散り散り
一
新しいハイドロボールを一個加えて、凸凹を均したい。そう思い立った気持ちで動かす喉を通る冷えた牛乳と、口の周りに出来たんだろう、あのおヒゲをペロリと舐めて、口を拭った。私の手の甲、パタパタと小走りした後ろを追いかける犬の鼓動で進む時間は、人が感じるものと違うらしい。昨日見たサイトに書かれていた。へー、と思って覚えていた。どうやってそのサイトまで飛んだのかは記憶にないのに、結果だけが残る昨日。短パンの白についたミートソースを落とすコツの中から、一番簡単な方法を選んだ後のお話で。
二
誓約書として備えるべき様式についてとことん議論し合い、その内容を決める前に力尽きたわれわれにそっと温かいスープを差し出してくれた、紳士な姿。真っ直ぐな気遣い。われわれは感謝の意を述べる。返事はない。会釈はない。アンドロイド。
ただし微笑みは、三体で交わした約束で。
三
エンビードになりたくて、必死にジャンプした。
練習だけではどうにもならない部分を補うため、モリモリ食べて、大きく、大きく寝転んだ。夢を見た。走り込んだ。遅刻した。間に合った。天井のバス。
閉館時間を待ち。
垂直に跳んで、着陸した。
四
深夜になっても開いたままの電話ボックスは、暑さが無くて助かる。手にした十円玉の塊を握っていた手の中でかいた汗もすぐに消えて、短パンの生地で拭う必要が無かった。なので硬化を一枚投入し、必要な番号を慎重に思い出しながら、電話機本体にあるボタンを沈み込ませないようにプッシュし、肩に引っ掛けるように乗せていた受話器を耳に押し当て、無事聴こえたコール音にホッと胸をなでおろし、待った。
海に近い場所。錆び付かずに立つ陸橋。
真後ろの街灯に照らされて暗闇に際立つ。枝のない姿がさっぱりして見える木と、背景を動かす海の行き来する音が大きく、サンダルの素足が嫌が応にも軽薄に感じられる。捲れば直に掻くことが出来る腹を撫で、短パンに通した足を片方ずつ進める主役のセリフが反芻され、蛍光灯がチカチカと消えかけるような予兆を示す。降り立つ鳥は一羽もいない。それでも十分なものになる。いてもいいし、いなくてもいい。
意味深長のなせる術。
きっと、水槽の内側で色付きの魚が産まれた日。
五
円筒形、というかドーム型?
ふっくらとした形で、ガラス製の透明な器を持った姿で写ったら、肝心の物が届いた合図に、可愛らしく応えて開く扉の向こう。暑い景色に揺らぐ呼び声、冗談。
花が咲かずに伸びる緑の茎に流れて排水は、くるくると消え、バシャバシャと出る。
鼻を近づける犬の興味に反射する日差しに向けた、紺の傘を買って来たという。その報告に、回しておいて欲しい物がこんもりとカゴに積もっているのかを確かめて欲しい。二回に分けて欲しい。三回にする、と決めたときは教えて欲しい。いま使っている物も、一緒に洗って欲しいと思うから。聞こえる声に、驚く声。予想は超えてナンボだろう。心の商人(あきんど)に語らせて、上げる。口角に窪む暗がりがあればいいなと、笑くぼの持ち主が悩む。
数が遠くから告げられてくる。
立ち上がるウチが吸い込む世界に、吐かれて増える酸素が漂う。
六
おーきなこえでー、と響く。
七
蜜蜂の姿で帰路に着く。
お尻が大きな俳優の卵。
撮影の腕が上がったと、
楽しみにしててと慌て、
踊り出しそうな立ち姿。
見つめる方角に教わり、
眩しい、と言えず頷く。
八
混ざり合い。
ヨーグルトの朝と昼、シェイプアップに励む努力を継続しながら、スピーカーで予定を整え終える。
水も要らずに育ちつつ、冷めた流れに思う存分、ものを潤す。ことばたらず。
散り散り