存在情報戦。

 最近、ある高等学生が新東京の真ん中某地区で、脳だけを入れ替える実験を法の許可をえず行った。代替的脳の交換は医学と人間倫理の側面から、そうした個人的欲求で興味本位で行ってよいものではない。だが法に依る規制はまだ存在していない。この話は日本の大手新聞も報じた。その後遭遇した話は、感動的な出来事でも何でもなく、訴訟に発展した。ただひとつだけ未知の展開があった。

その日、その家の長男Aと友人で女性の友人であるB、比較的最近起こり始めた新しい病として、そうした交換を続けていると、その人本質の自我がゆがみ、正確が交換によって行われたあとの、例えるのなら——記憶交換――のようなことが起こる可能性があった。医療技術が発達した未来において、こうした科学と人間本来の新しい干渉によって、新しい疾患、新しい症状が出る事は多く世間にしられている。少なくとも現代医学ではすべてはわからないが、脳を交換した事による後遺症――といっていいかわからないがともかく――どこかでの人格の交わり、優しくいえば異変が起こってしまうことは、外見的観測と医療機関の記録よってつまびらかにされていた。

もちろん、彼等も例外ではなく、というより彼等こそがこの問題の大きな、拡張された疾患の第一の被害者だといえるかもしれないが。Aはこの某マンションの家主の息子で、もともと気性があらく、ものごとをはっきりきっぱりきめて、友人にさえ客観的な立場で正義と思う事をつらぬき主張するというタイプ、Bは真逆で気性は優しく、あたまのいいAにいつも手助けをうけるという友情関係にあった。彼のやさしさは、一人っ子で親が貧乏であることから、時折親の手助けをするように勉学の合間をぬって、しっかりとアルバイト生活をして家計を支えていたという外見的事情からいっても定かである。

その後、彼らは彼等の特徴の半分半分を――周囲の聞き取り調査によれば――うけつぎ、そして民事訴訟に至ったという。彼等が“交わり”をおこなわなければこうした問題は起こらなかったかどうか?当事者本人、周囲の人間さえ、その可能性については正しく言及ができない。

存在情報戦。

存在情報戦。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-08-30

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