未来
「将来の夢は何?」
二十歳同士の会話だった
「縁側でお茶飲んでて隣に猫がいる」
「マジ?」
「マジ」
笑い合って 他愛もない話
「あなたは何になりたい?」
逆に聞き返された 二十歳同士の会話
「早く三十七歳になりたい」
「どうして?」
「年齢的に大人になりたい」
「もう大人なのに?」
笑って でもお互いに瞳は真剣だった
幾つになれば本当の大人に馴れるのか
子供が言う言葉と大人が言う言葉
同じ言葉でも どんなに正論だったとしても
生意気なと上で飛び交う言葉
私は知ってる その矛盾と痛さを
彼女もまた違う視点で 知っている
本当の大人との接点を
でも 私に種明かしをしない
私を知ってるから
私が偽者だと知ってるから
本当は軽い言葉の一つでも脅える子だと
彼女は見抜いていたから
「私を挟んで猫とあなたがいる」
「縁側で?」
「そうお茶を飲んでる」
幾つ? 私は泣きそうに訪ねた
彼女の言葉は優しすぎて とても心が痛む
それでも訪ねる 彼女の優しさに応えるために
「おばあちゃんだよ」
「おばあちゃんね」
「縁側で一人身のおばあちゃんが二人」
「お茶を飲んでるわけだ」
「隣に猫がいてね」
笑って
「素敵でしょう?」
泣く私
「お茶を飲むだけ?」
「空を見るの」
「暖かいだの寒いだの?」
「素敵でしょう?」
彼女は知ってる
「素敵だね」
私が偽者であること
時間が来れば変貌し完全に知らない人間の顔になる
友達は有効期限付き
彼女はそれを覚えてる 同時に私の傷痕を見ている
それはたくさんの人間を憎んだ証拠
もう 自分を守るために たくさん偽った私と私と私と
数えきれない どれが本当の自分なのかもわからない
「知ってる?」
人を憎むだけ憎み続ける私に彼女は囁く
「人を憎む人はその分だけ優しさを知っている人なんだよ」
彼女は知ってる 私が偽者であること
私は知ってる 彼女が生まれもがいても もがみきれない病
一生の付き合いとなるだろう 病
彼女もまた偽者かもしれない
人に見せたくない 弱さ 傷 痛み
それでも彼女は言う 私は応える
「縁側で一人身のおばあちゃんが二人」
「お茶を飲んでるわけだ」
「隣に猫がいて素敵でしょう」
「素敵だね」
未来