お米を研いだ

さばおか

まよなか、眼をさますときの気持は、面白い。一階の台所へいくとき、階段の真っ暗い中に、そろそろと、足を踏み入れると、突然、蛍光灯に、ぱちぱちと透きとおった音がして、青の光がすっと来て、お星さまに「見つけた!」と囁かれて、まぶしさ、それから、へんな間の悪さ、それから、胸がどきどきして、急にむかむかお米が研ぎたくなるのだ。かあさんに叱られることもなく、サラサラと冷たく白いお米を弄んでいると、幼稚園のときのお砂遊びを思い出す。真っ白い海で遊んだときの、結晶みたいにうつくしい記憶。もう、あのうつくしさに戻ることはないのかしら。肌もきめ細やかで、きょう一日をどうしたら楽しくできるか、それだけに夢中で、あのころ、みんな妖精のようだった。お下品なことも、すべてを無垢にしてしまう力があった。いやに虚しくて、無表情をつくって、蛇口を捻る。そういえば無表情って、無って何だろう。どういう表情であったって、私はここにいるはずなのに。ぎゅっ、ぎゅっ、と手を動かしていると、だんだん、神経が、ゆびさきの方から起きだして、しいん、と血管のひとつひとつが研ぎ澄まされて、無に近づいてゆく。午前二時。ゆびさきが宇宙になって、きらきら、冷たくて、それはひとりぼっちのなかでいちばんさびしく、いちばんやさしい、幸福の時間。

お米を研いだ

太宰治「女生徒」冒頭のオマージュ

お米を研いだ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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