帰路

鉄橋

雨の街を歩いていた。
雨雲の下に身を晒された犬みたいになりながら歩いていた。
僕はそれにびしょ濡れになることに、一種の愉悦を覚えていた。
腕は自分のものとは思えないくらい冷えていて、膝は歩くたびにびしょ濡れの布が当たった。
どの髪の毛にも大粒の滴を宿らせて歩いた。
色の濃くなったアスファルトの上を何十分も歩いて走る元気もなくなっていた。
人目も憚らず地面に座り込んでしまいたかったけれど、そうしたらもう二度と自力で立ち上がることなんて出来ないように思えてそうはできなかった。
汗と水が混ざったぬるぬるの額から前髪まで何度もかきあけた。
交差点の車輪たちは飛沫をたてながら遠くまで走った。いくつもの車輪たちが遠くまで走り去るのを何度も横目に見た。
くすんだ銀色の街を覆うのは雲、果てのない重くて鈍い雲。
アスファルトは潤わずに水を弾く。
僕は額に落ちた大粒の滴を感じる。
バッグも背負わずに傘もささずに制服を着て駅へ向かう僕は可哀想がられるのが嫌で胸を張った。
さっきまで下ばかり見ていたが肩で風を切るように歩いたそれにも萎えて普通に歩きだした。
膝には濡れた布があたり、靴は重く湿っている。
雨の匂いが漂う道の上で僕は歩いた。
雨粒、濡れた街、僕の人生、ひ弱な人波、微かな体温、意思。
全てを脱ぎ捨ててベッドに横になった。
やっと、緊張がとけた。

帰路

帰路

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-09-18

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