ヒッチハイク

草片文庫(くさびらぶんこ)

ヒッチハイク

ホラー系小説です。縦書きでお読みください。


 ヒッチハイクになっちまった。雨が降りはじめたのに傘もない。
 こんなところで、止まってくれる車など無いのではないだろうか。というより、車がくるのだろうか。
 崖っぷちの道をとぼとぼと歩いていく。
 どうしてそうなったかというと、隣の町の友人の所まで高校時代の同級生の車に乗せてもらっていたのであるが、ついついこれからいく友達の名前を言ってしまったところ途中で降ろされちまった。
 運転していたのは宏美。高校の時にちょっと付き合っていた子である。なかなかの容姿で僕も自慢の彼女であった。しかしその頃もっとも頭のいい勉強のできる、色白の晴美が僕にその気があることを打ち明けたので乗り換えてしまった。
 隣町に行くためバスを待っていた。だいぶ待たなければならないと思っていると、たまたま宏美のかっこういいオープンカーがバス停前の信号で止まった。声をかけたら、あら久しぶりということで隣町まで送ってもらうことになった。宏美も隣町に住んでいる。
それで、車の中でこれから隣町の晴美の所に行くと言ってしまったのだ。それでこうなった。卒業してもう三年も経っているので関係ないと思うのだが、女はやっぱり気を付けなきゃいけないと思う。
 雨がだいぶ強くなってきた。
 ここはバスは一時間に一本、車もほとんど通らない。と思って歩いていると後ろの方から車の音がした。振り向くと黒塗りの車の前が見えた。思わず右手を挙げて人差し指をあげちまった。
 車は急ブレーキをかけた。
 止まった車の運転席から男が顔を出した。
 「乗れよ」
 ラッキーと思った僕は駆け寄ると男は後ろを指さした。後ろの席のドアーと見ると、無い、バックから乗るのかと思って指さすと、男はそうだというようなジェスチャーをしたので後ろに回ると、ドアが上に上がっていた。僕が飛び乗ってドアを閉めると、車はすぐに走り出した。
 よかったと思って、どこかに腰掛けようと思ったが、腰掛けるところがない。真ん中に白い布をかけた箱があったのでそれに腰をかけた。
 しばらくいくと、かなりのでこぼこ道とても腰掛けていることはできない。床にしゃがみこんだ。
 車が石の上に乗り上げた跳ね上がった。
 バウンドした拍子に箱の白い布がずれ蓋が開いた。蓋を閉めてやろうと思って身を乗り出してはこの中を見ると、中は死人だった。おったまげたね。僕はそこでやっと霊柩車であることに気が付いたのである。
 ヒッチハイクで霊柩車を止めちまったんだ。目が悪いとこうなる。
 ずれた蓋を締めてやらなければと思い、蓋をかぶせるべく中を見ると、死人は女だった。若い女だ。どこかで見たことがある顔を近づけると晴美じゃないか。死んだ顔はむくんで青白くすぐにはわからなかったのだ。
 これから晴美のところにいくのに、なぜ死んだ晴美がこの車に乗っているのだ。
 運転席を見ると、男だと思っていた運転手の後ろ姿が、女であることに気がついた。
 ポニィーテイル?
 宏美じゃないか。だが、こっちを向かなければわからない。
 蓋をしたはずの棺の蓋が消えている。
 死んだ晴美が白装束で棺の中にいる。
 矛盾だらけの現状に自分を失いそうである。お盆休みの昨日から東京から帰省して実家の兄貴のところやっかいになっている。晴美と連絡を取ったら明日の花火大会に一緒に行こうということになった。しかし一刻も早く会いたかったのだ。それで土産を渡そうと思って家を出てス停でバスをを待っていたのだ。
 棺が揺れた。乱暴な運転だ。
 死んだ晴美の白装束がぱらっとほぐれ前があいた。青白い乳房がたらりと両脇に垂れている。晴美は色の白いふっくらしたかわいらしいからだをしていた。乳房もとてもいい形で大きく、張りがあったが死んだらこうなるのだろう。
 なんだ白装束が剥がれちまった。
 青黒い死体が棺の中にある。
 晴美はまだ独り身である。僕も一緒になるつもりで今まで独り身である。
 死んだ晴美が棺の中で上半身を起こした。私の方を見て手を伸ばした。
 「行こう」
 声は元気のいい晴美の声である。高音でも低音でもなく頭の中に響くすてきな声である。
 彼女は立ち上がった。真っ裸である。本当は色が白くほんのりと赤みがかかった柔らかな体なのに、今の晴美は青白く少しむくんで今にもウジがでてきそうである。
 「こんな、私嫌い」
 正直な話、好きなわけがない。本当に彼女を好いている。嘘ではない。だけど死体を見せられて、それを好きか嫌いかきかれたら、好きなわけはない、誰かの悪意が、彼女を嫌いになるようにし向けているとしか思えない。
 「そりゃそうね、こうならいい」
 晴美が昔のふっくら白いからだで、手を差し伸べた。思い出が押し寄せてくる。
 「好きだよ」
 僕は手を握った。
 「どこにいくの」
 「一緒ならどこでもいいでしょ」
 「うん」
 彼女はきれいな裸を僕の前に晒して棺から降りてきた。もうだめだ。
 「さあ、入って、一緒に行きましょう」
 僕は女に手を取られて棺の中に入った。
 「さあ寝てちょうだい、私も入るから」
 僕は棺の中から彼女の手を引いた。晴美は棺の中に入り私の脇に横たわった。ピンク色の乳首が僕の脇に触れた。
 彼女を見た。
 「蓋をしめるね」
 いつものかわいらしい声だ。
 「うん」
 僕が頷くと、彼女は手を伸ばして棺の蓋を取ってかぶせた。棺の中で二人になれた。しかも裸のままの彼女である。高校の時、一度そうなりかけたことがあったが、結婚するまでだめと言われ我慢した。仕事も順調になったしもう結婚を考えようと、今回帰省してきたのである。
 彼女の唇を吸おうと横を向こうとしたが狭くて動けない。手を伸ばして彼女の乳房に触った。高校の時に感じたようにすてきな張りのある乳房だった。
 車ががたんと揺れた。
 そのおかげて横向きになった。僕は晴美の唇を吸うことができた。
 晴美は嬉しそうに微笑んだ。
 「素敵だよ」
 僕は声を出してそう言った。
 彼女はからだを押しつけてきた。
 僕は彼女を抱きしめた。熱く熱く抱きしめた。それからは記憶がなくなった。

 「宏美さんの葬式に来ると思ってたのに」
 晴美が同級生に言っている。
 「彼、実家に帰っていたのでしょ」
 「うん、明日の花火大会一緒に見る予定だったよ」
 「彼、宏美さんが亡くなったこと知っていたの」
 「わからない」
 「宏美さん長い間、闘病生活をしていたのにね」
 「彼とても忙しかったみたい、がんばっていたのよ」
 「東京に勤めた人、みんな、疲れてるわよ」
 「そうね、クラス会の時、東京の人みんな幽霊みたい」
 そんな会話が聞こえる中、火葬にふされた遺体を炉から取り出した係官が、驚きの声をあげていた。
 「あれ、大変だ」
 炉からでてきたのは二人分の骨であった。
 「こりゃ、一人は男だよ」
 「警察を呼ぼう」

 警察所での霊柩車の運転手の供述である。
 「雨の中を峠の道をとぼとぼと歩いている男を拾いました。ヒッチハイクをしているようで、この時間あまり車も通らないので、かわいそうに思って載せました」
 「いくら何でも、霊柩車でそんなことしちゃまずいよ」
 「はい、すみません、雨にぬれてびしょびしょで、かわいそうに思っちゃって、でも、着いた時、その男、消えちゃったんです。いなかったんです。でもまさか棺の中に入っているとは思いませんでした、自殺じゃないですか」
 「うーん、そうかもしれないんだ、彼の家族の話では、東京の仕事に疲れているようだとは言っていた、何故隣町まで歩いたのかもわからない、遠いのにね」
 「そういえば、雨の中憂うつそうに歩いてましたよ、あのままだと崖から飛び降りそうでした」
 「そのつもりだったのかもしれないね、ところでなぜ霊柩車に亡くなった彼女の家族は乗っていなかったのかね」
 「ええ、彼女の両親は何年か前に飛行機事故で亡くなって一人だったそうです。兄弟もいないし、叔父、叔母は火葬場で待っているので、病院から連れてきてほしいということでした」
 「なるほど、そういうこともあるのだね、棺に入った男は彼女の高校の時の恋人でもあったようだし、やはり自殺かね」
 「刑事さん、炉に入れる前に、叔父さんたちは彼女の顔を見なかったのですかね」
 「係りの者に聞いたのだが、青くむくれてしまった彼女の顔は見たくないということで開けなかったようだ。元気のいいときの顔を思い出にしたいそうだよ」
 「そうなんですか」
 霊柩車でヒッチハイクをするとこうなることもあるのである。

ヒッチハイク

ヒッチハイク

隣の町に行くバスをまっていると、同級生の女の子の車が偶然来た。のせてもらったのだが怒らせてしまいく途中で下された。雨が降ってきた。歩いていた男はちょうど来た車に乗せてもらったのだが

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