流行歌の似合う女

道端で高校生男子の集団とすれ違った、彼らは私をみてすこし笑いあったように感じた。それから今はやりのラブソングを誰かその中の一人がからかうように歌った。

「流行歌か」
私は一人でつぶやいた。そんなものがもし私に似合うんだとしたら、よほど私は薄っぺらなものでできているのだなと自嘲気味に片頬で笑った。早く家に帰ろう。一人暮らしでまっているのは五年前四百円で買ってきた亀のマメ蔵だけだったが、誰もいないえよりましだった。
 私は近所のコンビニで働いており、少ない収入で何とか都会の一人暮らしを成立させていた。
 家につきスーパーで買ってきた食材を冷蔵庫にしまいながら、さっきの高校生たちを思い浮かべていた。そしてもう一人必然的に思い出す高校生ぐらいの知り合いが私にはいた。近所の総合高校にかようF。彼は今どうしているだろう。また会うことはあるのかと、少し胸が痛んだ。
 Fとは一時期友達をやっていた。彼はいけない会社員の女性にペットにされていた。人生をなめ切り勉強もろくにやっていなかった。そんな時私はFにであい、あまりにもよくすれ違うので声をかけ友達を始めたのだった。彼は歩き方が半端なく特徴的で恐ろしく不遜に大股にそしてガニ股に歩いた。それが最初私の目を引いた理由の一つだった。そんな男になぜ興味を持ったか自分でも面白いがなぜか惹かれてしまった。
体の関係はなく、あくまで清く正しいお友達だった。
私の一人暮らしの部屋に遊びに来ては漫画を読みふけったり、私の手料理をまずいと言いながら全部食べたりしていた。
今から半年前の話だ。今は冬で当時は夏だった。クーラーの効きが悪いといつも文句を言っていた。私は五年務めた会社を辞めいわゆるぷーだった。ふらふらと近所をほっつき歩き、喫茶店に行き、そこで釣りなどはせず、コーヒーを味わった。私は体の欲求があまりないほうらしく彼氏も五年いなかったがいわゆる欲求不満に感じることは少なかった。生理前などはムラムラ来ることもあったが生理が来るとまた自然とおさまった。Fとは体の関係がなく保てたのはなぜだったのか、私は興味本位で声をかけたが、彼がおとなしく友達をやっていたのはなぜか今でもよくわからない。

彼との会話の中で印象的で忘れられない核のようになっているものがあった。
 いつものように私の一人暮らしの部屋に詰め込まれた膨大な量の漫画をあさりながら、ふと思いついたようにFが
「死にたいの?」
と聞いてきた。
私はそんなつもりはなかったが、ただ昔から薄幸そうだとか言われてきた女だった。
わたしは「だとしたらどうするの?」と何も考えずに返答した。
彼は一瞬考え、「手伝ってあげようか」と妙な目をしていった。
「ノーサンキュー」と私はいい、彼も深くは追求はせずその話題はそれっきりになった。

今考えると彼は誰か殺したかったのだろうかと思える。自分も死ぬ気があったかどうかはわからない。彼が私の部屋に来た動機の大半は、おそらく珍しい漫画目的だったんだろうと思うが、ひと夏友達だったのは、彼なりに何か目的があったのではないかと思う。それが自殺の手伝いだったのか、漫画なのかやはりいま考えてもわからない。

彼が無事成人してまっとうな人間として生きていくことを私は願っているが、おそらくもう会うこともないであろう彼に、あの夏殺されてもよかったかなと、ちょっと思ったりもする28歳の冬であったのだった


                         (2014,1,17)。

流行歌の似合う女

流行歌の似合う女

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-08-10

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