雨の降る日はきみのピアノで
雨が降る日は、いつも、きみに逢いたい。
クラシック音楽のことを、わたしは、まるで、なにもわからないのだけれど、きみは、気にしないで、と言ってくれる。
真珠貝のイヤリングを揺らし、きみが弾くピアノの、その音色に、涙を流す夜もあるよ。音の波に揺蕩い、日々の不安、心配事、怖いものが、洗い流されてゆくような感覚に、なまえもしらない、むかしの、外国の作曲家が作ったという、きみの好きな曲を、わたしも好きになる。
鍵盤の上を踊るみたいに動き、跳ねる、きみの指。
美しい白鍵、艶やかな黒鍵。
しとしとと雨が降り、窓を濡らす日の、なにをしていても憂鬱な気分を、きみのピアノは、吹き飛ばしてくれる。
はればれと、まっさらとした気持ちで、透明度の高い海のなかを覗きこんでいるような感じで、きみの背中を、ときには激しく、ときには穏やかに揺れ動く、きみの背中を見つめていると、やっぱり、勝手に、涙は溢れてくるんだ。
(ああ)
やさしくありたい。
やさしい世界でありたい。
やさしい誰かに、やさしくありたい。
雨の降る日はきみのピアノで