カモメになりたい魚くん
魚くんは、ある日言ったんだ。
「ぼくね、カモメさんみたいになりたいんだー。だって空を自由に飛びまわれるじゃないか。」
するとカモメさんはこう言ったよ。
「おや。そんならあっしはお月さんになりたいッスね。翼がなくても、ぷかぷか気持ちよさそうに浮いてなさるじゃありやせんか。」
カモメさんがそう言うと、お月さんが笑って言ったよ。
「ふふふ、そうですか。でもね私は、風さんのように、どこにでも自由に行ってみたいものですけどね。」
と、にこにこ笑うお月さんのもとへ、ぴゅーっと風さんがやって来た。
「やだ~、だったらあたしは山ちゃんになりたいわ~。どっしりしたたたずまいが何とも言えないわ~、私とは正反対。ふふふっ。」
そう言って風さんはまたぴゅーっとどこかへ行っちゃったよ。
そしたら、山ちゃんが言ったのさ。
「んーとねぇ、ボクは、雲どんになってみたいんだなー。あんなふうにふわふわ空を泳げたら気持ちいいだろうなー。」
そう言うと、空をただよっていた雲どんが返事をした。
「なんだって?そんならおいらは、海さんになってみたいね。世界中どこにでもつながってる海さんなら、ぼくみたいにちぎれる心配もないじゃないか。」
そして、今度は、海さんが答えた。
「いやいや、わたしはいつもわたしの中を気持ちよさそうに泳ぐ、魚くんになってみたいねぇ。自由にどこにでも行けると言うのは、素晴らしいことだよ。」
それを聞いて、魚くんとみんなは、えっと首をかしげたんだ。
魚くんがなりたいカモメさんより、カモメさんがなりたいお月さんより、お月さんがなりたい風さんより、風さんがなりたい山ちゃんより、山ちゃんがなりたい雲どんより、雲どんがなりたい、海さん。そしてその海さんがなりたいのは、なんと魚くんだったんだ。
魚くんが言ったよ。
「・・・みんなの中でいちばんあこがれられてる海さんが、ぼくになりたいって・・・?」
するとカモメさんが笑った。
「あはは、じゃあ、いちばんすごいのは、魚くんってことッスね!」
それから、海の底で、上ばかり見上げていた魚くんは、今じゃみんなのアイドルみたい。
毎日毎日、魚くんに会いたいって言う人が後をたたなかったんだって。
でも魚くんは最後にこう言ったんだ。
「ぼく、もうカモメさんみたいになりたいなんて思わないんだ。だって、ぼくはぼくのままがいちばんだって、わかったもの!」
カモメになりたい魚くん