あの星のせんぱいへ
うわき、みたいなことをしているつもりは、ないのですが、どうにも、そういう気分になる、と思いながら、せんぱい、ではないひとと、ホテルにいます。
ごめんなさい、とは言いません。
あやまったら、ぼくのしていることは、どうしようもなく、うしろめたいことに、なってしまうかもしれませんが、ほんとうに、そんなつもりは、なくて、もちろん、せんぱい、ではないひとも、その気はないので、つまりは、なにも、ないのです。ただ、せんぱい、ではないひとと、ふたり、深夜のホテルにいる、という、この状況が、そういう気分にさせるだけで、せんぱい、ではないひとは、ずっと、眠っているし、ぼくは、テレビを、観ていますから。深夜番組、というものは、セクシーと、エッチと、下品を、紙一重でいっている感じだなぁ、なんて思いながら、備え付けの冷蔵庫に入っていた、ビールを飲んだり、ベッドの上で、ごろごろしたり(もちろん、ベッドは、ふたつあります)、ふと、せんぱい、ではないひとの寝顔を盗み見て、やっぱり、せんぱいとはちがうな、なんて、ひとり、しんみりしているような、ぐあいなので。
ところで、もう、夏はおわるようです。
せんぱいが、あの日、海水浴の帰りに、いっしょに行かないかとさそってくれた、せんぱいの、生まれた星に、ぼくも行けばよかったと、いまさらながら、後悔しています。せんぱいがいない、この星は、ひどくたいくつです。まいにちが、かわいた砂漠に突っ立っているかのように、からからです。どんな本を読んでも、おもしろいと感じないし、博物館で、だいすきな恐竜の化石をながめても、どきどきしません。オムライスは、もう、せんぱいの作ってくれたものしか、たべられないほど。トーストは、せんぱいの好きだった、目玉焼きと、かりかりベーコンをのせて、まいにち、朝、たべていますが、ぜんぜん、まるで、あきないのが、ふしぎなくらいです。
夏のおわりの、花火は、せんぱいと見たかった。
せんぱい、ではないひとの、まつげが、ときどき、ふるえます。ホテルには、かぞえられるほどしか、泊まったことがありませんが、二十六時のホテルは、部屋を、どこか、そう、たとえるならば、宇宙のすみっこに、置き去りにされたみたいに、静かです。せんぱいが、くれた、ティラノサウルスのぬいぐるみは、いまも、たいせつにしていますし、せんぱいだと思って、添い寝する夜も、あります。
せんぱいは、おげんきですか?
これは、うわき、ではありませんが、でも、もし、せんぱいが、一ミリでも、うわき、だと感じるようならば、しかたないとも思います。おもしろいのか、おもしろくないのか、よくわからない、深夜番組を、でも、ぼくは、せんぱいと、いっしょに観たかった。
あの星のせんぱいへ