよう、取り敢えず拳銃を2、3丁出したまえ!そうしたら割引券の件はチャラにしてやる!」


そう伝え終えると玄関の向こうから「オイ!何をやってるんだ!」と親分らしき人のドスのきいた渋い声が聞こえてきた。


「はい、カシラ!スミマセン!こいついきなり表の門を乗り越えて入ってきて訳のわからない事ばかり云ってくるんですよぉ~」


するとその男が俺に向かって口を開いた。


「お前ここが何処なのか解っていて乗り込んで来たのか?」


「ここがゴミにもならないクズばかりが生息している、小汚いところだって云う事は知っているが・・私が入って来て何か問題でもあるのかね?」


するとさっきまで俺の相手をしていた子分らしき男がいきなり怒鳴り声をあげた。



「なにぃ!!てめぇ~!!」



俺はとっさに右手を前に出し、


「キミは黙っていたまえ、私はそのカツラの人と話がしたいのだ!」


「カツラ??・・・・てめぇ~カシラにむかって何言いやがるんだ!もう許せねぇ!」


現場は一気に緊迫した空気に包まれた。



第28話 隠された取引



怒り狂った子分はいきなり俺に殴りかかろうとしてきた。


その時である!



「やめておけ!お前に勝てる相手では無い!」と親分が子分に向かって一喝した。



「えっ!カシラ!なんでです?こんなキチガイ一発で倒せますぜ!」



「もういいからお前は事務所の掃除に戻れ!」



「へ、へぇ!でも・・」



「いいから行け!」



「へ、へぇ!じゃあアッシはこれで・・・・オイ!キチガイ!カシラになんかしやがったらタダですまねぇ~からな!」



そう吐き捨て子分は俺を睨みつけて、トボトボと事務所の裏へと戻っていった。




黙って事の成り行きを見ていた俺に、親分はボソッと口を開いた・・・


「なんで解った?」


「なにがだね?」


俺は質問の意味が理解出来ず親分に尋ねた。


「カツラだ!なぜこの10数年間、誰にもバレなかった俺の髪がカツラだと一瞬で見抜いたのだ?」


「それはアンタの子分が俺に教えたからだ!」


「そんな嘘はいい!何故解ったのだ?」


「だから耳で解ったのだ!」


「耳?耳元の生え際で解ったのか?凄い洞察力だ!」


「そんな事はどうでもよい!私は忙しいのだ!拳銃を早く出せ!」


「拳銃?お前は何者なんだ?」


「見て解るだろ!私はスーパーマンだ!」


「・・・・・・・・」


「・・・・・・・・」


「誰に頼まれて来た?」


「こいつだ・・」


俺はそう云って俺の事を崇拝してやまない刑事から預かってきた警察手帳を親分に提示した。



「なるほど・・あの恐喝刑事のまわし者か!お前も警察の者か?」


「私は超極秘任務にかかわっているだけで警察の者では無い!」


「こんな所に1人で来て怖く無かったのか?」


「私が怖いのはお化けとミミズだけだ!」


「ほぅ~度胸の据わったいい兄さんだ!どうだいこの俺の顧問を引き受けてくれないかね?」


「アンタの肛門を引き受けろ?私にはそんな趣味は無い!それだけは勘弁してくれ!」



「顧問をすれば、食いっぱぐれは無くなるぞ!」


「私はアンタの肛門にしてまで、食って生きたいとは思わぬ!」


「それは残念だ!またいつでも遊びに来たらいい」


「オイ!ごまかすな!拳銃を出せ!」


「あのなぁ~兄さん・・拳銃だせ!って云ったって、はいどうぞ!って差し出す奴がいると思うのか?」


「私なら出せる!」


「なら出して見せてみろ!」


俺はその言葉と同時に股間をまさぐり緑の水鉄砲を出した。


「ほら出したぜ!アンタも出せよ!」


「・・・・・・・」


「・・・・・・・」



「はっはっはっ~まったく面白い兄さんだ!解ったちょっと待ってろ!」


そう云って親分は事務所の奥へと入って行った。


数分後戻ってきた親分は何やらDVDらしきモノを持って現れた。


「何だそれは?」


「兄さん、あのろくでなしの恐喝刑事に頼まれて来たんだろ?」


「あ~そうだが・・それは拳銃では無い!」


「いいんだこれで・・あのろくでなしは拳銃なんて全く興味無いし、何かとイチャモンをつけて結局これが欲しいだけなんだからよぉ~」


『おかあさんとバナナごっこ』


DVDのタイトルである。


「う~ん・・なまじっか嘘ではないみたいだな!」


「それを持っていけば兄さんの顔も立つだろう」


「わかった・・私は急ぐのでこれで失礼する」


「ちょっと待ちな!兄さんはこれを持っていきな!その水鉄砲よりは役に立つと思うしな!」


そう云って俺に茶色の紙に包まれたズシリと重みのあるモノを俺に手渡した。


「じゃあ気を付けて帰りな!」


親分はそう言い残し俺に背を向け事務所の奥へと消えていった。



俺は鉄格子の門をよじ登り注意深く降りエンジン付き自転車にまたがった。


(これはいったいなんなんだ?)


茶色の紙に包まれたズシリと重いモノの中身を見ると、それは見事に黒光りした拳銃であった。


(あの親分粋な事をするではないか・・)


そう思いながら来た道を俺はまた戻っていった。



第29話 裏切りの結末




俺は無事に任務を果たし帰り道を急いだ。


商店街を抜けマンションへと続く道に左折しようとした途端、角のコンビニの前に沢山の人だかりが出来ていた。


パトカーも数台止まっている。



(何があったんだ?)


俺はエンジン付き自転車を側道に停め、人だかりの最後列にいた商店街の魚屋のオッサンに「何があったんだ?」と尋ねた。


「強盗が女店員を人質に立てこもっているんだってよ!」


「それは本当か?」


「あぁコンビニ強盗らしいぜ」


「違う!女店員っていうのは本当か?」


「・・あっ・・そうだけど・・アンタに関係あるのか?」


「私には全く関係が無い!」


「・・・・・・・・・・・」


「これは私の出番だな!」


「はぁ?危ないから首を突っ込まない方がいいと思うが・・・」



俺は魚屋のオッサンを無視して人ゴミをかき分け最前列へと出た。


警察官が何やら集まって話をしている。


俺は立ち入り禁止の黄色いテープをまたぎ、何の躊躇もなくそこに停めてあった自転車を担ぎ上げ、コンビニの玄関に思いっきり投げつけた。


ガシャ~ン!!!


俺はあっけにとられている警察官達に、俺に任せろと云わんばかりにピースサインだけを送り犯人が立てこもっている店内へと入って行った。



「オイ!なんだてめぇは!!」


「ターミネーターだ!と言いたいところだがスーパーマンだ!人質を解放しろ!事件は現場で起こっているんだ!室井くん!」


「は~ぁ?なにを訳の解らねぇ事をゴタゴタぬかしてやがるんだ!この人質が見えねぇのか!」


そう云って犯人は刃物をちらつかせた。


「キミは歳はいくつだ!」


「はぁ?そんなことどうでもいいだろ!」


「アンタは黙っていろ!私はその清楚な女性に尋ねているのだ!」


清楚な女店員は怯えて声も出せないらしい。


その様子を見て犯人が唐突に口開いた・・・


「・・・・お前は頭がおかしいのか?」


「う~ん、いかんなぁ~、その刃物じゃ~、いまいちスケールにかけるなぁ~

オイ!その刃物を私に渡してこれに持ち替えろ!」


そう云って俺は親分から貰った拳銃を犯人に差し出した。


「そんな手に誰がのると思うんだ!それオモチャだろ!」



バーン!!



俺は犯人の真横にあったガムが並んであるケースに向かって拳銃をぶっ放した。



「きゃぁぁぁぁ!!!!」


「ひえぇぇぇぇ!!!」


犯人と清楚な女店員の見事なハーモーニーが店内にこだました。



「早くこの拳銃に持ち替えろ!」


そう言った途端、犯人は「助けてぇ~」と言いながら人質をほったらかし店外に逃げていき警察官たちに取り押さえられた。



腰が抜けたらしくその場で震えて失禁している清楚な女店員に俺は手を差し伸べたが、清楚な女店員は錯乱して床に落ちたガムを俺に投げつけてきた。


俺は仕方なく自分の履いていた真っ赤なマイクロブリーフを脱ぎ、清楚な女店員の目の前に置き、


「キミが失禁した事は私との永遠の秘密にしておこう、それに履き替えて帰るがいい・・」とだけ言い残しコンビニの外に出た。



そして取り押さえられている犯人に「忘れものだ!」と云って親分から貰った拳銃を犯人の足元に投げた。


犯人は警察官に「違う!この拳銃は俺のじゃない!」と何度も訴えていたが、俺がやると決めた時点で所有権が犯人に譲渡されたわけで、「アンタのものだ!」ともう一度男気を見せて犯人にきっぱり拳銃を譲ってやった。


「コンビニ拳銃強盗犯確保」と警察官が無線で誰かに報告していた。


少しニュアンスは違うと思ったが、俺は敢えてそんな重箱の隅をつつくような訂正をするような小さい男ではない。



さて・・ヒーローに長居は無用だ!


俺は何もなかったかのように遠くから聞こえる「ちょっと待ちなさい!」警察官の制止を振り切り、エンジン付き自転車に乗りマンションへの帰路を急いだ・・・





第30話 飛べないスーパーマン




もう彼女のオペは終わっていることだろう・・・


俺を崇拝してやまぬ刑事が、彼女が無口なことをいいことに手を出さぬとも限らない。


早く帰らねば・・


そう思った矢先である!


プスプス・ぷすぅ~~


エンジン付き自転車がガスを全て使いこなし放屁して力尽きたのである!



イカン!



マンションまでは此処からまだ5キロ以上はある!


まてよ!


今日の俺はスーパーマンである!


飛ぼう!


いや!飛ぶしかないんだ!


そう固く心に決めた俺は大きく両手を天に向かってVの字にひろげ、横断歩道の真ん中で

「とぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」


おれ?


おかしい?



信号待ちをしていた車の中のカップルが、信号が青になったのにもかかわらず笑い転げている。


何故なんだ?どうしたんだ?


俺は取り敢えずエンジン付き自転車を引きながら歩道へと渡り、何がいけなかったのか考えた。


すると俺の横をチラチラ見ながら通り過ぎようとした母親らしき女性に連れられた黄色い帽子をかぶった子供が、


「ママ!あのスーパーマンのおじちゃんパンツはいてないよ!」

と云ったのである!



あっ!そうか!


そうだったのか!


俺は失禁したコンビニの清楚な女店員に真っ赤な買い黒ブリーフをあげてしまったのである!




母親らしき女性は子供を抱えるように小走りに去っていこうとしている!


緊急事態だ!



「オイ!ちょっと待ってくれ!」


俺はその母親らしき女性に声をかけた。


するともの凄い勢いで、


「なんですか!!警察呼びますよ!」

と俺を睨み付けたのである。


「違う!私はただ頼み事がしたいだけなのだ!」


「いったいなんなんですか!!」


「奥さん!アンタいま何色のパンティを履いているんだ?」



すると母親らしき女性に抱えられた子供が、


「ママは真っ赤なひものおぱんちゅだよ!」と即答した。


俺はその言葉を聞き、即座に母親らしき女性に、


「私に今履いている奥さんのパンティを貸して欲しいのだが・・」


すると真っ赤な顔をしていた母親らしき女性の顔は、さらに鬼の形相に変わり

俺のまだ治りきってない足を突然蹴り上げた。


「ぎゃあぁぁぁ~~」


俺はバランスを崩しエンジン付き自転車と共に道路に転がった。



「なによ!この変態!!!あ~キモチワル!」


そう言い残し小走りに子供を抱えるように引きずり去って行ってしまった。


照れているとは云え、酷い言葉使いである。



仕方ない!


こうなったら赤いブリーフを買おう!


俺は痛む足を引きずりながら交差点角にあった「本・CD・DVD高価買取」と云う看板の店に入っていった。



「いらっ・・・しゃ・・・・・きゃあぁぁ!!!」


レジにいた若い女はスーパーマンが突然入ってきた事に興奮し、黄色い奇声をあげた。


すると嫉妬でもしたのであろうか、奥の方から店長らしき男が俺と彼女の方に走ってやってきた。


「どうしたんですか?」


「店長・・このお客さん・・」


そうレジにいた若い女がそう云うと、店長らしき男は俺を上から下まで舐めまわすように見て、


「お客さん困ります!」


俺は意味が解らず、


「困っているのは私だ!これを買い取ってくれ!」



と云って親分から預かった「おかあさんとバナナごっこ」のDVDを店長らしき男に差し出した。


「お客さんいい加減にして下さいよ!だいたい当店では裏モノのDVDなんて買い取れません!帰って下さい!」


「そうか・・ダメか・・じゃあこの辺で赤いパンツを売っている店は何処にあるのだ?」


「赤いパンツ?知りませんよ!そんなもの・・」


「じゃあいい!そこにある赤いガムテープを譲ってくれ!」


「いいですが・・すぐに店から出て行ってくれますか?」


「あ~約束しよう!」



俺の言葉を聞き店長らしき男は、渋々俺に赤いガムテープを手渡してくれた。


(よし!これで大丈夫なはずだ!)


俺は店から出てすぐに赤いガムテープを相撲取りがまわしをするように、下半身にグルグルと巻き付け再び両手をVの字にひろげ、




「トぉォォォぉ!!!!!ト・とぉォォぉ!!!!!!!」



(何故だ!なぜなんだ!)



何度やっても飛ぶことが出来ない!


俺はがっくりと膝をついた。


その時である!


前方から俺のマシンに乗ったケメコが凄いスピードで走ってきたのである。




第31話 天使と悪魔



「お~~い~ケメコぉ~~~とまれぇ~~~」


俺は両手を広げケメコを止めようとした。


しかしケメコのスピードはいっこうに落ちない。


きっと急ブレーキを踏んで俺を驚かせるという幼稚な作戦であろう。


仕方ない騙されたフリをしてやろう。


まったくいつまでも世話の焼ける女である!



「だぁ~りぃ~~ん~いくわよ~ぎゃははは~~」


ケメコは下品に笑いこけながら片腕を水平に伸ばして俺に迫ってきた。



(なんだあのポーズは?)


そして直線にして約5m手前で、ケメコは俺の真正面から少し右に寄りその水平に伸ばした腕を俺の首に向かってぶち当ててきたのである!



グギッ!!ごきっ!


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


首と腰が一緒に反対側に曲がり、俺はイナバウアーの態勢で宙に浮き上がりそのまま背中から地面に叩きつけられたのである!



「ぎゃははは~ば~~か~~ばっはは~~い」


そのままケメコは振り返る事もせず行ってしまった。


「いててててぇ~」


くそ~なんて女だ!


いやアイツは女では無い!



オッペケペイだ!


オッペケペイの毛だ!


アイツはたった今からケメコではなくただの毛だ!


陰毛だ!チリチリだの毛だ!


♪毛・毛・ゲゲゲの毛ぇ~~


あははは~~



もう歌を唄って笑うしかないのである!



立ちあがる事も出来ず青空を見ながら唄っていると、いきなり頭の上から「オイ!大丈夫か?」と聞き慣れた声が聞こえてきた。



「彼女はどうした?」


「あ~あのダッチワイフなら修理してリビングのソファーに置いてきたぜ!」


「ダッチワイフでは無い!修理とはなんだ!イテテテぇ~」


「変質者がいる!って通報があって来てみたがやっぱりお前だったな」


「そんな事はどうでもいいから私をマンションに連れて行ってくれ!」


「あ~連行するには充分な恰好だな!まったくしょうがねぇ~なぁ~」


そう云って俺の事を崇拝してやまぬ刑事は俺に肩を貸し車まで運んでくれた


まっ黒な高級ドイツ車であった。


「オイ!この車どうしたんだ?」


俺は奴に素朴な疑問を奴に投げつけた。



「次の車が来るまでの代車だぜ!カッコいいだろ?」


「代車?どうせヤバいところから勝手に持って来たんだろ?」


「がははは~」


奴は笑ってごまかしていたが、きっと図星だったに違いない。


「そういえばこれ預かってきたぜ!」


俺は黒猫組の親分から預かったDVDを奴に渡した。


「お~任務終了か?これはなかなかいい拳銃じゃねぇ~か!ありがとよぉ~」


「拳銃じゃねぇ~し!」



その後くだらない会話がしばらく続き、やっと俺を乗せた車は彼女の待つマンション下に辿り着いた。


「じゃあまたな・・」


奴はそう一言俺に残し何処かに走って行った。



(イカン!早く彼女を避難させないとケメコが帰って来てしまう・・)



そう思いながらマンションのオートロックの暗唱番号を押し、痛む腰と足を引きずりながら24階までと続く階段を這うようにしてのぼり、やっとの事で俺は部屋の中へと入った。



奴の云った通り彼女は完璧なオペを受け、ソファーで俺を待っていてくれた。



その姿を見て安心したせいか俺はソファーに倒れこむようにして、いつのまにか眠りについてしまった・・





第32話 極秘プロジェクト



どれくらい眠ったのであろうか?


俺は自分のベッドに寝かされていた。


彼女も何故か横で眠っている。


俺は目を擦りながら時計に目をやった。


午前1時を少し過ぎたところである。


耳を凝らすとリビングの方から薄明かりと共に微かな話ごえが聞こえてくる。


声の主はもちろんケメコと俺の事を崇拝してやまぬ刑事の二人である。



「本当にやるのか?」



「もちろんよ!」



「大丈夫か?」



「大丈夫よ!アイツはただ出せばいいだけだし・・・」



「でもアイツやったこと無いと思うぜ!」



「アタイだってやったことが無いわ!」



「えっ!!マジか!?どうやってやるのか知っているのか?」



「だいたいは本で勉強したから大丈夫よ!アイツだって人形相手に練習してるんじゃないの?」



「名前はもう決めてあるのか?」



「決めているわよ。愛が来る夢って書いてアイカムよ!」



「愛来夢?アイツ知ってるのか?」


「知らないわよ、知ったらかえってややこしくなって面倒な事になるでしょ?出来てから云えばいいのよ。」


「それも一理あるな・・・」




これは大変な事になった・・・


ケメコは俺との子供を作ろうとしている。


しかしケメコがまだ男を知らないなんて・・・


いや今はそんな事はどうでもいい・・・


これは超緊急事態である。


いったい俺はどうすればいいのだ?


今、奴らの前に出て行くのは非常に危険である。


取り敢えず今は聞かなかったフリをしておこう。


俺は気配を消しまたベッドの中に戻った。


そしてそこにスヤスヤと眠る彼女の横顔をしばらく見つめていた。



「絶対に彼女を裏切る事は出来ない・・・」



そうか!


その手があったか!



俺はベッドから再び飛び起きリビングへと行き、さっきの二人の会話を何も聞かなかったフリをして奴らに向かって、



「今まで隠していたが重大な発表がある!」

とだけ伝えた。




第33話 偽りの告白



「おう~起きたのか?神妙な顔をしてどうしたんだ?」


俺の事を崇拝してやまぬ刑事が、そう俺に尋ねた後でバーボンを喉に流し込んだ。

ケメコは頭をかきながら怪訝そうな顔をして俺を見ている。



「実は子供が出来た・・・」



ゲボッ!


俺の突然の重大発表に俺の事を崇拝してやまぬ刑事は、喉を押さえケメコの方を見て、


「お前らそうだったのか?」


するとケメコは、


「冗談じゃないわよ!!気持ち悪いわねぇ~」




「違う!今ベッドにスヤスヤと眠っている彼女に子供が出来たんだ!彼女も産むと言っている!」


俺はその嘘が悟られぬ様に真剣な表情で二人にそう訴えた。



「はぁ?お前何を言ってるんだ?お前の彼女ってビニールのアレだろ?」



「ビニールのアレとは何だ!!失敬な!!」



「・・・・・がははは~オイ!ケメコ、こいつ遂に狂っちまったぜ!」



「狂っているのは今に始まった事じゃないでしょ!変な夢でも見てたんじゃないの?ほかっておけばいいのよ!」




おかしい・・・


俺の演技がわざとらし過ぎたのか???


まぁいい


作戦をこのまま続けよう・・・


俺は動揺した表情を悟られぬ様に二人に向かって言葉を続けた。



「だから、、ケメコ、、俺との子供の事は諦めてくれ!頼む!!」




「はぁ~??子供?、、、諦めてくれも何もアンタみたいなキチガイの子供を産むなんて想像もしたくないわ!だいたいそんなビニール臭い租チンに興味もないわ!気持ち悪い!」



あれ?


何かが変である!


俺は思いきって尋ねた


「お前ら何を企んでるんだ?」



その言葉を聞いたケメコは、俺の事を崇拝してやまぬ刑事に俺に何も言わぬ様にと首を横に何度も振った。



「オイ!ケメコ!何を企んでるんだ!」


俺はもう一度二人に向かって同じセリフを繰り返した。




「うるさいわね!明日まで待ってなさいよ!」


そう吐き捨てケメコは立ち上がり俺から奪い取った部屋の一室に入って行った。



「さて・・・俺も帰るぜ!明日また来るからよぉ~」


そう云って俺の事を崇拝してやまぬ刑事もグラスに残っていたバーボンを一気に飲み干し帰って行った。



(なんなんだよ~俺ばっかり、、のけものにしやがって・・・)



でもこうなれば明日まで待つしかない・・・


そう自分に言い聞かせ俺はシャワーを浴び、スヤスヤと眠る彼女のベッドに再び潜り込み深い眠りについた。



第34話 理不尽な夢



目が覚め時計に目をやると午前10時を少しまわっている。


彼女は眠り姫の様にスヤスヤと眠っている。


香ばしい香りが俺の寝室の中を包んでいる。


俺はガウンを羽織り香りの漏れてくる方向へと足を進めた。



「この豆を使うのならエスプレッソにした方がいいと思うわよ。」


「そうだなぁ~この豆ならドリップじゃなくてエスプレッソだな・・・」


ケメコと俺の事を崇拝してやまぬ刑事は、何やら専門用語を用いながら珈琲を作っている模様である。




「私にも珈琲を入れてくれたまえ。」



「はぁ?下の自動販売機で買ってきなさいよ!」



「そこにあるではないか!」



「もうウザいわねぇ~だいたいアンタはコーヒー牛乳しか飲めないでしょ!」



「いいから飲ませてくれ」



「まぁいいんじゃねぇ~のか!ほらこれ飲めよ」


ケメコをたしなめるようにして俺の事を崇拝してやまぬ刑事は俺に出来たての珈琲を差し出した。



俺はそのコーヒーの香りを嗅ぎ、



「ほぉ~これがエロブラッソかね・・実に香ばしいいい香りであるが、、しかしカップに洗剤が残っていて泡立っているのは気を付けたまえ。」




「あのなぁ~エロブラッソじゃねぇ~し、泡は洗剤じゃねぇ~し、これから喫茶店をやるんだからそれぐらいの知識は勉強しておけよなぁ~」




「はぁ?喫茶店?何の話だね?私は初耳なのだが・・・」



「お前、夢も忘れたのか?」



「何の事だね?」



「小学生の卒業アルバムに喫茶店をやるって3人で一緒の事を書いただろ?」



「それがなんで今なんだ?」



「ケメコが今やるって決めたんなら仕方ないだろ~俺だってさっき職場に辞表を出してきたばかりなんだからよォ~」



「はぁ?お前、、警察辞めたのか?」



「あ~あんなもん誰でも出来るしアルバイトみたいなものだったからよぉ~がははは~」



確かにあの頃の俺たちの中ではケメコの云う事は絶対という暗黙の決まりがあった。



だからと云って長年働いてきたきた仕事を即座に辞めてしまうとは・・・



「私の今やっている天職はどうなるんだ?」



「お前の天職も転職だわなぁ~がははは~~」



「・・・・・・・」


俺はその理不尽な言動に話す気も失せ珈琲をひとくち口にした。



「おえっ!に、にがいぃ~~~」



「かっこつけてブラックなんて飲むからだよ~がははは~」



するとケメコがキッチンの方からこっちを睨みつけ、


「ちょっと!アンタたち下らない事ばかり云ってないで手伝いなさいよ!」



「はいはい。ケメコ姫のご指示とあらば・・・」


そう云って俺の事を崇拝してやまぬ元刑事ケメコの方にすすり寄っていった。


全く調子のいい奴である・・・




俺も仕方なくキッチンの方に歩み寄り二人に向かって、



「私は何をすればいいのだ?」


と尋ねた。



その言葉にケメコはリビングの方向を指さし、


「アンタはそのテーブルの上のチラシを御近所さん配って来なさいよ!」


と投げ捨てる様に俺に指示した。



俺はリビングへと戻りテーブルの上に置かれてあったチラシに目を向けた。





純喫茶  愛来夢 近日オープン




そして俺はそのチラシの書き込みを見て卒倒しそうになったのである。



なんとその喫茶店の地図に記載された住所は、今まさに俺が住んでいるこの部屋だったのである。




第35話 占拠された部屋


この部屋で喫茶店を開店させるなんてどう考えても不可能である。


これはきっと何かの間違いである。



俺はキッチンの二人に向かって、


「喫茶店の住所が違っていると思うのだが・・・」

と伝えた。



するとケメコから、


「間違ってなんかないわよ!早く配って来なさいよ!そこに置いてあるガムテープも忘れないで持って行きなさいよ!」


と、、有り得ない言葉が返ってきたのである。



ここは暗証番号の付いたオートロック式の居住用マンションである。


一階に店舗を構えるならまだしもここは24階である。


しかもこの場所で営業許可などおりる筈も無い。


きっと俺の事を崇拝してやまぬ元刑事が裏で脅迫まがいの事をして対処したに違いない。



全くなんて奴らだ・・・


何の相談も無く俺の部屋を勝手に占拠しやがって・・・



けしからん!


ここは厳しく一喝してやらないとイカン!



俺は奴らに向かって



「このオタンコな~~す!!ば~ぁ~~か~ばか~ばぁ~~~か!!!」



そう云い放って俺はダッシュでテーブルのチラシとガムテープを持って玄関を出た。


これで奴らも少しは俺の怖さを悟った事であろう。




さて・・・


後はこのチラシをどうするかである。


近所なんかに絶対に配ってはならない。


そんな事をしたら俺目当ての女性客で溢れかえり、彼女の俺に対するヤキモチが炸裂するであろう。


普段無口な女ほど怒った時は怖いのである。



白いシルクのガウン一枚を羽織って出て来た俺の鍛え抜かれた体のシルエットが、

強い光に照らされ透け透けの透明感及び解放感は抜群である。



取り敢えず俺は手に持っているチラシをマンションから数十メートル離れた場所に設置された、選挙用ポスターが貼ってある掲示板の空いている所すべてにギッシリと貼り付けた。



まだチラシはたくさん残っている。



俺は再度マンションの下へと戻り、ケメコへと乗り継がれたマシンのカゴにチラシを入れ、

まだ完治とは云えない足の痛みを堪えながら繁華街へと続く国道を走りだした。




第36話 女学生




どれぐらいの距離を走ったのであろうか?


ピンクレディーの渚のシンドバッドを丁度20回歌ったと云う事は1時間以上は走った事になるのだろう・・・



はて?


ここは何処だ?


道を何度も曲がったせいか迷子になってしまった模様である。


ミスターパーフェクトを自負する俺だが、たまにはこの様なイレギュラーを楽しむのも良い。



俺は寂れた公園にの脇にマシンを停め公園の中に足を踏み入れた。


誰も見当たらない公園である。


俺は汗でびしょ濡れになった白いシルクのガウンを公園に備え付けられた水飲み場で洗い木の枝に干した。


全裸になった俺は股間に持ってきたチラシを貼り付け、ベンチに横たわり雲の流れをずっと見ていた。



それにしても周りに樹木が多いせいか、やけに風が心地よい。


俺はいつの間にか風のゆりかごの中で眠ってしまった。



どれぐらい眠っていたのであろうか?


夢と現実の狭間の様な空間で誰かの声だけが聞こえる・・・



「この変態オヤジ酔っぱらって寝てるの?」



「ひょっとして死んでるんじゃないの?」




俺はその言葉に逆行するかのように目をパッと見開いた。



「きゃぁぁぁぁぁ!!」



俺の視界には学校帰りであろうと思われるセーラー服を身にまとった二人の女学生の姿が飛び込んできた。



「私に何か用かね?」



「・・・・・プッ! ワタクシにだって!ウケるんだけど!」



「私でなければ私は誰なんだね?キミは私の背後霊とでも話せる力があるのかね?」


そう云うともう一人の女学生は「気持ち悪いから早く行こうよ!」ともう一人の女学生の手を引っ張った。


すると手を引っ張られた女学生は


「帰っていいよ!この変態オヤジ少し面白そうだし」



「危ないわよ!この辺はよく痴漢が出るって云うし・・・」



「大丈夫!これがあるから」


そう云ってその女学生はスプレーみたいなものをカバンから取り出した。



「知らないからね!」


「じゃぁまた明日ね~」



その様なやり取りの後、手を引っ張った方の女学生は帰って行ってしまった。


一人残った方の女学生は俺が寝ていた横のベンチに座り、何やらじっと俺の方を見ている。


俺は干しておいた木の方に歩いていき掛けてあった白いシルクのガウンを羽織り、

水飲み場で顔を洗い、またさっきまで寝ていたベンチに戻り腰をおろした。



女学生は俺の横で俺とは視線を合わさず正面の木を見つめながら、



「オジサン・・・」



「何だね?」



「オジサンって変態なの?」



「私が変態に見えるかね?」



「充分見えるけど・・・」



「だったら変態でよい」



「そう・・・だったら変態のオジサンにいい事を教えてあげる。」



「何だね?」



「死ぬの・・・」



「誰がだね?」



「ワタシよ・・・」



「そうかね」



「あれ?驚いてくれないの?」



「それぐらいの事で驚く人がいるのかね?」



「みんな驚くよ!そしてみんな偽善者ぶって止めようとするわ・・・」



「なるほど」



「オジサンは止めないの?」



「とめませんよ」



「ふ~ん・・・」



それからしばらくの間、女学生は何も話さず前方の木をずっと眺めていた。


そして俺もその木をずっと眺めていた。



すると突然その女学生は何かを思いついたように、



「オジサン恋人いるの?」



「あぁいるよ」



「えっ!マジ!?どんな人?」



「人間では無い・・・特殊な質感を持ち合わせている」



「特殊な質感?」



「そうだ」



「それってビニールで出来たダッチワイフとかいう人形のこと?」



「そんな下品な形容はやめたまえ!純愛だ!」



「だってお人形さんなんでしょ?」



「そうとも云うが、そうでもないのだ!」



「話すことだって出来ないじゃん。」



「無口でも心が通じ合っているから問題は無い。」



「なんで純愛だって云い切れるの?」



「お互いがお互いを裏切らないからだ」



「ふ~ん・・・」



そうしてまた女学生はまた前方の木を見つめ沈黙した。



第37話 パーフェクト道程




再度の沈黙の中カラスが啼いた


そして女学生はまた口を開いた



「オジサン人間嫌いなの?」



「嫌いではないが興味もない。」



「死にたいと思った事は?」



「残念ながら私にはそんな事を考える心の強さを持ち合わせていない。」



「死にたいって考えてる人って強いの?」



「キミは死にたいって誰かに言っているんだろ?」



「うん。」



「人間は死にたいって誰かに口に出した時点で、心の中では必死に生きようとする強さを蓄えているのだ。」



「ふ~ん。なんだか難しくて、よくわかんないんだけど・・・」



「別に解らなくてもよい事だ。」



「ふ~ん。そうなんだぁ~」



暫くの無言の後、女学生は目先を少し上にあげてさらに俺に



「オジサンって援助交際とかするの?」



「しない。」



「ワタシとする?」



「馬鹿者!私は援助されてまで交際してもらうほど落ちぶれてはおらん。」



「はぁ?オジサン、、逆よ!オジサンがワタシに援助するんだよ!」



「つまりキミを私が助けてその代わりに友達になると云う事かね?そんな面倒な取引なら断る。」



「あのね~オジサン原始人?エッチよ!エッチ・・・でもワタシがもし援助はいらないって言ったらするでしょ?」



「エッチとは生殖行為の事かね?私にはまだ早すぎるから遠慮しておこう。」



「えっ?まだ?早すぎる?オジサン童貞なの?」



「私の前に道は無し・・・」



「なにそれ?」



「道程だ!」



「マジなの?一回もした事無いんだぁ~」



「読んだ事はある。」



「ふ~ん。結局、経験はない訳ね!」



「経験なんて関係ないのだ!道程とは私の生きてきた証なのだ!」



「はぁ?」



「私こそがパーフェクト道程なのである!」



「パーフェクト童貞って・・・オジサンそんなこと威張れる事でもないと思うんだけど・・・」



「まぁいい。キミにも私の凄さが理解できる時がそのうち来るだろう。」



「あのぅ~理解したくないんですけど・・・」



そう云って女学生は初めて俺の方を向き、俺に向かって悪戯っぽい笑顔で微笑んだ。


俺も女学生にピースサインだけを送った。



「あ~あ。何だかオジサンといたら悩んでいる事が馬鹿らしくなってきたよ~。じゃぁワタシ帰るねぇ~」



「あぁ~気をつけて帰りなさい。それと今度死にたくなったら援助珈琲を出してあげるからここを訪ねるがよい。」


そう云って俺は女学生にチラシを一枚手渡した。



「は~い。でもこのチラシそこら辺でオジサン拾ってきたんでしょ!」


そう云い残し女学生はバイバイをしながら自転車に乗って去って行った。




もう夕暮れである。


帰ろう・・・


しかしここは何処なんだ?


そう思い周りを見ていると俺の事を崇拝してやまぬ元刑事が公園の向こう側を歩いている。


これぞまさしく天の助けである。


俺は俺の事を崇拝してやまぬ元刑事に「お~い~」と声をかけ、奴の所にマシンを押し足早に駆け寄っていった。




「お前こんな所で何をやってるんだ?」



「実は迷子になった・・・」



「迷子?迷子ってここはお前のマンションの裏にある公園だぜ!」



「なぬ!!!」




驚いた


心底驚いた・・・


狐につままれるとはこの事である。



俺は歌を唄いながら何度も道をまわっているうちに、結局自分のマンションの裏の公園に辿りついていたのである。




第38話 無償の愛



「お前チラシ全然減ってないじゃないかよ!」



「もちろんだ!寝てたのにどうやって配れと云うのだ!」



「そう云う問題じゃないだろ!ケメコに叱られるぜ!」



「なんで私を巻き込むのだ!私は人間相手の仕事なんかしたくないのだ!」



「だって、、、ケメコがよぉ~」



「だってもへったくれもないだろう~ケメコ、ケメコって弱みでも握られているのか?」



「弱みなんてないけどよぉ~」



「だったら惚れているのか?」



「バカ言ってるんじゃねぇ~よ!俺はこう見えても一途なんだ!」



「園長先生か?もうとっくに還暦を超えてるんじゃないのか?」



「あぁ~来月で68歳だ」



「そう云うのをママポンとか云うんだろ?」



「ははは~マザコンのことか?ビニール人形しか愛せないお前にとやかく言われる筋合いはねぇ~よ!」



「下品な事を言うものではない!私たちは不思議な力で通じ合っているのだ!」




「う~ん・・・だったらケメコはどうするんだ?アイツお前に惚れてるぜ!」



「ケメコが私に?そんな事は天と地がドラえもんになっても有り得ない事だ!だいたいアイツの男癖の悪さのおかげで私がどれだけの迷惑を被ってきたのかお前だって知ってるはずだ。」




「お前は本当に鈍感だなぁ~アレはケメコのお前に対する愛情表現だよ!あれだけのイイ女が今まで誰にも股を開かなかったんだぜ!」



「なんでそんなことがお前にわかるんだ?」



「ケメコがトラブルを起こした男どもは全員、俺がとっちめて吐かせた情報だから嘘じゃないと思うぜ。」



「なんでお前ケメコにそこまで肩入れするんだ?」



「だからよぉ~養護施設を出る時に園長先生からケメコと俺は、とても社会に適応出来無さそうもないお前の事を頼まれたんだよ!だから俺はお前を守る為に刑事になったんだ!そうじゃなけりゃお前5~6回はブタ箱の中に入ってたと思うぜ!」



「どういう事だ!なんなんだ!だいたいケメコだってあの頃からハチャメチャしてたじゃないか!」



「ケメコは人間の枠の中でのハチャメチャだろ?お前のイカレっぷりとは種類が違うんだよ!」



「種類?なにが種類だ!恐喝元刑事のくせして偉そうに言うなよ!ケメコだって男から金ばっかり巻き上げて挙げ句の果てにトラブル起こしてるんだろ?私が一番マトモじゃないのか?」



「俺はともかく、ケメコは違う。」



「どこが違うんだ?」



「ケメコはお前のマンションの家賃を払う為にやってたんだ・・・」



「なに?家賃?あれはケメコが宝くじに当たって買ったけど気にいらないから私に住めって言ったんだぞ!」



「お前さぁ~そんなオイシイ話を信じていたのか?あのマンションは公園に寝泊まりして、子供たちから石を投げつけられていたお前の為にケメコが借りたんだよ!」




「・・・・・・・・」




「今日俺がお前に話した事は絶対にケメコには内緒だぜ!」




俺はそんなこと・・・・



そんなこと・・・



・・・・・・・



「なんだよ!!!お前もケメコも・・俺・・・じゃない・・・私の事をいつまでも子供扱いしやがって!!カッコつけてるんじゃねぇ~~よ!!おおばかやろぉ~~~」



俺は居た堪れない気持ちになり、マシンのカゴの中にあったチラシを俺の事を崇拝してやまぬ元刑事に向かって投げつけ、すっかりと日の暮れた道をあても無く走り続けた。




ケメコが・・・



俺の事を・・・




辛辣な思いで胸がはちきれそうになった俺はさらに走り続け、気が付いた時には幼年時代から少年、そして青年に至るまでを過ごした養護施設の前に忽然と立っていた。




第39話 帰郷



(なんだこれ?ちょっとオンボロになっただけで、あの頃とほとんど変わっていない・・・)


施設と云うよりは老朽化した廃墟に近いその建物は、国道から数キロ入った山道へと続く細い道の片隅にひっそりと建っていた。


俺はマシンから降り施設の敷地へとマシンを押しながら入っていった。


そして俺はマシンを施設の小脇に停め、切れかかった電灯の下に照らされた玄関の前に立ち「失礼する!」と大きな声で云い放ち一気に引き戸を開けて中に入った。



するとその奥からズボンを腰の下まで下げ、オウムみたいな頭をした若い男が現れ


「園長先生ならまだいねぇ~よ!」と俺に投げつけるように無愛想に云い放った。



俺はその彼に向い



「私に何か用かね?」と尋ねてみた。



「はぁ~?おっさん誰かに呼ばれてきたのか?」



「いや、、誰にも呼ばれてはいない。」



「・・・・??おっさん頭が逝かれているのか?ここには何にも無いぜ!気持ち悪いから帰れよ!」



「私の頭はイカでは無い!気持ち悪いのはキミのズボンの履き方である。」



「はぁぁ!!おっさん自分の格好見て言ってるのか?早く帰んないとぶっ飛ばすぞ!!」



「若いと云う事は勢いがあって実に良い!よかろう私をぶっ飛ばしてみたまえ!」



「・・・・なんだと!!!このやろう~~」


そう云ってズボンを上手く履く事の出来ない若者は俺に拳を振り上げてきた。


俺はとっさに自分の頭をその拳に合わせて頭頂部でその拳を受け止めた。



「痛ててててぇ~~」



うめき声の後、ズボンを上手く履く事の出来ない若者は右手を上下にプラプラとさせ、その場にうずくまった。



「これで私の頭がイカではない事がわかったかね?」



「うっ、うるせぇ~~」



すると廊下の奥の方から「どうしたの~?」と云って聞いた事のある様な声の主が玄関の方に走ってきた。



「あっ!変態オジサンだ!」



「あっ!キミか!どうしたんだ?援助交際なら断った筈であるのだが・・・」



それを聞いたズボンを上手く履く事の出来ない若者は、



「援助交際?お前がこのおっさんを呼んだのか?このおっさんいったい何なんだ?」と先ほど公園で出会った女学生にくってかかった。



「違うわよ!でもなんでオジサンここに来たの?」



「なんでここに来たかはわからないが、無意識のうちに来てしまったのだ。」



「うそ!!本当はワタシに会いたくて後を追いかけて来たんでしょ?」



「それは断じてない!私は人間には全く興味が無いのだ!だからキミを追いかける理由も無いのだ。」



「なんだぁ~つまんないの~」



するとその会話を聞いていたズボンを上手く履く事の出来ない若者が



「人間には興味が無い?おっさん宇宙人なのか?」



「そうだ!宇宙人ともいえよう。」



「やっぱりキチガイだな!」



「そうだ!ここは今となっては私にとっては基地外とも云えよう!」



「・・・・・やっぱり、このおっさんキチガイだ・・・」



そう云い残しズボンを上手く履く事の出来ない若者は何やらブツブツと独り言を云いながら奥へと消えて行った。



女学生は俺の姿をマジマジと見つめながら


「ワタシの部屋に来る?」



「別に私は構わぬのだがよいのかね?」



「いいよ!さぁ上がって、でもちょっとその格好じゃ気持ち悪いものが目に入ってくるからちょっと待ってて・・・」



そう云って女学生は奥へと消えていき数分後に戻ってくるなり「これに着替えて、、。」とゴムの伸びきったピンクのショートパンツとネズミの描いてあるTシャツを俺に手渡した。



「着替えたら入ってきて。この廊下の1番奥の右側の部屋ね。」



そう言い残し女学生は奥へとまた戻っていった。



かなり窮屈ではあったのだが俺は女学生から手渡された服に着替え、女学生から云われたとおりの一番奥の部屋へと入っていった。




第40話 心の底にある想い



四畳半ほどの女学生の部屋は、当時俺たち三人が作戦会議室と呼んでいたケメコが使っていた部屋であった。


実に懐かしい場所である。


カーテンの色こそ変わっていたが、柱などの落書きはそのまま残されており一瞬タイムスリップした様な気分である。



「ははは~オジサンにはそのTシャツ小さ過ぎるね!ミッキーが豚みたいになっちゃってるよ!」



「このネズミにはミッキーと云う名前が付いているのかね?Tシャツの絵に名前を付けるなんてキミは変わっているな。」



「えっ・・・オジサン・・ミッキーマウス知らないの?やっぱりオジサンは原始人ね!」



「私にはネズミの顔など見分けられないから名前を付けるのは無理だ。」



「・・・・・・」



「なんだね?」



「ううん・・・なんでもないよ・・・」



「それにしても実に懐かしい・・・」



「何が懐かしいの?オジサンここに来た事あるの?」



「昔に何度も訪れた事がある。」



「この部屋に?」



「そうだ・・・」



「もしかして、ここに住んでいた人ってオジサンの彼女だったの?」



「彼女ではなかったが私の妻である。」



「えっ!どういうこと?いきなり結婚したの?」



「そうだ!そこに私の意思は全く存在しなかったがな・・・」



「奥さんはお人形の彼女の事は何も言わないの?」



「何も云わないが時々彼女の頭にパンツを被せて嫌がらせをしている。」



「オジサン、奥さんと彼女、どっちが好きなの?」



「・・・・・もちろん・・・う~ん・・かの・・じょ・・だ・・・」



俺はこの単純で簡単と思われた女学生の質問に何故だか言葉が詰まり即答できなかった。





第41話 境遇



「オジサンもここの施設にいたの?」



「あぁここの斜め向かいの部屋にいた。」



「そうなんだぁ~オジサンも見捨てられたの?」



「キミは見捨てられたのかね?」



「うん。この施設の玄関の所に捨てられていたんだってさ・・・」



「そうか・・・私はコインロッカーの中に捨てられていたのだ。」



「え~本当なの?ワタシより悲惨じゃん!」



「記憶にないので悲惨かどうかはわからないが、捨てられた場所がどこであれキミと私は同類だ。」



「仲間ね!」



「そうだ仲間だ。」



「じゃあオジサンは、ここにいた仲間と結婚したのね!」



「そう云う事になるな・・・」



「どんな人?」



「私が今まで見て来た限りの女性の中では最低にイイ女だ!」



「最低にイイ女?どういうこと?」



「今となっては悪いところが一言で云えない程のイイ女って云う事だ。」



「褒めてるんだ」



「あぁ褒めてるんだ。」



「でもオジサン彼女の方が好きなんでしょ?」



「あぁ出来ればそう願いたいもんだ。」



「ふ~ん。よくわからないわ・・・大人って難しのね。」



「あぁ大人はとっても難しいんだ。」



「でも、子供だって難しいわよ!」



「あぁそうだな・・・子供も難解だ。」



「だったらみんな難しんだね。」



「そうだな・・・」



「どうしたらいいの?」



「難しいものは無理にわかろうとしなければいいんだ。」



「へぇ~そうなんだ・・・」



「私はそう思っている。」



「ところでオジサンここに何しに来たの?」



「それが私にもサッパリわからないのだ・・・」



俺がそう答えると何やら女学生の部屋の外からドタバタと足音が聞こえ、その足音は女学生の部屋の前で止まった。



トントン、ドンドンドン



誰かが女学生の部屋をノックした。




「は~い。」


そう女学生が返事をすると



「誰かと居るの?入ってもいいかしら?」


どこか懐かしさを感じさせる声である。



「どうぞ~」


そう女学生が答えると声の主は扉を遠慮がちに開け部屋の中に顔を覗かせた。




なんと声の主は園長先生であった。




最終話 エスプレッソの香りにつつまれて・・・



「あら、、まぁ~」



「園長先生、御無沙汰しております。」



「懐かしいわね~元気にしてたの?ケメコちゃんと誰だっけ?もう一人のあの~・・・ごめんなさい名前が出てこないわ・・・」



俺は俺の事を崇拝してやまぬ元刑事の名前を、園長先生が思い出せなかった事に対し奴に深い哀れみを感じたが「はい、みんな元気です!」とだけ答えておいた。



そして園長先生は今度は女学生に向かって「あなた達どうして?」と少し戸惑った様な表情で尋ねた。



「このオジサン変だけど無害そうだから私が部屋に入れたのよ。」



「あら、そうなの・・・」そう云って園長先生は女学生から再び俺に視線を移し「今、何をしてるの?ちゃんと働いてるの?」と尋ねてきた。



「はい。報道関係の仕事を少しやっていましたが仕事をケメコに譲渡し、今はエロプラッソとかいう飲み物の実演販売計画の特殊任務追行中です。」



「あら、、随分と難しい仕事をしているのね。」


そう云って園長先生は俺の仕事内容の重大さに驚いたのか目をまん丸にして絶賛した。



するとその会話を聞いていた女学生が



「オジサン、オジサンはただの喫茶店のチラシ配りのバイトでしょ?それにエロプラッソじゃなくてエスプレッソじゃないの?」



「あ~日本語で発音するとそうとも聞こえるかも知れぬ!しかし私はタダの喫茶店のチラシを配っているわけではないのだ。」



「あ、そう、、そうなんだよね。」


と云って女学生は俺の仕事に対する責任感と迫力に圧倒されたのか話を濁してしまった。



その様子を見ていた園長先生は少し戸惑った様な表情で



「いいのよ、どんな事でも一生懸命やっているって云う事が大事なの。でも安心したわ・・アナタ昔からちょっと個性的だったから社会に馴染めるか心配していたのよ。」






「先生。私は社会に馴染む為に、この世に生まれて来たのですか?」





「・・・・・・・・・・」




「・・・・・・・・・・」




今となっては何故にあんな質問を俺はしたのか不明だが、園長先生も女学生も俺の質問に黙り込んでしまった。



俺はとっさに自分の口から出た言葉の意味が自分でも理解出来なかったが、

きっと気まずい事を云ってしまったのであろうと二人に気を配り、



「先生!有り難う御座いました。また今度はみんなで遊びに来ます。」


そう云って女学生の部屋から帰ろうとした。



すると園長先生は


「ちょっと待って!」


と云い


「そのまま・・・そのまま・・・アナタはそのまま綺麗に純粋に生きて行けばいいの・・・」


と云って俺を抱き締めた。



「はい!園長先生!汚くなるのはいつでも出来ますから現状維持で精進します!」


俺はそう云って、そっと園長先生の手を肩から離し玄関へと向かった。



帰り際に玄関で女学生から借りた服を脱ごうとしたら



「それ結構オジサンに似合っているからあげるよ。」



そう云ってくれた女学生と横で微笑む園長先生に俺は一礼をし、

白いシルクのナイトガウンをその上から羽織り施設を後にした。



どうして無意識とは云え俺は施設に辿り着いたのだろう?



不思議である。



しかし俺は園長先生と女学生から大切なものを貰った気がした。



珍しく帰り道にハプニングは存在せず、俺は無事にマンションへと辿りつく事が出来た。



俺は深呼吸をしながらマンションの下から24階を見上げた。



きっと俺はこれからもエレベーターを使わず、あの24階の部屋までの階段をストイックに何の意味も無く上がり下りする事を続けるだろう。



今頃、部屋の中ではケメコと俺の事を崇拝してやまぬ元刑事が酔っぱらいながら何やらふざけ合っている事だろう。




「よぉ~~~し!!いくぞぉ~~~~」



俺はその掛け声とともに全力ダッシュで一気に階段を駆け上がった。



部屋の前に着くと玄関の隙間から女学生曰く、エスプレッソとやらの香りが微かに漂ってくる。



俺は玄関の鍵をあけ一歩中に入ろうとした。




その時・・・



まさに・・・




その時である!




ちゃりぃ~~ん、、ちゃりちゃりぃ~ん~




鍵が俺の足元に・・・・



鍵・・・



が・・・



おちた・・・




これは!!!




イカン!!!!



実にイカン!!!!



やり直さなければ・・・・




俺は即座に24階の階段をまた1階に向かって全力で駆け下りて行った。






おわり・・・

エスプレッソの香りにつつまれて・・・

エスプレッソの香りにつつまれて・・・

この物語はアナタのココロを映し出す鏡です・・・

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  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-09-19

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