Märchen(メルヒェン)
あなたにはあの警告が聴こえるでしょうか。
遠い彼方からサイレンの警告が訪れ、僕はその兆候の奏でに、いつも終着と隣り合わせの僕へと埋没してしまいたいと思うのでした。
僕はすでにもう兆候の人間なのです。
兆候の旋律のうちに戦慄を慟哭しなければ生きられぬようになってしまいました。ゆえに人々が放棄した地上の彷徨いが、僕の永久となりました。
日毎に朽ちていく地上の極みを、あなたは「綺麗ね」と、いつかの僕のそばで囁いたのでした。
あなたもまたあのサイレンへと壁から亡命してきたのかもしれません。なぜなら、あなたが抱えていたスケッチブックには、ひどく陰惨なクロッキーが刻まれていたのを、僕は見逃さなかったから。
僕はこの地上の陰惨をあなたと分かち合える低い明度のMärchenを、予感しているのかもしれません。
あなたはそれを望んでいるでしょうか。
虚無の空爆にさらされるあの市街地の蒼い火を、あなたのそばで眺めています。
どこまでもあの火中を、行くところもなくあなたと逃れないように逃れて、爛れてしまいたい欲求を僕は隠せないのでした。
Märchen(メルヒェン)
作者ツイッター https://twitter.com/2_vich