しあわせな恋を喰らえ

 りんごを煮て、カスタードクリームとはさんだとき、食パンに、これは、いったいぜんたい、創作料理なの?、それとも、テレビか、本かなにかで、ちらっとみたレシピを、おぼえているだけ?、というギモンが、あたまのなかに浮かんで、でも、ぜんぜん、わからないから、とりあえず、シナモンシュガーも、ぱっ、ぱっ、とかるくふっておいた。
(わたしは、そうだ、あした、フラれにいくのだった)
 りんごと、カスタードクリームと、シナモンシュガーを、食パンではさんだ、たべものを、ぱくりとひとくち、かじりながら、通学カバンのなかに入れっぱなしの、映画の半券のことを、思い出していた。きょう、放課後、ともだちと観に行った映画のやつで、いま話題の、大人気恋愛マンガの映画化、だったのだけれど、なんというか、こう、内容はふつうの、よくある少女漫画のそれ、という感じで、正直、あまり、おもしろくはなかった。でも、映画は盛況で、そこには、わたしの恋人と、その浮気相手も、いて、もともと、恋人が、浮気をしていることは、なんとなく、うすうす、気づいてはいたのだけれど、向こうから別れ話を切り出さない限り、わたしは、知らないふりをしようと決めていた。浮気をしても、なにをしても、恋人のことが、好きだったので、しかたなかった。もう、あした、恋人ではなくなってしまう、けれど。スマホに届いた、メッセージを、何度も読み返しては、あしたが来ないことを、今夜が明けないことを、祈っていた。あしたが、永遠におとずれなければ、恋人は、一生、わたしの恋人なのだから、それがいいと思ったけれど、いざ、祈っていると、もし、恋人が、とっくにわたしのことを、まるで、ぜんぜん、好きではなくなっているのに、わたしの願望で、むりやりに、恋人として結びつけておくのは、どうなの、とも考えたのだった。
 テレビのなかで、アイドルの女の子たちが、げんきよく歌っている。
 フラれる、という心構えは、あたりまえだけれど、いつもしているわけではない。浮気の気配、みたいなものは、なんとなく、感じていたけども。なんせ、わたしの恋人は、かっこよくて、やさしくて、やさしすぎて、すこしばかり、よわいひと、なので。わるくいえば、情けない。よくいえば、かよわい、のだ。きょうまでは、わたしの、恋人。
 食パンに、カスタードクリームをたっぷり塗って、りんごを煮たのをのせて、シナモンシュガーをぱっぱっとふったものを、もくもくとたべる。なまえのわからない、なにかを、ぱくぱくとたべる。
 映画のなかのような、永久的な、しあわせな恋愛って、どうやってするものなのだろう、と一瞬、浮かび上がったギモンもいっしょに、咀嚼する。

しあわせな恋を喰らえ

しあわせな恋を喰らえ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-09-16

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND