【超短編小説】雨に溶ける人

六井 象

 雨の夜、歩道橋の上に、雨に溶ける人が立っていた。
 雨に溶ける人は、傘もささずに、車列のライトをぼーっと眺めていた。

 私はいつもより静かに歩道橋の階段をのぼり、雨に溶ける人を遠くから眺めていた。
 雨に溶ける人は、少しずつ雨に溶けながら、外国の歌を小さな声で歌っていた。
 車のライトが歩道橋を照らすたび、雨に溶ける人の長いまつ毛が、先の方から霧のようになって雨に溶けていくのが、とても綺麗に見えた。

 雨に溶ける人がすっかり雨に溶けたあと、私はゆっくりと歩道橋を渡って家に帰った。

 家の玄関で傘にまとわりついた雨の雫を払う時、小さな声で外国の歌を歌った。
 シャワーを浴びている時、そのことを思い出して少し恥ずかしくなった。

【超短編小説】雨に溶ける人

【超短編小説】雨に溶ける人

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-08-10

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