剣士と魔法使い
ここは、魔法使いの住む島、マジカル・アイランド。そこに、子供ながらどの魔法使いとの勝負にも勝ってしまう、
天才魔法使いがいた!その名は、アシュレイ!
「えっへん!ぼくが天才魔法使いのアシュレイ様だ!さぁ、ぼくとの魔法勝負に勝てる自信のあるものはいるか!?」
こんな具合に、アシュレイはいつも、魔法勝負をするものを探していた。
「あーあ、またアシュレイのやつ、いばりくさってるよ。」
「仕方ないわよ、魔法の腕は確かなんだもの。」
もはやこのマジカル・アイランドには、アシュレイに勝てる魔法使いはいなかった。
「あ~つまんないな~、もうこの島で勝負できるヤツがいなくなっちゃったよ。」
「アシュレイ様は天才でいらっしゃる、仕方のないことですよ。」
アシュレイに使えるプチドラゴンのチャーリーが、アシュレイの横でパタパタ翼を小さく羽ばたかせた。
「まーね、でもそうするとこれから先にやってくる毎日が、どんなにつまらないものになるか、予想がつくかい?」
「それも、仕方のないことです。」
やっぱりチャーリーは、誇らしげにそう言った。
「それにしても、退屈さ。」
そう言うとアシュレイは大げさにため息をつくのだった。
しかし、アシュレイの予想は、予言おばばの予言にくつがえされたのである。
「んむむ・・・!アシュレイ、お前さんの身に災いがふりかかろうとしておる・・・!」
ふだんはたくさんのしわで隠れている目をおっきく開いて、予言おばばはそう言った。
「・・・災いぃ?」
今まで予言おばばの予言は外れたことが、たまにはあったが当たった時もあった。
だから今回の予言も当たるとは限らない。アシュレイはどうせ当たらないだろうと思った。
「もしやってきてもぼくの魔法で追い払ってやるさ!なんてったってぼくは天才だからね。」
そう、高らかに笑うアシュレイであったが、その笑い声は東の空を包んだ分厚い灰色の雲に吸い込まれた。
その晩。コンコン、と、アシュレイの家をノックする音が聞こえた。
「ん?こんな晩に誰だろう?」
すでにパジャマに着替え、ベッドにもぐりこもうとしていたアシュレイが首をかしげた。
「ふわぁ~・・・、アシュレイ様の熱烈なファンかなんかじゃないですかぁ~?」
寝ぼけまなこでチャーリーが扉に向かった。
「こんな夜更けに、誰でございますか~?」
チャーリーが扉の向こうに声をかけた。
「夜分に失礼。こちらはアシュレイ殿のお宅でござるか?」
返ってきたのは渋いおじさんの声だった。
「そうでございますが、そちらはどちら様でしょう?」
チャーリーが聞き返した。すると、オホン!と言う咳払いが聞こえた。
「失礼いたした。拙者、ガラモンと言う旅の剣士でござる。アシュレイ殿がこの島いちばんの実力の持ち主と伺い、一度手合わせ願いたくつかまつった。拙者と勝負して頂けないだろうか。」
「け、剣士、でございますか・・・しかしアシュレイ様は魔法使いでありましてですね・・・。」
「いいよ。」
「ア、アシュレイ様・・!?しかし・・・!」
慌てるチャーリーの横を通りすぎると、アシュレイはガチャリと扉を開けた。
ガラモンと名乗った剣士は、腰に剣をたずさえ、立派な黒ひげを生やし、長い髪の毛を前髪ごと一本にしばっていて、鋭い目でじっとアシュレイを見つめた。
「・・・ぼくが天才魔法使いのアシュレイ様だ。剣士のガラモンとやら、勝負を受けよう。だけどぼくは魔法使い。勝負は魔法を使わせてもらうよ。それでもいいのかい?」
自分より背の高いガラモンに向かって、アシュレイは胸を張って言った。
「異存ないでござる。」
そう言うとガラモンはくるりと背中を向けた。
「ご承諾、感謝いたす。では、明日の夕刻頃、また来るでござる。」
そしてガラモンは素早く歩き出し、やがて見えなくなった。
「あああアシュレイ様!?よいのでございますか~っ!?剣士と勝負なんて今までなされたことが・・・!」
「平気さ。剣士が魔法使いにかなうもんか。ましてやぼくは天才だ。なにも心配することなんてないさ。」
そう言うと、アシュレイはベッドにもぐりこんだ。
「ふわあぁぁ・・・、そう言うことだ、もう寝るぞ。」
そして、あっと言う間に寝息を立ててしまった。
「・・・確かにそうなのですが・・・何やら落ち着きませぬ・・・。わたくし、こんなに眠れない夜は初めててございますふわぁ~・・・、グガー、グゴー・・・。」
そして、次の日。今日はなんだかやけに空が曇っていた。
「なんだかいやな天気ですねアシュレイ様。」
「そうか?」
鼻歌なんて歌いながら、アシュレイは上機嫌だった。
「これでまたひとつ、ぼくの天才ぶりが世に知れ渡るぞ、チャーリー。」
「そ、そうでございますね!」
チャーリーがそう返したとたん、突然、雲に大きな穴があいて、中から巨大な怖い顔がのぞいた!
「ひぇっーっ!ななななにごとですかーっ!!」
「誰だ!?」
するどく大きな顔に向かってアシュレイが叫んだ。すると怖い顔が不気味な声で笑った。
「ぬははは、わがはいは暗黒大魔王である!今日からこの島は、わがはいのものだ。魔法使いどもの魔法を封印し、わがはいのしもべにしてやる!」
そう言って暗黒大魔王がとどろく声でかけ声を上げると、雨とともにむらさき色の雷が島全体にほとばしった。
「ひゃーーっ!!」
「うわっ!」
アシュレイたちは地面に叩きつけられた。
「ぬははは、これでこの島はわがはいのものだ、ぬははは!!」
そう言うと暗黒大魔王の怖い顔は、雲の中に消えていった。
「・・・くそー、なにがこの島をわがはいのものにする、だ!そんなことさせるか!チャーリー、あいつを倒しにいくぞ!」
「はわわ、しかし剣士のガラモンとの約束が・・・!」
「バカ!この島の一大事だぞ!後回しだ!」
「は、はいぃっ!」
ふたりは急いで、島いちばんの高い丘、星が丘にやってきた。
するとそこには、剣士のガラモンがいた。
「おまえ・・・!」
「アシュレイ殿、島の一大事と見た。拙者も、助太刀いたす!」
「それはそれは大変助かりま・・・!」
「ぼくひとりでじゅうぶんだよ。よそ者は引っ込んでいてくれ!」
そう言うとアシュレイは呪文を唱え始めた。
「この雲を消し去れ!シャイニング!」
いつもなら溢れるばかりの光が降り注ぐのだが、辺りはなんの変化もない。
「・・・あれ!?」
アシュレイは目を丸くした。
「・・・アシュレイ様!」
「さきほど魔法の力を封印するとか言っていたでござる。」
アシュレイはハッとした。さっきの雷で、この島の中では魔法が使えなくなってしまったのだ。
「・・・そんな・・・、魔法の力がなきゃ、ぼくは・・・!」
「拙者に任せるでござる。」
落ち込むアシュレイのとなりで、ガラモンが剣を抜いた。そしてゆっくりと深呼吸をする。
「はぁーーーーっ!!」
かけ声とともに剣をふるうと、島をおおっていた雲が少し散った。すると、そのすきまからあの暗黒大魔王の怖い顔が再びのぞいた。
「なにやつ!・・・むぅ・・・、きさま、魔法使いではないな!」
「拙者はガラモン。旅の剣士でござる。暗黒大魔王とやら、今すぐこの島を元に戻すでござる。」
「剣士だと!おのれこしゃくな!わがはいの力、思い知るがよい!」
暗黒大魔王がそう言うと、ガラモンをあのむらさき色の雷がおそった。
「ああああぶないっ!」
チャーリーが目をおおった。ガラガラドゴーン!すごい音がして、雷がガラモンに落ちた!
「・・・・!」
アシュレイが息をのむ。もくもく煙でおおわれたガラモンは、なんと無事だった!剣で雷をはじいたのだ。
「おお、お強い!」
チャーリーが感嘆の声をあげた。
「こんなもの拙者には通用せん。今度はこちらから参るぞ!」
言うや否、ガラモンは力強く大地を蹴ると、大魔王の顔めがけて剣をかまえた。
「ぬはは、剣士ごときが、わがはいにかなうものか!」
大魔王が笑い声を響かせる。
「・・・迷い無き心は、どんな苦境をものともせず・・・必殺・・・。」
ガラモンの剣がごうっとうなり、大魔王の顔めがけて振り落とされた!
「晴天切りーーーっ!!」
「んなっ・・・なにぃーー!!??」
剣はみごとに大魔王に的中!剣から放たれた光が空おおう雲を、そして暗黒大魔王をもみるみる消し去ってゆく!
「剣士・・・ごときに・・・このわがはい・・・ぐあぁぁぁっ!!!」
空は、晴れた。
「うむ。これでお主の魔法の力も復活しているであろう。」
「アシュレイ様、よかったですね~~!」
「・・・・・。」
喜ぶチャーリーとは正反対に、アシュレイはうつむいていた。
「さぁ、それでは拙者と勝負でござる。」
「もちろんですともっ!魔法の力が戻ったアシュレイ様は天下無敵なのですから!ねぇアシュレイ様!・・・アシュレイ様・・・?」
「・・・ぼくの負けだ。」
アシュレイはやっと言葉を口にした。
「ななな、なんと!」
「いかがいたした?」
ガラモンは首をかしげた。
アシュレイはうつむいたまま言った。
「・・・勝負などしなくても、暗黒大魔王を倒したお前を見ていればわかる。ぼくはお前に・・・、ガラモンには勝てないよ。」
「・・・アシュレイ様・・・。」
「・・・それだけの、理由か?」
ガラモンが静かに聞き返した。その鋭い瞳に、アシュレイはしばらくだまっていたが、ぎゅっとこぶしをにぎりしめると、くちびるをかみしめながら答えた。
「・・・ぼくは、自分の魔法に自信があった。魔法さえあればぼくは無敵だった。・・・けど、魔法がなかったらぼくは・・・ただの役立たずだ・・・。それを思い知らされたんだ・・・。」
「あ、アシュレイ様!そんなことは・・・!」
チャーリーの言葉をさえぎり、ガラモンが言った。
「確かに、魔法の力がなければお主はなにもできないであろう。」
「が・・・ガラモン殿!なにを・・・!」
「しかし、アシュレイ殿。お主が持ち合わせた能力はそれだけではない。」
アシュレイが首をかしげた。
「・・・魔法だけじゃない・・・?」
「さよう。」
「それは、どう言う意味でございましょうか・・・?」
チャーリーが聞いた。ガラモンは、初めて笑った。
「島の一大事に、誰よりも先に敵に挑もうとした。その勇気は素晴らしいものでござる。」
「・・・ガラモン・・・。」
アシュレイの瞳は、キラキラ光っていた。
「それは魔法の才能よりも重宝すべきものだと、拙者は思うでござるよ。それと同時に、魔法の力だけにおごってはならん。」
「・・・おお、ガラモン殿!なんと立派な剣士様であらせられることか!」
ガラモンはアシュレイたちに背を向けた。
「拙者もまた、修行の身。いずれまた会おう、アシュレイ殿。」
そう言ってふたりの元から去ろうとした時、「ガラモン!」
アシュレイがガラモンの背中に呼びがけた。
「また、会いにきてくれよ、この島に。その時までにぼく・・・、魔法だけじゃない、もっと色んな知識を身につけて、
強くなるよ。そしたら、その時こそ勝負してくれ!今度は、お前に勝つから!」
「アシュレイ様っ!素晴らしいお言葉!わたくし感動でございます!」
「・・・楽しみにしているでござる。」
そして今度こそ、ガラモンは歩き出した。アシュレイとチャーリーは、ガラモンが見えなくなるまで、ずっと、その背中を見送っていた。
おしまい
剣士と魔法使い