台風の中で見つけたもの

風が強くて前に進めない。

彼は手が不自由だった。

でも足なら動く。

こんな押しに負けてたまるもんか。

彼が一歩進むと、目の前にある花を踏んでしまった。

雨も少し降ってきて視界が悪くてよく見えない。

もう一歩前に進むと、カエルの母親と目が合った。

危ない。

足を横に少し避けると、カエルの子供と目が合った。

間に合わなかった。

仕方がなかったんだ。避けようがないじゃないか。

彼は、自分にそう言い聞かせるともう一歩前に進んだ。

そこにも確かに何かあったけれど、霞んで見えなかった。

彼には足を止める気は無かった。

彼が何かを踏んだ時、思いっきり転んだ。

尻もちをつく彼の前に見える霞んだ影の‘それ’は、どんどん大きくなって、

彼よりも大きくなって

彼が顔を上げても見えないくらいになって

‘それ’が大きく振り上げた何かは、彼を覆い隠した。

台風の中で見つけたもの

台風の中で見つけたもの

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-08-15

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted