優次郎

優次郎

バババババババン。

マシンガンのけたたましい音が響き渡る。マシンガンを撃つ度にテレビ画面から白い閃光が放たれ、室内を断片的に明るく照らす。
最近のお気に入りは、ゾンビハザード。迫りくるゾンビの大群をマシンガンや拳銃でひたすら撃ち倒すゲームだ。
ブシャァ。
撃ち抜いた箇所から血しぶきがあがる。
死ね死ね死ね死ねぇ!!!
薄暗い部屋で眼をギラつかせながら、コントローラーのボタンを潰れんばかりに連打する姿は、何者かに取り憑かれているようだ。
丁度日が変わる頃からゲームを始め、日の出と共に寝るという生活ももうすぐ1年が経とうとしている。昼夜逆転、引きこもり生活の典型例だ。
 
     ★

優次郎は就職活動に失敗した。
「優次郎はどこに内々定決まった?」 
その言葉を聞くたびに心が抉られるようだった。-やめろ、聞くな。
みんな大手企業に内々定をもらっているのに。なんで俺だけ・・・。
「職なし無能」のレッテルを貼られた自分が、みじめで、悔しくて、優次郎の自尊心はボロボロだった。
大手企業の採用活動が終わり始めた7月の終わり頃から、採用活動を開始する中小企業は多く存在する。諦めずに就活を続けていれば、どこかにひっかかるくらいの学歴はあるはずだった。しかし難関私大に入学したというプライドが、中小企業に就職するという選択肢を許さなかった。

それからは転げ落ちるように、優次郎の人生は一変した。
バイトも辞め、家に引きこもるようになった。電話やメール、SNS等で友人から連絡が来ても完全無視。ベットの上で一日中テレビゲーム。社会から隔離された生活を3ヶ月も続けている内に、目を瞑っても眠りにつくことができなくなった。しまいには幻聴まで聞こえるようになり、コンビニに買い物に行くことさえもできなくなった。人と目が合う度に「死ね。お前なんか必要ない」と言われているような錯覚に陥るのだ。

     ★

俺は一体何をしているんだろう・・・。
優次郎は座っていたベッドに、仰向けに倒れ込んだ。両手で抱えるようにしてコントローラーをお腹に載せる。そして、テレビの明かりだけで薄く照らされた天井の一点を呆然と見つめた。
高校生の時はこんなんじゃなかったのに。
優次郎はいわゆるイケてる方だった。サッカー部に所属し、成績は学年でもトップクラス。
運動部で頭が良いとモテるんだよな・・・。
「運動部なのに勉強できるなんて格好良い!」というイケメン加工フィルターが女子の目にかかるのだ。ちょっとくらいブスならイケメンになれる。中でもサッカー部は運動部の中でも目立つ方だったので、イケメン加工フィルターの効果は高まった。優次郎の顔は誰が見てもイケメンって程でもないがそんなに悪くはない。昔のチームメイトの顔を思い出して比べてみても、まあ、中の上くらいか。女子からの優次郎の評価は上々だった。
あの頃は毎日が楽しかった。もしタイムマシーンが使えるなら、間違いなくあの頃に戻るだろう。
なんで俺がこんな・・・。
考えれば考えるほど自分がみじめに思えてくる。
「俺も誰か殺してくんねぇかな・・・」
倒れて動かなくなったゾンビを横目でみながら、優次郎は小さくそう呟いた。

優次郎

優次郎

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-09-08

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