わたあめおいしいな

ヤリクリー

注意事項
①米印は、ト書きです。読まないようにしてください。
②米印のないカッコは読んでください。
③男性3人と女性1人の、4人声劇となっています。

わたあめおいしいな

わたあめおいしいな♪

〔登場人物〕
・哲夫→“てつお”。2人の息子を持つ、子供思いの父。
・江奈→“えな”。哲夫の妻。息子たちと過ごす時間が大好き。
・大貴→“だいき”。哲夫と江奈の間の長男坊。運動が得意でアグレッシブ。頭も良い。
・夕貴→“ゆうき”。哲夫と江奈の間の次男坊。少々病弱。甘いものが大好き。



江奈:これは、私たちの大事な息子の一人である、夕貴のお話。若くして天に召された、大事な大事な息子のお話。

哲夫:元々病弱だった我が息子が、懸命に生き抜いた姿。それは、今でも我々の脳裏に焼き付いている。思い出すだけで、すぐにでも泣きたくなる…。


(※ここは、とある産婦人科。江奈が、夕貴を出産するシーンである。)

江奈:うぅ、うぅ、…。


大貴:ねぇ、パパ。何か声が聞こえるね。

哲夫:あ、あぁ…。

大貴。これで、お前も“お兄ちゃん”になったんだぞ…。新しく家族として生まれた子をきちんと守れるように頑張るんだぞ!

大貴:うん!

哲夫:よし!


(※赤ちゃんの出産。男の子である。)

哲夫:江奈!江奈!

江奈:あなた…。新たな子の誕生したのよ。

大貴:ママ!僕、お兄ちゃんになったの?

江奈:そうよ、大貴。お兄ちゃんよ。

哲夫:しっかりしろよ?大貴兄ちゃん♪

大貴:うん!


江奈:ただ…。

哲夫:ん?ただ…??

江奈:生まれた子、少し体が弱いそうなの…

哲夫:え?

江奈:最初だけだと思うけど…。

哲夫:…だといいな。
(少し不安だが…。)

大貴:?


(※江奈が退院。赤ちゃんの名前は、夕貴に決定。)

大貴:夕貴♪お兄ちゃんだよ♪(*´ω`*)
   よしよし♪

江奈:大貴ったら、早速お兄ちゃんとして頑張っているわね。

大貴:だって、僕の大切な弟なんだもん。可愛いし♪

江奈:うふふ♡そうね♡

大貴:…だけどさ、ママ。

江奈:ん?どうしたの?

大貴:夕貴、ほとんど寝てるよね?夕方のちょっとくらいだけじゃない?起きているのって。しかも、いつも苦しそうに呼吸してるし。

“夕貴、大丈夫かなぁ?”

江奈:病院には行っているんだけどね。よくわからないのよ、その原因が。パパに聞いてもよくわからないって言うし。

明日も病院に行くから、その時にもう少し詳しく診て(みて)もらうわ。

大貴:わかった。
(何か、嫌な予感がする…。)


(※翌日、病院へと向かう江奈と夕貴。どうやら、不治の病に侵されているらしい。)

哲夫:ただいま。

江奈。夕貴が不治の病って本当なのか?!

江奈:あ、あなた…。

…え、えぇ。そうみたい。生まれつきの持病だとか言っていたけど、“あの時の”アレなのかなって…。

哲夫:江奈…。


(※優しく江奈を抱く哲夫。)

哲夫:大丈夫、大丈夫だから。な?

江奈:…。(※涙を流している)

哲夫:俺だって、夕貴の父さ。夕貴に何かが起こると、心配で心配で仕事になんて集中できやしない。

昼過ぎに連絡くれたでしょ?あの時、実は会社内で泣いていたんだよ。後輩にバレて少し恥ずかしかったけど、そんなことはどうでもいい。
だから、上と相談して今日は早めに帰らせてもらったのさ。相談した相手がよかった、ってのもあるけどね。

江奈:あなた…。

夕貴、しばらく入院させた方がいいって。今日の診察で言われたわ。どれくらいの期間になるのかはわからないけど、少なくとも、3ヶ月はかかるって。

哲夫:マジか…。

…でも、少しでも夕貴が楽になれるならそうした方が良いのかもな。悪化してからでも遅すぎるし。大貴には申し訳ないけど、それでも、あいつが逢いに行きたいって言ったら、俺は連れていくよ。江奈も、行きたくなったらすぐに言ってほしい。後で会社の方に連休取得の報告をするよ。有給が2カ月分もまるっと貯まっているし、育休報告もすれば、2年間くらい連続で休めるからね。

江奈:…でも、時々は出勤するんでしょ?週1か2で。そうなったら…。

哲夫:もう、俺の親父の方に連絡をしておいた。いざとなったらよろしく、ってね。承諾が出たから、問題なし。

江奈:あなた…。…ありがとう。(泣)

大貴:…ん?ママ?

あ、パパだ。おかえり。

哲夫:大貴、寝てたのか。ただいま。そして、おはよう。

大貴:おはよぉ。

江奈:明日から入院するってことになったけど…。

哲夫:俺はさっきのメールで確認しているし、いざとなったの体制もできる限り整えておいたから大丈夫。

後は、大貴がどう思うかが俺は心配している。

江奈:大貴。

大貴:…。

哲夫:お前は、大丈夫なのか?分かったか?

大貴:…。

江奈:大貴。あなたの気持ちも分からなくはないわよ。
でも、これをしないと夕貴とは、もう2度と会えなくなるのかもしれないのよ?あなたも、さらに苦しくなるだけ。

哲夫:大貴。立派な、カッコいいお兄ちゃんになるにはだな、“多少のガマン”も必要になるんだ。少しだけ離れ離れになるけど、定期的に会いに行くようにはするから。な?

大貴:でも…。

哲夫:お兄ちゃんになるってことは、そう簡単なことじゃないんだ。苦しいこと・辛いことを乗り越えてこそ、一人前の・本物のお兄ちゃんになれるってわけだ。いいか?

大貴:…うん、パパ。

分かった!カッコいいお兄ちゃんになる!

哲夫:そうだ!その意気だ!!

江奈:大貴お兄ちゃん、頼んだわよ。

大貴:うん!任せて!!


(※夕貴と入院前最後の夜を過ごし、翌日。病院に入り、入院生活が始まる。)

夕貴:うわぁ~ん!うわぁ~ん!(´;ω;`)ウゥゥ

江奈:大丈夫よ、大丈夫。私たちはずっとここにいるし、ずっとあなたの味方よ。

哲夫:ほんの少しの辛抱だからな、夕貴。また、一緒に暮らせるようになる。それまでの辛抱だ、スマン。

大貴:夕貴。ぎゅ~♡
また、すぐに会いに行くから。たくさんお話をしに行くから。ね?


(※それから2年ほどが経過。夕貴は3歳に。病状も多少は落ち着いた。)

哲夫:今日は、夏祭りが近くの公園であるらしい。行ってみるか?

江奈:それもいいわね。買い物はさっき済ませたけど、今日は気温が珍しく涼しいから、そこで何かを買って食べましょう。

大貴:金魚すくいをやりたい!スーパーボールすくいも!

夕貴も。やりたいって!

夕貴:ボール!ボール!さかな!さかな!

哲夫:わかったわかった。それもやらせてあげるから。な?

大貴:やったぜ!一緒にやろうね!夕貴♪

夕貴:うん!(*´ω`*)


(※夏祭り会場に到着)

大貴:パパ!綿あめが食べたい。

江奈:えぇ?いきなり綿あめ??

大貴:いいじゃん!いいじゃん!

わったあめ!あったあめ!(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

哲夫:仕方ないなぁ。買ってあげるよ。

江奈:あなた…。

哲夫:江奈。確か、夕貴はそれ食べられたっけ?

江奈:いちよ、問題なしみたい。

哲夫:ま、夕貴と一緒に祭りを楽しみたいと思っているよだから、そうさせてあげようか。これ以上、大貴にも負担をかけさせたくないし。

江奈:それもそうね。

(※綿あめ購入後)

哲夫:ほら、綿あめだぞ!

江奈:ほら、このウェットティッシュできちんと手を拭いてね。

大貴:OK!いっただっきまーす!
おいしい!

ほら、夕貴にも♪

夕貴:僕も僕も!
パクっ。おいしい!(o^―^o)ニコ

バクバクバクバク!

大貴:あぁ!僕の分が!!

江奈:こら。大貴!お兄ちゃんでしょ?

大貴:だってぇ~。(´・ω・`)

哲夫:江奈、そう怒るなって。
ほら、俺たち用の分も念のため買っておいたからさ。それの一部をあげよう。

江奈:…そうね。

ほら、大貴。ママたちの分、少しどうぞ。

大貴:ありがとう、ママ。
パクパク。

夕貴:おいしかった!

哲夫:早っ!

江奈:夕貴のお気に入りのようね。

大貴:パパ。焼きそばがあるよ。それならいいでしょ?

江奈:私も、焼きそばが食べたくなってきたわ。

哲夫:よし。次はそれにしよう。


大貴:紅しょうが♪ちょっと辛いけど、大好き♪

哲夫:お前は本当に漬物とかそういった系統のものが好きだなぁ。

夕貴:パクパク。もぐもぐ。

おいしい♡(*´ω`*)

江奈:(紅しょうが!紅しょうが!)

哲夫:(大貴の漬物好きは、誰かさんの影響なんでしょうね。)

俺は、フライドポテトにでもするか。つまみたいならつまめるし。それと、フランクフルトかなぁ。


(※一行は、ある程度お腹を満たしてスーパーボールすくいへ。)

江奈:夕貴、大貴。スーパーボールすくいやるんじゃないの?

大貴:そうだった!

江奈:お金は私が出すから、“喧嘩しないで”遊びなさい。いいわね?

夕貴:はーい。

大貴:はーい。


(※2人がスーパーボールすくいに挑戦。)

大貴:この、紙の“ポイ”っていうものですくうんだよ。

夕貴:やった!とれた!見て見て、取れたよ!

江奈:4個も?!やるわねぇ。

大貴:ほいっ!ほいっ!兄ちゃんの技も、見ててね。

“角キャッチ”!貯まる貯まる♪

哲夫:おぉ!流石は兄ちゃんだな!


夕貴:8個もらったよ♪

大貴:15個だぜ!えっへん!( ̄▽ ̄)

江奈:2人ともなかなかだったわね。おじさんも驚いていたわよ。
「君たち、本当に凄いね」って。

大貴:来年も、一緒にやろうね♪

夕貴:うん!


江奈:その後、夕貴は幾度か入院しては退院を繰り返す日々になっていた。救急車をいつでも呼べるような体制をも築いていた。

哲夫:そんな日常ではあったが、夏祭りは毎年行くようにしていた。大貴も楽しみにしているし、夕貴も。
仮にその年行けなかったとしても、夕貴のために、綿あめは買っておくように決めていた。そして、それを大貴と分け合う。ナースたちには怒られてはいたけど、“年に一度の楽しみ”ということで、大目に見てもらっていた。


大貴:夕貴!綿あめ、買ってきたよ!

夕貴:(o^―^o)ニコ

大貴:ほら、夕貴。口を開けて?あーん。

夕貴:あーん。パクっ♪

おいしい♪

哲夫:夕貴は、本当に綿あめが好きなんだな。

江奈:甘いものが好きだけど、特にこれへの執着心が。

哲夫:別にいいじゃないか?好きなものの1つや2つにこだわりがあっても。
たまたま、夕貴の場合は祭りのそれが大好きってわけ。

江奈:…そういうことにします。

大貴:夕貴♪はい、あーん♪

夕貴:パクパク。もぐもぐ。

“わたあめ、おいしいな♪”


江奈:そんなある日。彼が8歳の時、ソレは突然やってきた。

哲夫:前触れ、なし。予測もなし。こんなサプライズは、誰も求めてはいない。


(※学校から、1通の電話が。受話器を取る江奈。)

江奈:もしもし。はい、はい…。

え?!“うちの息子が倒れた?!”

はい、はい、はい…。わかりました…。


(※そっと受話器を置く江奈。)

江奈:…。

…早く連絡しないと!


哲夫:…あ、江奈から電話だ。何だろう?

もしもし?

江奈:あなた!!夕貴が、夕貴が学校で倒れたの!!

哲夫:…。

江奈:早く戻ってきて!

哲夫:…わかった。…すぐに上司に伝えておく。


哲夫:(だぁ~、クソっ!何でこんなタイミングでお別れになるんだよ…)


(※哲夫が帰宅し、夕貴のいる病院へ。)

大貴:ゆうき…。

江奈:あなた…。

哲夫:夕貴、俺だ。パパだ。俺はここにいる。何も怖くはない。

それに、ほら、夕貴の大好きな“綿あめ”だ!ちょうど、会社の近くの神社で祭りをやっていて、そこで売っていたから買ったんだ。
夕貴が、これを独り占めしてもいいんだぞ!


(※ピー、と音が鳴る。終わりの知らせである。)

哲夫:…。

江奈:…。

大貴:夕貴~!!!
うぅ…、うぅ…、うぅ…。


(※江奈と大貴を優しく抱く哲夫)

哲夫:…泣きたい気持ちもわかるが、今は夕貴に笑顔で話をしよう。
泣いていたら、夕貴も悲しむぞ?

大貴:…夕貴、夕貴…、ありがとう。
また、一緒に綿あめ食べような!兄ちゃんとの、約束だぞ!!

江奈:夕貴…。
私たちと最高の時間を過ごさせてくれて、…本当に、…本当に、…本当にありがとう…。

哲夫:…夕貴、もっと、…いろんなところに連れていけばよかったな。
パパの、…パパのせいだ。

“本当にすまない…。こんなパパでごめんよ…。”


(※通夜を経て、葬式へ。)

哲夫:さぁ…、最後に一言。夕貴に言ってこい。

大貴:夕貴!また、一緒に・たっくさん遊ぼうな!!じゃあな!

江奈:夕貴。あっちでも、おいしい綿あめをお腹いっぱい食べるのよ。
それと、虫歯にならないようにきちんと歯磨きもしなさいよ!


大貴:パパ。

哲夫:あぁ。

夕貴。これからは、俺たちを優しく見守ってほしい。夕貴も、あっちで頑張れよ!応援しているからな!


哲夫:こうして、夕貴と最期のお別れをした。そして、お供えは、決まって綿あめにしている。お店の物がないときは、自分たちでつくったものを供えるようにしている。
そうすれば、家の味で繋がっているということで、彼も安心すると思うからだ。
“おふくろの味”というものだ

江奈:彼の影響があってか、祭りで綿あめを見つけたら必ず買うようにしている。家族みんな。好きな食べ物の1つに追加されたみたいです。

これにて、私たちの愛する息子である“夕貴”の物語は完結です。ご清聴ありがとうございました。

わたあめおいしいな

訂正情報
・11月9日(土) 本文の一部を修正。

わたあめおいしいな

これは、とある病弱な子の一生を描いた物語。生まれつき持病を持っていた夕貴は、入退院を繰り返す日常を送っていた。そんな彼が楽しみにしていたものは、祭りの出店で比較的よく目にする、甘いものだった。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 全年齢対象
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