貴族の男と奴隷の女 (1:1)
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■キャスト
貴族男(男)
奴隷女(女)
所要時間:10分程度
■本文
女奴隷:(目が覚める)ん……え? ここどこ? なにこれどういうこと? 意味わかんない、え? こわいこわいこわい……
貴族男:あ、気が付いたんですね。よかった。あなたはずっと眠っていたんですよ。傷は手当しましたけど、まだ痛むと思うからゆっくり休んでてください。
女奴隷:あなたは、えっと誰だっけ? ……あー思い出した。たしか、ご主人様が趣味で開いてる秘密クラブに来てた貴族様、よね……なんでここにいるの?
貴族男:ここ僕の家ですから。
女奴隷:は?
貴族男:あなたは僕が買い取ったんです。
女奴隷:は?
貴族男:勝手に話を進めてすみません。あまりにもひどい折檻(せっかん)を受けているあなたをみて、どうしても放っておけなくて……お金を積んで、どうにか譲っていただけました。迎えに行ったら、前のお屋敷の地下室で気を失っていたので、そのまま運ばせてもらいました。
女奴隷:……はあ。
貴族男:もう大丈夫ですよ、ひどい目にあいましたね。あんなに痛めつけられて、しかも折檻(せっかん)の様子を貴族たちの見世物(みせもの)にしてお金を取るなんて……あんなの、ひどすぎる。
女奴隷:……はあ
貴族男:でももう大丈夫ですよ。
女奴隷:……はあ
貴族男:もう安心です。
女奴隷:……はあ。
貴族男:僕が助けましたから。
女奴隷:……はあ。
貴族男:だから、もう大丈夫ですよ。
女奴隷:……はあ。
貴族男:あの
女奴隷:なに?
貴族男:……反応薄くありません?
女奴隷:そうかな?
貴族男:だってひどい主人から助けたんですよ。もうちょっとこう、なんというか。
女奴隷:ありがとうございます、なんてお礼を言っていいか、このご恩は一生忘れません!みたいな?
貴族男:そうそれ、そういうの無いんですか?
女奴隷:いや別に。むしろやっべー、まずいことになったなーと思ってるし。
貴族男:え?
女奴隷:前のご主人結構ましだったのに。馬鹿なのか折檻の方法がワンパターンだったから。鞭で打つとか、棒で叩くとか、肉体的苦痛だけだったし、まあ、最近になって、爪剥ぐとか始めたけどさ。まあそれくらいなら……
貴族男:あーやめてください! 聞いてるだけで痛い!
女奴隷:いやいや、そりゃ痛いよ? でも、奴隷にとっちゃよくあることよ? 爪だけじゃなく、皮剥いだり、歯を抜いたり、焼きゴテ当てたり……
貴族男:いやーやめてくださいー痛い、痛い、痛い!
女奴隷:痛いくらい大丈夫だって。もっときついのは精神的苦痛だから。そっちの拷問の方法聞く? まず暗い部屋に閉じ込めて……
貴族男:聞きません!
女奴隷:あんた絶対ボンボンよね。かわいそうな奴隷助けたらめっちゃ感謝されて、めっちゃ承認欲求満たしてくれると思ってるんでしょ。ごめんねーそんな甘くないって。
貴族男:まあ確かに僕わりと大貴族の令息(れいそく)だから。生まれた時から、苦労ってしたことないですけどね。なんでも召し使いがやってくれたし。なんでも買ってもらえたし? 大事に大事に育てられましたけど。
女奴隷:……でも性格はなかなか最悪だね。
貴族男:でもでも大事に温室で育てられすぎて、女性との接触がないことに気が付いた今日この頃。これじゃやばいと! ……でも、僕って大事にされすぎて内気だし、どうやって恋愛したらいいのかわからないし。
女奴隷:あー童貞なのね。
貴族男:そこで僕は考えたんです! 酷い目に遭っている奴隷なら、助けてあげれば、めっちゃ感謝してくれて、向こうから熱烈に好きになってくれるんじゃないかと!
女奴隷:あー馬鹿なんだ。
貴族男:なのになのに、全然感謝もしてくれないなんて! 君の元主人なんてめっちゃジジイだったじゃないか。僕の方が若いし、顔だって悪くないし、なんなら恋に落ちて、親の反対を押し切って結婚するとかあるかもしれないじゃないか!
女奴隷:恋愛小説読みすぎだってば。二次元での恋愛をしすぎてこじらせてるタイプね。で、どうすんの?
貴族男:……どうって?
女奴隷:私はもう用なしでしょ? 返品する? まあ今更無理でしょうね。始末してくれたほうが助かるんだけどなー。
貴族男:え、死ぬってことですか? 助かったのに? なんでそんな簡単に言うんですか?
女奴隷:馬鹿なお坊ちゃまにはわからないでしょうね、生きてていいことがあるのは、人間だけよ。私たちは人間にカウントされてないから、神様の管轄外なの。またいろんな主人に売り買いされて、玩具にされるのいい加減めんどくさいのよね。またオークションにかけられるのも勘弁して欲しいわ。……ねえ、いいでしょ? 始末する前に、好きにしていいからさ。
貴族男:好きに、とは。
女奴隷:あんたのことだから官能小説こっそり読んでるでしょ? そういうことよ。なんなら、助けられて感謝にむせび泣く奴隷の演技もしてあげるからさ。
貴族男:……いや、それは、なんか違う。僕は単にそういった行為をしたかったわけじゃなくて、その……なんだろう、愛し合いたかったんです。
女奴隷:うわー痛ーい。自分は愛してないのにどうやって愛し合うのよ。
貴族男:それを言われると……めっちゃ愛されたら、僕だって愛せるかもしれないじゃないですか。
女奴隷:うん、馬鹿だね、あんた。
貴族男:うー
女奴隷:大体さ、どうせ貴族同士で結婚するんでしょ。その貴族令嬢と愛し合えばいいじゃない。めんどくさいことしやがって、迷惑な。
貴族男:確かに僕はハンサムな大貴族令息ですから? 僕と結婚したいって令嬢はたくさんいますよ? けど、なんか違うんですよね。彼女たちは僕の家柄とかお金とか綺麗な顔とかしか見てないんですよね。なんかむなしくなっちゃって。
そんなとき、君が貴族向けの秘密サロンで折檻されているのを見て、なんかビビッて来たんです、この子だー!って。
女奴隷:何回も言うけど馬鹿だね。与えられているものに満足しないで、ないものねだりしてるだけじゃん。
貴族男:……だってしょうがないじゃないですかー! 小説だと必ずこの流れで激しい恋に落ちるんですよ? 現実もそうだと思うじゃないですか! こんな性格捻じ曲がっている子は小説に出てこないし!
女奴隷:あ、そ。小説の話はもういいから。とにかく早くしてよ。決めてくれないと落ち着かないのよ。どうするの? 返品? 転売? 始末?
貴族男:しませんよ、せっかく買ったのにもったいない。しばらくここに居てください。
女奴隷:いろって言われてもなー。なにすればいいの? 夜の相手?
貴族男:しなくていいですよ! いや、したくないと言ったら嘘になるんですけど。でも、君に単純に興味があるんです。さっきもいいましたけど、僕はね苦労をしたことがないんです。で、君はすごく苦労ばかりしてきたみたいだから。極端と極端で、一緒にいれば、お互いなにか変わるのかもしれない。だから僕に教えてください。君が今まで生きてきたこととか、見てきたこととか。
女奴隷:精神的拷問の方法聞く? まず、穴を掘るように命令されて……
貴族男:いやいやいやいや! それは、そういうのは、ちょっと……時間をかけて少しずつ!
女奴隷:……なんだ
貴族男:信じてくださいとしか言えませんけど、ひどいことしませんから。
女奴隷:(独り言のように)ひどいことしない、か。それが奴隷にとっては一番きついってことを理解できないだろうね、お坊ちゃまには。
貴族男:え、なんですか?
女奴隷:なんでもない。まあいいよ、どうせ私の持ち主はあんたなんだから好きにすればいい。
貴族男:そうそう、一応言っておきますけど、僕は、あなたを襲いませんけど、君から襲われるなら大歓迎ですよ? 僕、無理やりされて興奮するタイプですから。
女奴隷:いや、あんたの性癖知らないから。
貴族男:そう言えば、名前も聞いてませんでしたね。なんて言うの?
女奴隷:私もあんたの名前もしらないけど?
貴族男:そうでしたね。
女奴隷:名前は……
貴族男:名前は……
END
◇◇◇
あとがき:
不幸でいないと安心できない人っていますよね。
貴族の男と奴隷の女 (1:1)