機械の子供も好きなんです
モニターに映るのは作業着姿で工具を手にする小波旅愁(こなみりょしゅう)と、小波に皮膚を剥がされ内部の機械が剥き出しになった小宮山一子(こみやまかずこ)だ。カメラは移動し、小波を手伝う助手達と、椅子に縛り付けられた小さな女の子の姿も映る。少女は小宮山一子の娘で千晶という。母親の解体を見せるため、この場に連れてきた。
機械で作られた一子を母親と言うのも妙な話だが、千晶を産んだとき、彼女はまだ人間だった。妊娠中に夫に先立たれ、途方に暮れる若い母親は、ボクの目に魅力的に映った。同情した振りをして医療費を援助し、家を与え、産後に回復を待って、本人に気づかれぬよう機械に改造させた。
体を改造されるのはどんな心地だろう。何年も自分を人間だと思っている機械はどんな生活をするだろう。突然機械だと知らされ、部品を抜き取られるのはどんな気分だろう。電脳に走るノイズを感じて、何を思うだろう。ボクはそれを知りたくて、これまで多くの女性を機械に改造した。認識票が付いたバラバラの部品を見ていると、愉快な思い出が蘇ってくる。あの部品は、証拠を消すため分解された機械人形のなれの果てだ。一子も、そして娘の千晶も、あの中に加わることになっている。
一子の電脳は停止しないよう、外部機器に繋ぎ電力を送り続けている。最後をゆっくり楽しむためにボクが細工させた。泣いている娘に何かを語りかけようとしているが、当の娘は泣いてばかりいて状況を把握できていない……ここで映像は中断され、右側のモニターが明るくなった。これ以上続ければ、ストレスで機能に支障が出るという合図だ。
カメラは回り続け、ボクが現れて「実は、娘の千晶も機械に改造されている」と二人に教え、証拠を見せ、反応を一通り楽しんでから一子の電脳を焼き潰す楽しい様子を撮影していたのだが、AIが拒んでしまった。
ボクの目の前にあるモニターは小宮山一子の娘、小宮山千晶の電脳、生体脳の動きをイメージ映像に変えて映し出す。左側には脳が思い描いた映像が、右側には彼女の視界が映し出される。記録映像から解放された少女は脳内をぼんやりさせたまま朝日を見つめ、先ほどの映像は夢だったと錯覚する。
ボクはヘッドセットから小波へ指示を出した。彼は昨晩から、千晶の父親役として小宮山の家にいる。
「お嬢様がお目覚めだ。ちゃんと学校へ送り出してくれよ、お父さん」
「ふん」
小波の返事は素っ気ない。彼がこういうことに乗り気でないのは知っているけれど、ボクは直接関わるより眺めるほうが好きだ。ちょっとした小銭を包んで、彼に父親役を引き受けてもらった。モニターに小波が映る。
「千晶、起きたのか」
「パパ、おはよう」
小宮山千晶は父親と死別し、母親と二人暮らしをしていたのだが……夢の中で母親を分解していた小波を見て、パパと呼んだ。そういう風に記憶をいじり、パパが大好きになるよう人格を調整した。強引な記憶改ざんやインストールを行っても人間らしく振る舞えるほど、人格維持装置は進歩していた。
「千晶ね、怖い夢みたの」
記録映像の話を始めた、記憶として脳内に留まったらしい。
「千晶にママがいてね、でもママがロボットで、バラバラにされて、千晶泣いちゃうの」
パパだと思い込んでいる小波に千晶が一生懸命説明する。七歳の少女が話しているのは、夢だと思い込ませた現実だ。本人の目で見た記録もあるが、余計なことを思い出されても面倒なので、カメラで撮影した映像を少女の脳内で再生した。
強引な記憶改ざんで少女の記憶がどの程度失われるか分からないが、自分の身に起こったことを知った時の反応は見たい。ボクが自己満足のために仕掛けたことだ。小宮山一家は六年以上前から、ボクのワガママを叶えるためだけに存在している。
彼女らを選んだのは母親の一子が美人であり、面倒な人間関係を持たず、夫が不在であったから。一言で言えば、手頃だったからだ。
最初に母親を改造し、ボクは満足した。なので、残りの六年間は自分を人間だと思い込んだ「娘を育てるだけの機械」として管理される一子を楽しんだ。千晶を改造したのは一年前、その後は母子とも「自分を人間だと思っている機械」のまま日常生活を送らせた。
ボクは自分を人間だと思っている機械が好きだ。サイボーグを人間として生活させるのはリスクが高い、それでもボクは自然に不自然な生き方をする彼女らを見るのが好きだった。
母親を部品単位に分解し処分したのは、痕跡を消す必要が生まれたからだ。彼女らをきっかけにボクの存在が、能力が知れてしまったら? 知った誰かがボクより強い力を持っていて、ボクを危険だと判断したら? 明白だ、ボクに明日はない。
不思議な話だが、ボクには予知能力がある。自発的に予知することはできないが、機会を逃さない程度には早く頭に浮かぶ。予知できるのはボク自身にとって大きな得か、大きな損になることの二つだ。小さな切り傷や風邪を引く程度の出来事は予知できない。
サイボーグの存在が世間にばれそうになるのは大きな損だから、予知できると思ったが、出来ないことが最近分かった。ボクは去年十二月に実の娘を改造したのだが……娘は同じクラスに混ぜてあったサイボーグを発見し、自力で自分は機械だと気づいた。改造した人間は全て監視していたから対処は容易だったし、被害もわずかだ。問題は、被害がわずかなものは、例え未来の危険に繋がっていようとも、ボクには予知できないということだ。
放置しておけば、小さな要素が積み重なってボクを破滅させるかもしれない。そう思って、人間社会に混ぜたサイボーグは回収、解体している。
それでも千晶を泳がせているのは、ボクの楽しみのためだ。リスクはある、だが見合う楽しみを得られると思っている。
「それは怖かったな。さ、学校へ行く準備をしなさい」
「はーい」
千晶の改造は予定になかったが、すぐに改造できる幼い少女を探したら彼女が一番の候補に挙がったため、機械化した。以前のボクなら幼い子供に興味はないと気にもしなかったが、今は違う。改造した娘と遊んで、改造された子供が見せる反応に興味がわいた。
データを取りたいという小波のために子供や男の改造を許可したこともあるが、楽しみのために使うのは、娘を除けば千晶が初めてだ。美人は飽きるほど抱いているから、変わったものが食べたくなったのかもしれない。
「いってきまーす」
「気をつけろよ」
画面では、小波が少女を送り出す様子が確認できる。
自分が機械とも知らず、消えた母親にも、現れた見ず知らずの男にも疑問を持たず、一人で着替えられることを誇らしく思っている少女を見ていると興奮した。この子が見ていることも、思っていることも、ボクには筒抜けだ。少女は知らないし気づきもしない。知ったらどういう反応をするだろう。発想が幼すぎて理解できないかもしれないが、それならそれで新鮮だ。
◆◆◆
千晶の視界に小学校の校舎が映る。彼女は二年生、教室の児童たちは幼く、服装を見なければ性別が分からない。それでも一年生と比べれば落ち着きが見える、学校生活に慣れてきたのだろう。もう少し大人びれば、生意気になっていくのだろうが……それはそれで面白いと思った。生意気な相手は、ねじ伏せ甲斐がある。またチャンスがあれば、考えても良いだろう。
「おはよー!」
教室へ入ると千晶は友達にチサちゃんを探し、見つけるなりランドセルも置かず駆け寄った。ボクは千晶の交友関係は調べていないし、資料も見ていない。名乗る前に彼女の名前が分かるのは、千晶が教室へ入るなり「チサチャン、ドコ」とモニターに表示されたからだ。
「ちあきちゃんおはよー!」
少女達は昨日のテレビ番組の内容を楽しそうに話していた、ボクにとってどうでもいいことだ。千晶の脳に「アキラくん」と入力し、少女の行動を変化させる。
「チサちゃん、ランドセルロッカーに入れてくるね」
千晶はチサちゃんと別れアキラ少年を探し始めた。本名は矢麦白(やむぎあきら)、今回のターゲットでもある。地元農家の三男で、勉強はイマイチだがスポーツに強いことからクラスの女子から恋愛対象と見られているという。都合のいいことに千晶はアキラ少年と面識があり、好意も持っていた。
「アキラくん、おはよう」
「うん、おはよう!」
彼が浮上したのは、記憶を消す前の千晶に「お前はサイボーグだ」と教えたときだ。自身がサイボーグだと知って、少女は矢麦白のことを真っ先に思い描いた。モニターに映るアキラ少年の名前を見たボクは、興味本位で少女の記憶を検索した。
少女はあこがれの「アキラくん」のことをよく知っていた。彼がテレビで見たサイボーグのヒーローやヒロインに憧れていることも、なりたがっていることも、だ。自分の体が機械なら、気が引けるのではと考えたのだろう。
アキラ少年のことを連想させると、少女の生体脳は照れの感情でいっぱいになった。彼女の瞳から見るアキラは年相応の子供らしさと無邪気さを感じさせる、大人に好かれそうな子供だった。顔立ちは整っており、挨拶もしっかりしている。
子供は明確な評価基準を持たないためか、大人から評価される同級生は優れていると考えやすい。お互いを妬み合うようになるまで、アキラくんの評価は揺るがないだろう。加えて運動ができるなら、同姓からも好かれることだろう。子供は功名心を素直に出す。運動会などの行事で、自分の勝利に役立つ人間を仲間に引き入れようとする。そんな風に人の集まるアキラくんに千晶が憧れるのも、納得できる話だ。
千晶とアキラが向き合っている間に、ボクは千晶の電脳へ「自分の体は機械で出来ている、アキラくんに見せたら絶対に喜ぶ」と打ち込んだ。千晶は突然送られてきたデータに戸惑い、無表情になり全身を震わせた。モニターの中では、生体脳がプログラムに介入され、曲げられ、別の形に変えられる。いつ見ても小気味よい映像だ。
「チアキちゃん、どうしたの?」
アキラが心配して少女の顔を覗くまでのわずかな時間で、千晶の電脳は新しく送られた意識を自分のものと認識したらしい。モニターの乱れも消えている。
「あ、あのね。ナイショ話してもいい?」
「いいよ!」
千晶の提案を面白いと思ったらしく、アキラは先ほどの心配を忘れ顔を明るくした。少女に誘われるまま、同級生のいない教室の端へ移動する。
「なに? なに?」
内緒話に興味があるらしく、アキラは千晶にせっついた。対する千晶も、自分に興味を持たれるのが嬉しいらしく、喜びで胸がいっぱいになっている。モニターの中では、アキラくんという抽象的な人影を暖かい色が包んでいる。
「誰にも言わない?」
「うん」
「千晶の体ね、実は機械なの」
少女は少年の手首を掴み、自分の腹部に押し当てた。千晶の腹部は今、機械が剥き出しの状態になっている。排熱とメンテナンスを兼ねて、彼女らの皮膚は腹部や関節などに上蓋が付いていて、簡単に開閉できるようになっている。
「わ、これ……本物?」
アキラは不思議そうな顔をしたまま、布越しに千晶の内部をべたべたと触る。
「本物だよ、ここで見せるとバレちゃうから、触るだけだよ?」
ボクは素早く「アキラくんを家に呼んで機械の体を見せたい」と入力した。
「アキラくん、今日おうちで一緒にあそぼ? 全部見せてあげるから」
「本当! 見たい、行く!」
少年は目を輝かせた後、視線を警戒して周囲を見た。これ以上二人っきりで話していると、誰かに気づかれると感じたらしい。
「誰にも言わないよ、今日行くからね。約束だよ」
「うん、約束」
二人は互いに距離を取る、内緒話をしていたと悟られたくないらしい。満足したボクは、小波に成功した旨を伝え準備に入らせた。
◆◆◆
アキラの手を引きながら、千晶は小波の待つ小宮山邸に帰ってきた。
「あがって」
「おじゃましまーす」
千晶の声を聞き、待機していた小波が顔を出す。
「千晶、お友達か?」
小波のことを父親と思い込んでいるはずだが、千晶は小波の姿を見て驚き立ち止まった。
「あ、パパ……あれ?」
違和感に気づいたらしい、小さくても多少のカンは働くらしい。必要なこと以外は思い出さないようプログラムしてあるはずだが、防壁をすり抜け以前の記憶を覗いてしまったのだろう。
対して、小波は冷静に演技を続けた。優しく、人工知能に記憶の訂正を促すように声をかける。
「どうした、今朝の夢でも思い出したのか。それとも、パパが困るようなことを千晶は考えてるのかな」
千晶は表情を硬くし、体をぶるぶると震わせた。彼女の内面を映し出すモニターはノイズで荒れている、生体脳がプログラムの強引な修正を受けているようだ。
「ううん、なんでもない」
乱れが収まり、心は再びアキラのことと、自分の機械の体のことで埋め尽くされた。
「仲良く遊ぶんだよ。お友達の……えーと、お名前は?」
アキラ少年は慣れた様子で元気よく答えた。
「矢麦白です。はじめまして、千晶ちゃんのおじさん」
「はい、はじめまして。さすが二年生だ、挨拶がしっかりしている。ゆっくりしていきなさい」
「はい!」
「千晶、部屋へ行く前に手を洗うんだぞ」
「はーい」
千晶はアキラの手を引いて洗面台へ向かった。ボクは小波に待機するよう指示し、二人の様子を見守った。
手を洗った二人は千晶の部屋へ入るなり扉を閉め、アキラ少年をベッドに座らせる。女の子の部屋ということで少し緊張したのか、アキラはきょろきょろしているが千晶はかまわず上着を脱いで、腹部の機械を露出させる。アキラの目が機械の内臓に釘付けになった。
「すごい、本当に機械だ」
「えへへ~」
機械の体を見せたいとインプットしたためか、千晶は内臓を見られて嬉しそうにしている。ボクは「カバーを外せば腕や足の関節も見せられる」と打ち込む。
「まだあるんだよ!」
千晶はスカートとパンツを脱ぎ、全裸になった。アキラ少年はまだ理性より好奇心が勝るようで、同世代の女の子の裸を興味深そうに眺めている。
同級生に見つめられたまま、千晶は偽装の解除を始めた。彼女らの偽装は可動部のメンテナンス性と排熱を考え、間接と腹部は簡単に解除できるようにしてある。空気の抜ける音風の音、モーターの回るくぐもった音を立てながら、少女の肩、股間の機械が露出する。手首と足首は機械こそ見えないが、つなぎ目を隠す肌が剥がれ、デッサン人形のような節目の目立つ形を露わにした。
「ロボットみたい」
「でしょ」
「手術、怖くなかった?」
「しゅじゅつ?」
モニターに激しいノイズが走った。社会へ融け込ませるには不都合な記憶として、改造手術の記憶はバックアップを取って消去する。あるはずの記憶がない、思い出せない。自分の体が機械に変わったと自覚させたうえで、いつ機械になったか、なぜ機械になったのか分からないようにするとこうなる。生体脳も電脳も混乱し、エラーを発している。よくある不具合だが、ボクは自分のエラーに戸惑う機械を見るのが好きなので、修正せずそのままにさせている。
こういうときは、簡単な偽の記憶を打ち込めば生体脳は誤解し、電脳は打ち込まれた情報を元にプログラムを修正する。ボクは千晶に「よく覚えてない、怖かった、けど気持ちよかった」と入力した。プログラムは記憶の修正を始め、無表情のまま全身を震わせる少女を見てアキラは気まずそうな顔をしている。少年は千晶の動作不良を、自分の質問が悪かったからだと思ったのだろう。アキラ少年が戸惑ってる間に千晶のノイズは収まり、体の震えも止まった。
「あのね、気持ちよかったのは覚えてるんだけどね……他は忘れちゃった」
感情を表示するモニターには混乱する思考を正そうとするプログラムの介入が映し出された、かなり強引な処理を行っているようだ。負荷が大きくなってしまい、千晶の声も動きも遅くなった。ボク好みの光景だ。アキラ少年は千晶の変化に気づいてはいるが、どう捉えればいいか分からないらしく、普通に接しようとする。。
「そうなんだ。ねえ、千晶ちゃんって強いの?」
「つよ、い?」
追い打ちをかけられた少女は言葉を詰まらせ、そのまま停止した。モニターには、問いに疑問を持つ少女の思考をプログラムの鎖が縛り、封じている様子が映し出されている。
今回の質問は先ほどと違い、消した記憶ではなく「はじめから存在しない」記憶だ。機械仕掛けの体が強いか弱いかなど、聞かせたことはないしプログラムもしていない。だが脳も電脳もそれを知らないのは不自然だと気づき、つじつまを合わせようと必至に情報を集めている。
ボクは「強いけど今は抑えられている」と打ち込んだ。足がかりを得たプログラムはそれを基礎として情報を修正し、脳に真実だと受け入れさせる。小波を父親に設定したことと同様、こういった修正は生体脳に強い負担が掛かり、繰り返せば壊れてしまう。
「えっとね、強いんだけどね、いつもは使っちゃダメって言われてるの」
「そっか、ナイショだったんだね」
アキラ少年は千晶の不自然な動きに納得したらしく、疑問を持つ様子を見せなくなった。重ねられる質問に対して、ボクは千晶の電脳に回答を打ち込んで対応する。狭間で翻弄される千晶は表情こそ変わらないが、生体脳は苦しんでいた。その割に、生体脳の負荷が限界を超えることはなかった。
ボクは生の部品が壊れるところを見るのが好きだ。だから、あえて繰り返し修正を行っている。もう人間性に支障が出てもおかしくないレベルだが、幼い子供は自分の矛盾に気づけるほど頭が良くないのだろう。思考レベルを落とせばプログラムの修正に強くなる可能性がある、面白い発見だ。
「ゴツゴツしてる、強そう」
一通りの疑問を解決したアキラ少年に、千晶の露出した機械を触らせるよう促した。千晶にはあらかじめ「機械部品を生身の人間に触れられたとき、性的快楽を感じる」ようプログラムしてある。
「なんか、変な感じがする」
「やめたほうがいい?」
機械とは言え異性の体、しかも裸だ。アキラ少年はためらい手を引こうとするが、その拍子に、千晶の関節と皮膚の隙間に小指が入ってしまった。
「んんっ!」
少女にとっては初めての体験だが、性的快楽は電脳にプログラムされている。千晶の体脳と電脳は融合しており、信号を受け取ってすぐさま快楽に変換できる。電脳が未知の快楽を安全で歓迎すべきとささやけば、自分の本心だと信じて疑わない。
「やめないで……あのね、すごくね、気持ちいいの」
少女の顔は赤らみ、息は荒れ、体が震える。そういうことも出来るように作ってある。
「じゃ、じゃあ」
子供とはいえ、アキラ少年もみだらな雰囲気を感じ取れるようだ。千晶の様子を見て、まだ触れていない股関節の露出部へ手を伸ばし、触れる。
「あうっ! そこ、なんかあったかい」
「気持ちいいんだ、いいなぁ」
少年の手は遠慮を忘れ、少女の機械部品にたくさんの指紋を残す。興味が満たされるにつれ、少年の関心は機械の体から快楽に移り変わっているようだ。強引な手段を考えていたけれど、このまま少年に機械の体を望ませるのも面白いかもしれない。ボクは小波を呼び出す。
「小波、モニターしているかい?」
「演算装置の稼働率から児童ポルノの撮影現場まで全て」
「なあ、床上手な処女に興味は無いか」
「無い」
「ボクはある。なあ小波、千晶を遠隔操作で娼婦のように動かすことは出来るか?」
小波はわずかな間を置いた。
「生体脳へのダメージを無視すれば、可能だ」
ボクは手元にある「男性を楽しませるためのAI」を起動させ、千晶を遠隔操作させる。
「はうっ、お……ア、キラくん。もっと気持ちいいの、知ってるよ」
細かいところは小波に操作させ、子供同士の初々しい触れ合いを淫乱な行為に発展させる。幸い、アキラ少年はそれを受け入れた。
ボクは幼い千晶が同い年のアキラ少年に優しくささやいたり、励ましたり、生殖器を刺激したりする様子を楽しんだ。少女は少年との行為に恍惚の表情を浮かべるが、本人の意思は悲鳴を上げていた。モニター上には激しいノイズが走り、プログラムが思考を修正し上書きする度に生体脳が絶叫する。
二人の行為は本番に及び、少年はなすがまま歓喜の叫びを上げさせられ、千晶は生体脳の過剰な負担から発熱し全身の排熱口を開き湯気を出している。大きな負荷はAIに苦痛を関知させたらしく、千晶は精密機械を剥き出しにした自身の腹部を左手で押さえ、爪を立てた。
無理矢理押し込まれた部品が排熱を妨げ、熱暴走を起こしいくつかのチップとコンデンサーが吹き飛ぶ。故障箇所が食事や呼吸、心音を再現する部分だったのは幸いだった。性行為をさせるには支障のない部分だ。自分が機械だ、という疑念を持たぬよう千晶は自身の故障に気づかないのは当然だが、アキラ少年が行為に夢中で故障に気づかないのも都合が良かった。小波は嫌がるだろうが、ボクは故障した体で異性を求める様子は興奮する。
性器の形しか女性らしさを見て取れない少女が壊れながらも異性を求め、同い年の少年がそれに応える様子は、故障でより激しくなった生体脳の乱れを眺めるのと同じくらい興奮した。幼い子供に性的魅力を感じたことはないが、背徳感が後押ししたのか、今はとても魅力的に見える。
「ガピ、ア、あ。アキラ、くん……キモチ、よかった?」
全裸で倒れた少年は息を荒げながら首を縦に振る。ボクが満足するまで行為を続けさせたためか、少女は故障し、少年は疲弊しきっている。本番が控えているのも忘れ、楽しみすぎてしまった。
「う、うれしピッ……ね、ねえ。アキラくんも、機械の体になろうよ」
「うん」
小さく応え、アキラ少年は目を閉じてしまった。眠ってしまったのかも知れない。ボクは千晶を停止させ、小波に二人を運び出すよう指示する。
モニターの電源を切り、食事のために外へ出る。暗い部屋に長くこもりすぎた、少し体を伸ばそう。戻ってくる頃には、小波の助手達が必要な準備を終えているはずだ。
◆◆◆
「ふぁう、にゅぅぅぅぅぅう!」
手術台の上でアキラ少年が叫び、暴れている。苦しんでいる訳ではない、その逆だ。
幼い少年の脳には苦痛を軽減するため電極を刺し、快楽と幸福感を送られ続けている。だが、少年は戸惑っているように見える。当時六歳だった千晶を改造したときもそうだが、快楽の意味も幸福の意味も分からない子供にこれを使うと、混乱するだけであまり幸せそうな顔をしない。それでも、麻酔として十分使えることは分かっている。
誤解されがちだが、麻酔は苦痛を消さない。極端に鈍らせるか、苦痛を感じていないかのように錯覚させるだけだ。
脳を剥き出しにされても、生きている腕や足、内臓を切り取って奪われても、機械と繋がれ「脳そのものを思考パターンごと分析」されても、その苦痛を感じていない、ないし、感じてもどうとも思わなければ、脳を傷つけずに改造することができる。今までの実験から得られた成果だ。
本来人間が感じないはずのそれに脳が翻弄され体が反応するため。傍目には苦しんでいるように見えるのは難点だが……ボクがこうやって眺める分には、メリットと言っていいだろう。
今回は少年を「ロボットのように見える」サイボーグに改造している。普段であれば、人間性の維持を助けるため全身をサイボーグ用の素材として再利用するが、今回は脳や骨、神経、血、臓器といった、人間の人格形成に影響のありそうな部分以外捨てている。
人間であった時の細胞を生きている間に炭素と微小な金属に分解し再利用する点では同じだが、人間由来の成分を全身に使う従来のサイボーグと異なり、機械の体は前もって用意したものを使う。改造は頭部に対してのみ行い、少年の体だった素材はブラックボックスとして閉じ込める演算装置の部品に加工、脳と体の制御装置に組み込む。
事前に用意した体は女性型。ボクが男の改造を渋ったため生産体制が出来ていないという事情もあるが、今回は少年もオモチャにする予定がある。ボクの相手をする可能性を考え、女性型にさせた。千晶とアキラで性交渉には、別の方法を考えてある。
必要な部分を取り終えた少年は、叫ぶことも顔を動かすこともできなくなっていた。脳の状態を表示する計器の激しい動きがなければ、死体と見分けが付かないだろう。だが、取り扱いは注意深く行う。脳の改造に失敗すれば、本当にただの死体になってしまう。
脳の表面的人間性に関わる部分は残し、感覚や体の働きに関係する部分は全て取り除き機械に変える。残った脳も構造はそのままに、細胞そのものは取り除くためナノマシンに置き換えさせる。これだけやっても改造後に記憶を引き継ぎ、以前と同じように考えら振る舞うことができるのはすごいことだと思う。人間の意識はコンピューターで簡単に再現できるくらい表面的なのか、それとも、人格を生み出す人間性というものが想像以上に強固なのか。強固であって欲しいとは思うが、ボクに答えは分からない。
「お、おわった、の?」
改造した脳と機械の体の接続が終わり、アキラは意識を取り戻した。執刀した小波が少年の疑問に答える。
「ああ。よく我慢したね、いい子だよ」
「せいこう、したの?」
「それは今から調べる。大丈夫、あんなにがんばったんだ。失敗するはずはないよ」
優しげに話す小波の指示に従って、少年だったものは体の動かし方を覚えていく。新しい体は少年だった頃に似せてあるが、中身は別物だ。まともに動けるようになるまで一週間ほどかかった。
小波は調整中のアキラを優しく丁寧に扱った。データを取るためと言っていたが、本心は違うように思う。あいつは兄夫婦から引き取った甥っ子がいる、歳はアキラくらいだったはずだ。技術のためなら情を捨てる男だと思っていたが、思ったより人間味があるようだ。
ボクはアキラが人間だった頃と同程度の運動能力を手に入れたとの報告を聞き、私室に招いた。遊ぶため……というより、今後の布石を打つためだ。
「なんでおちんちんないの?」
元少年は司令官だと思い込んでいるボクに真っ当な疑問を投げかける。
「急なことだったからね、部品が用意できなかったんだよ。時間をもらえれば用意するが、どうかね」
「うん、おちんちんないと女の子みたいだもんね」
アキラが言い終わるか終わらないかの合間に、千晶が室内に入ってきた。その姿は以前よりずっと物々しく、機械が強調されており、アキラ少年のそれと似ていた。
「アキラ君、わたしとお揃いだ!」
「ねえ、千晶ちゃん。ボクたち戦うんだよね? おちんちんってあったほうが強いのかな」
「そのことなんだが」
ボクは二人の会話に割って入った。
「しばらく戦うことはないよ、君たち二人には新兵器のテストを頼むことになったからね。外に出ることの無い退屈な任務だけど、とっても大切だ仕事だ。どうだろう、男の体に戻すかどうかは、テストが終わってから考えるというのは」
「そっか、後でもいいんだもんね」
アキラは納得したらしく、自分の腕を見ながら呟いた。
「そうそう、それと……機械の体はとても気持ちよくなれるんだ。退屈を紛らわすにはちょうどいいと思う。よし、千晶君とアキラ君に初任務だ。新しい体のテストも兼ねて、気持ちよくなる機能を試してきなさい。千晶君はアキラ君にやり方を教えるように」
「はーい!」
「はーい!」
アキラと千晶は抱き合ってはしゃいだ。千晶はそう作り替えたから当然だが、アキラ少年が快楽に抵抗がないのは喜ばしい。
「さ、そうと決まったら部屋に行きなさい。司令は別の仕事で忙しいから、呼ぶまで司令室には来ないように」
指示を付け加え、ボクは二人を退室させた。モニターには、早速お互いの機械の体を貪るように長め、触れ、ケーブルでお互いを繋ぎ、快楽に沈む幼い二人の姿があった。
千晶がカバー外して誘い、アキラは少女の内部を指で触れ、指先の電極から少し強めの電流を流す。場所を変えたり立場を入れ替えたりしながら、二人は互いの体に電流を流したり、お互いをケーブルで繋ぎ感覚を共有したりして、歓喜の声を漏らしている。彼らは疑似女性器に限らず、特定の相手から受ける電気刺激を全て性的快楽として感じるよう作られている。
快楽に酔ったのか、二人の動きはだんだんと鈍くなる。強すぎる快楽に生体脳の意識が途切れ、電脳に切り替わったようだ。それでも二人は行為をやめなかった。電極の出力が強くなり、お互いの内部構造が壊れはじめている。所々から煙が出てきても、火花が散っても、愛撫は止まない。AIに再現された本能が、より強い快楽を求めるのだろう。
快楽の意味も知らない幼児が恍惚の表情を浮かべ、互いに金属の部品をぶつけている。大人にはなれない、子供も作れない、快楽のためだけの無意味な性交渉。とても良い眺めだ。
幼い二人が、自分の体をロボットと区別できないほど機械化されたのに悲しむ様子を一切見せない、というのもボクには魅力的だ。元の体に戻ることはできず、体は変化せず、外には出られず、不都合なことが起きれば記憶を消されてしまう。そんなことになっていると気づかず、自分が人間か機械かという疑問さえ持たない無垢な子供の行動は新鮮で、ボクを興奮させた。
とはいえ、せっかくの楽しみはゆっくり味わいたい。小波は大幅に小型化したボディのデータを欲しがっていたから、二人は当分、小波に預けよう。先日の千晶の再改造で、ボクの性欲は大きく満たされた。小波に餌を与えておくのもいいだろう。
◆◆◆
「やぁ、やぁだぁ!」
人間の痕跡を強く残した状態でサイボーグになった千晶は、その痕跡を消すため二度目の改造が必要になった。ボクは思いつきで、小波に千晶の電脳を取り出さずに改造するよう指示した。ボクは千晶の正面に立ち、少女の柔らかいほほを指でなぞる。
「改造されたときのこと、思い出したんだね。ふふふ、いい顔をする」
「ママ、ママは?」
「目の前で分解されただろう? キミのママも機械に改造されていたんだよ。でも全部が機械って訳じゃない。人間だった頃の記憶は残っていた。もちろん、キミも」
小波は千晶の体を人間由来の素材を使わない、ロボット用のものに交換するため幼い少女の首から上を取り外した。固定された少女の顔に、ボクは顔を近づける。
「新しい体、新しい電脳。わくわくするよね」
「やだぁ、戻してぇ!」
頭のカバーが外され、生体脳と電脳が露出した。
「どうしてだい? キミのお母さんだって、同じ体だったじゃないか」
「お、同じ?」
「そう。分解できて、交換できて、電気で動く。プログラムを用意すれば、知らないことだって出来るようになる。お母さんと同じなのに、なんで娘のキミが不思議がるんだい?」
生体脳に多くの機械が繋がれ、細胞がナノマシンに置き換えられていく。
「あ、あたし……ママと? し、知らない、そんなの教えてくれなかった!」
「仕方ないなぁ。じゃあ、今からずーっとボクの目を見るんだ、顔でもいい。もし出来たら、助けてあげるよ」
「ホント?」
「ああ、本当だ」
首だけの少女はボクの目を見た。恐怖に濁っている、助かりたい一心でボクの顔から目を離さない。
ナノマシン化が終わり、人間の痕跡になり得る記憶の消去が始まった。少女は叫ぶが、目を離さない
生体脳から記憶を取り出す仕組みになっている電脳を作り替え、コンピューターだけで記憶と感情の再現ができるように変える。少女は表情を失ったが、目を離さない。
電脳から部品が抜かれ、少女の目が焦点を失う。それでも少女は目を離さない。
新しい部品に対応するよう、新しい回路を形成する。通電したままの電脳の部品を付け外しされても、少女は目を離さない。
愛おしくなったボクは少女と唇を重ねる。保湿液の供給を止めているため、人間と見分けが付かなかった皮膚は弾力を失いプラスチックの質感が感じられる。舌触りは人形そのものだが、かすかに動く舌の動きには人間味が感じられた。
新しい部品がどんどん足されていく。激しいエラーの影響か、目の中のレンズ絞りが激しく動いている。それでも、少女の目はボクの顔を追っていた。
組み上がり、動作テストが行われる。不具合が出たため、部品を交換しては動作テストという作業を何度も繰り返す。電脳は思考内容が読み取れないほど乱れているが、目はボクの顔に向けられている。
ようやく安定した、プログラムのインストールに入る。少女の目の中で電気が走る様子を見て取れる。目は動いていないが、ボクは顔を合わせたままにした。
制御プログラムが噛み合わず、何度か火花が出た。危険だからと小波に引き離された。驚いたことに、少女の目だけはボクを追っていた。
ようやく安定し、新しい体とのマッチング作業に入る。処理落ちは見られるが、少女の目はボクにピントを合わせようと必至に動いている。
約束通り、作業が終わるまで少女はボクの顔を見続けた。本当に出来るとは思わなかった。再起動を終えた少女に、ボクは話しかける。
「目を離さなかったね」
「はい」
「じゃあ、キミを助けてあげよう。何をして欲しいんだい?」
「わたしは……思い出せません。望みが、分かりません」
「助けて欲しくないなら、なんで目を離さなかったんだい?」
「あなたの目を見ている間だけ、記憶が途切れなかったからです」
「途切れなかった?」
「わたしは二度目の改造を受けた時、不要な記憶を削除されました。ですが、見つめ合っていた間の記憶が残っています、わたしは改造前の自分を思い出すこともできます」
興味深い。小波も同感らしく、少女の声に耳を傾けている。
「へぇ、そういうことも起こるのか。じゃあ、キミは自分が人間だったと知っている訳だ」
「いいえ、わたしは機械です。そう記憶していますし、疑問を持つことはありません。知ろうと思うよう命令されれば、知ることが出来ます」
「なるほど。ボクの感覚で言えば矛盾しているけれど、キミの中で納得できているならかまわないよ。そのほうが人間らしくて好きだ」
「ありがとうございます」
「ところで、ずいぶん言葉が大人びているね。どうしてかな?」
「再現が完全ではありません。わたしは今、人間だった頃の言葉が使えません。わたしの思考を言語回路が受信し、言葉に変換しています」
「だが、キミは意思を持っているね。そうプログラムされない限り、機械が自身を主観で語ることは出来ない」
「意思を持つ、という言葉の意味は分かりません。わたしの思考回路は改造前の人格を元にしていますが、全てデジタルなデータに置き換えられています。消えるはずだった改造中の記憶のせいで、挙動が乱れていると思われます」
「ふふふ、思ったよりずっと面白いものが出来た……キミにお礼がしたい。なにか望みはあるかい?」
「わたしはアキラクンと共に、命令を実行する機械でありたいと望みます。人工知能が、自分の結論より人間の命令を優先したいと言っています。また、消されずに残った記憶が、アキラクンと一緒に居たいと言っています。これがわたしの望みのすべ、て……」
言い終わると少女は再起動し、ボクが知っている七歳の千晶に戻った。
機械の子供も好きなんです