Born in The JAPAN
Born in The JAPAN
日本人として生まれ、誇りもなく、ただ見えない欧米文化に常に魅了され続ける。情けないことだと感じることもない。本当の意味の日本は今の日本には無いのだ、そんなもの大昔に無くなってしまった。
そんな国で、決まった年齢になれば徴兵に似た労働の担い手となり、人生の大半を過ごす、よく分からないままに。
もし成れなくとも、殺されはしないが助ける人もいない。非難されるだけ非難され
淫夢のような憧れだけを抱きながら、気がつけば狭い部屋で視界には黒い壁しか見えなくなる。そうなったって、人々は非難する。医者かカウンセラーでない限り。
・我等弱き人々
錦糸町に小汚ない客の集まる古い喫茶店がある。客は皆、競馬新聞を手に持っている、彼らは充血した瞳でテレビの画面を見ている。
そんなホーボージャングルの住民達も競馬が終れば居なくなる。
日が落ちてくると正面のパチンコ屋の為に早めに喫茶店には日の光が無くなる。
そうなると、オーナーは古い三つのシャンデリアに光を灯す。客層もさっきとは代わり店内は静かなものだ。
そんな店内の窓側の席に二人の男女が向かい合って、座っている。
男の方はダブルの三ポケットのストライプ入りの紺色のジャケットのしたに黒いシャツを着て紅色のネクタイを結んでいる。これだけなら水商売人に見えなくもないが、黒いポークパイハットを被っていたし丸眼鏡を掛けていた、それにフランス煙草を吸っていた。であるから単純に水商売にも思えない風貌だ。それに元の顔が大したことがないから、もし水商売をしていても三下三枚目役にしかなれないだろう。
女の方は長い黒髪が背中まである。大きな瞳の色は片目が茶色、もう一は緑色だ、そして睫毛が長い。目鼻立ちのハッキリした美しい女だ白人にも見えるが、流暢に日本語を喋っているし、肌の色も黄色人種を思わせる白さだった。
彼女は古着の赤いオーバーサイズのシャツを着ていた。シャツにはギターを持ったブルース・スプリングスティーンの写真がプリントされていて、彼の上にはBorn In The USAと書かれていた。
男が喋り始めた
「80sのシャツ?」
女も喋りだした
「さーこういうものは彼方では普通に売ってるんじゃない」
「似合ってるよ」
「ありがとう」
彼女は微笑とも苦笑いともとれる顔で答えた
「君の方はいつもお洒落だよね」
「流行りは似合わないから」
「今なに流行ってるか知ってるの?」
「知らないけど、だいたい想像つくよ、原宿辺りを歩いてる服だろ」
「まーそうね、私もそう思う」
「最近、下駄が流行ってるって聞いたけど知ってる?」
「あー夏の間は履いてる人ちょくちょく見たけど、寒くなってきてからは見てない」
「足袋は流行らねぇーって事だな」
「サンダル感覚だったんでしょ」
窓の外には雑居ビルの白い壁が見える。
「その歌知ってるかい?」
男は女の胸の辺りを指して言った
「ああ、Born in The USAでしょ、85年か84年かその辺りの曲よね」
「よく知ってるね」
「ただのクラブ通いだと思ってた?」
「クラブ狂いだと思ってたよ」
「君は見る目がないな、レーガンと一緒よ」
「なるほど、歌詞も知ってるんだね」
「もちろん、私のおばあちゃんも体験したんだよね、ベトナム戦争」
「俺のじーさんも空襲体験したよ」
「ろくなもんじゃないわね、いつの時代も」
「今も?」
「ええ今も。でも、君は良いわねBorn in The JAPANなんだから」
「どうして?」
「私は日本人だけど、日本生まれじゃないし、おばあちゃんはベトコンだったし、めちゃくちゃよ、混血児の気持ちは分からないでしょうけど」
「確かに、でも悪いことじゃない」
「どうして?」
「結果として、君に繋がったんだから」
男は呆れ顔で、そう言った。
彼女に呆れたのじゃない自分に呆れていた。
「素敵なお言葉ありがとう、でも、そんなんじゃ今時、女の子はつれないよ」
「釣り堀にでも行くさ」
「クラブ?」
「さーね、でも少なくとも俺は君だけは特別だと信じてるよ」
女は呆れながら、首を左右に振った。
でも、正直、悪い気持ちではなかった。
そして煙草に火をつけ吸った、吐き出した煙が男の眼鏡越しの目に染みた。
彼女はハイライトのメンソールを吸っていた。
"Hi-light "
そうね、何時でも皆、探しているわ、その点だけは今も昔も日本もベトナムも、
何処に居ようが変わらない。
Born in The JAPAN