僕が終わったあとの手紙

 



    憂鬱。


その言葉は、今の僕にはとても似合っていて

ため息をつくと

乾いたコンタクトレンズをゴミ箱に捨てた。


机の上のコンドームと半分余ってる缶ビール2本を何気ない風景に伸ばす。

気持ちよさそうに寝ている恋人に向かって

「俺とシてた時より気持ちいい?(笑)」



   なんて。



「今の僕」の二ヶ月後の今の僕。



この前手紙が来てたよ。


あと5ヶ月で死ぬんだって「今の僕」。


とくとく下がってく僕のシルエット。
終わってく僕の舞台。


こんな結末、台本にはなかったから
スタッフみんな大騒ぎで。



僕の恋人、泣かないで。
嘘だよ、泣いて。

(バカバカしい世界。)



居心地なんてあったもんじゃない

似合うのは憂鬱だけで。




時間はあった。

<手紙が来たよ>

余命:3ヶ月

「たった3ヶ月」は僕にとってはとてもとても長くて、


涙を流す暇さえあった。

「 死にたい 」


誰かが頻繁に口にしていたその言葉は

誰かの涙が救ったんだ。


「 ねえ、 」

目の前にいる恋人が呼ぶ。


あれ?

( 名前なんだっけ )



もう、誰だか分からないやつの肩が小さく震えていて


合った目と目が小さく揺れていて


この時初めて思ったんだ。



 ( ああ、抱きしめてやりたい )


きつく強く、



 愛せばよかった。


そう思った瞬間、抱きしめていて


そうか

なで肩だったんだ。


そういえばこいつリュックで会うときいつも
紐落ちて、直してたっけ。


暖かい。



もし、あの日の「今の僕」が
今日の「今の僕」だったら

きっと、あの缶ビールの半分を飲み干していただろう。

きっと、もっとぐっすり寝ていただろう。


あと、



知ってた?
ホットケーキ嫌いなんだよ。
ばか



でも、毎朝ホットケーキだった。



なぜかって、「笑顔で食べてたからでしょ。」


もう意味をなすことのない「意味は」
やっと伸ばした手をスルスル通過

あれ、痛過。

そうか、そうか。


今、抱き合って知った暖かさも
今、知った意味も


きっと神様がここに、もっと居たいと思わせるためだったのね。



母親の作ったホットケーキを一口、口に運んだ。
喉を伝ってくはずなのに

暖かい。



「 うん 」



今、笑ったらいいの?

今、泣いたらいいの?


それとも今、「本当は嫌いだったんだ」


そう正直に言ったらいいの?


どれが本当にいいことなのか、わからなくて
たった二文字しか言えなかったのに


心の底から「 美味しい 」

そう言ったら



多分、






               涙が出てしまうと思った。






     余命:20分。


  その手紙は、最後の僕の隣で小さく点滅をしながら
  暗闇へ消えていった。

僕が終わったあとの手紙

僕が終わったあとの手紙

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-10-21

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