詩人
大阪、梅田の小間物屋で生まれました。昭和二年のことです。
尋常小学校三年の頃やったでしょうか、『少年倶楽部』に、僕の詩、載りましてん。
けど、組の好きな女の子に、よう見せられへんかった。
僕、人見知りやったし、友達と話すん苦労しました。
そやけど、詩の書き方は、がんばって覚えました。
人に、作品、あんまりよう見せられへんかったけど。
人見知りなりに、がんばってました。
なんもわからへんかったけど、詩人なろ、思て。
十五の頃、もうサイパン玉砕です。御国のためいうことやったし、海軍、志願しました。
上官さんに詩ぃ書いてるとこ、よう見つかりましてん。
なんべんもぎょうさん殴られました。
僕、思てました。
この戦争勝ったら、絶対、詩人なろ、思てました。
十八で終戦でしたわ。
なにもかも焼けてしもた。
よう見せられへんかった作品、ぜんぶ、焼けてしもた。
よう見せられへんかった組の好きな女の子、焼けてしもた。
焼け跡、掘り起こしながら、泣きながら、それでも詩ぃ、書きたかったんです。
絶対、詩人なろ、思て。
いま隣におるん、妻です。ゆうべ、ライスカレーでした。
そやからけさは、ライスカレーの詩です。
詩人、なれへんかったんやし、いまでもあんまりよう見せられへんけど、読んでください。
詩人
作者ツイッター https://twitter.com/2_vich