眠る眠らない戦争

春生志乃

眠る眠らない戦争

眠剤が切れた今晩は、私と不眠との戦争が起こる。
知らない人の為に記しておくが、眠剤とは睡眠薬の事である。
そして私の邪魔をする不眠をここではマイナスと呼ぶ。
私の睡眠欲は皆無に等しく、いつもはマイナスをねじ込めるかのように眠剤を投入するのだが、私の手違いで処方をしてくれる病院との連携が取れず居た為、命名、眠る眠らない戦争が開幕するのだ。
「何故そんなに眠りたい。眠るというのは実に恐ろしい事だ。寝ている間は記憶が無いし、もし寝てる間に死んでみろ。お前は宗教を信じるか?信じないなら尚更だ。寝てる間に死んでしまえば寝ているのか死んでいるのか自分で認識することが出来ないままなんだぞ」
私は確かに宗教事には疎いし、昔から信用してはいない。
マイナスは私の身体の中に住んでいるので、この身体を共有している以上私の全て把握されている。
私は負けずに言い返す。
「痛みや悲しみを伴い死ぬ事を悟った上で死ぬより、死んだ事も分からないで死んだ方が幸せなんだぞ、と前に誰かに言われた。私はそいつの意見を本日だけは通してみたいと思っている」
「それはお前が考えてる事じゃあ無いんだぞ。隣の芝生は青いとは言うが、お前は今隣の芝生に片足突っ込んで呑気にお茶を飲んでいるんだ。恥だ、恥だ」
「ああ、それでも構わない。そうだ、隣の芝生にはボンキュッボンのお姉様が居るとしよう。膝枕で耳かきをしてやるからと手招きしていたらどうする」
「それは卑怯だぞ」
「卑怯がなんだ。この世は卑怯で出来ているんだ、私だけ卑怯じゃない訳が無い。ああきっと卑怯を笑うものは卑怯に泣くんだぞ」
そんな闘いを繰り広げていると次第に私はウトウトと「ねぷかき」をかいてきた。
マイナスは一分程無言を貫いている為、私の勝ちは揺るぎない物になるかと思った、が突拍子も無くマイナスはまたギャーギャーと反論を続ける。
「ボンキュッボンは認めよう。卑怯者が得をする事も認めよう。では夢はどうだ、お前はいつも恐ろしい夢を見て飛び起きては震えて眠るじゃないか。それを解決するには眠らない事が1番なんだ、それに反論はあるか」
私は確かに、嫌な夢ばかり見る。
口から化け物が出る夢や数人の小人に体を押さえつけられる夢など、頻繁にその様な悪い夢に魘される。
眠らなければ見ないと言うのもあながち間違いでは無い。
しかし、私はこれに反論する事が出来る。
「同じ身体同士でも穴が有るんだな。私は最近、明晰夢とやらを擬似的に起こす事が出来るようになったんだ」
「なんだその、明晰夢、と言うやつは」
「明晰夢は夢を夢だと認識する事で夢の中を自由に動いたり操作したり出来るようになる夢の事だ。私は最近毎日その夢ばかり見ているが、恐ろしい夢ならば起きる事も出来るし、楽しい夢ならば醒めずに居られるのだ」
「お前、いつの間にそんな能力を得たんだ」
こればかりはマイナスもタジタジである。
「さあこれに懲りたら私の、睡眠を返せ。さも無くば」
「そうかそうか。けれど眠剤は無いんだろう。その時点でお前は負けだ、負け犬だ。眠剤が無ければ私をどうこうする事など出来るまい」
眠剤の話を持ち出された私はタジタジである。
形勢逆転と言ったところだろうか、気が付いたら私がタジタジなのである。
生唾を飲み込みつつ、私はマイナスに反論を続けるが、マイナスは私の反論に反論を重ね反論合戦となっている。
そこで私達の決着はいつ着くのかという話になるが、眠る眠らない戦争と言うのはそんな簡単に決着が着くものでは無い。
私が勝つには時間の経過を待ち眠剤を貰い、その眠剤で強制的にマイナスを黙らせるか、マイナスが勝つには抗議を続け、永遠に私を眠らせず体調不良にさせ、また予定を狂わすかどちらかなのだ。
どちらに軍牌が上がるのか、それはまた別のお話である。

眠る眠らない戦争

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  • 小説
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