セキセイインコ
マジックの話はいいんでしょうか?
新婚旅行にフィジーに行ったという友人から、
「はいどうぞ」
と、お土産をいただいた。
「ど、どうも」
石製のインコ。
石製のインコの置物っていうのかな。像じゃないと思う。大きさ的に。だから置物?
「うわー・・・」
をもらった。
いる?
いるか?石製のインコ。
「それとっても精巧で、よくできてて、面白かったから買ってきた」
「あ、ありがとう」
いる?
好意で買ってきてもらって失礼かもしれないが、
いる?
石製のインコ。
ぶっちゃけいらない。
いらないなあ!
いや、いやいや、もしも私が日ごろから、
「インコインコ、この世はインコなんだよ!」
っていうレベルのインコ大好きっこだったらわかる。それを常々公言して誰かれなく話してて、手あたり次第インコを布教してるというならわかる。それだったら素直にありがとう。
「うわーありがとうー!」
ってハグする。
代わりにその友人の一回二回の不倫、浮気も黙っているかもしれない。
しれないが、
私別にインコスキーじゃない。ヒゴーロ・カーラ・インコスキーじゃない。インコに対して何にも思ってない。他意もない。興味ねえ。
なんで私にこれを買ってきたの?
言葉には出さないけど、そう思った。強く思った。
それにそもそもフィジーって何が有名?わかんねえ。でも別にマカダミアナッツとかでよかったんだよ?甘いものでよかった。消費できてごみが出たら捨てられるものでよかった。甘食でよかった。パッケージにフラダンスする人の絵が描かれているみたいな、そういうマカダミアナッツとかでよかった。これを買ってきてくれるんだったら最後に成田で買ってもよかった。マカダミアナッツでよかった。最悪コンビニで買うアーモンドチョコでよかった。全然よかった。
いらねえ石製のインコよりはだいぶ良かったなあ。
もちろん口には出さないけど。感謝も伝えてるけど。でもその感謝には心が宿ってなかった。
「あ、ありがとう・・・」
こんな感じよ。疑問と疑惑と不振と不満をミックスして出したカクテルみたいな『あ、ありがとう・・・』だよ。
「それでね、それシリーズがあってね・・・」
友人はまだ話を続けている。でも、そんな話を続けられても全然頭に入ってこない。私は困惑を顔に出さないように必死だったし、本音が口から出ないようにするので精一杯だった。
そんな訳で、どうしたらいいかわからない石製のインコをもらって家の窓の近くにおいて、すぐ忘れて、すっかり忘れて、一時間後には忘れて、もう私にとって何の意味もなくなって、それから数日後、また別の友人の猫を一時的に我が家に預かるという段になって、
「ういー、おつかれー」
トラ柄の猫を抱いたまま家に入ると、
「ピールル、ピールル」
と、誰もいない我が家の奥から何かの音、声?が聞こえてきた。
「にゃー」
トラ柄が私の手からすり抜けて地面に着地するとそのまま奥に走っていった。
「なんだおい?」
追いかけると家の奥の窓際のところに、生きたインコがいた。赤い羽根の鮮やかなインコ。どう見ても生きているインコ。生きているから飛んだり跳ねたりしている。
「ピールル」
って鳴いたりもする。
窓は開けてない。窓も扉も開けないで家を出た。それなのに我が家にいつの間にか生きたインコがいた。
それが飛んだり跳ねたりしている。
ふと思って、窓際を確認したが、もう存在も忘れていた石製のインコはなくなっていた。代わりに生きたインコがいる。いた。
「オパールのガーゴイルだ」
マジックザギャザリングにそういうカードがある。エンチャントだったのに、ある条件をクリアするとクリーチャーに変わるやつ。2/2飛行。
気が付くと、トラ柄が飛びかかりそうな雰囲気を出していたので、
「我が家で修羅場は勘弁」
とばかりに窓を開けてやったら、インコはそのまま飛んで行ってしまった。
「よしよし」
それからトラ柄をなだめつつ、ある事を思い出そうと必死になって頭を働かせた。
あの友人、フィジーに行ってた新婚、私に石製のインコを、いらねえインコの置物を買ってきた友人は、最後、
「それでね、それシリーズがあってね、私達も同じシリーズの巨人像みたいなのを買っていんだ。ワンダと巨像の巨像みたいなの」
って言ってなかったか?
言ってた。言ってた絶対。
いらなすぎて、困惑して全然聞いてなかったけど、でも脳内にはその記憶の残滓があった。覚えていた。思い出した。
「おとなしくしてくれてたら帰りにチュール買ってあげる」
それからトラ柄を抱いて、その友人宅に向かった。
新婚の友人の家から突然巨人が出てきたらおどろくだろうなって思ってさ。
家壊れたらおもしれえなあって思ってさ。
セキセイインコ