雨の降る日はきみのピアノで

 雨が降る日は、いつも、きみに逢いたい。
 クラシック音楽のことを、わたしは、まるで、なにもわからないのだけれど、きみは、気にしないで、と言ってくれる。
 真珠貝のイヤリングを揺らし、きみが弾くピアノの、その音色に、涙を流す夜もあるよ。音の波に揺蕩い、日々の不安、心配事、怖いものが、洗い流されてゆくような感覚に、なまえもしらない、むかしの、外国の作曲家が作ったという、きみの好きな曲を、わたしも好きになる。
 鍵盤の上を踊るみたいに動き、跳ねる、きみの指。
 美しい白鍵、艶やかな黒鍵。
 しとしとと雨が降り、窓を濡らす日の、なにをしていても憂鬱な気分を、きみのピアノは、吹き飛ばしてくれる。
 はればれと、まっさらとした気持ちで、透明度の高い海のなかを覗きこんでいるような感じで、きみの背中を、ときには激しく、ときには穏やかに揺れ動く、きみの背中を見つめていると、やっぱり、勝手に、涙は溢れてくるんだ。

(ああ)

 やさしくありたい。
 やさしい世界でありたい。
 やさしい誰かに、やさしくありたい。

雨の降る日はきみのピアノで

雨の降る日はきみのピアノで

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-07-18

CC BY-NC-ND
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