落とし穴のバカヤロウ。

yuki.y

私は普通に歩いていただけ。



ううん、ちょっとだけ普通ではなかった。

ううん、だいぶ普通ではなかった。

履きなれないピンヒールをコツコツと鳴らし、ランウェイを颯爽と歩くモデルのように歩いてた。

大勢の観客の目線を束ねて自由に操り、誰にも似ない個性的なポーズをキメて、大きな喝采を浴び自信満々に歩いていた。

スポットライトは暑いけど、私は女優、汗なんてかかない、そんなもの自由自在にコントロールできる。

全ては私のもの。私は全てのもの。

背を向けてライバルとすれ違った後、足を掬われ世界は見事に一変した。

身に纏っていた衣装は破れ、私の汗まみれの身体に白い粉が粘り付き、呆然とした。

♪テッテレ〜!!

ロン●ーのあつ●あたりが「ドッキリ」と書かれた札を持って、
「お前にそんなことあるわけないじゃん!」
と、にやにや笑っている。

私はスタッフに落とし穴から救出され、
「やだ〜、やられちゃいました〜。」
と、へらへら笑いながら感想を述べている。



もうひとりの本当の私が穴からそれを見ている。もう穴から出る気力なんてない。作り笑いすらできない。誰の救助もいらない。ここから出られるわけがない。粉まみれのままここにいる。私は普通に歩いていただけ。そう、普通に歩いていただけのはず。粉まみれの白い顔に涙の線がくっきり頰をなぞってゆく。蓋をされた落とし穴の暗闇で私は叫んだ。

「落とし穴のバカヤロウ!」

私の声が穴の中で虚しくこだまする。

落とし穴のバカヤロウ。

落とし穴のバカヤロウ。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-08-16

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