宇宙人のいる日常。

『日常』


学校の帰り道。ぼくは、宇宙人に出会った。
アーモンドみたいにとがった大きな青い目に、全身、銀色のメタルな体をした宇宙人は、子供のぼくの、半分の小ささしかなかった。
テレビでよく見るヤツと、同じだ。
うわあ、ほんとにこんなヤツなんだ・・・。
ぼくは特におびえることもなく、そんなことを思った。
宇宙人は、ぼくに近づくと、手をさしのべてきた。
“一緒においで”、と言っているのだろうか。
別におそって来る気配もなかったので、そのままうちに帰ることもできたけど、なぜだかぼくは、気がつくとその宇宙人の手を取っていた。
もしかしたらこのまま、帰って来られないかもしれないのに。


宇宙人と一緒にてくてく歩いていると、近所の空き地に、宇宙船があった。
宇宙船、までは予想どおりだったんだけど、びっくりしたのはその大きさだ。
いや、大きさだけじゃない。見た目そのものからして、どっからどう見ても電話ボックスだった。
小さい。宇宙船て言ったら、映画とかによく出てくる、円盤型をしたようなものを想像していたんだけど。
宇宙人そのものは期待を裏切らないのに、宇宙船は大いにぼくの予想をくつがえしてくれた。
宇宙人が、なんのためらいもなく電話ボックス・・・、いや、宇宙船のドアを開け、中に入る。ぼくも続いた。
中に入ると、宇宙人はお金を入れてダイヤルを回した。
10円玉だ。なんで持ってるんだ、10円玉。そして律儀なヤツだ。
受話器を取ると、宇宙人は聞いたことない言葉で喋り始めた・・・わけじゃなくて、それはもう完全に、
日本語だった。しかも声が完全におっさんだった。会社務めに疲れた50代の、おっさんの声だった。
宇宙人はそのおっさんの声で、「今から行くわ。」と言った。ちょっと西の方の言葉だ。
受話器を置いた宇宙人に、ぼくは言った。
「日本語、わかるの?」
だけど宇宙人はぼくの方をチラッと見たくせに、完全に無視をした。なんだか感じが悪い。
そしてウイィィン・・・と言う音がして、電話ボッ・・・宇宙船が空に浮かんだ。
ぼくたちは、あっと言う間に宇宙にやって来た。ここらへんはさすが宇宙船だ。
ぼくは初めて見る宇宙に感動を覚えた。地球で見た時は、あんなに小さな光でしかなかった星たちが、本当はこんなにも力強く燃えているんだと言うことがわかった。
近くまで来て、初めてわかることもあるんだと言うことを知った瞬間だった。
宇宙船はやがて、エメラルド色をしたきれいな星に到着した。宇宙人がドアを開けて外に降り立った。
ぼくも続いた。さわやかな風がさっそうとぼくを通り過ぎた。一面に広がるのは、エメラルド色のきれいな草原だった。
ところどころに白い小さな花が咲いていて、見たこともない建物があったり、宇宙人たちの他に変わった生き物がたくさんいた。
右を見れば、すぐ近くに虹の橋がかかっていて、左を見れば、どこまで続いているかわからないおっきな洞窟があった。
ぼくはワクワクしていた。
きっと、ここにいれば、地球で過ごすいつもの退屈な毎日から抜け出せる。
そんなふうに思った。


それからぼくは、毎日、この名前も知らない星をめいいっぱい楽しんだ。
虹の橋を渡って一面に広がる花畑に行った、おっきな洞窟をどこまでも探検した、色んな建物では宇宙人がなんだかよくわからない、色々な色のぶよぶよしたゼリーみたいなものを作っていた。
「何に使うの?」って聞いたけど、またチラッとぼくの方を見たくせに、完全に無視をした。やっぱり感じが悪い。
それから見たことない生き物たちにたくさんさわった。犬なのに鼻がゾウみたいに長かったり、猫なのに毛がつるんつるんになかったり。
途中、ぼくをここへ連れてきた宇宙人に遭遇した。その宇宙人はぼくの方をじーっと見て、「かなわんわ~。」とやっぱりおっさん声で呟くと、またどこかへ行ってしまった。
なんで喋り方が関西のおっさんみたいなのか、いまだにわからない。他の宇宙人もああなのかな。今度また話しかけてみようと思った。
そんなわけで、ぼくは今までにない日常を手に入れた。見るもの、触れるものが全て新鮮で、それはそれは楽しかった。
だけどそれは、1ヵ月と持たなかった。そんな生活もすぐに飽きた。
このエメラルドの星は、地球よりもずっとずっと小さかった。すぐに全部見飽きてしまった。
ぼくは、ここに来れば、退屈な毎日から抜け出せると思った。
でもそれは最初だけで、やっぱり慣れてしまえば、退屈な日常と変わらなかった。
最初はあんなに、楽しかったのに。
その時、ぼくは思い出した。
ぼくの行っている地球の学校だって、最初は楽しくてしょうがなかったんだ。
・・・そうか、ぼくは、つまらないことを、退屈なことを、全部まわりのせいにしていたんだ。
でもそうじゃなくて、毎日を自分でおもしろくすることだってできるんだ。
よし。ぼくは決めた。
地球に帰ろう。ぼくの星に。そして、今度は自分で毎日をおもしろくするんだ。
方法なんてわからない。できるのかもわからない。けど、とにかくやってみることが大切だ。
そう思ってまわりを見た瞬間、その時やっと気づいた。
・・・帰り方がわからなかった。ぼくは急いで、ぼくを連れてきた宇宙人を探した。
2時間かかったけど、やっと見つけた。ぼくは叫んだ。
「あのー!ぼく、地球に帰りたいんですけどー!おーい!ちょっと待ってー!おーい!地球に・・・、え?あっち?あっちってどっち・・・ってちょっと待って!おーい!あっ!・・・。歩くの早いなー・・・。」


おしまい

宇宙人のいる日常。

退屈な日常を変えるのは、きみだ!

宇宙人のいる日常。

学校の帰り道に宇宙人に出会ってしまったぼく。地球から離れ、新しい刺激が待っている宇宙へと飛び出すのだけど・・・。

  • 小説
  • 掌編
  • 冒険
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-10-21

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