世界にふたりだけのぼくら

 レントゲン室は、つめたい。
 あかいバラが、まどぎわでゆれて、その向こうには、海がみえた。きょうで、ちょうど、百六十才の、おたんじょうびをむかえる、きみが、愛おしいから、むかしむかし、首輪をプレゼントしたことは、わすれてほしい。ぼくは、きょうもさっそうと、かかとの高い靴で、街の、無機質なアスファルトを叩き、だれかの血を吸っている。ハッピーバースデー。いまごろ、きみは、ぼくの部屋で、泣いているのかもしれないね。ぼくが用意をした、ローストチキンと、バースデーケーキを食べながら、ひとりでね。
 海がみえる家に住みたいと言ったのは、きみだ。
 ひとびとの血は、年々、おいしくなくなっている。どうにもこうにも、うすあじである。じゅっ、と吸った瞬間の、この、じゅっ、のあじが、じつにまずくて、吸いはじめの血は、吐きだすようにしているのだが、そのあとの、どんどん吸ってゆく血も、むかしより、おいしくないのである。あじのない牛乳を、のんでいる感じだ。あじけない。
 波が静かな夜は、きみと、ねむることにしている。
 きみの血を、ぼくは吸わないので、きみは、でも、ときどき吸ってほしそうな顔を、するので、こまっている。きみは、ひと、ではないから、ぼくは、きみの血が、からだのなかにはいると、ひだりあしから、灰になってしまうので、だめなのだった。

世界にふたりだけのぼくら

世界にふたりだけのぼくら

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-09-17

CC BY-NC-ND
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