3番線で電車を待ちながら毎秒死ぬことを考えてると青くつややかな蝶が舞い込んでぼくはそれが鉄塊に打ち砕かれ零れ落ちるのを想像したがそのうちに蝶はひらりと電車をかわして青空へ消えた。蝶には質量がない。
揺られ思い出した、おさないころ、ちょうちょを洗ってあげようと思って、水にすすいだら、みるみる透明になって死んだ。それ以来あれになりたくてしょうがないが、みるみる体は大きくなって重たくなりすぎてしまった。(これはないしょだが、ほんとうに透明なものには重さがないそうだ)ここもあそこも、とうめいなものでみたされている、泳げないぼくたちは、溺れているしかない。
降りると生と死の匂いが(鉄と硝煙のように!)まじりあって噎せ返った。電車は迷いつつ消え、ぼくはめそめそ泣いていた。(あの蝶は今ごろ……?)とうめいなものに喘いでいるうちに月に出逢いたい、そしたら求婚をするんだ、月はぼくを軽蔑するだろうか、その純粋なひかりでぼくを詰ってほしい、そしたらぼくは喜んで自殺するだろう(あるいは、生きるだろう)。しかし叶わぬ逢瀬なのでぼくはそこに咲いている花を愛でることしかできなかった、うつくしい花を摘むのは悪だろうか。青くつややかなその花の名前を知らないでいることが生きることな気がした。空を見上げる。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-09-16

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