クローバー
好きな花
「お母さんが好きだった花なの。」
そう言って彼女は足元にあった四つ葉のクローバーを取った。
斜めから夕日が差している。夕暮れの空が紅く燃えていた。
そろそろ帰らなければと、彼女に声をかけようとした時、その顔の上には涙があった。
彼女はずっと泣かなかった。亡くなった直後も通夜の時も葬儀の時も。周りがみんな泣いていても彼女は表情を何一つ変えずに物事が進んで行くのを見ていた。
彼女の母親、大橋 雪乃はずっと行方不明になっていた。そして失踪から半年以上経ち、道路で車に轢かれているのが発見されたのだ。
病院に運ばれた時はまだ意識があったが僅かしか持たなかったようだ。
僕にとっても身近な人が亡くなるのは初めてだ。
彼女とは幼い頃からよく遊んでいて、親同士の行き来もあった。
雪乃さんは彼女とは正反対でよく喋り、よく笑う快活な人だった。僕に対しても、とても愛想良く振舞ってくれていた。
正直、雪乃さんが亡くなったと聞いた時は信じられなかった。いや、信じたくなかったのかもしれない。
心にぽっくりと大きな穴が空いたようだった。
それからは通夜や葬儀などが悲しみを感じないためにあるようだった。少しでも手を止めると涙が溢れてきそうだった。
いつのまにか僕の顔にも涙が溢れていた。
クローバー