彼と僕の気持ち

ある少年からプレゼント紛いの作品を貰った。
どうやら今日の美術の授業の時に制作した作品のようだ。
それはまるで駄作のようで、(少なくとも僕にはそう思えた。)
形は何をかたどっているのか分からないし、
ぐにゃぐにゃとしているし、
色は灰色を基調としていて所々まあるく赤色が塗ってあって
とどめにはその物体(粘土で作られている)の表面の数か所に、
クギのようなものがぽつぽつと刺されてあった。
僕は、嫌そうな目つきをして少年の方を見据えて、
「君、これは何で、こんなものを作ったんだ?」
と、聞いた。少年は、あっけらかんとして
「特になにも考えてないよ。意味もなく作ったの。」
と言った。少年は凡庸とした佇まいをして、
そのくせして変に趣のある性格をしているので、
見ていて面白いのだけれど、いまいち何を考えているのか分からない。
今どきの中学生とはこうなのか、と思わせられる。
僕は、少年の全身を眺めまわして、
「さて、今日は他に何の用が?」と、聞いた。
少年はクク、と笑って「これだけ。渡したから、終わり。」
と、言って僕の目の内を覗き込んできた。
まるで思考を透かし見られているような気になった。
平常心が揺さぶられる。僕は、少年の顔をまっすぐ見据えて、
「そうか。それじゃ。帰んな。」と、言った。
少年は大人しく頷いて、
そのまま少年の自宅の方角へと歩みを始めた。
僕は、頭の中がこんがらがって何も考えられなくなった。
自分の置かれている状況が、認められなくて、
居心地の悪い気分になった。
自分は、少年のことが少なくとも気に入っているのだ。
もっと言えば、好きなのだ。それは、恋愛感情というものではなくて、
本当に人間として。きっと、彼という人間性そのものが
自分の気に入っているのだ。
弟のように感じることもある、と思う。
彼はまだ幼い頃から自分とは知り合いで、
両親がお互いに仲が良かったからなのだけれども、
いわば幼なじみというやつだ。だけども
両親が仲がいいからと言って自分にまで仲良くしてくれる必要はないので、
いつも彼の心を確かめようと、「他に用が?」と、聞くのだけども
毎度のこと彼はそれ以上のことを何もしないのだ。
いつも、僕に土産物をくれたり、テストで良い点をとったと話しに来たり、
今日のように美術の時間に制作した作品を持って来たり、
そんなことばかり、大した会話もせず、続けている。
僕は、自分がどうしたいのか、最近分からなくなる。
独占したいのか、と。心の声が聞こえる。
そんなんじゃないんだ。と、僕は苛立ち交じりに答える。
そういうことじゃないんだ。


ただ、自分は。


今日、放課後、少年を自宅付近の空き地に呼び出そうと思う。
ただ、自分は自分の気持ちを伝えたいのだ。
「君という人間性が、大好きです。尊敬してます。」と。
それだけでいいのだ。

彼と僕の気持ち

彼と僕の気持ち

友情を描いたつもりです。決して怪しい恋心の物語ではありません。 読んで頂けると、幸いです。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-10-25

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