袖の蝉
俺の袖にはいつからか
死にかけの蝉が捕まっていて
ジージージージー鳴いているのだ。
死にかけのくせに一向死なず
終日ジージー鳴き続けている。
そいつがたまにひと暴れをして
暗きも暗き真っ暗闇へと
俺の袖を引っ張るのだ。
俺は恐れて抵抗するが
一度そこへ入るやいなや
ゆっくり一服してしまう。
重石を抱いて、正座をして、
玄米茶なんか啜ってしまう。
そして出獄してからは
世間様には素知らぬ顔で
懐手してぶらつくのだ。
袖ではジージー鳴いてるくせに
懐手してぶらつくのだ。
これは、俺を殺しはしない。
俺の大事な蝉の死骸は、
俺が死んでも死なないだろう。
欲しがる奴もいくらでもいる。
袖の蝉