夏は、ゆううつ

 桜の花びらは、埋めた。
 どうか、だれも、掘り返さないでと祈る、梅雨が明けた頃の、公園は、子どもで溢れていて、ああ、夏休みか、と思う。
 恐竜博に行きたい、と呟きながら、かき氷を食べる、おまえの、右耳のピアスは、青い。
 空よりも青く、海よりも青い。
 どうしようもなく、青いから、少しだけ、泣きたくなる。

(夏よ、はやくおわれ)

 おれは、いつからか、春の化身。
 いまは夏なので、しずかに、生きている、おれを、おまえは、つまらないやつだという。
 かき氷、花火、海水浴、キャンプ、お祭り、ロックフェス。
 つめたいサイダー、汗をかきながら食べるカレーライス、うるさいくらいの蝉の声、ばかみたいにクーラーのきいたコンビニ。
 つぎの春までは、おとなしくしていようとする、おれを、おまえは、強引に、外に連れ出して、然して興味のない、夏の楽しみ、というやつに付き合わされる、日々。
 おまえは、夏の道化。
 秋になれば、あの、名も知らぬ花のように、萎れ、横たわり、眠るのだろう。夏の残滓を、どこかに隠して。

夏は、ゆううつ

夏は、ゆううつ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-07-29

CC BY-NC-ND
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