袖の蝉

俺の袖にはいつからか
死にかけの蝉が(とら)まっていて
ジージージージー鳴いているのだ。
死にかけのくせに一向死なず
終日(ひねもす)ジージー鳴き続けている。

そいつがたまにひと暴れをして
暗きも暗き真っ暗闇へと
俺の袖を引っ張るのだ。
俺は恐れて抵抗するが
一度そこへ入るやいなや
ゆっくり一服してしまう。

重石を抱いて、正座をして、
玄米茶なんか啜ってしまう。

そして出獄してからは
世間様には素知らぬ顔で
懐手してぶらつくのだ。
袖ではジージー鳴いてるくせに
懐手してぶらつくのだ。

これは、俺を殺しはしない。

俺の大事な蝉の死骸は、
俺が死んでも死なないだろう。
欲しがる奴もいくらでもいる。

袖の蝉

袖の蝉

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-09-01

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