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 お父さんはいますか? それとも、お母さんはいますか? ええ、そうでうすか、いないですか? なら、こちらの方にサインをして貰えますか? はい、このペンをお使い下さい。へえ、中々と達筆な字ですね。はい、これで完了です。ありがとうございます。では、では、またの購入をお待ちしています。そう言うと宅配の男はお辞儀をして玄関から去った。僕は両手でダンボールの箱を持ちリビングへと進んだ。このダンボールの中身も誰宛に送られたのか全く分からなかった。お父さんもお母さんからも今日、この時間帯に宅配があるとか、何か届け物があると聞いてはいなかった。ダンボールをテーブルの上に置いた。それからテレビのスイッチを押して再生した。リモコンの電池は切れている。お母さんに何度、お店で買ってね。と、頼んでも一向に購入しない。キャラメルとクリームソーダは間違いなく買うのに。テレビは昔やっていた刑事もののドラマで途中まで見ていたが飽きてチャンネルを変えた。しかし、テレビショッピングの番組ばかり、掃除機なんて僕には興味がない。僕はため息を吐いてテレビの電源を押して消した。ほんの数分、ボーとして天井を見てから、目の前にあるダンボールの中身がとても気になった。一体、何が入っているのか? それで僕はキッチンからハサミを取りダンボールを閉じているテープを切った。中を覗く。茶色い、古ぼけた箱らしき姿があった。
「なんだこれ?」
 僕は独り言を呟く。ダンボールの中に箱? 両手でダンボールを持ち上げた。ストンとダンボールだけが持ち上がり、中身の箱はテーブルの上に残った。その箱には職人が彫ったツルや花形、鳥の羽、何かの生き物が偉そうにデザインされていた。僕は不思議に思い指で撫でる。鍵穴がない。継ぎ目がない。箱には蓋との境目がなかった。それで箱を持ち振った、重さはあるが音はならない。少しづつ気味が悪くなったてきた。僕の親はこんなアンティーク的な物には興味がなかったはずだ。もしかして間違って届けたのか? そうに違いない。親が帰って来た後に説明して返品してもらおう。と、思った。
 でも。
 僕はやっぱり、開けたいな。と思った。中身が気になる。それでマイナスドライバーをキッチンから持ち出して『ガチん!』と刺した。だがもちろん、ビクトもしない。傷1つも付かない。僕はう〜んと考えていたら、急にお腹が痛くなった。それで一目散にトイレに駆け込んだ。
 玄関のドアが開いた。身長の高い男だった。男は空き巣だった。玄関の鍵は閉め忘れていた。それで余裕で入り込んだ。男は直進してリビングに辿り着く。するとテーブルの上に或る箱に気づいた。男は「なんだこれ? もしかして、結構な代物で売れるものか?」と言い触れた。次の瞬間、箱はガチャリと開いて札束を見せた。男はニヤリと笑って手を伸ばすが、霧のように男の姿は消えていた。
 僕はトイレか出た。リビングに行くとやはり、箱はそのまま。うーんと考えていると、玄関のチャイムがなった。僕は走って行くとそこには友だちのユウトがいた。ユウトはズカズカと上がって来て「おい、グローブを貸せろ。今から野球しに行くんだ」と言った。ユウトに物を貸したら帰って来ない事を知っているだから、断るがユウトはダラダラと文句を言ってくる。僕は負けて「わかった。ちょっと待ってて」と話して自分の部屋に行った。ユウトはリビングに置いてある箱に気づいた。この部屋には合わない模様の箱だ。少し興味本位に触った。
 ガバッと箱は開いた。中にはグローブが入っていた。ユウトは「なんだ、こんな所にあるじゃねーか」と太々しく言い手を箱に突っ込んだ。
「ユウト、やっぱ、グローブはないな」と僕がリビングに行くとユウトはいなかった。もう帰ったのか? そう思って玄関に行くけどもユウトの汚れたスニーカーはあった。スニーカーを置いて帰ったのか? おかしいな。と思いつつ。うるさい奴がいなくなったのをホッとした。
「ただいま」
 お母さんの声がした。目の前にはお母さんが立っていた。
「何してんのよ? あんた」
 お母さんの手には買い物袋があった。
「何も」
 僕は答えた。
 お母さんは真っ直ぐに進んでキッチンへと向かう。視線はテーブルの上にある箱に移る。
「何これ?」
「知らないよ。さっき届いたんだ」
「趣味が悪い箱ね? 中に何が入ってるのかしら?」
「開かないんだ」
「お父さんが注文したのかしら」
 お母さんはそう言うと「あんた宿題したの?」と僕に聞いた。
「まだ」
「ご飯を作っている間に終わらせなさい」
「わかってるよ」
 僕はそう言うと部屋に行った。
 お母さんは八宝菜を作った。そうしているとお父さんが帰って来た。
「あら、早かったじゃないの」
「うん。色々とあってな」
「私、これから公民館に行かないといけないの。八宝菜を作ったから適当に食べて」
 お父さんは頷いた。
「何か様子が変ね。何かあったの」
「別に。何もないさ」
「ならいいけど」
 お母さんはそう言うと家を出た。
 お父さんは深いため息を吐いた。それから箱に目をやった。
「こんな箱、昨日までなかったぞ」
 お父さんは箱に触れる。箱はガバッと開いた。箱の中にはどんよりとした雲がかかっていて、いくつもの国々の首都が映っていた。お父さんはその光景を見て額から汗を流した。
「おーい、タックン! ちょっと、来てよ」
 そのお父さんの声に僕は返事をしてリビングに行った。
 箱はやっぱり、そのままの姿で黙り込んでいた。
「なあ、タックン、欲しいものない?」
「欲しいもの?」
「うんそうだ。例えば、この前、従兄弟のカズキくんの家で見た携帯ゲーム機とかだよ。欲しいとか言ってただろ」
「まあ、欲しいけど」
「そうそう、その欲しいのものを考えながらこの箱を触ってごらん」
 僕はお父さんの言うとおりに箱を触った。そうしたら箱が勢いよくガバッと開いて『僕が欲しかった』カズキくんの携帯ゲーム機があった。
「ほら取ってごらん」
 お父さんは言った。
 でも僕は「ダメだよ。これ、カズキくんの奴でしょ?」と言ってから部屋に戻った。
 僕が部屋でうたた寝していたらお母さんが入ってきて「ねえ、お父さん、どこに行ったか知らない?」と訪ねてきた。
 箱はまだリビングのテーブルの上にあった。なんだか一回り大きくなっている気がした。

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  • 小説
  • 掌編
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  • 冒険
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-07-22

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