台風の中で見つけたもの
風が強くて前に進めない。
彼は手が不自由だった。
でも足なら動く。
こんな押しに負けてたまるもんか。
彼が一歩進むと、目の前にある花を踏んでしまった。
雨も少し降ってきて視界が悪くてよく見えない。
もう一歩前に進むと、カエルの母親と目が合った。
危ない。
足を横に少し避けると、カエルの子供と目が合った。
間に合わなかった。
仕方がなかったんだ。避けようがないじゃないか。
彼は、自分にそう言い聞かせるともう一歩前に進んだ。
そこにも確かに何かあったけれど、霞んで見えなかった。
彼には足を止める気は無かった。
彼が何かを踏んだ時、思いっきり転んだ。
尻もちをつく彼の前に見える霞んだ影の‘それ’は、どんどん大きくなって、
彼よりも大きくなって
彼が顔を上げても見えないくらいになって
‘それ’が大きく振り上げた何かは、彼を覆い隠した。
台風の中で見つけたもの