花の首輪、蔓の鎖

 あいしてるのことばは、かなしばりみたいに。
 ぼくらは、そう、だれからみても、恋人同士にはみえないだろう。ぼくと、あのひとと、神さまだけの、ひみつの関係は、コーラに沈めたアイスクリームのように、甘い、というわけでもない。
 あのひとは、王さま、ぼくにとっての。
 花の首輪。
 蔓の鎖。
 野原のベッドに眠ったら、そのまま自然と同化して、きえたい。
 あいしてるが、苦痛になったとき、ぼくは、あのひとを、恋人を、裏切っているのだと思った。
 空が、いつのまにか、トマトをつぶしたみたいに赤く染まって、星は腐って、月は砕けて、宝石になった。ホットドッグにかぶりつきながら、あのひとが、パソコンに向かって仕事をしている横顔を、じっとみつめている瞬間が好きだった。あいしてるは、うわごとみたいに、ベッドのなかでくりかえされる、ことばあそびでしかなかった。
 おわらない夢の、ぼくは、従順な、あのひとの、しもべ。
 星も、月も死んだ、夜の街は、おおかみたちのもの。
 冷凍のチキンライスを、電子レンジでチンしているあいだに、逃げればいいのに。
 あのひとの家が、ぼくの家。
 あのひとの寝床が、ぼくの寝床。
 あのひとの握る蔓の鎖が、ぼくと世界を繋げる、唯一のもの。

(だれか)

 神さまでもいいから、夕焼けをすくったら、ちいさなびんにつめてほしい。
 ぼくは、夕焼けの空が、いちばん好きです。

花の首輪、蔓の鎖

花の首輪、蔓の鎖

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-08-19

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND