塩試合を見てニヤニヤする人

朱瑠兎

塩試合を見てニヤニヤする人

中条あやみといえば、『3D彼女 リアルガール』『ニセコイ』『雪の華』が立て続けに公開された2018年後半~2019年序盤はすごかったですよね。

「おいっ!どうしてそこでもっと攻めないんだよっ!」
 格闘技の試合を見ている最中、そう思うことがある。
 そして、10代のキラキラとした役者達が演じる青春・恋愛映画を見ている最中でも思うこともある。

 リングの上で戦う相手に、もう一歩踏み出せない選手。攻撃の手が出ない。
 片想いの相手に、もう一歩踏み出せない主人公。想いを伝えることができない。

 前者の場合、つまらない・しょっぱいなどと言われ「塩試合」と呼ばれる残念なことになり自分も「あちゃー」と思ってしまうことがある。
 が、後者の場合は違う。恋愛模様における「塩試合」を自分はむしろ歓迎する質なのだ。

 男女が微妙な(それがまた絶妙だったりする)空気のまま終わってしまう作品を見た後に、「はあ、いいなあ……」と思う満足感。
 今回、高橋名月監督の短編映画『正しいバスの見分けかた』で自分はそれを再確認させてもらった。

 この作品、あらすじだけ書くと、本当に何ということはない。

 舞台は関西の地方にある高校。
 平凡な高校生男子の藤田(演:岡山天音)は、同じクラスの少し不思議ちゃんが入った少女の鮫島(演:中条あやみ[当時18歳!!奇跡!!!])が最近気になっていた。
 友人(演:葉山奨之)にそのことを打ち明け、その後鮫島の友人(演:萩原みのり)が鮫島から話された「宇宙人を見たかも」などという不思議ちゃんエピソードを又聞きしたりする。
 そして、ある日の放課後。
 藤田は鮫島に「一緒に帰ってもいいか」と聞き、意外にも返事はOKで一緒に帰ることになる。
 鮫島の少し不思議ちゃんなノリに藤田はやや戸惑いながらも、基本的には他愛もない会話をしながら2人は下校し、バス停でバスを待つ。

 特に何かが起こるわけでもない、30分もしない短編映画である。

 自分はこれが、見ていて本当に心地よかった。
 もちろん、撮影当時18歳の中条あやみの制服姿、体操服姿、ややローテンションな関西弁にひたすらやられたというのもある。しかし、岡山天音が演じた主人公とヒロインの作り上げた空間の絶妙さが、心地よく、良い意味でもどかしくてたまらなかったのだ。

 ここで感じた心地よさの正体は何だったのか。
 それは、2人の「距離感」にあったのだと思う。

 男は、意中の人と初めて一緒に下校するという状況で当然緊張状態にある。 
 一方の女は不思議ちゃん気味な内容でマイペースに話し、男はやや戸惑いながらそれに合わせる……
 劇中の下校のシーンでは、男がやや攻めあぐねている状態に終始していた
(なお、この会話のぎこちなさをより強く愛でられるのには、主人公の藤田が友人とは小気味よく漫才のように会話を繰り広げていたシーンが描かれていたのが大きい。やはり好きな女の子の前では男友達と同じようにはいかないのだ)

 くどいが、それが本当に心地よかった。
 キスシーンも無い、手すらも触れない、告白も無い。
 男が意中の女の子と会話を交わしながら下校をするだけというそのシーンに、「ああっ!もうっ!」とニヤニヤしてしまうのが、この文章の初めに書いた『恋愛模様における「塩試合」はむしろ歓迎する質』なのだ。

 恋愛劇を描くのに大切なのは、「距離感」だろう。
 物理的または精神的にも離れた2人の距離が、どう縮まっていくのか?
 距離を縮めるには障害やドラマがあり、途中であらぬ方向にいってしまったり、くっ付いたと思ったらまた離れてしまったり……様々なことが描かれる。
 お客はそれらに一喜一憂し、共感したりしなかったりするわけだが、何も感情の振れ幅が大きいものばかりじゃなくても、いいと思う。
「あ、そこで行かない(距離を詰めない)の?」「ああ、ここで終わるのね……」
 そんな感想で終わって、いいと思う。

 微妙な距離感の中で、ぎこちない会話が行われたり、変な間が生まれたり、表情が緊張していたり、そういう様を見て、楽しむ。
 初々しいというか甘酸っぱいというか、青春の香りがするっていうのはこういう描写のことをいうんじゃないかなあと思いながら、自身の青春はけっこう前に過ぎてしまった筆者は思うのである。

 本作『正しいバスの見分けかた』は短編映画であり、「ああ、ここで終わるのね……」で済ませるにはベストな尺でやりきったと個人的に思う。
 だがしかし、最後の最後で「おっ!やったな主人公!」と思えたシーンが挟み込まれたことは最後に言っておかねばなるまい。
 物語のラスト、2人で帰りのバスを待つバス停でのこと……
 田舎だからバスとバスの間隔は長いが、2人がバス停に到着すると程なくしてバスは来る。
 しかし、ここでヒロインの不思議ちゃん。バスの色が今の気分に合わないとか理由を付けて、このバスには乗りたくないと言い出したのだ。
 主人公は、それに合わせて自分も座席の配置が気に入らないとか言い、乗らずに次を待つことにする。
『好きな子と少しでも長く一緒にいたい』
 そういう主人公の思惑が丸見えで「ああ、もうっ!」となった筆者だったが、その後はまさかの展開となった。
 バスが走り去った後、主人公はヒロインに「本当は、鮫島ともっと一緒にいたかったから」と告げたのだ!

「ああ、もうっ!」

 と、またなってしまった筆者だった。

塩試合を見てニヤニヤする人

主人公のラストのセリフに心動かされたと書いたけれども、ヒロインのそのセリフに対する返しにこれまた悶えたわけですよ。
あれ、その直前までの会話の内容を「えっ!?そういう意味だったのかも!?」と考えさせる破壊力がございました。
これについては実際に映画を見て頂きたいとしか言えないですね。見るの難しいのが困りものですが。

塩試合を見てニヤニヤする人

高橋名月監督の映画『正しいバスの見分けかた』(作品情報 https://eiga.com/movie/91561/ ) を見たら、気持ちが昂ぶり過ぎてこの作品を軸に青春・恋愛映画についてチョロっと書いてしまいました。 この作品のネタバレを多量に含むので読むときは注意してくださいね。 無論、中条あやみの大ファンでございます。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-09-16

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