20190330_report.mp4
2019年3月30日、20時07分。
被験体の強化処置完了。
バイタルサインに異常は見られない。
施術前と比較して、肌の色が薄橙からブラウンに、両目の虹彩がブラウンから緑に変化している。
また両脚の大腿部において、皮下脂肪と骨格筋の発達が見られる。
会話は可能で、意識障害は見られないが、記憶消去と改変に異常あり。
被験体は、過去の記憶の大半を喪失している。
想定では、被験体の心的外傷の要因である両親と関係者についての記憶を消去し、
幼少期から現在までを術者と健やかに生活してきた記憶に置換する筈だった。
しかし施術の結果、被験体の記憶は全く異なるものに改竄されている。
術者に製造され、命令を忠実に遂行するだけの存在として生きている、ということになっている。
記憶改竄、および身体の変化の原因は、強化魔術発動時の設定にあると考えられる。
被験体は2018年12月に交通事故に遭い、下肢の運動機能に障害があったが、
強化処置に際し障害を完全に治療するための術式を追加している。
発動時の設定は事前に精査したが、人体での検証は行えなかったため、事象を想定できなかった。
術者を、私を慕い、理想の実現のために協力を申し出てくれた、心優しい少女を、私は。
自分の欲望のままに、身体も精神も何もかも、作り変えてしまった。
後悔しても、罪は消えない。
被験体は、カイは死んだことになっている。
生まれ変わって人生をやり直したい、という本人の希望を叶えるため、使える手段は全て使った。
私は、私の理想を、カイのためにも成し遂げなければならない。
そのためにカイを、あらゆる偽善や横暴に屈しない、強く賢く気高いヴィランに育て上げてみせる。
母親は無理でも、姉のような存在には、なりたいと思う。
以上。
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