花の首輪、蔓の鎖
あいしてるのことばは、かなしばりみたいに。
ぼくらは、そう、だれからみても、恋人同士にはみえないだろう。ぼくと、あのひとと、神さまだけの、ひみつの関係は、コーラに沈めたアイスクリームのように、甘い、というわけでもない。
あのひとは、王さま、ぼくにとっての。
花の首輪。
蔓の鎖。
野原のベッドに眠ったら、そのまま自然と同化して、きえたい。
あいしてるが、苦痛になったとき、ぼくは、あのひとを、恋人を、裏切っているのだと思った。
空が、いつのまにか、トマトをつぶしたみたいに赤く染まって、星は腐って、月は砕けて、宝石になった。ホットドッグにかぶりつきながら、あのひとが、パソコンに向かって仕事をしている横顔を、じっとみつめている瞬間が好きだった。あいしてるは、うわごとみたいに、ベッドのなかでくりかえされる、ことばあそびでしかなかった。
おわらない夢の、ぼくは、従順な、あのひとの、しもべ。
星も、月も死んだ、夜の街は、おおかみたちのもの。
冷凍のチキンライスを、電子レンジでチンしているあいだに、逃げればいいのに。
あのひとの家が、ぼくの家。
あのひとの寝床が、ぼくの寝床。
あのひとの握る蔓の鎖が、ぼくと世界を繋げる、唯一のもの。
(だれか)
神さまでもいいから、夕焼けをすくったら、ちいさなびんにつめてほしい。
ぼくは、夕焼けの空が、いちばん好きです。
花の首輪、蔓の鎖