魚(ぎょ)っちゃんのコンサート

魚っちゃんのコンサート

ある日、桃太郎、金太郎、浦島太郎の仲良しチームは、シンデレラ(通称デレちゃん)、白雪姫(雪ちゃん)と一緒に海底の人魚城に招待されました。
 パステルカラーの貝殻いっぱいのお城で大勢の魚のオーケストラが、海亀さんの指揮で曲を演奏しています。開いた大きなピンクの貝殻が開き、このお城のお姫様の魚(ぎょ)っちゃんこと人魚姫が、陸の世界への憧れを歌っています。招待客たち、特に浦島太郎は、魚っちゃんの美しい歌声にうっとり。

 魚っちゃんは1曲歌い終えると、
「ありがとうございました」
 と招待客にお礼を言い、上品におじぎをしました。全員が、惜しみない拍手を送りました。


 次に魚っちゃんは、海のかなたに居るいとしい人を思うナンバーを歌いました。歌いながら、魚っちゃんは貝殻から出てきて客席に居る友人たちと握手を交わしました。おやおや、浦島太郎がデレデレしています。

 2曲目も歌い終わり、今度は海の世界の素晴らしさを楽しく歌う、とびきり明るいナンバーを歌いました。この曲のメインヴォーカルは、何と指揮者の海亀さんでした。サビに入ると、魚っちゃんが会場中を自由に泳ぎながら歌い、魚やタツノオトシゴのコーラスまで入りました。これにはみんな盛り上がり、太郎ズは
「魚っちゃん」
 と合いの手を入れたほどでした。


 こうして全曲を歌い終わり、魚っちゃんは来てくれたみんなにお礼を言いました。
「皆様、本日は私の歌を聞きに来てくださり、本当にありがとうございました」
 桃太郎たちは大きな、大きな拍手をしました。すると…。

 魚っちゃんの後ろから、宇宙の某帝国の司令官…ではなく、もう一つの海の国のお姫様が歩いてきました。彼女はふぅーと一度息を吐くと、
「次は私が歌う。マイクをよこして、客席に行け」
 と言いました。魚っちゃんは、このお姫様の言うとおりにしました。海亀さんたちは、しぶしぶ曲を演奏し始めました。暗くて重い行進曲のメロディーの歌をこのお姫様が歌いましたが、その歌声は魚っちゃんとは逆で、ひどいものでした。聞いていた人たちは、耳をふさぎました。
 さらに悪いことには、もう一つの海の国のお姫様の歌声のせいでお城の壁のところどころにひびが入ったり、貝のスポットライトが落ちて壊れてしまったりしたので、彼女以外はパニックを起こしました。自分の家を半壊された魚っちゃんは目に涙をためて、
「私のおうちが…。うわ~~ん!」
 と大泣きしてしまいました。

 しかし、もう一人のお姫様は歌うのをやめると、
「知らぬ」
 と言って、さっさとその場を立ち去りました。

 浦島太郎は、あきれたようにつぶやきました。
「乙ちゃんが普段歌わないのは、こういうわけか…」


 海底の覇権を争う国々の姫たちは、こんなにも違うのですね…。

魚(ぎょ)っちゃんのコンサート

魚(ぎょ)っちゃんのコンサート

夏ということで、魚(ぎょ)っちゃんと呼ばれる人魚姫が主人公の、ミニミニファンタジーを投稿します。 この作品では、2人の海のプリンセスを非常に対照的に描きました。 どうぞこの小さなファンタジーで涼んでいってください。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-08-08

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