呪い

鉄橋


 焙った蝋のように爛れた肌からは黄色い液がとめどなく滴っていた。俺は階下へと向かう。いくつもの段差を踏みつける。杭を打ち込むように疲れた足取りで進み続ける。何もかもにうんざりしながら、粘膜質な口を開いて頭ごと上に向けて、何もない空気を吸い込んで暫く止まる。
 ふと向けた視線のさき、右手の網戸には無数の虫の卵が産み付けられていた。よく見るとそれらは今にも殻を破らんともぞもぞと蠢いていた。俺は素手で夥しい数の卵を削り取りすり潰した。
 遠くのうねりを感じる。筋肉強張るのを感じる。ベタついた手触りを、言い知れぬ敗北感を感じる。一部の感覚だけが鋭く研ぎ澄まされて退屈を紛らそうとした。
 狭い階段の空気は段々と湿っぽくなる。蜘蛛の巣を振り払うこともやめて突き進む。見下げる。終わりの見えない闇がどこまでも濃くなっていた。
 掻痒感のままにうなじや鼻梁を爪で傷つける。赤く染まった皮膚片が詰まった爪を追って踏み潰す。
 階段の下の扉に辿りついた。何時間と降り続けた気がする。その長い時間、耳は遠くで流れる物凄い水の音に、鼻は湿っぽく黴臭い空気に、目は陰惨で退屈な、不吉な狭い風景に晒されて続けていた。
 扉は開かなかった。いや、もしかしたら開いたのかもしれなかったが、俺は開くことができなかった。3度目を試す気にはなれなかった。疲れていたのだ。もう、開かなくても良いと思ってしまったのだ。
 瞼を閉じて遠くの水の音と黴の臭いに身をまかせる。それから俺はまさに泥のように眠ったのだろう。汚泥の如く体から液を湛えて。

呪い

呪い

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-09-14

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted