煤塵の城

兎禅國

煤塵の城

列なる瓦斯灯

煙㷔は天蓋を蔽う、街は怏怏として黒煙を燻ゆらす。繁忙を極める、紡績、造船、鉄鋼、果てには、教会、病院さえも㷔㷔と噴煙を上げ空を汚す。霧は煤塵によって黒く霞み六ヤードの視界と空に浮き列なう瓦斯灯の光炎が見えるのみである。だだ、文明の其れらが汚すのは空ばかりでは無い、淡い服が煤塵によって黒く汚れる様に人は皆心を汚している。特に、油を被り、灰に身を埋め。炎火に顔を焦がしている、文明機関の一番の近親者たる労働者階級達が殊に事事物物として汚れきっていた。

  黒い霧スモッグが地を這うように入り込んできた。息苦しくなるように、汚くみじめで狭いリューマスの裏路地で目を覚ます。リューマスに住んで居るのは、最貧層の人々であった。建物は、倒壊しそうなほどぐらついている。どぶには漏れ出したし尿が溜まり、飢えた鼠が死体を晒している。そんな劣悪の場所さえ、家のないみじめな人たちはすみかとしている。そんな退廃の街で、目を覚ましてしまった。いっそのこと、目を覚まさないほうがどんなに心穏やかでいられるだろうか。街は、私を置いていきはしない。必ず私を起こして退廃を続け、私に片棒を担がせに来る。もう、何日目だろうかもう三週間になるか、世界で神と並ぶ慈悲深いアッパークラスのご婦人の哀れみを買わなきゃ生きていきやしない。それだって、気ままな、ご婦人は、どんなときも深い慈悲を、持っている訳ではない。だから、夜には腹が鳴る。今日だってそうさ、何か盗やらなきゃやって行けない。捕吏に追いまされることなんて、一度や二度のことではない。捕まれば、あの素晴らしい三食付きの薄粥に教区吏の折檻、極め付きは飢えを存分に楽しんだ後の死。そんな救貧院に突っ込まれる。

「クーガン、起きて…」
 僕は、ジュートで粗く織られた麻袋に身体を入れたまま、隣に寝ているクーガンを優しくさすった。
「捕吏が来る前に移動しないと。」
  彼は酷く白い息を吐く、ふっと彼は麻袋から出ようとする僕をとどめようとする。
「パーシー、もう少し、もう少しだけ…」
 彼は、まだ暖を取りたそうに僕にしがみついた。
「分かったよ、もう少しだけだよ、でもテムズ川に行くんだから早くしなくちゃいけないよ。」
「テムズ川…」
 クーガンは小さくつぶやいた。彼にはさぞかし行きたくはない場所だろう。あの汚く不衛生で吐き気をもようおすほどの大悪臭、それにジフテリア、コレラ、破傷風、赤痢にチフスありとあらゆる病の源だ。しかもだそんな、この世で一番危険で汚く不衛生この上ない川に僕たちは足を入れ、手をついて汚泥の中から物品を漁る。もし、そこで少しでも傷つけば直ぐに病にかかるのだから。クーガンが行きたくないのも察せた。

「クーガン、行きたくないのか」
 クーガ、は僕にしがみついたままは首を横に振った。そうすると、ふぃとこちらを見上げて
「綿布工場にいたときのとくらべたら何倍もましだよ。」
「言えてるな。」

 こんな、生活はほんの三週間前まではしていなかった。でも、これだけは言える。この三週間は綿布工場にいた時よりも何倍も何十倍も人間らしく生きている。あれは今から四年も前だ。まだ僕が九歳だった。フェーズリンの片田舎の教区に家族五人で住んでいた時。
 豊熟し小麦が一枚の黄金色の絨毯となり。収穫期を迎えた春の初め頃だ。小農業の一細民の僕も収穫に駆り出される。それ以外にも牛や羊の見張り、穀物から鳥を追い払い、草を刈り、薪を集め、石を拾いがあった。家に帰れば、槙肌を親が1.3パインンのジンで眠るまで作り続けなければならなかった。殆ど、休みなど無かった。 

 父さん、いつものように、僕たち呼ぶ。「パーシ、クーガン、来い、ペンクロフは足手まといだ!来るな。」
 5歳のペンクロフは実際はどうのこともできなかっし只の足手まといだった。それに、泣きじゃくる彼は働くどころか父の足蹴にされること請け合いだった。
「かわいそうに、家に残ったら母さんに邪険にされるだけだろうに…」
「いや、ここに来れば邪険にされるだけじゃすまないよ。」
 そんな、無駄口が父の耳に入ったらしく、父が気の利い返答を返した。父が持っていた驢馬ろば打ち棒をよく教区吏が教区の子にやるように僕の頭に打ちつけた。一度だけでは無く二、三回強く打ちつけた。父親の品格らしい、返答だった。父さんは、クーガンに近づくと品無くしたようで平手打ちをかました。
「全く、お前らは!」
 父は、怒りに顔を赤らめた。
「言ったろ邪険にされるだけじゃ済まないって」
「ああ」
 今度は、かすかな声で耳打ちした。
 父さんは、大股で農地までの泥濘を驢馬車で進んで行く。車輪についた泥が飛び、父の粗雑に作られた綿布のゲートルを一層汚くしていた。無論の事だが、車輪によって飛びあげられる泥は、僕たちのフランネルのスモックも汚してゆく。
「あぁ…これから、作業だって言うのにもう染み込んできたよ」
 泥が冷たく染み込んできた、此れには大いに気を削がれた。というのも、只でさえ、スモックは二回り三回りぐらい自分の体に合っていなかった。この事から分かるだろうが、服なぞ古着屋で買った、このスモックのみなのだ。しかも、母は子供達の面倒を見るより自分の面倒を見るのがだいぶ好きである。そんな、母であるからして、洗濯らしい洗濯はしてはくれないのが常だった。
「パーシー、クーガン、刈り始めるぞ」
 父が4/1ルードの小麦畑の端に寄せて言った。早速、子供達は、刈り始める。ある程度の小麦を刈ったら縄で一回りにして次を刈り続ける。それを、日が暮れるまで続ける。
「今思うよ、ペンクロフの手が借りたいね」
 クーガンは、冗談混じり言った。
「ペンクロフが涙を流すんじゃなくて、手を動かしてくれるなら、お願いしたいね」
 僕も、冗談に乗ってやった。
 ペンクロフが来ることが、何の役にも立つ事は無いと分かっていたが。何だか、家にいるペンクロフが気になった。ペンクロフまだ子供で、父さんと母さんに邪険にされ、飯もろくにもらえなかった。だが僕たちには、小さな兄弟であり、遊び相手なのだ。三人とも数え切れないないほどいっしょに叩かれ、ひもじい思いをさせられ、とじこめられた。そんな、苛烈で陰惨な親の折檻の中で兄弟愛をつら抜けるのは、このペンクロフとクーガンの愛しやすさからくるのであろう。
 宵に沈む太陽は辛苦の対価として慰める。それが、僕とクーガンの対価だ。だが、勤労者の父には、沈みゆく太陽だけでは、その功労には報いることは出来はしない。父には、子供二人(2ポンド)分のパンが与えられる事でやっとその功労に報いることができる。それによって、子供たちがおを空かせようと、何の気を使うこともなく父には、2ポンドのパンを食べる権利があった。 
 父は驢馬車にもたれた、首に巻いた首巻クラパットを緩め、なんとも硬そうにパンを食べた、僕たちを一瞥するや。
「何見てるんだ、食意地の張った奴め!」
 父さん、そう言いながら、顎で麦束を荷台に積めと命令した。僕たちが積み終えると、父さんが、驢馬を歩かせた。帰り道は畦道が多いので、麦束が落ちないようするのに、大変な苦労をした。
ふいに前から人が来た。前からドロシュケに乗ったジェントリ風の紳士が近づいてきた、目の前まで来ると。
「ハンブルさん、じゃありませんか。」
 親がよく通っている薬屋の店主だった、親が通っていると言っても、父母共にみじめさと酒浸り以外は、気にするところはないが。親は、或る興を嗜むためによく通っている。というのも、アヘンチンキと言う老若男女、貴賤貧富どこの誰でも嗜めるて薬でもあり、憂さ晴らしにもなれる。この安価でアスピリンと変わらない、非凡庸性に親は夢中になっていた。
「あんたか、随分金回りが良さそうじゃないか」
 薬屋の店主は、不快な笑みうかべた。
「実は、そうなんですよ、ハンブルさんもご用向きがあれば、」
「そうだな、またこいつを行かせるよ。」
 父さんは、いつも町には子供たちにアヘンチンキを買いに行かせた。店の店主は子供だろうがなんだって買ってくれるのであれば、毒物二種だって売ってくれる心の広い人だった。前なんて、砒素さえ子供に売っていた。
 そんな、店主を我利我利亡者と蔑すむ、奥様がたもいるが、そんな、奥様方だってみんなこの薬屋から買っている。主に鎮痛剤、睡眠薬、気付け薬、総じてアヘンチンキであが、この薬屋から買っていた。

 薬屋のドロシュケを通すために、狭い畦道の端によった、ドロシュケは泥濘の畦道を遠慮なく疾走した。そのおかげで、驢馬車は畦道から逸れぬかるみにハマった。だが、父が荷台から降りたので苦労せずして、前輪を揚げる事ができた。やっと、帰路を進むことが出来たが、驢馬の鈍足が一層あたりを暗くした。どうにか、家まで2チェーン辺りぐらいまで来た時。猛烈な違和感を感じた、「なんだあれは、母さんじゃないか。」母さんが、家から出て父さんの帰りを待っている。母さんが父さんの帰りまつなんて生まれてこの方見たことがなかった。何かおかしい。何かあったんだ…。

煤塵の城

煤塵の城

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-08-28

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