同調率99%の少女(27) - 鎮守府Aの物語

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同調率99%の少女(27) - 鎮守府Aの物語
  1. 登場人物
  2. 後半戦開始
  3. くじかれる出だし
  4. 変化する戦況
  5. 主力艦隊を討て
  6. 支援艦隊の防衛戦
  7. 神通の後悔と決意

=== 27 演習試合(後半) ===
 神奈川第一鎮守府の艦娘達との演習試合後半戦。今までの自分たちにない力と迫力を持つ、強敵鳥海率いる神奈川第一鎮守府の艦娘達に、那珂たちはどう立ち向かうのか。互いに消耗する中、彼女たちが見た結末とは?

登場人物

<鎮守府Aのメンツ>
軽巡洋艦那珂(本名:光主那美恵)
 鎮守府Aに在籍する川内型の艦娘。演習試合前半をかろうじて中破で生き残る。後半では強敵鳥海にどう立ち居振る舞うか。

軽巡洋艦川内(本名:内田流留)
 鎮守府Aに在籍する川内型のネームシップの艦娘。演習試合前半で轟沈。

軽巡洋艦神通(本名:神先幸)
 鎮守府Aに在籍する川内型の艦娘。演習試合後半の旗艦。いろいろなことに責任を感じやすい彼女が見せる戦い方とは。

軽巡洋艦五十鈴(本名:五十嵐凛花)
 鎮守府Aに在籍する長良型の2番艦。演習試合後半では支援艦隊。

軽巡洋艦長良(本名:黒田良)
 鎮守府Aに在籍する長良型のネームシップ。演習試合前半で轟沈。川内とともに、試合中に何かあったときのための作業係となる。

軽巡洋艦名取(本名:副島宮子)
 鎮守府Aに在籍する長良型の艦娘。演習試合後半でも支援艦隊所属。ビギナーズラックは……あるか!?

駆逐艦五月雨(本名:早川皐月)
 鎮守府Aの最初の艦娘。演習試合後半では本隊所属。元来のドジっ子属性が発揮される中、初期艦・秘書艦の意地なのか奮闘する。

駆逐艦時雨(本名:五条時雨)
 鎮守府Aに在籍する白露型の艦娘。演習試合後半では本隊所属。那珂と組んで奮戦する。現状の白露型では一番の姉艦たる意地を見せられるか?

駆逐艦村雨(本名:村木真純)
 鎮守府Aに在籍する白露型の艦娘。演習試合後半では本隊所属。

駆逐艦夕立(本名:立川夕音)
 鎮守府Aに在籍する白露型の艦娘。演習試合前半で轟沈。

駆逐艦不知火(本名:知田智子)
 鎮守府Aに在籍する陽炎型の艦娘。演習試合後半でも本隊所属。

重巡洋艦妙高(本名:黒崎(藤沢)妙子)
 鎮守府Aに在籍する妙高型の艦娘。演習試合後半でも支援艦隊。

工作艦明石(本名:明石奈緒)
 鎮守府Aに在籍する艦娘。工廠の若き長。演習試合では艦娘達のステータスチェックとジャッジ・アナウンス役。悪いと思いつつもやはり自分らの鎮守府Aの艦娘びいき。

提督(本名:西脇栄馬)
 鎮守府Aを管理する代表。演習試合の最初と最後の号令係。自分の艦娘達の戦いっぷりと勝敗の行方を実は誰よりもハラハラしながら気にして見ている。

<神奈川第一鎮守府>
練習巡洋艦鹿島
 村瀬提督から提督代理を任された艦娘。今回はほぼほぼ西脇提督と一緒に行動。霧島曰く、天然の魔性の女。影では変な言われようだが、出張先では提督代理を務めることが多い、神奈川第一鎮守府の上層部でもかなりの位置に実はいる女性。

軽巡洋艦天龍(本名:村瀬立江)
 神奈川第一鎮守府に在籍する艦娘。演習試合前半で轟沈。那珂のことを知りたくて、試合終了後の懇親会でなんとかして絡んでやろうという考えで頭の中はいっぱい。

駆逐艦暁、響、雷、電
 神奈川第一鎮守府に在籍する艦娘。演習試合前半で轟沈。試合終了後の懇親会では鎮守府Aで唯一仲良くなった川内と絡む。

重巡洋艦鳥海
 演習試合に参加する神奈川第一鎮守府側の独立旗艦。演習試合後半の旗艦。那珂の強さに興味を示し、一騎打ちを申し出るも断られた。そのため戦いの中でその強さと彼女のことを知ろうと立ち回り仕掛ける。僚艦の艦娘達はなにかと彼女を気にかけた素振りがあるが、鳥海は何か事情を秘めている。

戦艦霧島
 演神奈川第一鎮守府に在籍する艦娘。演習試合後半でもその強烈な火力の一撃で戦場をかき乱す。

軽空母飛鷹・準鷹
 演神奈川第一鎮守府に在籍する艦娘。演習試合後半では本隊ながらも後方に位置して航空攻撃を繰り出す。

駆逐艦秋月・涼月
 演神奈川第一鎮守府に在籍する艦娘。演習試合後半では常に鳥海に付き従い連携の取れた攻撃を仕掛ける。

<鎮守府Aにかかわる一般人>
那珂の通う高校の生徒達
 同高校から、一年~三年、教師と大人数で見学のため来ている。生徒会からは和子が来ているため、神通は終始安心することができている。
 なお、メディア部の井上は提督に頼みこみ、学生の立場として撮影・記録担当。

五月雨の通う中学校の生徒達
 五月雨はじめ白露型担当の少女達の通う中学校からも見学目的で十数人が来ている。

不知火の通う中学校の同級生2人
 不知火の中学校からは、彼女の友人兼艦娘部のメンバーが二人来ている。彼女らもまた近い将来なるために観察を熱心に行う。

提督の勤務する会社の社員
 西脇提督と同じ会社に勤務する社員も数人来ている。西脇栄馬という先輩(後輩)が関わる艦娘世界とはどういうものかを興味本位で見に来ているとかなんとか。

ネットTV局のスタッフ達
 縁あって鎮守府Aとつながりを持った。ネットテレビ局。今回は演習試合はじめイベント全体の撮影・広報役。

後半戦開始

後半戦開始

 那珂たちが前半戦開始前と同じポイントに立つと、神奈川第一の鳥海たちもまた同様に同じポイントに立っていた。しかし、その陣形は何かおかしい。

「何……あれ?」
「……鳥海さんと駆逐艦のお二人が前に、戦艦の霧島さんと空母のお二人が……ちょっと見えにくいですが前の三人の遥か後方にいますね。少ない人数でも、前衛と支援艦隊で分けたのでしょうか?」
 那珂がぽろりと素直な疑問を口にすると、並走していた神通が確認がてら説明をする。
「ふつーなら6人で来ると思ったんだけどなぁ~。まぁ理にかなってるよね、あの並び方。」
「そう、ですね。遠距離を狙える戦艦と空母が後方に……。以前、近代の海戦の参考書で見たことある気がします。」
「油断できないなぁ~鳥海さん。やっぱあの人強いわ~。」
 那珂の普段の口調気味な感想に神通は言葉なくコクリと頷いて同意した。

 気を取り直して那珂はメンバー全員に向けて音頭を取った。
「さて、うちらも陣形変えるよ。」
「「はい。」」

「さてここからは旗艦の神通ちゃんにお譲りしま~す。神通さん、よろしくね~。」
「うぇっ!?」

 那珂は普段の軽調子でおどけながら神通に手で仕草をしながら主導権を譲った。未だその調子に慣れぬ神通は思いっきり驚き慌てる。しかし呼吸とツバを飲み込み、すぐに感情を落ち着けて思考を切り替える。
 もう一度開いたその目つきを見た那珂は、安心して口をつぐんだ。

「そ、それではこれから後半戦です。先程の作戦どおり、私と那珂さんそれから駆逐艦の4人は梯形陣という並びになって基本的に戦います。支援艦隊の妙高さん、五十鈴さん、名取さんは遠距離からの砲撃支援をお願いします。細かい動きは旗艦の妙高さんにお任せします。」
 神通からの確認と指示に全員返事をした。
 もはや誰も、そこにいて指示をしているのは数週間前までは素人(艦娘)JKだった少女としてではなく、艦娘神通としか見ていなかった。

 神通としても、もはや自分をまだ新人という免罪符を振るうつもりはなかった。艦娘をやっていなければただひたすら黙って静かに過ごす人生を送るしかなかった。それ以外をきっと考えなかっただろう。そんな自分がこうして普通の人間なら絶対に立てない海上に立ち、大勢の仲間がいて、彼女たちに指示を出している。
 なんと面白おかしい人生なのだろう。艦娘になってから成長できている気がする。今までは短い間隔・尺度でしか見ていなかったが、艦娘着任前、後、訓練直後、そして今、日々積み重ねた結果の自分。ある程度大きめの分類で見てみると、その時自身にできなかったことが、次の分類で見てみるとできている。

 自身の成長物語の妄想はここまでにしておこう。神通は考えふけるのをやめた。この間、神通は全員に指示を出し終わり、前方を向いて沈黙していた。
 那珂始め他のメンツから見ると、単に戦い前の精神統一か何かの微細な時間としか捉えられていない。

「神通ちゃん?」
「……はい。気持ちを落ち着けました。もう、大丈夫です。」
「そっか。うん。後ろは任せて、旗艦さんは安心して前を目指してね。」
「はい。……それでは皆、行きましょう!」

 掛け声とともに陣形を変え始める鎮守府Aの艦娘達。終わった後、神通は通信で明石に合図を送る。それを受けて明石は提督に伝えて提督が宣言した。


「それでは……始め!」


--


 提督の声がメガホンを介して検見川浜の一角に響き渡った。
 神通達はまず様子見のためゆっくりと10度の方角へ動き出した。とそうして神通たちが動き始めるわずか前に鳥海は秋月・涼月を伴って速力を数段回飛ばして動き出した。
 神通からは同じように動き始めたようにしか見えない。しかし、違いはすぐに判明する。

「え、速い?」

 独り言のように口にして驚きを密やかに表す。それは後ろに並んでいる不知火始め皆も気づく。
 最後尾の那珂から通信が入った。

「神通ちゃん、敵の動きが速い。この陣形じゃ不利かもしれないから一旦複縦陣になろ。」
「わかりました。那珂さん、私と並走してください。他の皆さんは私か那珂さんの後ろに!」
「「「「了解!」」」」

 那珂の進言を受けて神通が指示する。那珂が最初に速力を上げて神通の隣に移動し、そのうしろに村雨、五月雨がスライドして移動する。結果として神通の後ろには不知火と時雨が残った。

神通 不知火 時雨
那珂 村雨  五月雨


 陣形の変更が終わる頃には鳥海は目前に迫っていた。
「まずい!二手に分かれるよ!」
「はいぃ!!」
 那珂の急いた指示に神通も焦りをつられて湧き出して返事をする。

「遅い!!」
ズザバァァ!!

 鳥海達はまったく加減せぬ速力で神通と那珂の間を激しい波しぶきを立てて通り過ぎる。ギリギリで避けることができた神通と那珂の列はフラフラ若干蛇行するが、体勢を立て直すべく前進を続ける。一方速力を一旦緩めた鳥海は速力を緩めながら順次回頭してグルリと反時計回りに方向転換して鎮守府Aの艦隊の右舷に当たるメンツを目指す。
 そして主砲を左舷に構えた。

「てーー!」鳥海の掛け声が響いた。

ドドゥ!
ドゥ!
ドゥ!

「きゃあ!!」「!!」「きゃっ!」

 狙われた神通、不知火、時雨は直撃こそしなかったものの、足元、自身にかなり近いポイントにペイント弾が着水し水柱を立ち上げられたことに悲鳴を上げて驚いた。
 砲撃した鳥海達はペイント弾が自身から離れてすぐ速力を上げて移動していたため、神通たちが驚きによる身体の硬直を解いて視線を返した時にはすでにいなかった。

「神通ちゃん!5度の方角! 前!前! あーもう二人とも前方10度の方角に砲撃開始だよ!」
「「はい!」」

ドゥ!
ドドゥ!
ドドゥ!

 神通達の左舷に回り込もうとしていた鳥海たちを邪魔すべく那珂達は応戦する。那珂の咄嗟の指示による砲撃は方角やタイミング良く、鳥海ら三人を狙い撃ちする形になった。
 しかし、そのペイント弾はすべて当たらなかった。

ズド!ズドド!ズドアァァァ!!!
バッシャーーン!!
「甘いです。」


 鳥海は海面に向かって数発砲撃し、故意に水柱と激しい波を巻き起こす。それらは通常の戦闘であれば目くらまし程度で防御力皆無でしかないが、ことペイント弾を使う演習においては強力な防壁となる。ペイント弾はすべて激しい勢いの水柱と波でかき消されてしまったのだ。

「なっ!?」
 那珂はさすがに驚きを隠せず戸惑う。そしてその戸惑いをさらに悪化させる出来事が直後に起こった。

ヒューン……

ザッパアァァーーン!!

「うわうわ!」
「きゃあ!」
「きゃー!」
 那珂に続いて村雨、五月雨も悲鳴を上げる。

「夾叉夾叉!」
「きょうさってなんですかぁーーー!?」
「さみはだまってなさーい!」

 当たりはしなかったが間近に着水したことに那珂がやや慌て気味な分析結果を口にする。後ろの二人の反応はもはや気に留めない。砲撃をかわした那珂たちはやや355度に針路を向けて大きめの時計回りをした。鳥海達とは一定の距離を開けて対峙し続ける。
 一方で神通達は那珂から警告されて前方を向き鳥海達を狙うべく構えたものの、反航となっていたため攻撃のタイミングを逃した。

「ほ、砲撃かいs
「神通さん!反航!ダメです!」
「距離を取る!」

 神通が指示を言いかけると反航戦になっていることに時雨が気付いて忠告し、不知火が次に取るべき行動を叫ぶ。

 先輩たる駆逐艦二人に言われ、神通はトリガースイッチを押すのをギリギリで止め、10度の方角に針路を切り替えて鳥海達から距離を取った。その後反時計回りに大きく弧を描き始めた。
 ふと視線を左に向けると、那珂たちもまた同じように弧を描いていた。このまま互いが進めばどこかで合流する。
 さらに神通は斜め後ろに視線を向けた。鳥海達はまだ反対側を向いて回頭していない。位置関係を把握してハッとし、すぐに通信する。

「那珂さん、この位置なら、全員で雷撃すれば!」
「おっけぃ。やる?」
「やります!!」

「不知火さん、時雨さん、雷撃用意!」
「村雨ちゃん、五月雨ちゃん、思いっきり雷撃!」

「「「「はい!」」」」


 那珂と神通の揃った掛け声で各々が雷撃を放つ体勢を取り、そして放った。

ボシュ……ボシュ……
ボシュ……ボシュ……

シューーー……

しかし、放った魚雷とは別に那珂達に轟音を発して近づいてくるものがあった。
 撃ち終わって油断していた。油断していたというより、安定して確実に狙って撃つために速力を一時的に大きく落としてそれぞれがベストに近い体勢にしていた。結果として魚雷を撃つには最適な状態にはなったが敵の攻撃に対応するには不適だった。
 那珂は空気の流れの嫌な変化を鼻先で感じた。

「皆ジャンプかしゃがむかして回避!!」」

 那珂は早口で指示を出しながら主機をはめている足を海面から放し重力に従って海面に伏せた。

「「えっ!?」」
 那珂の早口と行動に理解が追いつかない残り5人がそれぞれバラバラな振る舞いをしたその直後。


ズドゴオオオォォ!!!


 轟音が鳴り響き白き爆弾が飛来した。

ヒューーーーン……

ズドゴアアアアアァァァン!!!


「「きゃああー!!」」

 バシャバシャ!バッシャーーン!!

ズザバァァーー……


 後方からの戦艦の砲撃をかろうじて避けてノーダメージでいられたのは那珂だけだった。那珂が海面に顔を出すと、神通らは前方にふっ飛ばされていた。
 と同時に、那珂たちのはるか前方で爆発音と水柱の立ち上がる音が巻き起こった。

ズドドドオオオオオォ!!
バッシャーーーーン!!

くじかれる出だし

くじかれる出だし

--

ザパァ!
「神通ちゃん!みんなぁ!!」

 神通たちは那珂から数m離れていた。同じタイミングで海面に顔を出す者もいれば、被弾の拍子に天地逆転して吹っ飛び着水して沈んだため、いまだ藻掻いている者もいる。
 那珂は浮き上がるのと同時に移動を再開し、神通たちに近づく。
「被害状況確認して!」

「皆さんの状態を教えてください! わ、私は中破です!」
 神通がそう叫ぶと、那珂を始めとして皆ほうほうの体で報告し合った。
「あたしも中破。前半から変わってないよ!」

「ゴメンなさぁ~い。私耐久度0になっちゃいましたぁ。きっと轟沈ですぅ~。」と村雨。
「ふえぇ~~ん痛かったよぅ~。私は小破です~。」と五月雨。

「……大破。」一言で済ませる不知火。
「っつぅ……。すみません。僕は中破です。」
 ほぼ最後に時雨が言い終える形となった。

 全員の状態を聞いて飲み込んだ神通と那珂は顔を見合わせた。
「たった一発でメンバー全員がこれだけの被害なんて……。」
「ううん。一発じゃない。瞬間的に2~3発は飛んできた感じかな。一発だけじゃちょっと距離空いてる6人全員をさすがに狙えないはずだもん。」
 神通は那珂の判断と想定に頷くしかできない。
 神通たちは全員立ち上がり終わりひとまず集まった。すぐに狙われないとも限らないし、自分たちが狙った鳥海達の結末が不明なのだ。そうこうしているうちに明石から発表があった。

「千葉第二、駆逐艦村雨、轟沈!」


 言われた本人と友人たちそして那珂と神通は一斉に落胆のため息を吐いた。
「ハァ……私今回いいところなしですねぇ……。」
「まぁまぁ。よその鎮守府との初めての演習試合だもの。こういうこともあるさ。ね、さみ、那珂さん?」
「そ、そうだよますみちゃん!」

「私がもっと早く的確に回避指示出しておけばね~。ほんっとゴメンね村雨ちゃん。」
「わ、私も……旗艦として至らなくて。」
「わあぁ! 二人とも頭下げないでくださいよぉ! 熱い戦いの雰囲気味わえただけでも十分ですから。それに戦艦の攻撃受けてこんな姿になったのは、ある意味勲章ですしぃ。」
 那珂と神通二人から謝罪を受けて村雨は慌てて取り繕って苦笑気味にフォローし返した。

 アハハと誰からともなしに笑い出す那珂達。しかし視線はすぐに先程までの前方に向く。
「とりあえず村雨ちゃんは退場ってことで、残りの皆は引き続き鳥海さんたちの撃破、だよ。」
「砲撃に気を取られてわかりませんでしたけど、魚雷はどうなったのでしょうか?」
 神通がそう口にすると、那珂がサラリと答えた。
「放送がないっていうことは、相手は轟沈に至ってないってことなんだろーね。」

 事実、鳥海たちは魚雷の波をうまくいなし終えた様子だった。遠く離れた場所で立ち上がった水柱や波が収まったことで鳥海たちの姿をすぐに確認できた。実際の状態はどうだか那珂たちは把握できていないが、ピンピンしているように見えた。
 鳥海たちは丁寧にも、那珂たちが体勢を立て直すのを待っていた。

「はぁ~~~どうやら外したか回避したかなんだね~。元気いっぱいピンピンしてるよぉ。」
「皆で一斉に雷撃したのに……そうなるともう一回仕掛けないと三人とも倒せないのでは?」
「もう一回雷撃するんですか?」
 神通の提案に五月雨が反芻して確認する。しかし那珂はそれに対して頭を横に振った。
「ううん。多分もう一斉雷撃は通用しない気がする。あとはそれぞれのタイミングで攻撃の一つとして雷撃を挟むしかないかな。」
「砲撃と雷撃を五月雨式に、ですね。」と時雨。
「私がなぁに、時雨ちゃん?」
「……さみ、そういうボケはいいから。」
 五月雨の反応が素のものだとすぐに気づいた時雨はキョトンとしている彼女のことは無視し、神通と那珂に進言した。
「二手に分かれたほうがいいかと思います。ますみちゃんがやられてしまったのは痛いけど、残り5人でうまく立ち回るしかないかと。」
 時雨の言葉に頷く全員。そして那珂が口を開いた。視線は神通に向けたまま。
「そうだね。二手に分かれよっか。」
「人選はいかがします?どちらか二人っきりになってしまいますが。」
「はい。」
 シュビッと音が鳴るかのような静かだが素早く鋭い挙手で不知火が注目を集めた。何かを提案したいのだ。
「はい、不知火ちゃんどうぞ。」

「神通さん、私、五月雨で。那珂さん、時雨で。」
「おおぅ。そのこころは?」と那珂。
「足し引きすると、みんな中破になるので。」

「「へ?」」

 不知火以外揃って間の抜けた一言を発した。不知火は五月雨に耳打ちし、説明の代行を依頼した。
「え、ええと。不知火ちゃんが大破、私が小破なので、足して二で割ると二人とも中破だろうって。」
「あ~アハハ……そういうことね。な~るほど。」
 納得の意を苦笑に乗せて示す那珂。この微妙な空気を早く変えたかったので言葉を引き継いで話を進めることにした。

「え~っと、不知火ちゃんの提案採用。あんまりあちらさんを待たすのも悪いからサクッと行動しよう。神通ちゃん、指示お願い。」
「え、あ、はい。それでは、不知火さん、五月雨さん私についてきて下さい。時雨さんは那珂さんに従ってください。以後、そちらの指揮系統は那珂さんにお任せします。」
「りょ~かい。それじゃいっくよ、時雨ちゃん!」
「わかりました!」

 那珂と時雨から返事を受けた神通は不知火と五月雨に視線を向けた。移動を始めて離れていく那珂たちのことをもはや気に留めない。
「それでは行きましょう。」
「あの~私達、どうすればいいんでしょう? 正直言って、勝てる気がしません……だって。」
 言い淀む五月雨の視線は不知火に向かう。その行動の意味するところは、不知火の耐久度の判定にあった。
 五月雨の視線を追って不知火を見た神通は、ハッと気づいた。

「不知火さんをカバーしながら戦います。私……が旗艦なので、私が盾に、です。」
「そんな! それだったら小破の私がお二人の盾になりますよー!」
 なぜか神通に食らいつき始める五月雨。神通と五月雨の名乗り合い合戦が2~3巡した時、不知火がある方向に頭と視線を急に動かし、珍しく叫んだ。
「二人とも動いて! 対空!」
「「えっ!?」」

 神通が上空を見ると、後方から前半戦に何度か見た敵爆撃機・戦闘機の編隊が向かってきていた。それに気づいた神通は慌てて指示を出しながら自らも動く。
「ここから離脱します!二人とも機銃パーツを上空に向けておいてください!」

 敵航空機の編隊が迫る中、神通たちは一気に速力を上げてようやく移動を再開した。


--

 自らを囮にし、敵が一斉雷撃をしやすいタイミングを作る。目論見が合えばきっとするはず。そしてこちらはそのタイミングを逃さない。
 鳥海は速力をやや緩め、鎮守府Aの艦隊に背を向けたまま彼女らの行動を待つ。うまく翻弄しておいたから、彼女らの意識はほぼ確実に自分らに向いている。鳥海はそう踏んでいた。
「今です。霧島さん、お願いします。」
「……了解よ。」

 数発の一撃でうまく行けば全滅できる。鳥海の望むところは那珂だけが生き残り他は全滅が理想だが、演習試合ベースの距離設定であっても、長距離砲撃はなかなか細かい調整が難しい。那珂含め全滅してしまってもそれはそれでアリかと鳥海は判断した。

 そして放たれた戦艦霧島の全砲門斉射。その直前の一斉雷撃。全ては期待通りのタイミング。
 しかし結果は、駆逐艦村雨以外は轟沈の報告なし。想定と異なるがそれは些細な問題でしかない。戦艦の砲撃を食らって(耐久度的に)無傷でいられるわけがない。
 そして自身らに迫る雷撃は、軌道がほぼ読めた段階で真横に針路を変え、全速力でギリギリでやり過ごした。数発のうち2発ほど海面から飛び出して対艦ミサイルのように迫ってきたが、そのうち一発は屈んだ姿勢のため容易にかわし、もう一発は秋月の機転のきいた機銃による弾幕により、届くギリギリで爆破処理した。ただ、狙いの妙な鋭さは誰のものか、なんとなく察するものがあった。

 それだけでも、一人だけが異様に強いあるいは将来期待しうる強さの可能性を秘めていることが読み取れる。
 あの少女の可能性をもっと引き出したい。そして戦いたい。

 鳥海の標的は、完全に那珂に絞られていた。そのためには僚艦が邪魔だという判断の思考に至った。


--

 神通達が移動し始めた後、那珂達は大きく反時計回りで進んで近づいた。相手はもちろん鳥海達だ。しかしそのまま接近するつもりはない。
「時雨ちゃん、あたしの右後ろに隠れて、魚雷を一発発射して。」
「あ、はい。でもすぐバレるんじゃ?」
「なるべく最初から深く潜るようにしてね。あたしは今からおおげさに砲撃して気を引いておくから。」
「わかりました! 狙いは?」
「駆逐艦のうちどちらかでいいよ。」

 那珂は時雨に指示すると、弧を描く移動を速力を緩めずドリフトするように激しい波しぶきを立てて中断し、方向を急転換させて左腕の主砲パーツから砲撃した。狙いは鳥海たちの移動を一旦緩めることだ。相手の力量や経験値を想像するに効果があるとは思えないがとにかくすることにした。

ドゥ!ドドゥ!ドゥ!

「今ですね!」
ボシュ……ザブン
 時雨は那珂がわざと立てた波しぶきに隠れるようにして移動を多めにとってから魚雷を発射した。魚雷へのインプットは、浮上と直進をエネルギーの燃焼を最小限に抑えて行い、互いの距離の中間まで来たら燃焼を強くしてスピードアップ。標的が進む方向へと一気に向かわせるのだ。

 直後那珂の砲撃が鳥海たちの間近に届いた。
バッシャーーン!!

ドドゥ!ドゥ!

ベチャ!ベチャ!


「うあっちゃ~~やっぱあっさり相殺しちゃうかぁ~。なんかそんな気がしてたんだよね~~。でももう一発!」
 那珂が放ったペイント弾のうち、2発ほど以外はすべて鳥海の砲撃で相殺されてしまった。その間、鳥海たちは速力を緩めなかった。那珂の思惑による行動は通用しそうにない。それでも時雨の魚雷が当たるかどうかを見届けないといけないため、左腕のすべての主砲パーツでもう一巡砲撃する。しかし今度はわざとらしくないよう、ややマジ狙いだ。
 つまり、全てのペイント弾は鳥海に集中して向かっていった。

「小賢しい!! それで私の動きを止められると思うのなら甘いです!」
 そう口にしたものの那珂の砲撃の数に対し自身の主砲の連射数で対応しきれず、数発相殺したが残り数発は姿勢を動かしてかわした。そうして視線を下に向けた時、鳥海は気づいた。

「はっ! き、緊急回避!!」
 最終的に鳥海は那珂の作戦にハマった。時雨に打たせた魚雷は狙い通りに敵に近づいていた。真ん中にいた駆逐艦秋月の足元を捉え、海上に飛び出した直後に爆発した。

ズガアアアァァン!!

「きゃあーー!!」
 間近で爆発に巻き込まれた秋月は訓練用の魚雷の爆発のシミュレーションどおりの衝撃で吹っ飛び、海面を何回も横転して海面に複数の波紋を作った。
「秋月!」「姉さん!」
 列から外れた秋月を復帰させるべく鳥海たちは針路を転換して秋月に駆け寄る。その時、鳥海たちは神通らの針路上に入ってしまった。
 そのことに気づいた神通たちも、この機を逃す手はない。

「二人とも、梯形陣に!一斉に撃ちます!」
「はい!」「(コクリ)」

 神通は針路を左に5度ほど緩やかに変え、続く二人が自分の真後ろでなくなったところで速力を自身が問題なく砲撃可能なギリギリまで落としてから砲撃開始した。

ズドォ!
ドドゥ!ドドドゥ!

「応戦!涼月も頼みます!」鳥海は撃ちながら素早く口にする。
「はい!」
ズドドォ!ドドゥドゥ!


ベチャベチャ!ベチャ!

ピチャ!

「っ……雑魚風情が、私に被弾させるなんていい度胸してますね……。」
 神通たちの放ったペイント弾はほとんどが鳥海によって相殺されたが、そのうちの一発が鳥海をかすめた。すると鳥海は眼鏡の奥の目を鋭く細めて神通たちを睨みつける。
 梯形陣と流れによってすでに鳥海たちから離れつつあった神通たちは背後を見せないように速力を高めて反時計回りに大きく転換し、再び針路に鳥海たちを納める移動をし始めた。
 そして鳥海らが神通に気を取られたスキに那珂たちもまた、移動を再開しゆっくりと近づいていく。


--

 神通に応戦している間に秋月が大勢を立て直した。
「すみません。もう大丈夫です。」と秋月。
「なら動きましょう。一旦那珂さんを目指します。私が思い切り目くらましするので、油断したスキにあの駆逐艦の少女の方を至近距離の雷撃で倒して下さい。あちらの小賢しい3人は無視です。」
「「はい!」」

 秋月・涼月の返事を確認するやいなや鳥海は速力を通常より3~4段階上げることを指示して動き出した。
「遅れないように!」

ズザバアアアアァァーーーー

「おぉ、近づいてくる……ってはやっ!! ヤバイ、曲がるよ時雨ちゃん!」
「はい!」

 鳥海たちが近づいてくることに那珂はすぐ把握したが、その速力に焦りを隠せない。那珂は敵を左舷に見つつも距離を取るべく10度だけ右に針路をずらす。そんな動きはまったく妨害にも回避にもなんにもならないとわかるほど、鳥海たちは猛スピードで迫る。

「てーー!」
 那珂が叫んだ。

ドドゥ!ドゥ!ドドゥ!

 那珂と時雨は左腕あるいは左手に持った主砲パーツで左舷の方角に向けて砲撃した。

ドゥ!ドドゥ!ドドゥ!
ドゥ!ドゥ!

 那珂が向かう方向に進路を変えた鳥海達は速力を緩めず、そして那珂たちの砲撃に臆さず、応戦しながら猛スピードで移動した。例によって那珂たちの砲撃の大半は相殺されてしまった。
 残り数発が鳥海に当たる。しかし鳥海はまったく慌てる様子を見せない。

「よしヒット。ってなんで当たってるのに平然と来るのーー!?普通びっくりするか何かで動き止めるでしょ~~~!」
「那珂さん追いつかれます!!」

 那珂が愚痴り、時雨が状況を冷静に口にする。時雨の指摘したとおり鳥海はまさに目と鼻の先に迫っていた。その時、那珂はとっさに時雨に指示した。
「雷撃用意。ただしギリギリまで動作をしないで。」
「カウンターですね?」
「そーそー。ただし狙うのは足元じゃないよ。あの人たちの体に直接向けちゃってね。あたしはエネルギー噴出のための水しぶき起こすからそれに向けてね。」
 那珂が早口で言うと時雨はもはや声に出さず頷くのみで承諾を示した。時雨は、那珂が自分に通常の雷撃をさせるつもりがないことを察した。


そして、両艦隊がぶつかる。

バッシャーーン!
バッシャアアアァーン!!

 那珂は時雨の雷撃を支援するためにわざと海面に機銃掃射して複数の水柱を立たせ。
 鳥海は秋月・涼月の雷撃を支援するためにわざと副砲で連続砲撃して複数の水柱を立たせ。
 それぞれの旗艦は駆逐艦に指示した。

「今だよ!」「はい!」
「今ですよ!」「「はい!」」


「「えっ!?」」
 那珂と鳥海が互いに顔を見合わせつつも本当にぶつからぬようその身を捩り飛び退いて強引に針路を変えたその時、その後ろに続くそれぞれの艦隊の駆逐艦は指示通り雷撃の操作をした。

 鎮守府Aの時雨が発射した魚雷は、那珂が起こした海水の水柱に直撃し、その直後青白い光を噴出して勢い良く宙を直進していった。対して神奈川第一の秋月と涼月が通常用途通り海中に放った魚雷は鳥海の起こした海水の壁により敵に気づかれずに海面ギリギリの深さを高速で泳いで直進した。
 そして……


シュー……ズガアアアアァン!!
「うあっ!!」

ヒュンッ……ズガッ!ズガアアアァン!!
「え!? きゃあ!!」「きゃーー!!」


 海中を進む2本の魚雷が時雨の足元で爆発し、宙を進む2本の魚雷否対艦ミサイルが秋月と涼月の腰回りの艤装に直撃して爆発を起こした。3人の駆逐艦はその衝撃でそれぞれ後ろに吹き飛ばされる。そしてその衝撃の余波の爆風で那珂と鳥海も煽られバランスを崩しかけるが、僅かに蛇行しながらもなんとか体勢を立て直した。

 その驚き様を比較すると、度合いは鳥海のほうが大きかった。
「な……飛んできたのって魚雷!? そんな使い方するなんて……!」
「時雨ちゃぁーん!だいじょーぶー!?」
 那珂は敵への驚きというよりも、時雨の被弾に対して驚きそして心配していた。
 後方に数mふっ飛ばされた時雨は何度もでんぐり返しする最中那珂の声に意識を取り戻した。しゃがんだ姿勢で両足で踏ん張り片手で海面を触り長い航跡を作ってスピードを殺してようやく立ち上がって返事をした。
「は、はい! 多分轟沈はしていないかと!」
「一旦離れよう! そっち行くよ!」
 那珂は機銃パーツを取り付けた腕を背中に回し、暗に警戒しながら敵たる鳥海達に振り向かず速力を上げてその場から離脱した。


--

 一方の鳥海は、被弾して同じく後方にふっ飛ばされていた秋月・涼月両名に駆け寄るべく後退していた。
「二人とも、大丈夫ですか!?」
「つぅ……なんなんですかぁ今の!?」と秋月。
「いったぁーい……何が飛んできたのかよくわかりませんでしたよ……。」
 涼月も耐えきれぬ痛みを表情と口に表しつつ疑念の言葉を発する。二人の駆逐艦をなだめつつ鳥海は想像した分析結果を口にした。
「あれは……魚雷でしょう。どうやったのかわかりませんが、艦娘の魚雷をあのように使うなんて普通は考えらません。しかもそれをやったのが那珂さんではなく、駆逐艦の娘ということは……あちらの教育体制を甘く見積もっていました。彼女らを追い詰めるとどうやら手強くなりそうですね。非常に面白いです。」
 鳥海の様子をじっと見つめる秋月と涼月。

「いいでしょう。こちらももはやなりふりかまっていられません。……霧島さん、応答願います。」
 後方の霧島に鳥海は通信した。すると霧島はすぐに返事をした。
「はい。早く次の指示を頂戴。」
「お待たせして申し訳ございません。次は神通、不知火、五月雨を狙ってください。飛鷹も同様にその三人を。集中して徹底的に早期に潰してください。隼鷹は支援艦隊を攻撃して邪魔してください。途中の行動に関しては問いません。」
「了解よ。それじゃあ那珂さんたちは?」
「彼女は私の獲物ですから。」
「はいはい。あなたの最後の戦いを綺麗に飾れるように支援してみせるから、安心して立ち回りなさいな。」
「感謝します。」

 通信を終えると鳥海は二人の駆逐艦に向かって指示した。
「二人ともまだ動ける耐久度ですよね?」
「「はい。」」
「いいでしょう。標的は引き続き那珂、時雨の両名です。」

 鳥海は遠く離れた場所から飛鷹・隼鷹の航空機が放たれたのを確認すると、隊列を立て直して発進した。

変化する戦況

 後半戦もしばらく経つと、那珂・時雨を追い回す鳥海達、神通たちを追い詰める霧島の砲撃・飛鷹の爆撃隊の爆撃、妙高達を苦しめる隼鷹の爆撃・攻撃隊からの攻撃、それぞれが中々目的を果たせぬすくみ状態になっていた。

 特に苦戦を強いられたのが神通ら、妙高らである。
 激戦区でない限り、深海棲艦相手に対空など通常はありえない。そのため対空訓練の度合いが低かった鎮守府Aの面々は、演習で初めて本格的に対空を経験することになり、中々慣れないでいた。
 相手のように砲撃で支援を行いたい妙高は、対空装備を整えていた五十鈴の対空射撃でなんとか致命傷を逃れていた。同じ長良型の名取はそもそも対空の訓練をまだ受けていなかったため、五十鈴に指示されるがままとりあえず空に向かって機銃掃射するという初心者丸出しの対応をしていた。

「これではーー、遠距離砲撃で支援するなんてできませんねー。」移動しながらのため声を大きめに出して言う妙高。
「たった4機のおもちゃくらいの飛行機なのにこんなに苦戦するなんて……対空に強いとされる軽巡五十鈴の艤装が聞いて呆れるわね。もっと訓練しておけばよかったわ私!」
「でもー、りんちゃんの指示のおかげで私ー、役に立ててるかもー!」
「えぇそうねー! もっと頑張りなさいよ名取!」
「えへへ~! りんちゃんに褒められたぁ~~!」

 同じ場所に留まるのは自殺行為のため、妙高率いる支援艦隊は航空機に追われて8の字や様々な文字を航跡で海上に描くように回避運動に集中していた。そのため、まともに支援ができない。
 防御の要として強く意識している五十鈴は、どうにかして空襲の合間を縫って落ち着いて妙高に砲撃させてあげたいと考えていたが、その対策を考える時間すら作れないでいた。
 ふと意識を一瞬だけ前方に向けると、同じように神通が回避運動に取り組んでいる姿が垣間見えた。その動きは、頼もしさすら覚えるものだったため安心して自分達の危機の方へと意識を戻した。

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 神通たちはグルリと大きく回って鳥海達に再び砲撃を加えようとしたが、その前に彼女らが動き出し、そして那珂とぶつかったため離れて様子を見ていた。
 両艦隊がぶつかる手前、その行動をそばで見た五月雨と不知火が神通に進言した。
「あのままだと鳥海さん達、那珂さん達とぶつかっちゃいますよ!なんとかしないと!」
「!!(コクリ)」
 しかし神通は、二人の言葉に頭を横に振って制した。
「いいえ、このまま様子見です。ヘタに私達が加わると、那珂さんの邪魔をしてしまうかもしれません。きっと那珂さんなら、何か考えているはず。」
 神通の言葉に五月雨と不知火は眉をひそめたまま黙りそして神通の見る方向を同じように見ることしかできなかった。
 そうこうしているうちに那珂と鳥海らがぶつかった。そして両者の雷撃。前方で波しぶきと水柱と爆風が発生して視界不良な海域が構築されたのを目の当たりにした。

 そして神通はタイミングを読んだ。すでに那珂と時雨の無事は遠巻きながら確認済みだ。
「行きましょう。遠巻きに砲撃してなんとか倒せれば……。」
「「はい!」」
 神通が動き出したことに駆逐艦二人はようやく明るい表情を取り戻して返事をした。

 速力をやや上げて鳥海達に迫る神通達。しかし、その行く手を遮る物があった。
「あれは……また戦闘機!?」
 神通が口にしたその存在とは正しくは、飛鷹が放った爆撃機・攻撃機の編隊だった。
「た、対空用意!すべての機銃を上空に向けて構えておいてください!」
 神通の指示で五月雨と不知火は機銃パーツを構える。針路はまだ前進するため変えない。このまま進めば航空機らのコースとぶつかる。

「神通さん!まっすぐ前に飛行機来てますよぉーー!?」と五月雨。
「……回避!回避!?」不知火もさすがに焦りを隠せない。

「いいえ、まだです!」

 神通は、後半戦が始まる前に五十鈴から密かに受けたアドバイスを思い出していた。


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 皆が観客とおしゃべりしたり思い思いに休んでいる中、神通は手招きだけで密かに五十鈴に呼び寄せられた。
「なんでしょう?」
「旗艦であるあなたに敵の情報とアドバイスをしておくわ。」
 五十鈴の台詞に頭に?を浮かべた顔をする神通。そんな反応を無視して五十鈴は続けた。

「これは私自身の反省でもあるんだけどね、爆撃機と攻撃機、違いをよく覚えておきなさい。」
「……どちらも敵の艦を攻撃するための艦載機ですよね? あ……爆撃と雷撃?」
 一応の正解を口にし途中で本当の正解を答えた神通に、五十鈴はコクリと頷く。
「えぇ。本当の艦船のそれを見たことなんてないけれど、艦娘の艦載機から放たれる爆撃と雷撃は、見た目に違いがなかったわ。私達はそれを見誤ったから、前半戦で苦戦して長良の轟沈を許してしまったのよ。だから……敵の航空機の挙動をよく見て、予測して動きなさい。撃ち落とすのは私もできなかったけれど、人間が遠隔操作する以上はきっとどこかに限界があるはず。視界にせよ、旋回の角度にせよ攻撃範囲にせよね。引きつけておいてどうにかするっていう手もあるわ。……曖昧でゴメンなさいね。そういう戦略的なシチュエーションは川内ならきっと漫画やゲームを引き合いに説明できるんでしょうけど。」
「あ、いえ……そんな。私も前半戦で偵察機を操作して敵航空機と空中戦していたので、五十鈴さんのおっしゃりたいことなんとなくわかります。……なんとか、対策考えてみます。」
「うん。頑張ってね。」

 五十鈴のアドバイスを受けて神通はやる気と責任感が増した。ある意味プレッシャーにもなったが、そちらの方面では考えないようにした。


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 あの時受けた五十鈴からのアドバイス。それをどう実現するかは自分にかかっている。
 対空射撃してもたくみにかわされる。艦載機の操作はさすが空母の艦娘、自分達が想像付かないくらい上手いのだ。
 しかし人間が脳波で操作する以上、そしていくら最新技術を駆使した機械といえどこかに限界があるのだ。
 ふと、自分が操作したときのカメラ視点を思い出した。カメラの画角そしてカメラからの映像を映し出す人間の目の視野角。どういう原理かは知らないが自分の目で見える光景にカメラの映像が、まるで映像の端をわざとぼかしたかのような光景として飛び込んできていた。敵の空母艦娘も同じ見え方をしているなら、きっと端は見えづらいはず。
 神通はそう予想し、その仕様を突こうと試みた。

「私が合図をしたら同じ姿勢で後に続いてください。その際、機銃パーツも私と同じ方向に向けて撃って!」
「「はい!」」
 早口になっていた神通の指示に不知火と五月雨は素早く返す。

 迫る敵爆撃機・攻撃機の編隊。そしてついに攻撃が神通達に向かってきた。

ババババババ!
ボシュ、ボシュ、ボシュ……

「今です!」

 神通は咄嗟にしゃがんで姿勢を低くし、身体を素早く左に傾け、11時の方角に針路がずれるようにした。その際機銃パーツをつけた右腕を上空へ向けたままだ。事前にほんのわずかにかがんだので、その動作は後ろの二人に気づいた。そのため駆逐艦二人も咄嗟に後に続くことができた。

 そして


ババババババババ!!!

ズガッ!ボゥン!!


 神通から不知火そして五月雨と、3人の流れるようなしゃがみつつの右手上空への対空射撃の弾幕は、見事に敵爆撃機・攻撃機4機に命中し、撃墜に成功した。
 そのまま神通達は10~11時の方角に進み、鳥海や那珂たちとも違うポイントに移動した。

「よし。できました。」
「爆撃機と攻撃機、撃墜。」
「やりましたねぇ~!これでもう空からの攻撃は怖くありません~!」
 不知火と五月雨の言葉に神通は強く頷く。

 速力をやや緩めながら姿勢を戻すと、不知火と五月雨も後に続いて戻した。
「もう私の完全なマネはいいですよ……。」
「エヘヘ、はい。それで次はどうしますか? やっぱり那珂さんたちに合流して鳥海さんたちを?」
「?」
 五月雨の問いかけに神通はすぐに首を振らずに考えるため黙り込む。
 多分那珂は何か考えているだろう。いきなり両艦隊の戦闘海域に紛れ込むのはまずい気がする。神通はタイミングを見計らい、とりあえず那珂に通信して確認することにした。


--

 しかしその時、何か違和感に気づいた。空気の流れがわかる気がする。無数の空気の流れの中に、嗅ぎ覚えのある嫌な匂いのする流れがある。遠くから、きっともう間もなく轟音がする。

ズドゴアアアアアァァ!!!

 神通の嫌な予感は的中した。戦艦霧島の再びの砲撃が襲ってきたのだ。

ズオオオオオォォォ……
バシャ!ベシャシャ!!
ザッパアァァーーーン!


 なぜ感じ取れたのかわからぬままにとっさの判断で神通は左に倒れ込み左半身を下にして海面に倒れ込んだ。直撃はしなかったが砲撃たるペイント弾の壁からは逃れられずに右手と右膝から下が白濁で染まった。

 五月雨は立ち位置的に運良く2つのペイント弾を目の前と背後に見過ごした形になりなんとか被弾を免れる。
 そして不知火は身を前に倒してかわした……はずが、背中の艤装にペイント弾が命中し、その衝撃に耐えきれず強制的に後ろへふっ飛ばされてしまった。急な体勢の変化で首を痛めるほどに頭が振り子のようにガクンと背中側へと激しく揺さぶられる。

「し、不知火ちゃん!!!」

 我に返り真っ先に異常事態に気づきのは五月雨だった。目の前を通り過ぎたペイント弾が目の前にいた不知火を連れ去った。視界から一瞬にして消えた不知火に何が起こったのか刹那理解が及ばなかったが、失った我を瞬時に呼び戻すことはできた。
 五月雨は急停止して前へつんのめりつつも海上を通常の航行ではなく普通に駆けて方向転換し、不知火へと駆け寄った。不知火はもともと通ろうとしてたポイントから10数m後ろへ何度も横転しながらふっ飛ばされていた。
 神通はというと、一度海中で反転して方向転換し不知火の方向を向きながら浮上した。そのため不知火が被弾したという実感は、彼女に五月雨が駆け寄る光景を見て数秒して理解した。

「ふ、二人ともだいじょ……不知火さん!!?」

 神通は瞬間的に速力を数段回飛ばしで上げて不知火の元へと駆け寄った。五月雨の支えで海中から身を起こした不知火は飲み込みかけた海水をゲホゲホと咳払いをして苦しんでいる。もちろん彼女が苦しむ原因は海水の鯨飲だけではない。むしろ、被弾した艤装に引っ張られる形で吹き飛んだ際に痛めた首や背中や頭部などの部位が主たる原因だ。
 不知火は、若干過呼吸に陥っていた。
「不知火ちゃん?不知火ちゃん!?喋れる?大丈夫?」
「カハッ……ケホッ……!」

 五月雨が介抱のため声掛けをするも、不知火は咳と荒げた呼吸音しか発さない。五月雨が不安げな表情のまま顔を上げて神通を見つめる。神通もまた、不知火の容態に憂慮の面持ちでいた。
「神通さぁん……不知火ちゃん、まずいんじゃ?」
「……えぇ。ちょっと提督に伝えます。」

 神通は視線を何もない海上の方角に向け、腕のスマートウォッチを操作して通話アプリを起動し、提督に通信した。
「はい?どうした?」
「不知火さんなんですが、被弾の衝撃で打ちどころが悪かったらしくて、苦しそうで……。」
「ち、ちょっと待ってくれ。おーい明石さん……」

「千葉第二、駆逐艦不知火、轟沈!」

 明石は轟沈判定の叫びを上げた後、提督の声掛けに応じて神通との通信に参加した。
「はい、神通ちゃん? 不知火ちゃんがどうしました!?」
「あの……不知火さん、打ちどころが悪くて様子がおかしくて、早く診ていただきたいんです。」
「あらま大変!わかりました。今から川内ちゃんたち向かわせますね。提督は試合の一時中断を。」
「わかった。」
「すみません、お願いします……!」

 神通の懇願に提督も明石もすぐに応対した。提督の放送で試合の一時中断が発表され、明石の指示で川内・長良が小型のボートを引っ張って再び戦場の海域に姿を現した。
 神奈川第一の艦娘達には鹿島の口から事の概要が伝えられ、その場に待機が指示された。

「お待たせ! 迎えに来たよ不知火ちゃん。」
「ダイジョーブなの、不知火さん?」
 ボートを引っ張って川内と長良が口調はそのままながら心配そうな表情で神通たちのいるポイントにやってきた。
 神通と五月雨は川内と長良と一緒に不知火をボートに誘導して乗船させた。
「よし。不知火ちゃん、さぁ同調切って。後はあたし達に任せなさい。ね、長良さん。」
「そうそう。そうだよ! 前半でやられちゃったんだから、せめてこれくらいはあたしに役立たせてよ。」
「……!……!」
 不知火は未だ荒々しく呼吸をしながらボートに寝かされた後、神通の手を掴みながら同調を切って本来の智田知子と駆逐艦不知火の艤装に戻った。体重と重量でボートがやや沈むが、幾つかのパーツは長良が手に持つことにしたためボートの耐重量に収まった。

 ボートを引っ張ってゆっくりと進み始める川内と長良。そんな二人を見送る神通は誰へともなしに言った。
「あの、私試合止めて不知火さんの容態を見に行きます……!」
「……あんた、それ本気で言ってるの? 本当に言ってるんだったらひっぱたくからね、神通。」
「え……!?」
 カラッと明るい雰囲気から一瞬にして恫喝気味の顔と雰囲気になった川内が神通の戸惑いの言葉を遮った。

「そりゃ不知火ちゃんの容態心配だろうけど、だからって一度決めたことをやり遂げないで戦場から離れるなんて許さないよ。あたしの敵討ちしてくれるって言ったよね? 大人しいあんたがあそこまで言ってくれたこと、すっごく嬉しかったんだから。あの決意をあんたにさせる原動力にあたしがなれたんなら、親友としてこれほど嬉しいことないよ。その決意をひっくり返さないでよ。」
「せ、川内さん……。」
 憤りを覚えた川内は語気強くそのまま続ける。
「不知火ちゃんのことはあたしたちや明石さんに任せて、あんたはあんたのやるべきことを果たしてよ。体育会系の部活だってそうだよ。誰かが怪我したとしてもその介抱は他の人にお願いして、残りのメンバーは試合を続行してその人の分まで頑張って自分達のできることをやるんだよ。あんたいわば試合に出てるチームのリーダーなんだよ!? あんたがすることは不知火ちゃんについていって容態を診ることじゃない!」
「じ、じゃあ……私は何を?」
「あんたにはまだ五月雨ちゃんがいるじゃないのさ。それに那珂さんに時雨ちゃんも。……前半で取り乱したあたしが言うのもなんだけどさ、感情に流されないでよね。もう行くね。」
「あ……。」

 川内の怒りの琴線に触れてしまったことに神通は激しく後悔した。一瞬でも感情に流されて自分の役目を放棄しかけた。川内と皆を自分で説得してこの手に獲ったその役目を手放すなんて、相手が川内ではなくともきっと怒られたか注意されたかもしれない。

 神通は頭をブンブンと横に振った。反動で長い髪が何度も顔に当たる。
 思考をクリアにし、自分を見つめ直した。

((私は旗艦神通。皆をまとめあげて艦隊を勝利に導いてみせる。そのためには鬼にだってなってやる。))
((……言い過ぎた。川内さんに影響されたかな。……せめて恥ずかしい負け方をしないよう一矢報いてみせる。))

主力艦隊を討て

主力艦隊を討て

 神通は再び決意した。その強い感情の高まりは、五月雨への指示となって表に表れる。
「雷撃用意を。ただしいつでも打てるよう角度調節だけでかまいません。」
「は、はい! 鳥海さんたちを狙うんですね?」
「いえ。私達の標的はあちらです。」
 そう言って神通が指差したのは、遠く離れた位置にいる霧島と準鷹・飛鷹だった。
「え……でもいいんでしょうか?」不安そうに尋ねる五月雨。
「私たちはあちらの編成を支援艦隊ともなんとも聞いていません。ただ離れて攻撃してきている相手です。だとすれば、私達が攻撃したらダメということはないはずです。」
「なるほどー。」
 理解したのか否かイマイチ判別しにくい返事をする五月雨に神通は続ける。
「ある程度近づいてから魚雷を放ちましょう。きっと私達なら攻撃して逃げられるはず。」
「え……と、なんでなんですか?」
 五月雨が素朴ながら鋭い質問をする。それに神通は一拍置いて答えた。
「私が担当している軽巡、五月雨さんが担当している駆逐艦は、軍艦の中でも船速が速い艦種なんだそうです。対して戦艦や空母は遅い。それが艦娘の同じ艦種にどの程度再現されているかわかりませんが、同等であると考えれば……可能かと。最大速力で近づいて、魚雷を撃ってそのままの勢いで逃げる。」
「果たして……うまくいくでしょうか?」
「転びそうになっても踏ん張って進みましょう。私が叫んで合図をしたら、車でいうところの……こうした動きで曲がってこの時に撃ちます。そしてこうして逃げます。この間、速力はなるべく落とさないでください。」
 説明を口にするが、口頭だけでは説明できそうにない部分はジェスチャーを加えて五月雨に伝える。神通は車やバイク等で行うドリフトを想定していた。その動きに五月雨は若干引く。
「うわぁ……なんか怖いです。私できませんよぉ~~。」
「やるんです。私だってできないかもしれません。でもこのくらい吹っ切れないと、きっと私たちは遠くからの砲撃でこのままやられるだけです。そんなの……悔しいじゃないですか。」
「神通さん……。」
 苦虫を噛み潰したような険しい表情をする神通を見た五月雨は、先程神通が川内に叱られていたのを思い出した。神通の気持ちをなんとなく察した五月雨は、もう反論的な愚痴を発するのをやめる意思表示した。
「が、頑張ります。私だって、ゆうちゃんもますみちゃんも不知火ちゃんもやられて悔しいです。神通さん、私も吹っ切れてみます!」
「(コクリ)私達に似合わない行動を、たまにはしてみましょう。」」

 意識合わせをした神通と五月雨は向かうべき方角を見定め、姿勢を低くし思い切りダッシュし始めた。


--

 神通と五月雨はいきなり速力を最大のリニアに近い度合いにまで高めた。訓練時に一度だけ出したことのある速力、それに近い高速。神通と五月雨の身体は水の抵抗と僅かな波で何度も上下に揺さぶられるが、それでも必死に耐えて進む。
 その行動に標的となった霧島達と、那珂と交戦中だった鳥海も気づいた。

 鳥海は那珂に反撃しながら霧島に通信した。
「あれは……霧島さんったら倒せなかったのね。……霧島さん、応答願います。」
「はい。」
「敵がそちらに向かっています。近づかれる前に撃破を。」
「そんなのこっちだってわかってるわよ。けど戦艦の主砲はペイント弾であっても装填に時間がかかるのよ。すぐには撃てないわ。」
「それでは飛鷹。すぐに次の爆撃機か攻撃機を飛ばして。」
「ち、ちょっと待ってくださぁい! さっきの撃墜されたショックで頭がまだ痛いんです。すぐに飛ばせる体調になれません!」
 鳥海は若干険しい表情をする。
「仕方ないですね。それではこうしましょう。一人でもよいので生き残れるようなんとかしてください。その一人が中破しなければどなたでも構いません。」
「くっ……しれっと無茶苦茶言ってくれるわね。」
「ひどいことを言っているようですがお願いします。」
「あんたのことだから何か考えがあるんでしょうね。なんとかやってみるわ。」
 霧島は苦々しく表情を変え、飛鷹と隼鷹は不安げな表情をさらに深める。
「生き残った方はなんとか敵に反撃を。敵が油断するのは攻撃した後と相場が決まっています。軽空母の二人の場合は中破してしまわないように特に気をつけて。それではお願いします。」
「はいはい。わかったわ。」

 霧島は鳥海との通信を切断した。そして向かってくる神通たちから離れるために移動し始める。
 神通と五月雨は霧島たちが動き出したのに気づいた。


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「相手が動きましたよ!」と五月雨。
「問題、ありません!このまま突進するように……!」
「はぁい!!」

 多少の跳ねを恐れるのをやめた神通と五月雨は最大に近い速力で前進し霧島たちにグングンと迫る。対して霧島たちは初速も遅ければ加速も遅い。演習時の暗黙のルールを皆で守っているとはいえ、速力の違いは歴然だった。
 神通は自分の魚雷発射管の腹をパンパンと叩いて合図をしてから口を開いた。

「そろそろ行きます。次に私が叫んで曲がってみせたら続いて下さい! 転んでもかまいません。とにかく最大出力で撃って!」
「はい!!」

 神通は曲がった時にバランスを崩さないようしゃがみ始める。それを見て五月雨も若干腰を落とした。霧島達との距離が神通が想定している距離にまで縮んだその時、神通は行動を起こした。
「今です!!てーー!」

ボシュッボシュッボシュッボシュッ
シューーーーー……

 思い描いたとおりのドリフトばりのカーブを始めた神通の姿勢は左足を完全に折り曲げそれを軸に、伸ばした右足で半円の航跡を描いた。そして半円の途中で右腰の魚雷発射管の全てのスイッチを流れるように押した。神通の思いを載せた魚雷は浅く沈み海上スレスレを一気に進む。

 ボシュッボシュッボシュッ
シューーーーー…・・

 同時に、神通の後方からも魚雷が放たれたのか、神通の4本に続いて4本が神通の魚雷を追いかけるように忠実に向かって泳いでいった。タイミングとしては神通が想像していた以上にベストなものである。
 しかし撃ったと思われる当人の当惑の声が響いた。
「あれ?あれあれ?えええぇーーー!? 私まだ押してないのにどーしてどーして!?」

 神通はその言葉を気にする間もなくドリフトばりにカーブしてUターンを始めていた。そのため彼女がしたのは、自身の放った魚雷とその後を自身の期待通りの角度で広がりつつ追いかけていった五月雨の魚雷を視界の端で見届け、満足したところまでである。続く五月雨は自身が意図せぬ挙動をした魚雷に焦りと疑問を抱いたが、とりあえず神通に続いてUターンして敵から離れることにした。

 二人が放った魚雷は扇状に広がきった後、霧島達めがけて逆扇状に集約していった。その速さたるや霧島・隼鷹・飛鷹の最大船速ではとても逃れられない。2~3本ならば不可能ではないが、その多さと範囲で逃れるのことの不可能さを格段に高めていた。

シュー……

「くっ!? ダメッ、とても逃げ切れな……!」
「「きゃあああ!」」
 霧島、そして隼鷹と飛鷹が前のめりの姿勢で全速力の回避行動を続ける。しかし彼女たちの努力虚しく、彼女らを追いかける動作を若干し始めた魚雷達に捕捉された。
 そして演習試合の海上に命中音付きの魚雷の炸裂音が轟き渡った。

ゴガッ!ズドボオオオオオオォォン!!!!
ザッパーーーーン!!!


 神通はその音を聞いても移動する速力を緩めなかった。続く五月雨も同じだ。二人が速力を落として止まったのは、明石からの発表を聞いてからだ。

「神奈川第一、戦艦霧島、軽空母飛鷹、轟沈!」

 減速しながらカーブして方向転換後神通と五月雨は停止した。二人の視線の向く先は霧島たちがいた海上だ。
「ふぅ……なんとか、なりました。」
「やりましたね~! 私たち、あの戦艦さんや軽空母さんを倒したんですよ!」
「えぇ。」
 五月雨の喜びにあふれる言葉に短く相槌を打って同意する神通。傍から見ると冷静そうな神通も、内心は小躍りしたくなるくらい喜びと達成感に溢れていた。しかしキャラではないことを厳として自覚しているので行動に移すことはしないが。

「ありがとうございました五月雨さん。あそこまでタイミングよく私に合わせてくれたのはすごいです。さすが経験トップです。」
「あ、エヘヘ。あ~でもアレ違うんです!私まだ撃ってなかったんです!」
 神通が先刻の攻撃の連携の良さを褒めると五月雨は照れ笑いしたがすぐに慌てた表情になり、言い訳を言い出した。しかし神通としては彼女の見事な連携プレーを褒める気しかしなかった。
「そんなに謙遜しなくてもいいですよ。」
「うー! ホントなんですよぉ~。アクションスイッチを押して撃ち方決めなきゃって思ったらいきなり発射されちゃったんです。」
 五月雨の言葉の雰囲気に嘘が混じっていないことを感じ取った神通は疑問をどうやってぶつけて解析したらよいか一瞬悩んだが、今それをする必要もないだろうと判断し、五月雨に一言返した。
「ともあれ、無事に攻撃が成功してよかったです。2人も倒せたのですから。」
「はい! でも……一人残っちゃいました。隼鷹さんでしたっけ?」
「えぇ。軽空母ですね。」
 神通と五月雨が隼鷹のいるポイントへと視線を向ける。同調して強化された視力とはいえ、それなりの距離があるために間近で見るような鮮明さとはいかない。しかしそれでも隼鷹が中腰になって息を切らしている姿だけは確認できた。轟沈した二人は視界にあれど無視だ。
 おそらくは中破、よくて大破間近だろうと神通は察した。艦娘制度の教科書で学んだことをふと思い出した。艦載機を扱う艦娘は、艤装の健康状態が中破になると、艦載機を発着艦することができなくなるかあるいは著しく精度が落ちてまともに扱えなくなるという。それには同調率が大きく影響していた。

 戦闘中のため、神通は難しいことはすぐに思い出せなかったが、関係しそうなポイントだけはスッと思い出した。実際に被害がない演習中とはいえ艤装の健康状態はつぶさに把握できる。把握したことにより心が乱されば同調率にさらに影響する。おそらくはその複合条件のために艦載機が扱いにくくなるのであろう。
 そう考えると今の隼鷹、彼女の状態から想像するに、最大の武器である艦載機を扱えないのはこちらにとって不幸中の幸いかもしれない。後はじわじわと倒すかあるいは無視して放っておいてやるか、好きにできる。
 神通はそう捉えた。


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「行きましょう。早く那珂さんに加勢します。」
「えっ!? 隼鷹さんはいいんですか?」
 五月雨が驚いて尋ねると、神通は頭を振って答えた。
「彼女は放っておいて、後で倒してもいいでしょう。おそらくは中破していますから艦載機は扱えないはず。さすがに攻撃能力がない相手を二人がかりで追い打ちして倒すのは……気が引けますので。」
 相手に情けをかけ寛大、冷静で心優しい判断と言い表せなくもないが、傍から見聞きすれば傲慢な考えで慢心と思われてもまったくおかしくなかった。
 神通は視線を隼鷹の方向から真逆に向けた。つまりは那珂と鳥海たちが戦っている海域だ。もはやターゲットから取り除いた相手を見る気はなかった。五月雨は神通のその様に一抹の不安を感じていたが、仮にも年上、従い頼るべき軽巡艦娘と熱心に信じていたので反論をせず彼女の動きを真似て行動再開した。
 そんな二人がこれから向かうその先では、那珂・時雨VS鳥海・秋月・涼月の戦いの膠着状態があった。


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 霧島と飛鷹が轟沈判定をくだされたその海域では、ようやく雷撃による激しい波しぶきと水柱が収まって視界が開けてきた。辺りが収まる前に轟沈をくだされた霧島と飛鷹は落胆していた。
「はぁ……さすがにあの速さと多さでは逃れられなかったわね。狙いもえらい的確だったし。那珂さん以外も侮れないじゃないの。」
「う~、私も轟沈です。それにしても隼鷹、大丈夫だった?」
「えぇ。二人のおかげでなんとかね。後1~2発砲撃を食らったら中破になる程度にはやられちゃったけどね。」
 準鷹は中腰になって艦娘の制服の端々をギュッと絞って海水を抜き出した後、顔を上げて霧島達に言葉を返した。

「さて、これからが肝心ね。準鷹一人でどうやって切り抜けるかだけど……あら?」
「おや?なんかあの二人、近づいてこないどころか明後日の方向向いてますね。あ、あっち行っちゃった!」
 霧島が神通たちの異変に気づき、続いて飛鷹がその様子の確認内容を補完した。
「え、なんでなんで!? 私まだ生き残ってるのに……。」
 準鷹はその意味のわからなさに不気味な感覚を覚えた。霧島と飛鷹も同様だ。
「何かの作戦なのかしら? あえて準鷹にトドメを刺さない、と。まさかまだ雷撃が残って!?」
 霧島の言葉に飛鷹と準鷹は慌ててソナーの感度を上げて海中の探知を試みる。しかし反応はない。仮にあったとしても停止しているこの状況はもはや準鷹をかばうことも逃すことも叶わない。
 警戒を説いて飛鷹が尋ねる。
「あの二人って相当強いんでしょうか?」
 準鷹がその言葉にウンウンと頷いて同じ質問だと意思表示した。二人の疑問に霧島は答えられるはずもなくただ言葉を濁すのみにした。
「さてどうかしらね。あの鳥海が特にマークしてないところを見ると、鳥海のお眼鏡に適う相手ではなさそうというくらいしか想像できないわ。」
「でもこれはチャンスですよね。このスキに準鷹が艦載機放って攻撃すれば、あの二人を逆に追い込めます。準鷹どう? 体調は回復した?」
 飛鷹が尋ねると準鷹はステータスアプリを見つつ自分自身の身体の状態を手を当てて探ってから答えた。
「え、えぇ。飛ばせるだけの同調率と精神状態だとは思う。」
「そう。私たちはもう行くから、後は頑張って反撃なさい。それから雷撃にだけは気をつけて。深く潜らせて狙ってくる可能性もあるらしいから。」
「は、はい。」

 一人になることに戸惑う準鷹を簡単に鼓舞した後、霧島と飛鷹は堤防沿いに向かって行った。準鷹はその二人の背中をしばらくジッと見ていたがすぐ思考や感情を切り替えた。
「逆にチャンスってことなのね。勝敗は行動の速さで決まるんだから、今のうちに……。」
 中破一歩手前の彼女は、バッグから艦載機たる専用紙を2枚取り出し、おもむろにクシャクシャと丸めてアンダースローばりに海面スレスレに飛ぶよう投げた。
 丸められた紙くずは薄いホログラムを纏って攻撃機に変化し、安定状態になって超低空飛行で飛んでいった。

支援艦隊の防衛戦

 神通の行動に疑問をいだいたのは霧島達だけではなかった。監督役および見学側として堤防沿いに観客とともにその場にいた提督や、不知火の治療開始を見届けてから戻ってきた川内もその行為を目の当たりにした。

「いや~お待たせ~。後は技師の○○さんたちが病院に連れて行くってさ。ねぇねぇ提督。戦況はどう?」
「あぁ川内か。神通と五月雨すごいよ。二人だけの雷撃で戦艦霧島と軽空母飛鷹を倒したよ。」
「マジで!? う……なんかあたし神通にあっという間に追い越されそう。」
「ハハッ。あの娘は順調に経験を積んでるな。あながち現実になるんじゃないか?」
「うー。提督の意地悪!」
「ゴメンゴメン。でも成長の度合いなんて人それぞれだから、気にすんな。君は別のやり方で活躍してくれればいいんだよ。」
「まぁ……わかるけどさぁ……。」
 口をとがらせ不安を湧き上がらせる川内を提督はカラッとした笑いでからかいつつ最後は励まして落ち着かせた。

「ところで……神通と五月雨ちゃん、なんで隼鷹に近づかないだろうね?」
「間合いとかタイミングとか図ってるんじゃないか?」

 提督と川内、そして周りの観客が見ている中、神通と五月雨は隼鷹に追い打ちをかけるどころか、逆の方向つまり那珂と鳥海の戦いの方向へと向かうべく動き出そうとしていた。

「えっ? 神通ってばどっち行くのさ!? まだあの隼鷹ってやつ轟沈してないでしょ?」
 川内の言葉に反応して会話に入り込んできたのは、タブレットと実際の光景を交互に見て確認していた明石だ。
「そ~ですねぇ。まだ隼鷹さんは轟沈していません。それに艤装の健康状態は○○%です。中破までは後少しですが行動に支障はありませんね。」
「敵の艤装の健康状態なんて読み取れないし、距離あるとまた艦載機の餌食になるの多分わかってないぞ。何考えてんだ二人は。」と提督。

「神通ってば……大丈夫かなぁ。教えたいけど、口出ししちゃダメなんでしょ?」
 提督と明石は同時に頷いた。
 川内はたった今明石から聞いた敵の状態を伝えたかったが、提督と明石に釘を刺されたため眉をひそめ腕組みして見守るしかなかった。


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 そんな堤防沿いからの懸念にも気づくことなく、神通達は前進していた。移動しながら主砲の砲身の向きを調整する。前方の戦いにすぐ対処できるよう、ペイント弾の装填をステータスアプリの更新ボタン連打で急がせつつ。
 前方では激しい戦いが続くと思いきや、静かに対峙する那珂と鳥海がいた。今のうちなら通信しても問題ないと踏み那珂に通信を試みた。

「那珂さん、こちらは戦艦を倒しました。」
「神通ちゃん? やったね~。こっちはなかなか切り抜けられそうにないよ。参った参った~。」
 那珂は台詞の最後に苦笑を交えて愚痴る。しかしそれほど苦戦しているように感じられない口ぶりだ。
「私も加勢します。挟み撃ちにして雷撃をしましょう。」
 神通は那珂に提案してみた。那珂からの返事は数秒経った後聞こえてきた。
「あー無理。タイミングがもう図れないんだよね。思った以上に駆逐艦の動きがいい仕事してるし。」
「それではその駆逐艦達を先に倒すように狙いましょうか?」
「うーん、それもどうかな。鳥海さんが妙にかばってる素振りしてるからなぁ~。狙いの精度や回避力が上がってて、敵も本気出してきたわ~って感じ。」
 那珂の言は歯切れ悪く聞こえた。食い下がって神通は提案を続けたが、那珂からは想定せぬ返しを受けてしまった。
「……では、今のこの距離で私達がそうっと最大速の雷撃するか、五十鈴さんたちに支援砲撃を頼みましょうか?」
「うーんとね、そっちはそっちで最後まで倒してね。まだ一人轟沈判定上がってない人いるでしょ。」
「え? あぁ、隼鷹さんですね。あの雷撃で生き残ったのは意外でしたが、きっと彼女は中破しているかと。となると艦載機が使えないはずですので、危険度は低いかと。」
 神通がやや自信ありげに自信に関わる先程までの戦況を説明すると、那珂はそれに喜ぶ声色を示さず、静かに返してきた。
「……神通ちゃん、その判断は危険かなぁ。」
「え?」
「そういうの慢心って言うんだよ。今あたし鳥海さんから目離せないからそっちを構えないから、一度状況を確認してね。あたしとしては鳥海さんとの戦いに集中したいんだよね。だからそっちには後方の安全を任せたよ~。」
「わ、わかりましt

 神通が那珂に返事をし終わるが早いか、五月雨が叫んだ。
「神通さん!! 何か飛んできます!!」
「えっ!?」
 那珂の不安、五月雨の不安は現実のものになった。
 真っ先に気づいた五月雨が追加情報を急いで口にした。
「160度の方向、えとえっと私の右後ろです!!」
 五月雨の急いた指摘を耳にした神通は素早くその方向に視線を向けた。目を細めて凝視する必要もなくすぐにその物体がわかった。


ブーン……

シュバッ!!


「きゃっ!」
「きゃあ!」


 高速の攻撃機は神通達スレスレで上空に旋回し急上昇して飛び去る。二人は突然の攻撃機の襲来にバランスを崩し、まっすぐの前進をやめて蛇行し、ぐるりと反時計回りに旋回して脅威から逃れる移動を続けた。
 急上昇した攻撃機は大きく縦回転をして再び海面へと降下していく。
 そして海面スレスレを風圧により水しぶきを巻き上げながら神通達めがけて直進しながらエネルギー弾をボトボトと海中に落とした。
 それらは、青白い光を尾のように残しながらやがてスピードを攻撃機よりも上げて海中を進みだした。

「危ない! 右10度にずれて避けます!」
「はい!!」

 神通は素早く指示を口にして行動に移す。五月雨はそれに続いて移動し、攻撃機からの雷撃をかろうじてかわした。二人ともスピードに乗り始めていたためかわすのは問題なかったが、同時に敵攻撃機を見逃してしまった。
 時計回りに回頭し続けていざ攻撃機を見据えようとしたとき、それはすでに自身らの射程距離を抜けて遠く離れていた。

((まずい。向こうには五十鈴さんたちが……!))


 対空用意に遅れた神通が見た時は、敵攻撃機は神通たちを抜け那珂と鳥海たちを超えた先へと飛び去っていた。標的が五十鈴達に向いていることは火を見るより明らかだ。
 神通は慌てて通信する。

「五十鈴さん! そちらに攻撃機が向かってます!」
「……わかってるわよ!」

 五十鈴はなぜか若干の苛立ちを交えながらそれ以上の言葉を返さず、神通との通信をブチリと切った。


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 自身らを追い回していた敵航空機が急に墜落していった。五十鈴たちはようやく空襲の恐怖から開放された。と同時に幸運の発表を聞いた。
 霧島・飛鷹の轟沈である。
 その前に轟いた雷撃の炸裂音がその全てを物語っていた。

「ふぅ……。やっと攻撃が止んだわ。どうやら神通達がやってくれたのね。」
「えぇそのようですね。これで私達も本分を果たせそうです。」と妙高。

 五十鈴が顔のこわばりを緩めて妙高の言に頷いて同意を示していると、隣にいた名取が駆け寄って来た。

「ふぇ~んりんちゃぁ~ん! 怖かった~! 生き残れたよぅ~!」
「ちょっ、名取!?」
 ガシッと効果音がせんばかりに抱きついてきた名取に五十鈴は驚いて裏声になりかけた。おとなしい名取こと宮子が感情的に抱きつくなどあり得なかったからだ。友人の珍しい一面に若干感動を覚えた五十鈴だが、すぐに彼女を引き剥がした。

「ホラ離れて! 戦場で抱きつかないの!危ないわよ。」
「あ、うん。」五十鈴に怒鳴られても名取は笑みを保って返事をした。

 二人の掛け合いを見て微笑んでいた妙高はタイミングを図り終えたのか、二人に言った。
「それでは二人とも被害状況等を報告してください。」
 その指示に五十鈴は目視およびスマートウォッチのステータスアプリで確認する。同じ手順を名取にもすぐに教えて同じようにさせた。
「五十鈴、外装に故障はありません。ただし耐久度が5%減です。」
「私はどこも問題ありませ~ん。あ、えっと。ステータスは……です。」
 五十鈴の報告に、自身のステータスをすべて読み上げての名取の報告が続く。妙高はそれを受けて体勢を立て直す作戦を言い渡した。
「改めて砲撃支援に移ります。五十鈴さんは念のため引き続き対空の警戒を、名取さんは流れ弾や魚雷があると危険なので周囲の警戒にあたってください。」
「了解。」「り、了解しましたぁ。」

 五十鈴と名取は眼前の様子を改めて見た。
 那珂と鳥海たちは五十鈴たちが空襲に悩まされていた一方で砲撃し、回避し、時々雷撃を撃ち、それを爆破処理して戦場たる海域に2~3mの水柱を立てたりし、それらの繰り返しをしていた。五十鈴達が落ち着いて観察できるようになったこの時遠目でその様子を見ても、那珂と時雨は鳥海達に決定打を与えているとは言い難い。

「まずいわね……さすがの那珂も切り抜けるのに苦戦してるわ。あの鳥海って人、一筋縄では行かないわ。」
「や、やっぱり早く助けたほうがいいよね……? ここから私たち砲撃する?」
 五十鈴の苦虫を噛み潰したような表情で行った洞察の一言に名取は不安げながらも助ける意思を示す。その言葉に頷くが、五十鈴は素直に同意しきれなかった。
「小説やドラマの世界だと隙がないとか良く言われるけど、正直どういう感覚なのかわからなかったわ。けどなるほど、現実にはこういうことを言うのね。」
「りんちゃん?」
 五十鈴は観察してはみたものの、砲撃をして当てられる自信が湧き上がらない。外野が砲撃をするのを許す空気を鳥海は纏っていない。なんとなくゾワリと身体が震える。それが感じ取れた。

 つまり鳥海には隙がない。

 五十鈴はテレビなどの物語でしか聞いたことが無い”隙がない”という状態を現実に初めて感じ取ることができた。腕が上がらない。鳥海を狙うべく睨みつけても、妙な覇気を察知してすぐに視線をそらしたくなる。臆病風に吹かれでもしたのかと自分を揶揄したくなってくる。

 そんな臆病めいた自分にバチがあったかのような事態が通信で伝わってきた。というよりも鳥海から外した視線の先に異変があるのに気づいたのだ。

「五十鈴さん! そちらに攻撃機が向かってます!」
「……わかってるわよ!」

 神通からの通信。五十鈴の視界の先で神通と五月雨が急に動き激しく何かをかわすのが見えた。そして小さく聞こえるプロペラ音。さきほどまで苦しめられていた存在だ。
 隼鷹の艦載機が飛んできたのだ。
 五十鈴は自分への腹立たしさをこちらの心境など知らぬ神通にぶつけて彼女からの通信をブチリと切り、妙高と名取に報告した。
「航空機が一機。いえ……その先に……もう二機!? 飛んできます! 妙高さん、対空準備しますから、回避運動の指示お願いします!」
「えぇ、このまま停止していたら危険ですしね。速力スクーターで発進。五十鈴さんを先頭、名取さんは私の後ろについてください。」
「「はい!」」
 妙高は素早く返事をし、そして指示を出して3人だけの支援艦隊を再起動させた。

 ほどなくして隼鷹の航空機がやってきた。その後ろからもう二機も迫って合流しようとしている。
 先頭を任された五十鈴はその後の妙高の指示どおり、大きく8の字を描くようにその場の海域を動き先導する。最初の1機目が後の2機と合流すべく速度を落とした。1機目をあっという間に追い抜いた後の2機が交差して弧を描いて再びの合流ポイントを五十鈴達の上空に定めた。
 そして……


バババババ!!!


 機銃掃射を五十鈴は左20度に針路をずらしてかわす。交差し終わって通り過ぎた攻撃機2機は大きく旋回して再び五十鈴たちを視界に収めた。同時に最初の1機が飛行速度遅めに飛んできたせいでようやく五十鈴たちを射程距離に収める位置についた。


ヒュー……


バシュ!バシュ!ザッパーーーン!

シュー……

 それは重みを感じさせるエネルギー弾を次々と落下させ海面に水柱を立てる。いくつかは海中に没した後、五十鈴達の方向に向かって進みだした。さすがに学習していた五十鈴はその光景を目にするや否や素早く妙高に判断を仰いだ。

「今度は誤らないわ。妙高さん、回避指示を!」
「はい。全員速力車で大きく時計回りに回頭!その後速力バイクにやや減速!」
「「はい!」」妙高の指示に急いた返事をする五十鈴と名取。
 五十鈴の意図を察した妙高は彼女の意を汲んで回避のための速力と方向を指示した。向かってくる数本の航跡を引く魚雷は五十鈴達の位置を予測していたかのように若干角度を変えて向かってきた。それでも通常の速力より約2倍の速力バイクで直進やがて右に角度をずらつつ進む五十鈴達を追いかけきれなかったのか、それらは五十鈴達が通り過ぎた後ろ20m位置を直進してやがて何も誰もいない海域で爆発した。
 回頭し終えて前方に3機を視界に収めた五十鈴は、即座にその位置関係を分析した。

 近い距離に最初の1機、やや離れて旋回し終えて合流し向かってこようとしている後の2機。いずれもそのまままっすぐ飛んでくれば合流して3機になり、広範囲攻撃でもしてきそうな予感が五十鈴の頭をよぎった。そうなると多少横に針路をずらしてもかわしきれない。
 たった3機、されど3機。
 撃ち落とすか? しかしまだ距離がある。射撃のプロでもないのでさすがに距離あるうちに撃ち落とすのは無理だ。近づけばいいことだがリスクがある。
 それ以上の思案を敵機は許してくれなかった。

 前方の1機がやや速度を落として後からの2機と合流した。想定通り3機の編隊だ。五十鈴が妙高に指示を仰ぐ前に妙高が叫んだ。
「速力はこのまま、5~6秒後に左10度で!」
「はい!」
 五十鈴は妙高の指示どおり左に針路をずらした。5秒も進むと敵機も目前に迫っていたが、始まった射撃をギリギリでかわすことに成功した。妙高の判断と指示は的確だった。
 敵機と通り過ぎた五十鈴は今度は左に旋回し続ける。反時計回りに海上を進み、同じく反時計回りに旋回してきた敵機を三度視界に収めた。
 その敵機は再び二手に分かれていた。完全に旋回し終えて五十鈴達の正面に2機、右舷に1機と迫ってくる。

「挟まれる! 妙高さん!!」
「えぇっと……右45度に突っ切って!」

 前と右から迫ってくる敵機の隙間を妙高は狙った。五十鈴は返事をする間も惜しんですぐに体と意識を指示通りに傾け、姿勢をやや屈めながら海上を右ななめに爆進し始めた。右に激しい波しぶきと航跡が描かれる。
 迫る前方の敵機、右の敵機をやり過ごしたが、五十鈴達の動きは読まれていた。

「「「えっ!?」」」

 五十鈴、妙高、名取はすでに通り過ぎたと思っていた先程まで前方の敵機2機のうち、1機が自身らにまっすぐ向かってくるのを視界の端に収めた。“その攻撃機”はまとっているホログラムとエネルギー波をまるで炎が激しく燃えがるように発して突っ込んできた。
 同時に燃え上がる攻撃機は広がったエネルギーから無数の爆撃と雷撃、射撃用のエネルギー弾を撒き散らして五十鈴たちに向けて急降下して迫る。

「かわせn……!」

 五十鈴が叫びかけるが、その言葉の残りを言い切ることができなかった。


ヒュー……

バババババババ!
バシャバシャ!バシャバシャ……
シュー……


 展開された弾幕と乱暴に放たれた爆撃用のエネルギー弾が先に五十鈴達に豪雨のように降り注いで着弾し、遅れて攻撃機本体が五十鈴の背面の艤装に命中し衝撃で彼女を無理な大勢で転ばす。そしてトドメは海中から襲いかかる無数の一撃必殺の槍たる魚雷であった。

ズザバアァァァ!!バシャッ!バッシャーン!
ズガアァーーーン!!
ザッパーーーン!!


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「千葉第二、軽巡洋艦五十鈴、重巡洋艦妙高、轟沈」

 明石による発表が放送された。

 当の本人たちは爆撃雷撃の衝撃で天海逆転しながら転げ回って海中に沈み、浮き上がって顔を出したときに現実のものとして知ることとなった。

「ぷはっ! ……はぁ、はぁ。くっ……まだやれr……えっ!?」
「ぷっはぁ~……けほっケホッ。え、りんちゃん轟沈?」
 五十鈴と名取は顔を見合わせ、そして同時に仰天の声を上げた。そんな少女達のそばに浮かんできた妙高もまたすぐに自身の結末を知った。

「妙高さんも轟沈……。」五十鈴が言い淀む。
「申し訳ございません二人とも。私の判断ミスで思い切り被害を受けてしまいました。」
「いえ、気になさらないでください。急に曲がって特攻してくるなんて……あれをかわすなんて超人的なこと絶対できませんし。」
 海面に浮かび姿勢を整える三人。五十鈴と妙高の視線は自然と名取に向く。
「それにしても……まさかあんたが生き残るなんて思いもよらなかったわ。」
「あ、え……うん。私もびっくり。どうしよう~一人でなんて何もできないよぉ。」
 不安で表情と姿勢を包み込んで示す名取に五十鈴は自身の額を抑えてため息をついた。呆れる五十鈴と異なり、妙高は至って冷静に尋ねる。
「名取さん、ステータスはどうなっていますか?」
「はい。……○○%です。」
 名取から耐久度の数値を聞いた五十鈴と妙高は顔を見合わせて状況を認識した。
「名取さんは大破の一歩手前といったところでしょうか。」
「正直、まだ基本訓練終えていないあんたがそんな状態で残ったってどうしようもないんだけど。」
「うぅ……ゴメンね~生き残っちゃってぇ……。」
 申し訳なさそうに悄気ながら謝る名取に本気でツッコんでやり込める気はない五十鈴は、訓練の中の身の彼女ができそうな水準での行動指針を考えそして口に出した。

「生き残ったんならせめて一矢報いてみなさい。私たちが離れて動き出したらまだ飛んでる攻撃機爆撃機が確実にあんたを狙ってくるでしょうね。だからその前に対空射撃しまくるか、あっちに向かってダメもとで砲撃か雷撃して今のこの戦況を掻き乱すのよ。」
 そう言いながら五十鈴が指し示したのは鳥海たちの方向だ。結局まともに支援攻撃をできなかったため、後のすべてを名取のビギナーズラックに託すつもりなのである。
「うぅ~……できるかなぁ?」
 五十鈴は弱音を吐く名取の肩に手を当てて釘を差した。
「できるかじゃない。やるのよ。どうせ死にはしないんだしうちの学校からは誰も来てないんだから、こんなときくらい思い切りはっちゃけなさいな。」
 五十鈴は退場のため彼女からゆっくりと離れた。妙高も合わせて離れ始める。
「やられる前にやるのよ。ほんっとに気をつけてよ。いいわね?」
「う、うん。怖いけどなんとかしてみるね。」
 弱々しい決意の声を聞いた五十鈴は一抹の不安を拭い去りきれず後ろ髪を引かれる思いで退場者の待機先である堤防へと向かっていった。

神通の後悔と決意

神通の後悔と決意

 五十鈴たちの様子を遠巻きに見ていた神通は、何も行動できずにただボーっと海上に佇んでいた。数歩分後ろで五月雨も同じようにしている。

「あ、あぁ……五十鈴さん、妙高さん……名取さん!」
「あ~~、あ! 危ないです! ねぇ神通さん!助けに行かないと!」
 五月雨の悲痛そうな感情が多大に込められた懇願が耳に飛び込んでくる。神通はそれに答えたかったが自身の慢心から来る判断ミスでこの状況を招いてしまった悔いが、我が身をギュッと縛り付けているようで救援の一歩を踏み出すことができない。
 さらに声が出せない。口をパクパクと開け閉めし僅かな呼吸だけが漏れ響く。

 神通が動けず、合わせて五月雨が動かないでいるその先で五十鈴達が対空のため回避行動を行っている。やがて神通たちの視線の先で海に水柱が立ち上がり、波しぶきが撒き散り衝突音やら炸裂音やらの多重奏が鳴り響いた。
 そして神通と五月雨は放送を聞いてしまった。

 五十鈴と妙高の轟沈判定である。

 神通は”艦娘とは航空攻撃でこうもあっさりとやられてしまうものなのかな”と甚だ他人事かつ勝手な感想が頭に思い浮かんだ。口は呆気にとられたという感情を示すように半開きのままである。
 やがて神通はようやく動くきっかけを得た。一人残ってしまった名取の危機だ。
 五十鈴らが離れていくと、それを待っていたかのように残りの航空機が時計回りループを止めて大きく逆向きに旋回し、名取めがけて急降下してきた。

「あ……あ! 名取さん!」
 神通の上半身が前へと動き出した。神通はコアユニットに速力スクーターで前進を命じる。その思念に呼応して神通の艤装がようやく再稼働して神先幸の体を前へと進ませる。
「五月雨さん、行きます!」
「は、はい!」
 神通は後ろを見ずに指示を口にするだけして前進し始めた。速力をすぐに1段階上げてまさにダッシュばりの高速航行だ。穏やかな検見川浜の海とはいえ、高速で移動すれば水の抵抗で体が跳ねては沈みを繰り返す。しかし気になるほどではない。神通は対空射撃を用意してそして叫んだ。

「名取さーーーーん!だ、蛇行してくださーーい!それから機銃を上にーーー向けてーー!」

 一方の名取は背後の上空から空気を切り裂く音を聞き、急降下してくる存在を理解して逃げるべく前進し始めたところだった。その時前方から自身へと向かってくる神通の声を聞いた。
 神通の指示は適切な対空の行動の範疇ではあったが、それを基本訓練真っ只中しかも運動音痴の名取が実際に行動に移せるべくもない。しかも名取は親友の五十鈴からやられる前にやってみせろとある意味指示を受けていて、同時に二人の指示をこなせるほどの精神状態ではなかった。
 結果として、名取が優先的に行動に移したのは五十鈴からの指示だった。

「えっとえっと……きっとりんちゃんはあっちの敵を攻撃するのを望んでたんだよね。あっちには那珂ちゃんもいるし。私だって……りんちゃんの、友達だもん。やっと友達のために艦娘になるって行動移したんだもん。友達にがっかりされないよう、やれるもん!」

 名取はそう口にした後、腰の左側に位置する魚雷発射管装置のスイッチに手をあてがい、そして4つすべて押した。

ボシュ、ボシュボシュ……ボシュ……シューーーーーーーー

 名取の魚雷は2本は海面スレスレの海中を緩やかな右寄りの曲線を描いて高速で進み、もう2本は急速に深く沈みそして大角度で浮上するコースを描いた。
 いずれも名取はそう念じていない。咄嗟のインプットが偶然そうなっただけだ。

「やった!きちんと撃てた! やったよ~りんちゃあぁ~~~ん!」

 名取は初めてまともに雷撃を放つことができた現実をすぐに五十鈴に知らせるべく、未だ堤防へ向かっている最中の彼女の方向に視線を向けて手を振って知らせた。

 しかしその雷撃の結末はよろしくなかった。
 海面スレスレを進む2本は敵の涼月に爆破処理され、深く沈んで浮上した2本は鳥海達を超え、那珂達を超えて誰もいない海上に水柱を立ち上げて終わりを迎えた。

 そんな雷撃の結末を名取が試合中に知ることはなかった。自分の成功体験に満足するというある意味幸せな状態で名取は試合を終えることができたのだ。
 名取の意識は自身の成功体験を親友たる五十鈴に知らせることに全て向けられた。回避行動はおろか速力調整なぞ頭にあるはずもない。
 結果として背後に迫る敵機の脅威に気づかず恰好の的であり続けた。

ズガアアアアァァァァーーーン!!!


「きゃああああぁーーーー!!」

「名取さん!」
 神通は速力バイクで進み、体が波に合わせて激しく上下しながら叫んだ。敵機に激突される名取を目にし唖然としたが今回はそれでも止まらない。
((きっと、きっとまだ大丈夫。これは慢心じゃなくて希望だから……!))
 そう思いながら爆走するが、とうとう間に合わなかった。

「千葉第二、軽巡洋艦名取、轟沈!」

 無残にも明石の報告の叫びが耳に飛び込んできた。その瞬間、神通は速力を2段階減速した。

「やった! あなたたちの行動なんて予測しやすいのよ。これで支援艦隊全員潰した!」
 遠く離れて、ギリギリの精神状態で操作していた隼鷹が左のこめかみを押さえて若干苦しそうにしながら叫んだ。彼女の目的はほぼ果たされた。残るは自身らをピンチにさせた神通と五月雨である。


--

 名取に近づこうとしていた神通たちは力なく水上に立ち尽くそうとしたが、その行動もこれ以上の前進も阻むものがあった。残り1機となった戦闘機である。
 本来の戦闘機ならば敵航空機以外への攻撃能力は持ち合わせる機体は限られているが、そこは艦娘の艦載機だ。雷撃のエネルギーと同等のエネルギーを機体にまとい、ホログラムのように姿を模してまるでミニチュアの戦闘機・攻撃機・爆撃機のように見せる。
 実質的にはあらゆる機種の特徴を再現できるのが艦娘の艦載機なのである。名取に特攻したこの時の航空機は最初は爆撃機状態だったが、その爆撃投下用のエネルギーをすべて自身の機体にまとい強力な自爆をしてみせる特攻機となった。
 そして神通達に向かってきた戦闘機は、最初に神通達に向かってきた機体そのものである。戦闘攻撃機となったその機は神通達の3~4m上空という近距離の高さから機銃掃射してきた。

ババババババババババ!!


「危ない!!」
「きゃっ!!」

 神通は咄嗟に右に体を傾けて航跡を左に引っ張って残しつつ避けた。五月雨も小さな悲鳴を上げたが危なげな様子なく神通に従って回避し、戦闘機とすれ違った。

ブゥン・・・・・・!!

 たかだかおもちゃ程度の大きさとはいえ、エネルギー波をまとった恐るべき兵器である。その風圧で神通と五月雨の髪は激しくなびき、脅威を間近に感じさせられる。基本訓練の時に味わった程度とは比べものにならない脅威。甘さや未熟さなどあるはずもない。自分たちを本気で潰しにかかってきてる他鎮守府の艦娘の航空機。
 何度も脅威を感じさせられたその機を早くどうにかせねばと神通は焦る。

 神通の頭には轟沈した名取の心配はもはやなかった。轟沈判定されて物理的に問題なくなった他人の心配よりも、今ある自分たちの危機とこれからの行動が優先されるべき指針だからだ。今この時、神通の中から名取に感情的な自分は自然と消え去っていた。
否完全に消え去ったわけではなく、彼女たちの結末を原動力とする程度に利己的な神通は存在した。


--

 何度目かわからぬ衝突が予測された。
 このままだと自身らの左舷に命中もしくは戦闘攻撃機の特攻が当たりかねない。神通は目前に迫る魚雷群を見据えた。このままではどう動いても被雷してしまう。

 自分があえて見逃してしまったから。

 逆にピンチになってしまうなんて完全に自分の失態だ。自分たちだけのピンチなら気にかけるほどでもなかった。しかし現実には五十鈴ら3人の轟沈という大惨事を招いてしまった。
 こんなこと予測できなかった。いや、危険予測としてあらかじめ事態を考えて対策を練っておかなければならないはずなのに、自分の今までしたことがないはっちゃけたアクションと作戦で戦艦を倒せたから、興奮のために危険を予測する思考が鈍っていた。いや、鈍ったのではない。無視したのだ。自分が強くなったと思い込んで残った敵を格下に見て情けをかけた。
 神通は心の底から悔やんだ。しかし今この時過去の行動を悔やみ続けるよりも目の前の脅威をどうするかが頭の中を占めていた。とはいえ後悔を完全に忘れていたわけではなく、片隅のその感情は神通を奮い立たせた。

「五月雨さんは減速して右120度回頭して離脱、絶対に私に付いてこないでください!」
「えっ、神通さん!!?」

「私が巻いた種は、私が片付け、ます!!」
 五月雨に見えぬ角度で、思い詰めて渋らせた顔で神通は叫んだ。

ズザバアアアァァ……

 神通は五月雨に一言指示した後、彼女の反応を一切気にせず速力を数段階飛ばし最大速力リニアまで上げて身体を左に傾けて航行の方角を変えた。本来の航行のコースであれば、その先に待つのは海面スレスレを飛び続ける戦闘攻撃機と海中を海面スレスレで泳ぎ進む魚雷だ。待つ、ではなく向かってくるという表現がふさわしい。
 敵機から放たれた魚雷は艦娘が使うようにコースや速度が調整されて進む。この時の魚雷は神通達のコースを予測してまっすぐだった。五月雨を離脱させた今、被弾の可能性があるのは自身神通だけだ。それも神通が進む方向をあえて敵機の方に向けて魚雷群のコースから逸れたため、被弾する可能性はなくなり神通に待ち受ける脅威は敵機のみになった。
 だがむしろその戦闘攻撃機こそが恐ろしいと神通は痛感している。だからその危険に身を委ねる気はサラサラなかった。
 両腕に2基ずつ取り付けた機銃を前方へと構えそして敵を見据える。敵機も神通の動きを待ってましたとばかりに機体の角度と向きを変えて神通めがけ特攻コースをまっすぐ伸ばす。
 神通は姿勢を平行に戻し、いよいよ迫る敵機との衝突に備えた。
 上空をにらむ。
 この機体さえ撃破すれば、後はあの隼鷹だけだ。今度は油断せずにあの敵機を破壊してみせる。そうして撃破できたのなら、そのままの勢いで隼鷹を確実に仕留める。今度は迷わない。情けをかけない。最悪差し違えてでもあの空母を倒してみせる。

 決意は強く固まり、その決意を後悔や憎しみといった人間をかき乱す感情でぐるぐる巻きにして発火させた。

 そして・・・・・・


バババババババババ!

ボシュボシュボシュ……
シュバッ!!

 肘に近い端子に機銃を取り付けていたため神通は最初の掃射を、脇を締め腕をクロスして行った。4基8門から超高速の微細なエネルギー弾が宙を飛び交う。しかしそれらはスピードに乗った敵機にとって大した障害ではなく軽い錐揉み飛行であっという間に過ぎ去る。
 神通の上空を敵機が通りすぎた。まさにその時、神通は左腕を背後に伸ばした。左腕の3番目4番目の端子に取り付けた連装機銃パーツからは機銃掃射が止まらない。
 つまり弾幕になっていた。機銃による弾幕がエネルギー刃となって敵機に切り込まれる。

「そこ!!」


 伸ばした左腕を頭だけで僅かに振り返り腕の角度・向きを確認する。のんびり確認していたのでは遅すぎるが、予測して予め角度・向きを計算して振って伸ばしたので、その行為は単に機銃掃射の結末をチラ見したいという思いで行ったに過ぎない。つまり射撃にはすでに影響はない。


ガガッ……バシューーーー!!!
バーーーン!

 スピードに乗っていた神通の数十m後ろでエネルギーが蒸発し、爆発の咆哮が鳴り響く。神通は撃破を確信し反時計回りに急回頭した。
 刹那、上空に見たのはエネルギー波の蒸発による火花と、艦載機を形作っていた紙が燃えて誘爆して巻きあがった爆煙だった。小さくとも中々に迫力ある光景だったが、神通はそんな光景に感傷にひたる間もなく引き続き反時計回りに回頭し、航行する向きを変えた。
 目指すは離れたポイントにいる隼鷹である。


--

 もう艦載機は撃てまいと一瞬思ったがその考えを瞬時に収める。再び艦載機を放たれる前に倒さなければ、今度こそ自分達のほうが終わりだ。
 強引なイメージで全速力を艤装に念じて猛然と海上を走るが、神先幸としての体力の限界が見え始めたのか、その疲れにより精神状態が怪しく揺さぶられているのか、期待通りの速力と安定した前進にならない。このままではたどり着く前に一度へばってしまう。そうなると隼鷹に逃げる時間を与えてしまう。それはイコール艦載機発艦によるさらなる危機を意味していることはすぐに連想できた。

((もう少し保って、私の体力!))

 体力と精神の限界が近いため自然と蛇行し始めるが、ようやく隼鷹を自身が自信を持って狙える有効射程範囲に捉えた。ただし停止した状態のことだ。自身の能力の限界に従って狙い撃つのでは意味がない。艦娘となった人間の動体視力と反射神経の強化っぷりは自身も重々理解している。一般的な艦船では船速が遅いとされる空母だが、艦娘としての空母が大幅に自身ら軽巡・駆逐艦に劣るとも思えない。
 つまり十分避けられる恐れのある距離だということを念頭に置かなければならない。

 神通は狙おうとして構えかけた腕を一旦下げ、全速力で走る時のように脇腹にあてがって前進に意識を戻した。
 やるなら絶対相手が避けられない距離で砲撃するべき。そう考えた。
 視線は隼鷹からずっと反らさない。睨みを利かせ、自身がより確実に狙い撃てるタイミングを図る。疲れなど気にしている場合ではない。軽く頭を振って思考と集中力を強制的に回復させる。
 隼鷹が動き出した。しかしゆっくりとした初動。スピードに乗っていた神通は身体と足の艤装を若干傾けて敵の動きに呼応した。それだけで十分隼鷹の向かう方向へ行ける。

 逃さない。

 やがてあと100mを切る距離まで近づいた時、隼鷹の懐に動きを見た。神通は青ざめた。まさかまだ艦載機のストックがあるのか!?
 こうなったら放たれる前に特攻して至近距離で倒すしかない。いや、それでは遅い。

「や、やあああぁぁーー!!」

ドゥ!
ドドゥ!
ガガガガガガガ!

 神通は遮二無二に砲撃して相手の動きを阻止することにした。叫び声をあげてその行動は正解だった。
 隼鷹は近づいてくる神通がただの一回も砲撃せずに向かってくることに嘲笑し残りの艦載機を放つことにしたが、神通の突然の攻撃に目を見張って驚きその手の動きを止めた。さすがに航行まで止めるわけにはいかないので20度右に針路を変える以外はそのままの前進を保つ。それは神通にとっては若干遠のいただけで、方向的にはまったく問題なかった。

 再び、三度砲撃する。移動しながらの砲撃でありなおかつ確実に当てる必要はない砲撃のため、とにかく数打つ。
 そしてトドメはようやくの至近距離砲撃。ぶつかろうとも避けるつもりがない神通の動きは純然で迷いのない突進となった。そんな神通の行動に覚悟を決めた隼鷹も、神通の砲撃の一瞬の合間を縫って最後の艦載機を放って迎撃せんとする。

「やああぁーーー!!」
「ただでやられるわけにはいかないんだから!!」

ドドゥ!ドゥ!ガガガガガガガ!

ブォン・・・・・・!!

 神通の砲撃によるエネルギー弾が宙を切り裂いて飛び、一方で隼鷹が放った艦載機がエネルギー波を纏い、まるで燃え上がる火の鳥のような爆撃機となって上空に急旋回し急降下してきた。

「「しまっ・・・・・・!?」」
 二人同時に同じ声を上げる。ただし視線は違う。隼鷹は自身の目線の高さのまま、そして神通は上空。
 そして……

ベチャ!ベチャ!

 先に相手の攻撃が命中してしまったのは隼鷹だった。神通から放たれた3~4のペイント弾に先だって機銃の弾幕が隼鷹の前と後ろを塞ぎ彼女に前進する意志をくじかせ、直後飛来するペイント弾の命中率を格段に高める役目を果たした。ペイント弾が命中した隼鷹はその衝撃でよろけて神通とは反対側に倒れ込む。
 神通はそんな彼女を案じてしまい、本当にぶつからぬよう針路を数度左に傾けた。それが神通の最後の情けだった。

ブワアアアァァ……ズッガアアアアアアァーーン!!!

「きゃあああ!!!」

 左に舵を切ったため右側を先にして当たり判定を拡大させた神通の背中に上空から縦旋回して急降下してきた爆撃機否特攻機が命中した。ペイント弾ではない訓練用のエネルギー波がその衝撃で火花が激しく散り爆発を起こし神通を左に思い切り吹き飛ばす。結果その衝撃で神通は隼鷹とは異なり海面を何度ももんどり打ちその身を強く打ち付けてしまった。
 辺りを爆煙そして熱によって気化したペイント弾による白濁とした濃厚な白い煙が包み込む。やがてその煙が四方八方に散り景色が晴れる。

 二人から離れた位置で停止していた五月雨がその光景の行く末を目の当たりにした時、明石の放送を耳にした。

「神奈川第一、軽空母隼鷹、千葉第二、軽巡洋艦神通、轟沈!」

 神通は己が一瞬望んだ通り、相打ちを果たして敵を撃破することに成功した。

「あ、ああぁ……神通さぁん!!」

 その場に響いたのは五月雨の悲痛そうな叫び声だけとなった。


--

 五月雨は慌てて駆け寄るべく速力を数段飛ばした。ペイント弾が当たっただけでよろけながらも海上になんとか立ちとどまった隼鷹とは違い、神通は海面を転がって最後は足の艤装、主機部分のみ残して海中に沈みかけている。そんな神通の様子に気づいたのは五月雨だけでなく隼鷹もだった。

「つぅ……は~ぁ。負けちゃった。ま、でも相打ちだからいっか。ん?」


「神通さん! 神通さーん!」
 五月雨は前進途中から主機の推進力による移動を忘れて普通に海面を走って神通に駆け寄りそして沈みかけた神通の上半身を持ち上げようとした。
「ふ……んっと……! うえぇ~持ち上がら……ないよぅ~~!」
 海水を吸いしかも気を失って力が抜けている神通の体は、艤装と同調してパワーアップしているはずの五月雨こと早川皐月の腕力では持ち上げることは難しかった。そんな少女の様子に気づいた隼鷹が駆けより声をかけた。

「私も手伝うよ。」
「えっ!?」

 五月雨が顔をあげると、そこには先程まで敵だった隼鷹が焦燥しきった顔ながらも優しい笑顔で手を差し伸べていた。五月雨の驚きの一声の先が沈黙だったのを承諾と受け取った隼鷹は肩からかけていたバッグを背中に回し、五月雨とは逆の方向から神通の体を持ち上げた。
 ザパァ……と海水が滴り落ち、水分を吸って若干重みを得ながらも神通の体は海中から上がった。

「神通さん!神通さん!しっかりしてください!」
 しかし神通は気を失っていて五月雨の声に反応しない。
「あ~、彼女気絶してるわね。訓練用とはいえ艦載機がまとうエネルギー波って結構強力なんだよね。多分彼女のバリアが発動して衝撃を和らげてくれたとは思うけど、それでも強い一撃だったんだと思う。」
 自身がやったのに他人事のように分析を口にする隼鷹に、五月雨は普通の人であれば感じる苛立ちなどは一切感じなかった。そんな感情よりも神通への心配がはるかに勝っていたためだ。彼女の口から出たのは、敵である隼鷹への問いかけだった。

「ど、どうすればいいんでしょう……!?」
「んーとね……私が堤防まで運んでおくよ。」
「えっ?」
 五月雨は目を見張った。隼鷹はそんな少女の反応を気にせず続ける。
「あなたはまだ生きてるでしょ。だから早く試合に戻って。私は負けちゃったんだし、もう自由の身だからさ。それに私の攻撃が原因だから……せめてこれくらいはさせて。あなたのお仲間さんはちゃんと安全に運ぶから安心してよね。」

 そう言って神通を持ち替えて背中に背負おうとする隼鷹を五月雨はポカーンと見ていたが、その動きにハッと我に返り、背負う動作を助けた。
「あの、あの……本当にお願いしても……?」
「えぇ。もう艤装の演習用判定はクリアされたから全力出せるし、もし運ぶの辛かったらうちの人呼んで一緒に運んでもらうから。ホラホラ行った行った。この神通って人が残してくれたチャンス、大事にしてよ。残ってるうちらの仲間はハッキリ言って強いから、早くあなたもあなたのお仲間さんに合流してあげて。」

 もはや隼鷹の動きを止めることなどできない五月雨は神通の身をまかせる決意を固め、あてがって持ち上げていた神通の右腰からそっと手を離した。

「それじゃあ、神通さんのことお願いします!」
「うんうん。お姉さんに任せて。」

 五月雨は隼鷹と、彼女の背中に背負われている神通それぞれに対して一礼をし、その場から反転して一路那珂と時雨のもとへとダッシュしていった。
 残された隼鷹はしばらく敵チームだった少女の後ろ姿を見ていたが、目を閉じ軽く息を吐いて視線を堤防に向け、やがてゆっくりと航行を再開した。

「さて、私も行きますか。……あ、もしもし飛鷹?私も負けちゃったわ。……うん、うん。ありがと……ね。あ、うん。お願いしよっかな。」
 移動しながら隼鷹はすでに退場して堤防下の消波ブロックに腰掛けていた飛鷹に通信し、神通を運ぶのを手伝ってもらうことにした。

同調率99%の少女(27) - 鎮守府Aの物語

なお、本作にはオリジナルの挿絵がついています。
小説ということで普段の私の絵とは描き方を変えているため、見づらいかもしれませんがご了承ください。
ここまでの世界観・人物紹介、一括して読みたい方はぜひ 下記のサイトもご参照いただけると幸いです。
世界観・要素の設定は下記にて整理中です。
https://docs.google.com/document/d/1t1XwCFn2ZtX866QEkNf8pnGUv3mikq3lZUEuursWya8/edit?usp=sharing

人物・関係設定はこちらです。
https://docs.google.com/document/d/1xKAM1XekY5DYSROdNw8yD9n45aUuvTgFZ2x-hV_n4bo/edit?usp=sharing
挿絵原画。
https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=75905877
鎮守府Aの舞台設定図はこちら。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=53702745
Googleドキュメント版はこちら。
https://docs.google.com/document/d/1aTXOubIZIP-Gfgz2yBYbZtxnng55xrhFpNy09tWweyk/edit?usp=sharing

好きな形式でダウンロードしていただけます。(すべての挿絵付きです。)

同調率99%の少女(27) - 鎮守府Aの物語

神奈川第一鎮守府の艦娘達との演習試合後半戦。今までの自分たちにない力と迫力を持つ、強敵鳥海率いる神奈川第一鎮守府の艦娘達に、那珂たちはどう立ち向かうのか。互いに消耗する中、彼女たちが見た結末とは? --- 2019/10/16 - 6話目公開しました。

  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-08-14

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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