Hope

Hope

ふとした時に過ぎる過去との向き合い方というか、恋愛小説っぽいけど恋愛じゃない小説です。こういう悩みもあるんだ、みたいな感じでしょうか。片想いや両想い継続中の方に劣等感を抱いている感じで。

 冷たい夜は薄い光を隔てた向こう側にある。ここまでは冷気も爪を立てないけれど、窓ガラスは凍えるように冷たい。そこに映る透明な私の瞳だけが光っている。
 悲しいな。そう思う私を乗せて景色は流れていく。ふと思い出す会話。
 愛して欲しいな。…もう無理なのかな。コツンと額をガラスにぶつけた。泣きたいけど、泣かない。私は泣きたくなんてない。彼氏に振られたわけでもないし、苛められたわけでもないんだから……。そう言い訳してみる。何にせよ痛みは変わらないのに。原因は違っても結果は同じなのに。それでも自分を誤魔化したかった。大嫌いだから。私は私を決して認められないから。
 でも、と思い直す。愛してもらえない≠愛するのが怖いだけでしょ。恋はするもの愛はされるもの、なんて歌った歌手がいたような気もする。だけど、私はただ本当は誰かに聞いてほしいんだ。
 私の中に深く突き刺さる破片のようなトラウマが蘇り、耳をつんざく。立ち上がりかけていた足がもつれるように、思考は三日月を透かして過去へ飛んでいく。
「ねえ、時風ちゃん。恋人でその人の価値って決まるよね。やっぱ、顔もよくて成績もよくて運動も出来なきゃね。」そう言って私だけに分かるように、言葉のナイフを突き刺した隣のクラスの可愛いあの子。狐のような本性を隠すのがうまいから、皆は手を差し出すんだ。ねえ、少しでいいからその手を頂戴。一人ぼっちの私にはくれなかったよ。心が痛かったな。
 ネオンに映る暗闇の中。私の居場所の蒙昧さをあざ笑うかのようで。また消えるのかな、今度は消えないで欲しいな。
 時が少し経ってトラウマを植え付ける隣人達の間で、答えを見つけた気がしたんだ。あの頃の、よくある悪夢のような日々を抜けだした。いつもより少し笑えるようになった。なんだか、分かりづらいけどきっとこれが嬉しいなんだろうな。何でもない振りをして本当はそう思ってるんだよ。
 余計なこと言っちゃうかもしれないし、思ってるけどあんまり嫌わないで欲しいな。
 と、そこでバスがガタンと止まった。プシューと間抜けな音がしてバスは発進した。
 乗車券を見た。まだまだだなあ…、あと何駅だろう。そう思ってバス停を見ると星空がそれを彩っているかのように輝いて見えた。…これで電車だったら確実に『銀河鉄道の夜』だ。じゃあ、私はジョバンニだろうかカムパネルラなんだろうか。
 そう思いながら見事な星々を見上げる。まともに理科はやってないから確かじゃないけど、あれがペガスス座だっけな。二等星ばっかで一等星がないんだよね…。ああ、そっか……。私もそうだとそこで気付いた。
 私はどんなに頑張っても所詮、脇役。誰かの二番。一番には決してなれないんだ。そう思った時に扉が開いたので、私は何となくさっきの停留所の次で降りた。
 ああ、寒いな…。それに凄く静かだ。ただ星がよく見える。そこには街の明かり一つ無かった。住宅地を抜けていた筈だ、という事態の異常さは頭の隅でしか感じていなかった。…星が綺麗、だと思っただけだった。この星の下だと自分が酷く小さなものに思える。だけど。だからといって悩みは小さくなる訳でもない。ならもう開き直ってしまおう。
 一番になれなくてもいい。でもいつか感情を一つ一つ消していくことをやめて、誰かを愛せるようになれば誰かに愛して欲しい。人生が終わっても自己嫌悪はまだ無くならないけど、なくなった時誰かを愛して愛されてみたいから……。ツウと頬を涙が一筋伝った。嫌だな、涙なんて。袖で頬を擦った。
 私はカムパネルラじゃない。もちろん、ジョバンニでもない。足首まで生い茂る草の生えたなだらかな坂。闇の中指標は何もない。だけど、川のせせらぎが聞こえるから歩き出そう。立ち止まっていても意味は無い。

Hope

読んでいただきありがとうございます。長編も載せたいと思いつつ頑張ってますが、この前ワードの小説データが150ページ分消えてもう心が折れそうです。
それでも載せれたら今年中には載せようと思っています。

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くだらなくて切ない短編書きました。寂しさと夜の冷たさを対比してもらえればそれはそれは光栄です。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-10-21

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